透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ 再

変化の島へ

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なんか。

私だけ 「狭間の存在」だと。

 寂しいかと 思ったんだけど。


「意外とそんなこと、ない、かも?」


目の前に見える、白い雲の隙間、小さな青空。

薄雲の原っぱに、時折フワリと咲いた様に見えるその青を楽しみながら歩く。

足元には力が通い始めた大地、渇いた砂だったここも、大分柔らかく変化しているのが嬉しい。


少しふんわりした灰色の砂地をサクサクと踏み締め、向かうは「あの場所」。

横に沿うは池へ続く透明な流れ、その中に水色のなにかが見える気がして目を凝らす。

「なんか、水の妖精でも見えないかな?」

変化した目で、「何か見えないか」じっと目を凝らしてみるも、どうやら「まだ」の様である。

なにか、「泳いでいる」のは、分かるんだけど。

「なんなんだろうな………。」


少しずつ、少しずつだけど。

なんとなく、「見えなかったもの」が「見える」様になってきた私の「新しい目」。

見た目は変わっていないらしいけど、きっと「感じ方」が違うのだろう。

きちんと「意識して」「見る」と。

どの場所にも生きている「なにか」は、「いる」し、「ある」。

が溶け込んできた私の中は、「一人だけど一人じゃない」のも、解ってきて。

だから、何気無い散歩も楽しかったし。
フワリといつも寄り添ってくれる蝶達、蝶が増えると漂う「香り」も、この散歩を彩ってくれるものの内の、一つである。

そう、香りそれはあの桃色のアレだ。


どこから、どう、繋がっているのかは分からないけれど。

きっとあの子と「死んだ私の蝶」は、あの時繋がったのだろう。
この香りを嗅いで、変容できたんだ。

なったって、何の不思議も無い。


それに私自身、この香りには深い思い出がある。

  遠く 近くに浮かぶ青と緑  白い神殿

 「なんにもなくとも ぜんぶ ある」

   あの 空気

目を閉じるとすぐに浮かぶ光景、やはり香りが脳に直結しているというのは「本当」なのだなぁと。
改めて、思う。

なんなら星屑も増えるし、空間が潤う気もするし。

そう、散歩の時この香りが漂い出すと、あの黒の廊下の靄も薄くなるのだ。



「ふふふ~ん♫」

斯くしてゴキゲンに散策範囲を拡げている私が今日やって来たのは、勿論変化したグロッシュラーあそこである。


「とりあえずラギシーを使えばいつでも行っていい」
そう、本部長からお達しが出てすぐ。

私は一人、この灰色の島へやって来ていた。

勿論、あの金色が過保護な目を向けていたのには、気が付いていたけれど。


「いやぁ、イストリアさんとは二人で話したいよねぇ………。」

無論、「大丈夫」だと断って。
その後すぐ極彩色に揶揄われた金色は、諦めた様だったけど。


「まあ、心配するのは分かるけど、多分………。」

そう、きっと何かあったなら、すぐに彼の所へ跳べるのも、私には解っていたし。
彼が私の所へ来てくれるのも、すぐだろう。

なにしろ「なんだか近くなった」と、勝手に私が思っているだけなのか、どうなのか。
何故だか「謎の安心感」は私の真ん中にドンと居座っているのである。



「わ、あ………相変わらず………。うん、なんもないけど。いいね。」

つらつらと歩いて辿り着いた、「あの場所」。

でも。


今ならば。

 ここも  「なんにもないけど 全部 ある」

それが、解る。


もう、昇って行った「想い」達は、いないし。

まだ、私の中にいる子も、いるのだけれど。


「「想い」は、残るよ、ねぇ…………。」


「ここ」に置き去りにされていたその、「暗かった」想いが。

みんなが、昇ること、蝶に「転換」したことで。

ここが、「特別な場」に変化したのが解る。


色は「どす黒い」まま、きっと普通に見れば「忌わしい」様な場所なのだろう。

でも。

 「見える」よ。  「わかる」。

  
    みんなの 「想い」が 昇った  

     光の 軌跡が。   


     ちゃんと 「ある」よ


その、細い光に蝶が添い、舞うのを見てまた心が震える。

「やっぱり、んだね………。」


美しい光の軌跡、その光をなぞる様に追う、鮮やかな蝶。

流れる雲は白の中にも様々な表情を映し、それもまた「変わったのだ」と私に教えてくれる。


やはり、「変わらないこと」、「決まっていること」など、何も無くて。

どんなものにでも「表と裏」が、ある。

そう、全てはやはり「多面体」で。

その時々で、見る色が変わるのか、それとも見る者が変わるのか。
それはどちらもあり得るし、どちらも「正解本当」なのだろう。

そう、私達は、「変われる」し。


その、「変化」は 「自然」でも、あるのだ。



「うーーーーむ。」

サラリと頬を撫でる風に、微笑んで髪を抑えた。


「風も。また、変化するんだろうね………。」

「そうだよ」と言う風に、頬を撫で去って行く風を見送る。

吹かなかった風が吹き、強風となって畑が破壊され。
そしてまた、心地良い風になって、帰ってきたこと。

「うん?」

そう言えば。

あの強風は、結局黎の仕業だったのだろうか。


「えっ、ねえ?黎?………って………。」

      なの ?

そう、訊きたかったけど。

なんとなく口を噤んで返事を待つ。
きっと黎は私の言いたい事は、解るだろう。

そう思って、白と灰色の混ざる雲を見ていた。



「 まあ  そう   だね ?  」


そうして少し待つと、ヒラリと現れた黒い蝶。

どうやら黎は、どこでもこの黒い絹の様な美しい光沢の、妖し気な姿らしい。


「闇の神」らしく妖艶なその姿は、上質な細い絹糸で織られた綸子りんずの様な羽に、発光する赤や紫の、光が散って。
その、何とも言えない黒い宝石の様な姿は、やはり一際目を惹く存在感を醸し出している。

暫しその美しい黒を眺めながら、どうしてなのだろうと考えていた。

あの時は。

絶対 「面白がってる」と、思ったけれど。

その、「理由」が分からなかった からだ。


 「 わたし は   そういう

     存在もの


  それ以上 でも  それ以外 でも  

         ない   」


「うん?」

囁く様に響く音、蝶達が楽しそうに舞うこの場に、謎かけの様な答えが降ってくる。

ちょっと、待って?
私に解る様に、説明してくれないかな………??

「でも、だって。なんか、面白がってなかった??」

少し、不満気な音の言葉が出る。
だって私は、あの時「いけすかない」と、思ったんだ。

だから多分。
その「理由」が、あると思うんだけど………。


そんな私の周囲を舞いながら、ヒラリ、フワリと美しく舞う黒。

何の抑揚もなく齎される低い音は、美しい姿と相まってなんとも言えない妖し気な空気を醸し出している。

しかし、その「こたえ」は。

また、私が予想していなかったものだったけれど。

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