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8の扉 デヴァイ 再
混沌の鍋
しおりを挟む「く~るくる~、く~るくる~♪」
麗かな午後、程良い晴れの青と小さな緑が覗く、可愛いプランター。
その隣の、ミニキッチンで。
この頃の、小さな小さな気になること、違和感、綻びやはみ出した色、まだ残る塊たち。
きっとそんな「異色」を集めて、私は『魔女』になっていた。
そう、魔女部屋で、魔女らしく。
大きな鉄の鍋で、「混沌」を煮込んでいるところなのである。
「なにそれ…………。」
「混沌」は微妙に臭いらしく、朝には不評だ。
しかし、このドロドロとした暗い色、ネットリとした感触。
「いかにも」というその液体は、掻き混ぜるのに少し力が必要だ。
その混ぜている棒は、私の石から創った特製の「掻き混ぜ棒」である。
きっと、この「杖」の様な、尤も感でぐるぐると混ぜたならば。
「混沌の中から生まれる なにか」は、あの「究極の私」が転換した窮の様に「いいもの」になるという確信が、あったのだ。
そう、私は。
日々、まだまだ出てくる小さな靄をこうして「煮込む」という新しい技?を獲得したので、ある。
「うん…………いい感じ。なんか、かなり。魔女っぽい。」
「まあ、いいけどね………本人が、いいなら。」
「臭い臭い」と言いつつも、なんだかんだ付き合ってくれる朝はブツクサ言いながらもソファーへ丸くなった。
この匂いの中でも、お昼寝できるのだろうか。
まあ、私にとってはそんなに臭く、ないんだけど。
自分から出たものだからか、どうなのか。
この頃「小さな靄」で、モヤモヤしていた私はなんだか急に「混ぜたく」なって、こうして鍋を探し魔女になっている。
案の定、「あった!」と魔女部屋で発見した鉄鍋は、サイズも丁度ピッタリでなんだか素敵な「なにか」が出来上がりそうな、出立ではある。
「うん、きっと「不思議なくすり」的なものが出来上がりそう………うん?でも、また何か綺麗なものとかの方が、いいかなぁ………。」
いつもなら神域へ行ってホロホロと流すか、観音達に手伝ってもらい、サラサラと溢すか。
そのどちらかなのだが、何故だか私の頭の中に降ってきた「混沌を混ぜる」という案件。
ふと、頭に浮かんできたのは黎を見た時の、あの靄だ。
あれは、宇宙にも、似て。
「暗黒」の 中に 「なにか」が渦巻いた
「なにかが 生まれそうな」空間でも、あるから。
「ほら、やっぱりさあ?「混沌からなにかが生まれる」って言うじゃない?だからさ、なんか混ぜたくなったんだよね………宇宙の始まりがホントはどうだか、知らないけど。」
しかし、「破壊の後には再生」とか。
「暗黒から転換する光」とか。
そんな「黒が白になる」的な事が、好きなのだ。
そう、だから、結局。
試したかっただけ、だけど。
「まあ、あながち間違ってはないと思うけどね…?でも問題は、「なにが」出来るのか、って事なのよ。」
欠伸をしながらそう言っている、気怠そうな声。
確かに。
そう、なんだけど………。
ぐるぐる ぐるぐる まわる
黒い 渦 ドロリとした なにか
私の 「なか」に あった 「異色」
「合わなくなった もの」たち
じっと手元の鍋を見つめながら、考える。
私は 何を 「創り出したい」んだろうか。
なにを 「解放」したいのだろうか。
ぐるぐる ぐるぐると 回る 渦の なかで。
共に回る 暗い 「想い」複雑な「感情」
その どれもは 「なに」かは
はっきり 分からないけど しかし
自分に染み付いていた 「見慣れたいろ」なのは
わかる。
世界を 見る中で 世間を 見ていく 中で。
定期的に溜まる 靄 黒い何か 小さな塵の様な感情
その どれもは。
大概 「見知った いろ」で。
「どの私」でも 抱いた事がある 「感情」の一種だ。
きっとこれからも 何度も 何度も 溜まるのだろう。
でも
それは 別に「悪いこと」でもないし。
きっとそれは 私の為に 起こることだから
こうして 掻き混ぜ ぐるぐるしていることも。
きっと 「糧」に なるし
「ひかり」にもなるし
混ぜれば混ぜる ほど。
「大きく 跳べる」「翔ける」 それも わかる。
複雑な気持ちで、そのドロリとした液体を眺めて、いた。
嫌なわけじゃ、ない。
成長するし?
細かい仕事も、好きだし。
でも ずっと 「これ 一人で 」やる の
なんか なんて 言うか うーん
飽きる 違うな
沈む 近い 澱む 駄目だな
暗くなる まあ そう ね?
スルリと忍び寄る、闇
ソロソロと堕ちてゆく 私の 「なかみ」
緩り、くるりと。
自分の「段階」が 下がっているのが わかる。
「うーーー…………ん。」
その、時。
フワリと届いたのは、あの桃色の香りと光。
いや、薄桃色の羽衣がヒラリと目の前に下がって。
私の顔を上げさせたのは、慶だった。
「呼んで ?」 「そう」
「わたしは あなた」 「そう」
「いいの 」 「呼んで 」
フワリ、フワリと 現れ始めた観音達、舞出てきた蝶。
いつの間にか部屋には窮がゆったりと泳ぎ、ウンが私の脚を突いている。
「大丈夫 」
フワリと脇の下から、緑の瞳が顔を出して。
下の子が可愛くそう言ったのが、とどめだった。
「ありがとう 」
何故だかホロリと溢れた涙、星屑が共に溢れ、そのまま鍋の渦に吸い込まれてゆく。
そう そうだよね
私は。 「ひとり」じゃない
「みんな」で「ぜんぶ」で 「わたし」なんだ
ブワリ、と 空間に風が吹く。
魔女部屋の、中だけど。
この部屋はとても「自然」に近い造りで、風が抜けることを不思議に感じることは、ない。
そのまま、抜ける香りと舞う蝶達、くるくると回りながら伸びる双葉を眺めながら。
再び星屑が混ざる、鍋を見ていた。
また、顔を上げるともっと泣いてしまうのは、解っていたからだ。
それに。
私の中から溢れ加わった、「それ」はきっと素敵なものに仕上がると、知っていたから。
とりあえず、少し自分の「なか」が落ち着くまで、無心でぐるぐると鍋を掻き混ぜていたのだ。
「…………ふぅ。なんか、ありがとうね、みんな。」
完成した「鍋の中身」、辺りを舞う「色々な私」。
その、様々な現れ出た「かたち」を見ながらボーッと考えていた。
いや、「感じて」いたに、近いのか。
多分、この子達は。
「過去の私」の誰なのか、それとも集合体なのか、でもきっとそこから発生した「光」達で。
仲間が増えること、それが全部「私」なこと、だから「助けを呼んで いい」こと。
いつだってきっと、待ってくれてるんだ。
この子達は。
その為に。
「今の私」が きちんと 「本当のこと」へ
辿り着ける 様に。
助けてくれる為に、みんなが いるんだ。
だって「本当のこと」は。
ずっとずっと、「私達」が追い求めてきた もの だから。
「みんな」で 「ぜんぶ」で。
「ゴール」へ 辿り着くんだ。
サラリと私の目の前に降りる、金糸の入った羽衣、シャラリと鳴る金色の音色。
慶の衣装も、また更に繊細な刺繍や石が加わり、ぐっと私好みに変化しているのが分かる。
辺りを舞う蝶達の微細な色の変化、まだまだ出てくる糸を優雅に巻き取る手つき。
いつの間にかラーダは窮の背に乗り、緩りと私の周りを回っていて。
ウンはリュートの匂いを、嗅いでいる。
今日も心地良い桃色の香り漂う、その弦を空でポンと、弾くと。
手元がフワリと暖かくなり、鍋の中身が変化した事に気付く。
そうして、すっかり忘れそうになっていた「完成品」に視線を落とした。
うん? ウン?
いやいや ウンは ちょっと 避けてて?
うん、ごめんね、後で 後で 遊ぼう
膝に乗ろうとするウンを、ポンと床に下ろすと鍋から取り出した「それ」をまじまじと観察、する。
「それ」は。
多分「腰紐」の豪華版の様な、ベルト的な、もので。
「そう言えば………あれ、って…………??」
シンの、飾り帯を思い出した。
あの、フェアバンクスに貰った、豪華なあれ。
あれは、確か………?
衣装を作った、時に渡したんだっけな………??
まだ、持っているだろうか。
いや、持ってるんだろうけど。
でもなんかスーツみたいな格好だったしな………。
その、シンの飾り帯にも似たそれは、豪華な刺繍と石が「どうだ」とばかりに飾られたとても美しいものである。
勿論、私の靄から出来たものだから。
私好みでは、あるのだけれど。
「うーーーーーーーん。しかし、これは。まずいな…………。」
幾つかポイントに遊色のパールが配われた、白ベースの腰紐。
「紐」と言うには豪華過ぎるそれは、光沢のある糸の編み地に石がバランス良く配されている、なんとも涎が出そうな品物である。
「えーーー。てか、なんか…まあ、「出来たもの」に、合わせろってことなのかなぁ………?」
チラリと慶の持つ、透ける生地に目をやった。
多分、あれが完成したら。
なにか、ある。
分かんないけど。
どう、なるのかは。
しかしきっと、色もピッタリな「生地」はどう着るのかは想像が付かないが「合わせるもの」だというのは、解るのだ。
多分、私が「そう思った」から。
そう、なんだろうけど。
キラキラと光る、小さな白い石の並びを見ながら考える。
これまで沢山の、「副産物」が生まれた私の靄だけれど。
多分、まだまだ、あるのだ。
ふとした拍子に出てくる「靄」、尽きぬこの繰り返しに、なんだか無性に泣きたくなってきて。
隣のフワフワに、顔を埋めた。
「いいんだ。それで。 涙は癒しに なる」
上の子が、静かな声でそう言って。
また、それが私の涙腺君を遠くに追いやった。
久しぶりに、泣いて。
いや、あの金色の河で大分泣いたのは記憶に新しいけれど。
でも
あの 「究極の私」を 流しても まだ
余りある 私の 「なかみ」
詰まっていた 「悲しみ」「痛み」「沢山の想い」
それが、事あるごとに 「ほら」「まだ」「あるよ」と
出てくる から。
それが 嫌とかじゃないけど 無性に哀しくて。
フワフワの毛並みと
あの 香り みんなの送ってくれる 暖かい風
慶が フワリと あの蓮を呼んだのが
解って。
無意識のうちに 沁み込んできた その「金色の蜜」に
ただ 自分を 浸して いた。
少し重みのある 蜜は
私の身体に よく 馴染んで。
ゆっくり 緩りと 沁み込んで くれるから。
兎に角 その 暖かく柔らかな 濃密さに
暫く。
じっと 身を委ねて
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