透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ 再

私を 織る

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 さてさて  ここ は

   どう なの  かな ?

こっそりとラギシーを使い、歩くは黒の廊下、郷愁の回廊。
すっかりと馴染んだここの色も、今の私には意外と心地良い。

黒が、多いからか。
あの時、走ったからなのか。

なにしろ以前より随分と自分に馴染んだこの色を、胸いっぱいに吸い込みながらつらつらと歩いていた。


「自分を精査する」ということ、その始まりの解きほぐす工程の中で。
とりあえず私が目を付けたのは「蝶の色」であった。


自分の「なか」を探るとやはり、「馴染んでない」のは新しく取り込んだ色、暗色の蝶達である。
元々持っている色は、その影響を受け、多少変化はすれどもそちらは後でいいに違いない。

 とりあえずは、蝶

黎よりは、簡単そうな気がしてとりあえずそちらから始める事にした。

「簡単」なんて、自分に失礼かと、思ったけど。

そもそも「私」なのだから、「見知った色」からやる方が取っ掛かり易いのである。


「まあ、その辺は許して下さいよ…………。」

なにしろ数が、多いのだ。

取り込んだ蝶は、結局何羽になるのか見当も付かないし、それを「一つ一つやるのか」「共通する部分の色は一気にいけるのか」等等。

疑問だけは、山盛りである。

手をつけ易い所から、入りたいと思うのは許して欲しい所なのである。


そんな風に、自分で「他の自分」に言い訳をしつつ。
蝶を出す為にテクテクと歩く、踏み心地の良い絨毯。
豪奢な調度品を見ながら、蝶を確かめるという一石二鳥計画だ。

「見えるか見えないか問題」は、まだ実験していないのでとりあえずラギシー完備である。

本当は、フェアバンクスでやった方がいいのだけれど。

あそこは、「私の色」が強過ぎるのだ。

私から出てきたスピリットや蝶達が、色んな場所で舞っているので、「新しい色」を見失いがちなのである。


そうしてつらつらと歩く黒の中、壁には様々な美術品と言える調度達が畏まって並んでいる。

小さなテーブル、花瓶置き、沢山の引き出しのついた、小箪笥。

高い位置の黒い窓、豪奢な鏡、沢山の、絵。

その、どれもが「どう見えるのか」、確認しながらゆっくりと足を運ぶ。


以前よりも、暗い中利く様になった目。
まず目を惹いたのは、細部が驚きの技術で彫られている額だ。
新しく見える様になった、端の陰影、細かな曲線の重なり。

どの位の厚みがあるのか、塗られた塗料の質感、その、中の材質さえも。
その「作品」の息遣いから、大体が読み取れるのだ。


 やはり、変化している。


一人、くるりと瞳を回しほくそ笑む。

だからきっと、「蝶の違い」も。
見分けられる、筈だ。

そう思って、歩いていた。

そう、多分。

新しく増えた蝶は、これまでと違う「つくり」を、していると思ったのだ。


そうして額縁を見ることにはまった私は、元々絵が好きな事も高じ、いつの間にか集中して絵と額縁ばかりを見ていた。
筆の運びやタッチ、作者の違い。
そんなものを確かめるのも、中々楽しいからだ。

そうして随分と、沢山の絵を見た頃。

その、絵の中に気になるものが、幾つかある事に気が付いた。
つい、立ち止まって見てしまう「主題」のものが、あるのだ。


 「それ」は。


この黒の廊下には、よくある西洋風の景色や生活の場面、花や部屋の様子、等。
色々なものが、ある。

その中に、ポツリポツリと入ってくる「女性の裸」の絵。

まあ、よくある事だ。
私だって美術館や本などで。
見たことは、ある。

所謂「いやらしい」感じは、無いし。

 いや 「無い」と。

 思って、 いたのだけど。


「うーーーん。」

ぐるぐる、ぐるぐる廊下を回る中で幾つか「そんな絵」は、ある。

その、どれもが似た様な絵なのだが「嫌なもの」と「少し嫌」、「これはちょっと」、というものがあるのだ。

その、「なにが」違うのか。

それが気になって、一人ぐるぐると回っていた。


「えーーーー。「何が」。気に、なるんだろうか………。」

これまでだったら、ここまで気に、ならなかった。
見たことだって、あるのだ。

この廊下は。
もう、何周も、周っているのだから。


 て いう ことは さ

  「死んだ私」のうちの 誰か が?
  なにか 関係してるのか な



「うーーーーーーん。」


 「 いや まあ  そうだね 」


うん?

「えっ?誰??……………ってか、もしかして…。」

何度目かの独り言、周りには誰もいない事を確認して、一応口を開いている。

しかし。
今、「返事」が聴こえたのは。

 私 の 「なか」からだ。


「えっ、まさか?黎??」

直接「誰か」が、「なか」から私に話し掛けてくる事は、これまでには無かった事だ。
夢の様な、まじない空間でならば、あったと思うけど。


無意識に耳に手を当て、辺りをキョロキョロする。

やはり周囲に、人は、いない。


「「自分の なか に 在るから 嫌」なのだよ 無ければ。 感じないものでは ある」


 あっ やっぱり

       だ。

意識して聴くと、あの深海で聴いた「音」だという事が分かる。

えっ、でも?
なんでだろう??

そうは思ったけれど、黎だって私の「なか」にいるのだ。
」がしたって、不思議じゃ、ない。


それに。

確かに。
 そう かも ………


以前は感じなかった「違和感」、変容した私だから、感じる「なにか」。

それ探る事は、蝶を解きほぐすことの一端になるだろう。


「その、なんか、「嫌悪感」?が、私の中にあるから。「そう思う」「感じる」って、ことだよね?」

「そう だ 」

 「 もたぬ ものは  感じる ことが

          できない  」


「うん。それは、………分かるよ。」


再び自分の中に翳る色、きっとこの「違和感」も「死んだ私達」に関するものに違いない。

その、内容は重いけれど。

黎が応えてくれたのが嬉しくて、絵の前で腕組みをして考える。

沈んでいた足取りも、少し軽くなってこれならしっかり確かめられそうだ。


そうして。
私は黎と、そのまま話しながらも一つ一つ、絵を確かめて。

「なにが」、引っ掛かるのか。
「どうして嫌」なのか。

それを突き止めることに、したのである。






「さて。私の神域ここで、いいかな。」

ぐるぐると回廊を回ること、何周か。

それぞれの絵をしっかりチェックした私は、神域へと移動していた。

じっくりと考え事をするのに、あの廊下は向いていない。

それに、「丁度いい場所」を思案していた私の中に「ポン」と浮かんだのはこの白い清浄な空間だった。

ここならば。
誰に邪魔されることもないし、スピリット達もいない。

「なんで思い出さなかったんだろ………。」

そんな呟きを漏らしつつ、久しぶりの神域をぐるりと見渡した。


真っ白な、場。

ほんのりと青く見える、少しひんやりとした石の床。
発光する様に光るこの石は、私の中もすっきりと照らし足元から純化されていく様な、そんな気持ちの良い感覚がある。

雲の様な頭上、幻想的な靄の柱の奥。

上下左右からほんのりと差す白い光は、今日も清らかで澄み切っていて。

冷たくはない、しかし何者をも通さぬ空気、私の為の心地良く張り詰めた場の空気が、あの「深海」を思い出させる。

 あそこも「満ちて」。

   「「全て」が充満して」いたんだ。

 あれは 別の 場 で

 海の  埋葬地だった けど。


    ここは。


ぐるりと見渡す「「私」が充満した」場、全てと繋がっている感覚とそれが「事実」として目の前に現れている、さま


 ああ  

      違う し   わかる


今より前の私が、その時の最大で、創った場。

少し物足りない場所もあるけれど、それはまた創ればいいし。

でも。 やっぱり。


この場全体が純粋に「私の為」に、存在するのだと。

 私が「そのまま 在れる」場なのだと。


改めて、自分の仕事生み出したものを「真ん中」から、感じていた。



「うん、やっぱり。………いいね。」

そしてやはり、ここへ来ると。

くるりと回り、いつの間にか軽くなっている自分の出立を確かめる。

余計なものが削ぎ落とされ、自分の中心がすっきりと解り、ポロポロと外側が剥がれ落ちるのだ。


「さて。…………うん、なんか。、やろうかと思ってたけど。「これ」は。」

「なんだ、ろうか…………。」


ヒラヒラと舞い出た蝶達は、新顔の色、きっとこれから私が「見る」つもりの子達だと、思う。

でも、多分。

「これ」に、関係あるって、事だよね………??


目の前に転がるは、何処かで見た色、歪な形の灰汁あくである。

以前、灰汁をここへ流したからか、どうなのか。

きっと「余分なもの」と判断された「それら」はゴロゴロと私の前に、しかも中々の数、転がっていた。


 うん?

 でも。
 多分、「あの絵」は  あれ

  あの絵は   あれか  うん、成る程?

私が気になった絵、それぞれの灰汁らしいそれらは、一体何を意味しているのだろうか。

とりあえずは暗色の蝶達と戯れながら。

その歪な形と色を、じっと眺めていた。



 
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