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8の扉 デヴァイ 再

深海へ

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「………じゃあ、行ってくるね。」

そっと呟く朝方、いや、まだ夜だろうか。

目が覚めるとベッド脇に掛かっていた羽衣、それを見て「そうか」と私。

薄暗い部屋の中、静かに煌めく光の粒子、ただそこにあるだけで光る羽衣それを愛で、傍らの金の髪に視線を移した。


多分。
気付いていると 思うけど。

でも。

きっと「解って」いるから、こうしてじっと寝たふりをしてくれているのだろう。
思わず触れようとした手を、そっと引っ込め静かにベッドを下りる。

そうしてそっと、羽衣を掴んで。
静かに、扉を開け外へ出た。


「あ。」

何も考えずに、青の廊下を歩いていると大きな扉の前で待つのはディーだ。

少し遠くに見える真珠の光、あれは多分

きっと。
「あそこ」へ行くから、案内役は彼女が適任なのだろう。

無言で頷き先導する、真珠色の羽衣を目に
「これはどうしようか」と手に持つ自分の羽衣を見る。

とりあえず巻いてみようかと、ディーを見ながらモタモタしているとラーダと慶がフワリと寄り添い助けてくれた。

「ありがとう。」

そうしてなんとか、黒い部屋に着く前に体裁が整い、いつの間にか扉の前にいる事に気が付く。

黒い闇、夜のマホガニーの中に浮かぶ、黒光りした大きな扉。

手元に気を取られていたからなのか、跳んだからか。

なにしろ銀の筆頭を起こす訳にもいかないので、そのままそっと黒い扉を押す。

背後では調度品達の、何やらコソコソ話が聴こえるけれど。
振り返らずに、そっと部屋へ滑り込んだ。


知っていたけど「待っていた」黒い姿に、「やっぱり」と思いつつディーの反応を見ていた。

私の予想が正しければ。

この人はディーの「対」、あの「金色」の代わりをしている筈だ。

しかし、特に何がある訳でもなく再び重たいビロードを上げたシン。
その姿に疑問符を浮かべながら、真珠色の羽衣を追いカーテンを潜る。

通り過ぎる瞬間、チラリと横目で見た、その赤い瞳は。

意外にもただ「」が浮かぶ空間で、真っ直ぐに私の「なか」へ刺さってきたから。

その「真剣な色」を受けた私は、「わかった」という謎の頷きを返してそのまま光へ進んで行った。

多分、行けば「わかる」。

何があるのかは、分からないけど。


 「姫様」が いるのかも知れない
 「セフィラ」は多分 見つけられると思う
 「みんな」の所には?

 多分 届く


なんとなく「見える」先行き、これから起こる「なにか」「大きな こと」。

「なに」が起きるのか、具体的には全く分かっていないし、予測もつかない。
でも、私は姫様とセフィラを見つけに、「海底墓地」へ行く。
今度こそ、「みんな」が埋葬されている場所そこへ。

それだけ、分かっていればいいんだ。

謎の自信と、出たとこ勝負のいつもの私。
でも、それでいい。

「そう、それでこそ、私よ。」

チラリと振り返ったディーにしっかりと頷いて見せると、少しだけ微笑んだ気がした。

 ほら 多分 大丈夫

そうして謎の自信を深めた私は。

いつもの様に、無計画で扉に手をかけたので、ある。








   「すべて」を 持ってきた


   「ぜんぶ」を 連れてきたんだ


扉を開けると同じ「青」、深みを増す下方を覗きながらそっと足を踏み入れる。

触れる側から冷んやりと身体に添う密度、水と共に流れ込んでくる これまでにあった「沢山のこと」「ぜんぶ」、走馬灯の様に頭の中に浮かび流れてゆく これまでの「出来事」。

その「色」達を透しながら青が体に馴染むまで待ち、「さあ 行こうか」と目を開け辺りを見渡すと。
私を取り巻く様に気泡が舞い始めたのが、分かる。


 「みんなぜんぶで 行く」


伝わってきた「想い」
それを確認しながら、「ぐん」と頭を下げ狙いを深海に定め深みへと潜って行く。

しかし私の胸の「なか」には、ここのところ再び溜め込んできた「地獄のなかみ」が未だ残っても、いて。
一段暗い気泡も辺りに感じながら、真っ直ぐに深い青へ向け進んで行く。


そう、「これで最後」と暗示する様に開いた「地獄の蓋」、それは沢山の「消えてしまった過去」
「省みられることがなかった全て」であって。

「一旦完成した私」だとしても、まだ解せていないその量と質、それはもう、終わりが見えない程に「詰まって」いるのだろう。


きっとあの黒い檻階段は、まだ奥深く、広く、何度も昇る必要があるんだ。

見なくとも 分かる。
見えなくとも 解る。

拡大すればする程、「包める」領域、その端に含まれてゆく、未だ「黒い檻」。

しかし それもどれもこれも 「全部」まるっと
「必要なのだ」と私は。

構わずぐんぐんと深度を下げ、勢いよく海底へ 潜って行った。




 それでも大分捗った 「私を洗い清める」こと

 
沢山の「重石」を解きほぐし、洗い流したから。

自分が身軽になっていて、ぐんぐんと深海まで潜って行けるのがわかる。
時折ヒラリと過る羽衣が、ヒレの様に私を助けているのが分かって中々面白い。

そのままキラキラと気泡を撒きながら道を敷き、深く、深く、海底を目指し進む。

そうして、その「想い」に応える様に速度が上がった羽衣の動きは、瞬く間に私を深緑の海底へといざなったのである。



「あ。」

 なにか  見え る

  暗く 黒 深緑  青  濃紺の 

 なんだ?  岩場?   石?

多分、「以前の深海あれ」は。
きっと本当の海底墓地の「手前」だったに違いない。
そう思える景色が、目の前に広がり始めた。


きっとある程度の「存在」になれば 開示される空間

そんな雰囲気でそこにある、海底墓地はとんでもない広さ、そしてとんでもない数の「墓」があるのが分かる。

  果てしなく続く 墓場

それは中々圧巻の光景だ。

 
 夥しい数の 石

 奇怪な形  「澱み」の色
  「澱」「朽ちて」「浸食され」「打ち捨てられた」様な 沢山の墓石

それは「デヴァイ」という暗く狭い空間でただ「経過」し「終わった」命の数を、示している様で。
以前の私だったなら、泣くか悲しむか、憤るか、怒るか。
きっとだったろう。

しかし、は。

 
  ただ その「事実」を 目に映す のみだ。


そう、以前は見えなかった、この「場」。

そこに立ってみると暗くはない、禍々しくもない、穢れてもいないことが解る。


    ただそこに 「在る」 場


それを静かに見渡しながら、ただこの深い青を染み込ませて、いた。


  この場の主に、私が なる 為に。




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