透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ 再

俺達の光 更新

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「で?結局、どうだったんだって?」

いつもの書斎、積み上げられた本を前に、腕組みするウイントフーク。

あの、テーブルにある本は以前ヨルの力を挟んだ本ではないだろうか。

その本を何気無く手に取り、パラパラと捲り始めたウイントフークは溜息を吐きながらこう言った。

「いや。粗方聞いたんだが………やはり、だろう、と。」



「しかしまだ分からない部分の方が多い。行くのはまだ不可能らしいしな。」

「は?お前、行く気だったのか?」

「まぁな。そんなの誰だって行きたいに決まってる。」

いやいや、「決まって」は無いだろうよ………。


ヨルが帰って来てから。
ウイントフークはあの二人に事情を訊いて、向こうの様子を把握したのかと思っていたが、あまり表情は芳しくない。

あの日、ホールでヨルを見送ってからヤキモキしながら待つ事二日。

意外と早く戻ったあの子は、また一段と「人ではないもの」に近付いた様だったが。

俺にとっては、それは小さな変化だ。
あの子は元々、少し、違うからな。

いや、「少し」と言うと語弊があるか………。


「あいつら、まあ言えないんだろうが。肝心な所は「さあ?」と千里は言うし、気焔はダンマリ。結局、グレースクアッドが埋葬地なのは間違い無いだろうが、詳細は殆ど分からん。何れヨル以外も入れるといいんだが………。」

「ふぅん?墓でも並んでるのかもな。まあ埋葬地それだけ判れば、いいんじゃないのか?」

「まあ、そうだ。しかし結局…………     」

立ち上がり、ブツブツ言いながら回り始めた白衣の男。

俺はテーブルの上を歩いていたが、少し高い本の山に場所を移してその姿を眺めていた。

昨日の、ヨルの姿を思い出しながら。


「あっ、ベイルートさん!ただいま!!」

そう、いつもの様に言って俺を掴んだヨルからは、以前より一段と濃密さが増した星屑が溢れていて俺は自分がテカテカになった気がしていた。

スピリットと同じ様に、俺もヨルから「なにか」を貰っている事が多い。
それにきっと、フェアバンクスこの空間に居るから尚更だ。

きっと勝手に力が補充される様になっているのだろう。


以前からヨルの力は純粋で心地が良く、ジワリと染み込む暖かい「なにか」の様な、気がしていた。

そして帰って来たあの子の変化。

見た目も勿論変化していたが、それは髪色くらいか。
しかし、雰囲気はだいぶ変わっていたがな。
これまで少し、幼なさが残る所が可愛らしかったヨルがぐっと大人になったのだ。

一体、何があったのかそれは俺の知るところでは無いが。

その、「深みが増した 純粋さ」は、中々に抗い難い、魅力だ。

きっと普通ならば、深みが増すと共に薄れるであろう「純粋さ」をそのまま併せ持つヨル。

その、姿は。

「まあ、女神………だよな。」

きっとそれもあってウイントフークはあの子を「女神」にすると、言っていたに違いない。
を普通の男に会わせるのは危険だからな。

いやしかし、近付けないかも知れないな?
逆に。


半分石の様な俺と、人間の感じ方は違うだろう。
しかしそれを加味しても、危ういあの魅力。

「なんなんだ、ろうな。あの子は………。」

俺の呟きが聞こえたのか、ピタリと止まった白衣はしかし、まだブツブツと呟いている。


その姿を眺めつつも、昨日聞いた事を思い出す。
俺が結局、結果として聞いたのは。

「グレースクアッドは埋葬地」
「海底だった」
「長とヨルしか入れない」
「靄の行き先はやはり「そこ」だった」


だった。

少し、意味が分からない。


「なあ?」

「闇の神を回収してきた、ってなんだ??」

きっと思考の整理が終盤に入ったろう、ウイントフークに声を掛ける。
多分、止まったから耳には入る筈だ。

「成る程な。」

少々ズレた返事をしつつもソファーへ座ったウイントフーク。
俺もテーブルへ戻りつつ、話を聞く。

ヨルあれの変化は、その所為だろうな。」

「ああ、まあ、成る程?」

意味が分かるが、わからない。

きっと、ヨルはいつもの「置いていけない」病が出て闇をも連れて来てしまったのだろう。

は、分かる。

だがしかし。

「何が、どうなって。なったんだ?そもそも「闇の神」なんて。墓守みたいな、ものなのだろう?向こうに居なくて大丈夫なのか?」

俺の疑問に笑っているウイントフーク。
しかしそれは、きっと。

あの子の「想定外さ」に、笑っているのだろうが。

「やはり、あいつは。に、来たのだろうな。」

「うん?なんだよ。」

随分と楽しそうだな?
嫌な予感がするぞ。

「あいつは、確かに成長したんだろう。「海底墓地向こう」がどんな状況なのか、何をして来たのか。それは分からない。しかし、一段先へ進んだあいつからすると、「闇の神」をも置いては行けなくて。、連れて来たのだろうし、。」

「気が付いたんだ。「それが無くとも いい」と、いう事にな。」


「………成る程。確かに、それは。」

思わず、言葉に詰まる。

自分の胸の中にあったその「重さ」が外れた事に、驚いたのだ。

「ヨルを軸にする」

その事が。

自分の中に、こんなにも重く巣食っていた事に今更驚いた。
意識してはいなかったが。

こうも。
石のこの俺に、のし掛かっていたとはな………。


だが、しかし。
これは。

朗報、だな?

安心して赤茶の表紙の上で寛ぐ。
ラガシュ辺りが聞いたら小躍りしそうな内容だ。


「だから後はやはりこちらの問題なのだろう。長の事は、に任せろ、と。千里あいつが言っていたから、まあ問題無いだろう。」

「その後、このデヴァイ世界が。どう、なるのか、どう、するのかは俺ら次第という事だ。近々アリスとブラッドも呼ぶが、アレはどうするかな…………」

そう言って再び立ち上がった白衣に、もう今日の話は終わりなのだろうとアタリを付ける。

丁度掃除に来たリトリの横を通って、書斎をスルリと出た。


さて。

俺達の光は、より一層輝きを増して帰って来た。

「あいつ、ブラッドフォードやラガシュにも会わせるつもりなのか………?」

ブラッドフォードは元々ヨルに、気がある。
だから警戒していれば問題ないが、ラガシュはどちらに傾くのか。

「崇拝」になるか、それとも転換して………。

いやいや、それだけは避けたい。

しかし今でも「姫」と、呼んでいるあいつならば、大丈夫だと思うが………。


くるりと回って、青のホールへ出る。

深みが増した色が混ざるホールは、ぐっと奥行きが出た絵画の様で俺は前より気に入っている。

その、美しいスピリット達の舞う姿を眺めながら。

これからどうなるのか、どう、するのか。
全く予想も付かないが、楽しみである自分に気が付いて一人、笑っていた。


やっぱり、あの子は。

「そういう存在もの」、なのだと。

駄目押しのように、更に俺達にその光を見せたあの少女に、参っていたんだ、俺も。



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