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9の扉 グレースクアッド

変容

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 これでもかという程 絶望して

 しっかり もう充分に 納得して 諦めて


  完璧すぎる程に きちんと 死んだ 私


それを目の、前にして。

私の頭は嫌に静かだった。





「それ」を思い出してからは
何も浮かばず 頭の中は 白い

とりあえず そこに座った。

まだ 目が 「それ」から 離せなかったし

とりあえず ただ 「そこに在ろう」と思ったからだ。



 「絶望」か。

 うん 「絶望」だな

 確かに。

 「覚えが ある」   それは。



 何度も 何度も

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も


 そう 数えるのも 諦めるくらい
 繰り返して 

 そうして死んだ 「私」


まあ  「絶望」も する よね

 「人間」に。

 また 「人類」とは  大きく でた な?


        でも。



  「どんな 私」も。

 「あっちの私」 「こっちの私」「どの 私」

   も。

  酷かったから   「わかる」。



 どんな時でも 持っていた 小さな光

              小さな希望


 しかし 易々と 打ち砕かれる それ


 でも まだ。
 「自分を 可哀想がっていられる」時は
 良かった


 だって ただ。
 泣いていれば  いいんだから。

 憐れんでいれば  良かったから だ。





しかし やはり。

「生」とは  そう生温いものではなく

  「反対側」も しっかりと やった 私は。


  最終的に「自分」にも   

  しっかりと 「絶望」して。

 
  しっかりと  「諦め」たんだ。










でも

じゃあ

何故?



 「今」「ここ」に いるのだろうな?







目の前でしっかりと硬く「死んでいる私」に、触れることはできない。

何故だかそれは 解っていて。

ただ 眺めていた。


「死んでいる私」と「死に続けている私」、それは少しの違いだが大きな違いでも、ある。

多分だけど。

「死に続けている私」は未だその「想い」が何処かを彷徨っていて

まだ「生きている」んだと思う。

「想い」が「生きて」るって。

ただ、聴くとおかしなことだけれど。

 私には 解っていた。


「それ」は「ほんとう」だって。


だから「死んでいる私」は、もうしっかりと「死んだ」私で「想い」も固まっている。

そんな「私」の変化した蝶は、やはり色も固くて。

きっと層が厚い、その色は暫く変化はしないだろう。

でも。

ある意味「死に続けている色」の方が、時間は掛かるのかも知れない。

「生きた 想い」だから。



しかし、目の前にあるは「死にきった固い私」、これまでの「死んでいる私」より固いから、ここに残っているのは分かる。

「最後」だから一番、固いんだ。



さて。


  どうしよう かな




少しずつ、辺りの様子が目に映る様になってきた。

相変わらず 深海の深い水の色は美しかったし。

揺ら揺らと目の前を揺れる薄い光、桃色の香りと足元の珊瑚。

魚達はここまで来なかったけど。
きちんと下には珊瑚達が私を見守っていたし、揺れる海藻も遠くに見える。

はっきりと壁などがある訳では無い、ここの「終わり」は、やはり曖昧で。

その 曖昧さの中。

なにしろ「今」「はっきりと」決められない私は、暫くそこに座り込んで いた。







  どうしよっ か   な


何度目かの 「どうしよう」で
ふと、手のひらの感触に気が付いた。

 ああ また 忘れてたわ

そう 大事なものが ここには入っている。

私をいつも、助けてくれるイストリアからのアレ。

そういや本部長と共同制作なのかな?


それを思い出すと、固まっていた口角がピクリと動いた。


とりあえず持ち上げ透かして、見る。

キラリと角度によって色を変える「ガラスそれ」は、どうやって加工したのだろうか。

みんなの「チカラ」と言うよりは「色」が入っている、それ。

もしかしたらチカラを混在させるのは難しいのかも知れない。
なんとなく、そう思う。

でも、「色」なら。

こうして、綺麗に。

 「共存」、する事ができるんだ。



「  確かに。」

ガラスから齎されたヒントに、もう一度「死んだ硬い私」を見る。


 「共存」「共存」、かぁ

 うん でき る  できない ことは無いんだよ

 そう。     そう  なんだけど。


反対の手のひらを見て、「青い私」を確かめる。

そう「今の私」は、「海の観音」でもあって。

「なんでもできる」私なのである。


 そうよ 勝ち 負け じゃないけど
 自分に 負けちゃ 駄目

 誰も 私を 無理矢理 こうしている訳じゃない

 私が 私を?


   この  場所 に 連れて来たんだ

  望んで  「やってやる」って

   飛び込んで  きた   よね?


  うん


  それなら。   やろう



    多分  いや 絶対。


      できる。   できる よ




無意識に胸に手を、当てていた。

真ん中そこには。


勿論、あの焔と、みんなから貰った色と。
拡げてもらった、「心臓の奥あの空間」が、ある。

 ふむ。
 それにしても。

 よく 入った ね?


改めてそこを確認すると。
今、海の中を舞ってはいるが、収納された蝶たちの色が物凄い数在るのが分かる。

夥しい数の、深い色、複雑な暗い色達。

しかし、「それ」が私に齎すものも、なんとなく解っていた。


 私の 幅が 拡がって

 拡大できる こと   

 深みが 増す こと

 もっと もっと  沢山の。

 「ひかり」を 取り込める こと



何故だか、「暗い方」を増やしたならば「明るい方」も、増やせると私。


 多分 それは  「二つで一つ」

  「全部は 多色」 「表と裏」

  「あっちがあれば こっちもある」

そんな話で。

私の「なか」が思うのならば、なのだろう。


 「私は 拡大できる」んだ。

それは、なんか。

 いい な?



えっ 待てよ?


チラリと視線を飛ばすは、「硬い私」。


 何者をも 通さぬ という その 特別な 色


その、突き詰めた「絶望」と「諦め」が。

急に「魅力的なもの」に、見えてきたのだ。




 えーーーー 
 急に 私。

 不謹慎かな…………


誰に遠慮をしているのか、立ち上がりぐるぐると回り始めた私は顎に手を当てそんな事を考えていた。

見れば、見る程。

その「特異な色」である、「突き詰められた」「煮詰まった」「完璧な」、「絶望と諦め」はキラキラと異彩を放っている。

いや多分。
私以外には、「どす黒い何か」とかに、見えるんだろうけど。


でもさ これ  どうする

 どうすんの   変化 しないけど ?


取り込みたいのは山々だが、一向に変化する様子の無い、「完璧な私」。

そう、ある意味「完璧な私」の崩しどころが、見つからないのだ。


 でもな  あるよ

 ある  ヒントが   多分。


そうしてぐるぐる、その「完璧な私」の周りを回っているのだけど。

ふむ。
ヒントは?

ない かな


とりあえず、景気付けにみんなの色を焔に乗せてフワリと飛ばしてみる。

フワフワと舞う、沢山の焔、そのそれぞれの色が可愛くて、愛でながら回る。


その、灯りに釣られたのか、なんなのか。

フワリと海月がやって来て、提灯の様にまた私達の周りを舞い始めた。

「うーーーん。」

海月の光る糸を避けながら、ゆっくりと回って行く。

徐々に魚達が寄って来たので、回る輪を大きくしたのだ。
ゆったりと泳ぐ大きな魚に、当たるといけないから。



  まわる  まわる   みんなで まわる

 真ん中の 私は  硬い 私だけど

    多分  解れる   

   どのくらい かかるか わかんないけど

 もしかして ずっと 硬いのかも 知れないんだけど


 でもな。

 でもね。

  きっと 「今の私」が  ここ に

    いるから   


 大丈夫  「意味が無かった」なんて ことは無いよ


   光は  繋がった んだよ


 「諦め」ちゃったけど

 「絶望」しちゃったけど


 でも。


 「諦めと絶望それ」が  

  
  いけないこと なんかじゃ 無いんだ

    駄目なこと なんかじゃ  無いんだ



 だって。  「今」「私」が 「ここ」に。


   いるのが その  証拠



 「証明」する 必要は 無いのだけれど


  「あなた」には 「証明」するよ



  
 「これまでの 全部」は。



    無駄なんか じゃ なかった って。





「今の 私 が ♪  」


「ん?あれ?キタ???」

みんなと舞いながら、いつの間にか謳って、いた。

くるくる、くるくると、回りながら踊る、その真ん中がチラリと視界に入った時。

キラキラと昇る、小さな光が。


硬い私その体」から、見えたんだ。



「え、なに、ちょっと、頑張って?!」

意味不明な応援をしながらも、近くをぐるぐると回る。

きっと手伝ってくれている、焔達と小さな魚はそのキラキラを「完璧な私」に分け与えている様で、なんだか嬉しいし。

強くなる桃色の光、むせる様な懐かしい、匂い。

「これでもか」と香りを送る、巨大な蓮を想像して笑っちゃうけど、涙も、出る。


だって。
だって

「完璧に絶望して 諦めて 死んだ私」に。

みんな、みんながこんなに「愛」を、贈ってくれるから。


「…………確かに。は、愛だわ…。」



もう、無いと。

何処にも無いと、存在しない、と。

思って死んだ、その「愛」を受けて「私」は変化、できるのだろうか。


いやしかし。

片鱗は、見え始めている。


キラキラと昇る光の粒は増え始めているし、心なしか色も軽く、なってきた。
それでも、まだ。

闇より暗い、色だけれど。


「でも、「闇より暗い」ってある意味凄くない?てか、「色が薄く」なって来たと言うより、なんだ、「透明っぽく」なって来た、のか近い…………な?」

泣いているのか、笑っているのか。

落ち込んでいるのか、楽しくなっているのか。


なんとも複雑な気分、しかし辺りは極楽浄土の海の中。
私達は「闇より暗い私」を真ん中に、未だ回転中だ。


 でも 多分

 もうちょっと で   飛ぶ

   パッと  変容 して

  飛ぶ   筈   なん だ  



なんとなく、そのタイミングが「もうすぐ」なのは分かって、そのままぐるぐると回っていた。

光の粒が出始めてから、私の身体も少し、軽くなった気がしていたし。

なんなら今は「海の青い私」だ。
疲れ知らず。

多分、これまでのやつは。
精神的に、疲れただけだから。


 大丈夫、待てるよ?


 ゆっくり  ゆっくり   解して

   変化して   


      変容  して。

  
 一緒に。


      行こう。




そうして桃色の光が、強まる中、まだまだ私達は。

夢の中の様に、回って いたのだ。























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