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8の扉 デヴァイ 再

新しい仕事

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明くる日。

スッキリと目覚めた私の隣に、何故だか金色はいなかった。


「えっ…………あの、懐かしのアレは………??」

いつもの温もり、半分起きている私の髪を梳くあの大きな手の、感触。

それを味わえると、期待して目を覚ましたつもりだったのに。
本人は既に無く、残るはただ大きなものが「そこに在った」様子が分かる、シーツのみである。


「…………まあ。…………仕方無いか………。」

半分、働かない頭でノソノソと起き出し「おはよう」と緑の瞳に、挨拶する。

とりあえずは、着替えを掴んで。
緑の扉へ、入って行った。






何も無い青の廊下を抜け、実り豊かな彫りの扉を開け、中へ入る。

麗かな光が差す魔女部屋は、今日も通常運転の様だ。

窓辺では相変わらずハーブ達が姦しくお喋りしているし、いつの間にか奥には白いフワフワも見える。

朝食後に「さて、どうしようか」と考えて、結局ここへ、来たのだけど。


ある意味、私の行動範囲は広くない。
確かにフェアバンクスこの区画ならば、魔女部屋か私の神域、白い礼拝室か自分の部屋か。

外出するにしても、廊下を散歩する、若しくは礼拝堂でこっそり祈るくらいだ。

「確かに、あんまり変わらないんだよね………でも結局。「そういうこと祈る」って、ことなんだろうけど。」

だらしなくバーガンディーに寝そべりながら、つらつらと頭の中を洩らす。

勿論、一人でも喋っている私だが向こうのソファーには灰色の毛並みが見えている。
心地良さそうに上下するその色を見ながら、これからの自分のことを、考えていた。

すると、少しして。
意外と返事が返ってきた。


「そんなの、いつも通りでいいんじゃないの?だってやる事って、そんなに変わりは無いわよ、きっと。」

「ただ、あんたが。だけで。」

「うん?」

  見えるか  見えない か  ??

 
「えっ?私、「見えない」、かな??」

多分、朝が言っているのは私が向こうへ行って帰って来たから。
もしかしたら、普通には「見えない」と思っているのかも知れない。

「えっ?見た目、そんなに違う??………でも「見えない」なんてこと………ある??」

ペタペタと自分のことを確認している私を、じっと見ている朝。

朝は、普通の猫じゃないけど。
それが何か、関係しているのだろうか。


暫く私の事を観察していた朝は、再びくるりと丸くなると溜息を吐いてこう言った。

「まあ。人間には、どう見えるのか分からないけど。私には、大分「違うもの」に見えるけどね。」

「えっ  」

「でも、どうなんだろうなぁ。「近い者」には、見えるんじゃない?」

「??ウイントフークさんとか?千里…は人じゃ無いし………?」

こうして考えてみると、意外とうちには「人間」が、居ない。

「あっ、シリーは見えてたじゃん!」

「あの子もねぇ。………どちらかと言えば、あんた寄りでしょう。距離じゃないのよ、距離じゃ。なんだろ、ほら、この間言ったやつ。」

「えっ?距離じゃない??」

「ああ、「それそのもの」、とかそんな感じかな?あまり嘘がないでしょう、あの子も。」

「確かに。」

か。


確かに「そう」ならば。

デヴァイこの世界で、私が見える者は、少ないのかも知れない。

「えっ?アリススプリングスとか、ブラッドには会うって??言ってたけど………。」

「あの人の事だから、で実験するつもりなんじゃない?」

「あり得る…………。」

恐るべし、本部長…………。


「えーーー、でもそれって。私、「透けてる」とか「なんとなく何か いる」みたいになるのかなぁ………それってオバケ??」

そんな事を言っていると、もう返事は無い。

 ありゃ
 脱線すると思って、寝たみたいね………

流石、朝である。
私がこれからぐるぐるして脱線するのが解っているのだろう、既に背中は規則正しく上下していた。


うーーーむ。

 ならば?  とりあえず、それは 保留 かな?


とりあえず、外の事はきっと後でも良いんだ。

先ずは、私の。

「なかみ」をきちんと、精査しなければならない。


「それが終われば。なんか、モヤモヤしてるのもスッキリするかなぁ………。」

「そう 思う よ 」

「あっ、おはよう。………だと、いいけど。」

いつの間に起き出したのか、傍らには美しい緑の瞳が四つ、キラリとしている。

「大丈夫 」

そう慰めてくれる下の子を撫でながら、静かな魔女部屋でボーッとしていた。

 
 綺麗  静か だな

   ああ  また 可愛くお喋り して る


そうしてバーガンディーに凭れるフワフワに、手を置いたまま。

うっかり、私も眠りについたのであった。







  私は  全ての 衣を 解いて


     紡ぎ直す   必要が ある な


 「過去」  「沢山の いろ」

  「重い 想い」  「美しい 色」


 「哀しみ」  「苦しさ」
              「失望」

   「怒り」    「憤り」

       「後悔」     「罪悪感」

  


  そんな どんな  

       「想いいろ」で さえも。


  きっと    その中に  

     重さ と  軽さ

   「上辺うわべ」と 「真実ほんとう

     「明」と「暗」は   混在していて。

 
 だから それ を

  綺麗に 解いて  洗い流し

    暗い いろ  は  染め直して


    紡ぎ直して 織り直して


   「新しい 衣」を。


「創る、んだ、な……………       」


う ん ?

夢?


「はっ?!」

とりあえずヨダレが垂れていないか確かめた私は、本当に変容したのだろうか。

思わず自分にツッコミたくなったが、袖を直しつつ辺りを見回す。

 あ そうか 魔女部屋だ

どのくらい、寝ていたのかは分からないけれど。

隣にはスヤスヤと眠るフォーレスト、向こうのソファーにいた朝は既にいなくなっている。


 うん?  えっと  私 は?

   なにか  考え事を してて
 まあ 寝ちゃったんだよね  うん

 いつものこと よね  うん


  それ で  ??

    なんか 夢を  見てた様な  気が。

「するん、だけど…………???」


少し、考えてみるけれど。

あまり、思い出せない。
ぼんやりとして、しかしなんとなく落ち着く場所で、清らかな「何かをしていた」のは、わかる。

「うーーーん?まあ、いっか。」

とりあえず、また後で思い出すでしょ。

そう思って、ぐるりと部屋を見渡した。


基本的に魔女部屋はいつも青空だ。

今は何時なのかは分からないけど、きっとお腹の具合からして。
お昼にはまだ、なっていないと思う。

「うーん、それなら?その、なんだっけ。私を?」

 清める?

 極める??

 整理して  精査する んだっ け??


「てか。って、どうやるんだろ…………?」

至極尤もな疑問を抱きつつ、再びボーっとする陽光の中。

差し込む光が白く、糸の様に、光で引いた、線の様に、見えて。

「ああ、だから「光線」って言うんだな」なんて、呑気な事を考えていると、「パッ」と浮かんだ、「その光景」。


 「解きほぐす」「洗う」「精査する」

 「染め直す」「紡ぐ」「織る」「縫い直す」


「あっ。」

あの、夢は。

 「これ」だったんだ。


頭の中に浮かぶは、機織りをしている「いつかの私」、明るい小屋の中。

丁寧に織り上げている、その生地は自分で一から創った、「自分の衣」の生地である。

その、「解きほぐす」様子から、「機織り」「仕立て」の、様子まで。

事は、無いけれど「」感覚、私の「なか」に、ある想い。


私の衣それ」に対しての、想い

 込める もの

 想い 願い  祈り  言祝ぎ


 最小まで分解しそこから紡ぎ上げ 創る

  神性 な


   わたし  だけ  の



       「 衣 」     




「?」

頭の中は、疑問符だ。

しかし。

私の「なかみ」は。

全力で、納得していて。

 「そうだ」と。

 言っているのが、わかる。



「ふむ…………。なる、ほど??」


 

   は。


   と いうこと なの だね?



「純度を高める為に」

「雑多な 衣を解きほぐし」

「紡ぎ直す」


今、私の「なか」には様々な「色」が混在し、そして様々な「純度」が混在しているのも分かる。

黎の中へ飛び込んで行った私は。
その、「闇のなかみ」を整理する必要があるのも、解っていたし。

取り込んだ「死んだ私」も、未だ色は薄くなったが「混在」しているのは分かるのだ。


時間が、必要だろう」と
言っていた、本部長の言葉を「精査する」と取った、私。

「あっちが増えた、こっちが少ない」と、把握するだけとか。
「放っておけば、いつの間にか馴染む」とか。

それでいい人も、いるのかも知れないけど。


「…………私は………そう、ね。私は、やっぱり。」

もっと、隅々まで自分の「なかみ」を、よく見て。

これまでに在った部分と、新しく増えた部分、その両方を精査しなければならない。
 

「うん。だよね………。」

なにしろ「自分の場所」が決まると、隅々までチェックし、綺麗にしないと気が済まない質だ。

教室の割り当てられたロッカーを、一人拭いていた事を思い出しながら頷いていた。


 そう 存在ものなのよね

   私 は。


これまでよりも、「外」へ出なくてよくなった分、やはり自分の「なか」を、じっくりと。
整理しろと、いう事なのだろう。


「流石本部長……。」

そうして。
とりあえず、唸りながらも。

新しく取り込んだ、自分の中の暗色を観察してみる事にしたのだ。



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