794 / 1,483
8の扉 デヴァイ 再
女神様疑惑
しおりを挟む「ウイントフークさん!私って……… 」
派手な音、飛び散る星屑に。
書斎の奥、呆れた瞳の、茶色が刺さる。
「………ごめんなさい…。」
そう、勢いよく走って行き、再びそのまま扉を開け放った、私の星屑のお陰で。
可哀想な扉は、再び吹っ飛ぶ事となっていたのである。
「………だから、変わっていないと言ったろ?」
「まぁな。」
ホロホロと転がる星屑と、扉の残骸。
この前よりは派手じゃない、と自分に言い訳して「いやいや」と一人ツッコミをしている私の隣で。
失礼なやり取りをしている男達がいるが、私にはぐうの音も出ない。
「あっ、ごめん、ありがとう。」
「いいえ。でも、気を付けて下さいね?怪我でもされたら…」
「もう、無敵なんじゃないか?」
「ウイントフークさん、それは失礼ですよ。私に。」
すぐに片付けに来てくれたハクロにお礼を言うと、とりあえずソファーへ座る。
邪魔をしない様に、大人しくしているが吉だ。
そうして片付けの様子を見ていると、何やら合図をして極彩色は出てゆき金色は私の隣へ収まった。
「で?どうしたんだ??何かあったのか?」
本棚を弄りながら、やや迷惑そうな本部長。
きっと二人の報告を聞いて、これからの事を計画しようとしていたに違いない。
数冊抜き出された本が、手近な山にポンと積み上げられた。
ああやって山が、高くなっていくんですね
ウイントフークさん………
その様子を眺めつつ、とりあえずの疑問を口に出すことにした。
「あの。私って、「どうなった」んですか??あと、不老不死は?なんも、持って帰って来てない、けど………。」
ウロウロしながらチラリと金色を見たウイントフーク、きっとこの話はもう相談済みなのだろう。
しかし、金色は説明係に向いていないと判断したのか。
とりあえず説明しながら、山の上の本を開き始めた。
「そうだ。まず、お前は「帰って来ていない」事にする。そうすれば不老不死が無くとも仕方が無いし、これ以上追及される事は暫く無いだろうからな。」
「ふぅん?………まあ、そうですよね………。」
ん?
でも………?
「何人か、には。言ってもいいですよね?」
私の事をよく知る人になら、会えると金色は言っていた。
しかし、返ってきた返事は芳しくないものだったけど。
「いいや。とりあえずはアリスとブラッドフォード、二人だけだろうな。ああ、あとはフリジアか。」
「えっ。」
「少し様子を見る。大丈夫そうなら、その、なんだ?友人にも会えるだろう。とりあえずは、待て。」
「…………はぁい。」
確かに。
少し様子を見た方がいいのは、解る。
そっと私の手を取る金色の温もりに息を吐きながら、「大丈夫」と頷いておいた。
これまでだって、そう沢山の人に会っていた訳じゃない。
きっと、そんなに変化は無い筈なんだ。
そう自分に言い聞かせながら、フェアバンクスにつらつらと思いを馳せ、魔女部屋と魔法の袋はどうしようかなぁ、なんて。
のんびりと、考えていた。
しかし、私が落ち込んだと思ったのか。
本部長は、いきなり懐かしのアレを持ち出してきた。
そう、あの朝食堂で言っていた、「女神様」である。
「ただ、グロッシュラーでは。お前は「女神様」、やっていいぞ。」
「え???」
「ほら、森でやってただろう。そんな様な、やつだ。多分、今の姿ならば、少し光っておけば完璧じゃないか?」
えっ 光って? ?
おけ ば ???
「えっ、うん?そう、なのか………???」
ペタペタと自分の身体を確認して、隣の金の瞳をチラリと見る。
この人は、頷いているけれど。
「えっ?そんな、このまま光るだけで。「女神様」になんて、見えます?????」
その私の質問に。
くるりと振り返った眼鏡の奥の、瞳が怖い。
ツカツカと近寄ってきて、ジロジロと私を眺め始めたウイントフーク、金色は諦めたのか私の手をギュッと握っているが、遮りはしない。
「ふん?多分、大丈夫だと思うがな。イストリアに見せて、それからがいいだろう。」
「えっ、それは………いいですね?」
「まあその辺りは「それらしく」見える様、何かアドバイスしてくれるだろう。まあ、このままでも充分だけどな。」
「え、えぇ~???」
ウイントフークが。
あの、ウイントフークが「このままでも女神に見える」という、基準はどの程度なのだろうか。
私の服装にだって、無頓着、きっと昨日何を着ていたかだって、覚えていないに違いない。
いや でも?
ウイントフークさん だし??
そんな 「珍しい姿の女性」くらいでも
そう 思いそうじゃない???
「それは、あるな…。」
「で?質問はもう終わりか?とりあえず用が済んだなら、出て行け。俺はあれが、ああ、向こうに………」
「はぁい。………ありがとうございます。」
何やら呟きながら、奥の小部屋へ消えて行ったウイントフーク。
とりあえず、今の所の。
疑問は解決した。
後は多分、私の「なかみ」の、話なのだ。
「とりあえず、休もう。」
「うん。」
止まっていた私を覗き込んで、そう言う金の瞳は気遣っているのだろう。
確かに、帰って来たばかりで。
なんだかまだ、落ち着いてはいないし、少し疲れてもいるのだろう。
馴染んだ手が腰に回るのを心地良く感じ、そのまま開けてくれた扉を出る。
直ぐそこの私の部屋の扉を見て「休め」という色を映し、私を目で誘導しながら連れて行く、この人が。
なんだか、近くなったと思うのは気の所為なのだろうか。
しかし、大分馴染んだウェッジウッドブルーを見た私の中はやはり安心したらしく、胸の中に拡がるいつもの色にホッと小さく息を吐く。
そのまま、金の瞳が「どうする?」と訊いたから。
とりあえずは緑の扉を目で示し、クローゼットへ着替えを取りに向かった。
なん か
目が 覚めちゃった な?
パチクリと目を開けて、目の前の白を見る。
白い、シャツだ。
ん?
ああ そう か あの 人
そう 金色 が 今は 一緒 に ?
そうだ。
そうなんだ。
じゃあまた。 寝よう。うん。
しかし。
なんだか頭は少しずつ働き始め、何を考える訳でもないが、眠れないのは分かる。
森のお風呂で寛いで、ゆっくり眠れる筈なのに。
少し、寝ようとしてみたり、目を開けてみたり。
色々試してみたけれど、とりあえず寝返りを打とうと身体を動かしていた。
「 眠れないのか?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
寝てはいないのだろうが、ついそう言ってしまう。
とりあえず金の瞳に心配しない様、目配せしておいて自分でも「何故眠れないのか」、考えていた。
なん か? 落ち着かない?
ムズムズ? ソワソワ?
なんだろう 「不安」は 無いんだけど?
なにか が? 気になる のかな??
自分の「なか」をぐるぐると探っていると、頭の上から緩りとした声が、降ってくる。
やはり夜中だからか。
中々、聞けないこの声もいい感じである。
「きっとこの空間にまだ同調してしまうのだろう。デヴァイは、まだ落ち着いていない。感じるのだろうな。」
「………確かに。そう、かも…。」
いつの間にか部屋へ戻っていたから、気にならなかったけど。
きっと、向こうは「ヨルがいなくなった」と騒ぎになっている筈なのだ。
パミールとガリアが心配していないか、二人の瞳が思い浮かんで少し胸がキュッとする。
でも、あの二人なら。
多分 「信じて」。
待ってくれる 筈
それ以外にも私に「不老不死」を要求していた長老達、「軸」になる筈の私が、戻らないこと。
きっと、私の想像以上に。
向こうは「揺れて」、いるのだろう。
しかし。
やはり、私も変化したのだ。
二人に会えない事も「今は仕方が無い」と、思えるし、「私の所為で騒ぎになる」事すら。
「私の 問題」では 無い
それが、はっきりと分かるのだ。
割り切れる、と言うか。
「…………うーーん。」
寂しさなのか、嬉しさ、なのか。
なんとも言い様のない、思いが胸の中にほんのりと居座っている。
「少しずつ、お前の中を整理すれば落ち着いて来ようが。まだ少し、危ういの。」
「…………うん。」
なんだか。
懐かしの話し方を聞いたからか、安心して眠くなってきた気がする。
確かに、私はまだ「色んな意味で」「危うい」のだろう。
なにしろ兎に角。
「自分を 安定させること」、そこから。
着手しなければならない事だけは、解るけど。
駄目だ 眠くなって きた
そうして。
久しぶりの安心の温もりの中、「暫く一緒」という、私にとって最高のプレゼントと一緒に。
ぐっすりと、眠りについたのである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる