透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ 再

私を 織る 2

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ただ 見ること

 ただ 在ること

 ただ それを。 真っ直ぐ そこに 

      在らしめる こと


ただ、じっとその転がっている灰汁を、見ていた。

小さなものから、大きなもの、形は「なに」とも言えない歪な石ころの様である。

ただ、灰汁それが。

「悪いもの」ではない事が、段々と解ってきた。


「私の神域」だからだろう、そのくっきりと見える灰汁達は、其々が歪な形で鈍い色を放っている。

ねじれた様な形、幾重にも折り畳まれた様なもの、無理矢理整え塗りたくられた様な形、それは押し込められた何かを表す様な、歪さだ。

「色」だって。

濁りがあるだけでは、なく。

その時々、味わってきた濃い色から鮮やかに映えるもの、そこから転換した泥が混じった様な色。

「色」ですら、歪で。
凡そ「調和」など、皆無なその重なり、ベッタリと塗り込められた灰汁達。

きっとそれは、その時その時に、私に「染み付いた想い」の様な、もので。

所謂「性」について、私達が経験してきた。

重い、枷の様なもの。


 「恐怖」 「不安」「悲しみ」

   「道徳」  「固定観念」

   「悔しさ」「後悔」 「嫉妬」「罪悪感」

 「嫌悪感」 「執着」  


数々の「死んだ私」を、取り込んだから解る、「その色」。

もっと小さな色まで見たならば、数えきれない程の「重さ」が見つかるに、違いない灰汁それ

沢山の濁り切った色が、転がる様は中々に圧巻だ。
濃淡あるそれらは様々なカタチを表し、それが沢山の「死んだ私」を物語っている。

その、色も嫌いじゃないけれど。

でも。

「今の私」には。

 必要、無いんだ。


白くピンと張った場、ただ立ち尽くしそれを見つめる、自分。

次第に、サラサラと流れる水の音が耳に届いて。
くるくると動き始める、思考。


 そう  これを

 流す んだ

 私には もう。  

 「要らない」部分 だから。


それが解ると、一つ一つを手に取って神域の小川に流していく。

今日も片方の壁から流れ落ちる清浄な水は、私の為にサラサラと心地良い音を奏でていて。

 「どうぞ」「いいよ」

   「また」 「そう 還るよ」

そう、言っている様な気がした。



 そう  そうだよね  ありがとう 今まで

  沢山の  鮮やかな いろ を。

    見せて  くれて。


  そうなの。

  
 私が。      見せて

  くれたんだもんね  ありがとう

     ありがとう ね



ジワリと滲む涙、しかしこの灰汁達もきっと。

この小川が言う様に「還って」、また。

新しい色に。

生まれ変わるんだ、きっと。


「そうなら、いいよね…………いや、だよ。うん。」


サラサラと流れる水音、白い水の淵がキラリと星の様に、光る。

  そこで 頭に 浮かぶは

 やはり。

 あの 星で。


自然と開く口、流れる清水と共に謳う、謳。



  「 私 は   小さな  星 


     どんな  色も  大好きだったけど

      
  また  新しい 色に  変わる為に

    流すよ  そして またね

      何処かで    逢える  」



謳と共に、コロコロと流す。

静かに、辺りを舞う蝶達は灰汁達を送っている様だ。
やはり。

「自分」の一部だった事が、分かるのだろう。


でも?

じゃあ、この蝶は?

残った、事実は、なんだったのだろう な?



じっと、その舞っている蝶達を見つめて、いた。

多分、この子達はあの絵に関する「性的」な重さに関連する蝶の筈だ。

この子達だけで、全ての「その色」が拭える訳じゃ、ないだろうけど。

随分とすっきりしている、胸に手を当て、ただ、見ていた。

その軽やかに舞う、蝶を。



 うん?

    え  あれ ?

 いや?   なんだ ろう   なんか


    あれって。  蝶???


そうして半分、ボーっとしながらも、目に映していた蝶達は確かにこれまでとは違って、いた。

試しに手を伸ばして呼んでみる。
指に留まってくれれば、いいのだけれど。


すると、一匹の山吹色の蝶がヒラリと人差し指に留まる。

「あ、良かった。ちょっと見せてね………。」

驚かせない様、ゆっくりと顔を動かし、確かめたその蝶は。

「えっ。やっぱり?か。」

そう、何故だかその蝶は。

緩りと光る、光沢が上質な絹を思わせる、布で出来ていたのである。


 え てか  やっぱり 

」な  わけ  ???


私は。
確かに「解いて」「洗い」「紡ぎ直し」「染め直して」「織り」「縫い直す」と。

思った、筈だ。

「えっ、まあ、確かに。、思ったけどさ、うん。…………えぇ~。」


既にフワリと飛んだ蝶は、楽しそうに他の色達と神域を舞っている。

しかし、どうやら灰汁を流したからか。
多分、数は減っていると思う。

「うーーーん?それなら?とりあえず、モヤモヤしたらここで灰汁を流して、紡ぎ直して?」

「えっ、長くない??めっちゃ数いるけど??いや、でもそんな直ぐ、できる様なことでも、ないんだ…………。」


考えてみれば。

それは、そうなのだ。

「数えきれない程の 死んだ私」を。

「併せ持つ」ことが、簡単である、筈がないのだ。


減ってはいるがしかし、沢山の蝶達が舞う神域は中々に幻想的な空間だ。

しかし、楽しそうに、軽やかに。

舞う、その姿を、見ていると。


「うぅ~ん。でも、とりあえず。なんか、得意な方法だから、良かった。」

 でもきっとそれも。

 「そういう風に できている」んだろうけど。


何故「私のやり方」が「そう」なのかは、分からない。

でも。
なんでも、「こたえ」があるから「正解」な訳じゃない事を、私はもうし。

そう、

「そうよ、そう、だと「思えば」。うん。…………まあ、とりあえず気長に行こう。」

焦ることではない。

そうして一つ、納得を自分の中に落とし込んだ私は、なんだか「自分」も、スッキリしたくなって。

灰汁が流れ、もう何も無くなった小川にそっと足を踏み入れてみた。


 あ 意外と  いい感じ


サラサラと流れる音は、水の中では聴こえない筈である。

耳は水の中、少し浅いこの小川に私がピッタリと嵌り寝そべると、顔だけ出ているシュールな姿である。

しかし。
ここは、「私の神域」。

誰も私を咎める者は、いないのである。


「うーーーーん。これ、中々いいわ。めっちゃ清められる。なんか、水ごり?禊ぎ?そんな感じ??」


そうして独り言を言いつつ、すっかり透明になった自分の「なかみ」を爽やかに感じていた。

「みんな」は。

「在る」、のだけど。

大きな分量を占めていたあの灰汁達が無くなって、大分スッキリしたのが、解る。

「なかみ」の見通しも良くなり、「次にどこに手を付けようか」判断も、し易くなったと思う。
透明の中に浮かんでいる「色達」は、その其々の色と純度がきちんと場所で別れていて、近い者同士が一緒にいるのが分かるのだ。

うーん
これなら だいぶ  いいな?


爽やかな色達に癒されながら、未だ重い色も確認して。

つらつらと思い描くはあの流れて行った、灰汁達のこと。


「あれ」を手放した事で、私の中身がすっきりして「事実」と、「その時の想い」「感情」がよく見える様になったし。

それは「繋げない方がいい」こと。
「事実」は「事実」であって、「いい」も「悪い」も、ないということ。


ふと、「あの場所」の事を思い出す。

あそこだって。
やっぱり、「その事実」があるだけの、「場所」で。

なんら、「悪い」所など、何一つ無い場所なのだ。

 
 だ。

きっと。

「狭間の私」で、生きるって。



なんとなく、見えてきた道筋、光はまだ細く、これからしっかりと太くしていく必要があるのだろう。

それが、この「精査する」「紡ぎ直す」ことで、私に必要なことなんだ。


パッカリと拡がっている「なかみ」、やるべき「色達」は沢山あるけれど。

心は軽いし、晴れやかである。


なにしろ、これで。

とりあえずの見通しが立った。

後はどれだけ「違和感」を、見逃さずに見極めれるか。
ほんの小さな、そぐわぬ純度さえも。

自分の中から、取り除いて、いけたなら。


「うーーーん。めっちゃ、光るな。いい感じに。」

「何が光るのだ。」

「あっ、ごめん。もしかして探してた??」

一人で深く頷いていたら、返事が来たけれど驚かない。

小さく光った。
あの色を、神域の端で感じていたからだ。

「とりあえず、戻るぞ?」

「うん。大丈夫、一旦スッキリしたから。」

なんだか不安そうな目は見なかった事にしておこう。


そうして金色に回収されて。

初めての「織仕事」は終了したので、ある。








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