透明の「扉」を開けて

美黎

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9の扉 グレースクアッド

矛盾の楽園

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  幻想的な 深い 青緑の世界に

 差し込む光は 何処からきているのだろうか。


 大きく 真ん中へ 陣取るは

      あの 大きな 蓮  

  ここからでも充分に その美しい花弁の

  桃色の筋が  ひとつ ひとつ はっきりと
 
   薄く 発光しているのが わかる


  あの 種から

        謳で育った あれ 


 頭上からの 揺れる光と
 
 ほんのりと光る 大きな 桃色を中央に据えて。


そこには 見た事のない 水中の楽園が。

     創造 されて いたのだ。



「えっ、あれって海月クラゲ?」

糸の様な、美しい光の筋を靡かせながら、フワフワと舞う発光体。

プクプクと上る泡を出しているのは小さな魚達だ。
珊瑚の間を忙しく駆け回り、キラキラと鱗を煌めかせている。

その間をゆったりと縫ってゆく名前も分からぬ大きな魚。
見た事もない形をした巨大な魚だ。
いや、形だけ見れば。
サメの様な、ものに近い。

なにしろ深海の様子など、知らぬ私はキョロキョロと辺りを見回し、この幻想的な変化に追い付こうと、必死であった。


何故かと、言うと。

「見えた」と思った美しい鱗は、次の瞬間色を変え、キラリと体を反転させていたし。

遠くに見える、大きな魚なのか、龍なのか。

長く巨大な生き物を見ようと目を凝らしていると、目の前を「この世のものではない」色の、魚達が横切って行くし。

「捉えた」、と思った巨大な尻尾はワカメの様な揺れるなにかである。

そう、なにしろ「色が着いた」、この空間は。

真ん中の桃色から、煌めく小さな魚達、明るい極彩色の大きな魚、龍にも見える遠くの水の動き。

なにしろ「海の桃源郷」を現した様なこの変化に、暫し、呆然として。
しかし目だけは忙しく、動かしていたのである。


そうしてじっくり見ていくと、海の生き物達の中に私の蝶も舞っているのが見える。

吸い込まれた、蝶なのか。

それともこの場の「想い」なのか。

それは分からないけれど、その「色」は暗くはない。
寧ろ、明るい蝶が多い。

濃い色の蝶もいるけれど、大方優しい淡色である蝶は、この空間の「極楽度」を上げているのは間違い無い。


そして「これまでの私」の、数が徐々に減ってきているのも見て取れて、大分心も軽くなってきた。

まだ。

私の「心臓の奥そこ」に、余裕がある事は、分かっていたからだ。




「て、言うかさ………何、結局変幻自在な、空間な訳………?」


私の見立てでは、ここは「闇の中」の筈である。

姫様が塞いでいた「穴」でも、あるのだろうが「それ」は同じものなのだろう。


て言うか。
結局。

あの、「闇」って、なに。


あの「いけすかないやつ」だと、いうことは分かる。

「それ」が、ここ「海底墓地」のグレースクアッドで?

「埋葬」、担当??

なんなの?
どういうこと、なんだ ろう か??


あの、全体礼拝の時。
吸い込まれた、靄、それもきっと人々の「想い」「祈り」の筈である。

「あ!」

うん?

「想い 祈りを吸い込む」、それを考えてパッと浮かんだのは星の祭祀のアレだ。

あれは。

確かに、「黒い靄」を吸い上げて、いたんだ。


 人間ひと      の?

 「暗い」  「黒い」「恐怖」 「畏れ」

 そんな もの を?


 集めて  る? の かな


なんとなく、思う。

だから、多分大きく外れてはいないのだろう。

小さな私海の観音」になっている、私が思うことは大概「正解」の筈なのだ。
今の、私に、とっては。


「ふむ?して?………「海底墓地」の、番人が「闇」なのは、どうして??」

そもそも。

長は、ここへ他の人も埋葬している筈なのだ。
後で話を聞けるのかは、分からないけど。

もしかしたら、「私達」ならば他の人の「場所」にも干渉できるのかも、知れない。


「あり得る。」

腕組みをして、海の生き物達を眺める。

それぞれが美しく揺らぎ、自由に泳ぐ様は見ていてとても、気持ちがいい。

小さな生き物達の速い動き、ゆったりと泳ぐ大きな魚、揺らぎ流れる海月クラゲ達。

全く動かないが、美しい枝を悠々と伸ばす珊瑚、私の触手と同じ、イソギンチャク達。

その、速度の違いと動き、色、どれもが自由で、自然な様子を眺めていると。

「まあ。…………できる、よね。」

そう、思えて一人頷いていた。



揺ら揺ら揺れる、水の動き、みんなと一緒に。

  私 も  揺らごう   か


そんな事を考えつつ、腕組みのまま水に寄り掛かって揺れていた。

 ウォーターベッドって

 こんな 感じ   かな


呑気な事を考えつつ、「これまでの私」がどのくらい馴染んだのか、周りと「なかみ」を確認してみる。

見える範囲に、もう横たわる私は存在してはいない。
しかし、遠くに感じる気配、まだまだ「終わり」は来なそうである。

「心臓の奥」にまだ余裕がある事を確認すると、再び水に凭れながら「闇」の事を考え始めた。

私は。
これが終わったら、「あいつ」と対峙しなければ、ならないからだ。


て、言うかさ………

 「あれ」も。

 考えて みれば   可哀想な

    やつ  なのかも  ね  ?



姫様が「闇の神」と言っている「あれ」も、所謂「純度の高い 想い」である事に、間違いは無いだろう。

それが、だから。

「神」と、言われているんだ。

でも、それはきっと私達人間の「想い」や「祈り」、その中の「暗いもの」を集めたものだという事も、解る。

あれだけ黒いのだ。

かなり純度の高い、「想い」の、筈。


 だって あの 「いろ」

 見たこと  ある   し


 私には。  

  随分 馴染んだ 「いろ」でも

  あるんだ。


「どの私」でも、必ず見た事がある、その色。

ある意味それは、人間ならば誰しもが持つ、色なのだとも思う。

それは。

沢山の「生」を 見てきたから わかる し。


決して 人間ひとから 取り去れない

  忘れたくとも 忘れることが できない

  ずっと

  ずっと

  持ち続けている いろ でも あるのだ。



「だから。「あれ」も、あながち「悪」とも、言えない………。」

そこまで口に出して、ふと思う。

「なんで」。

あれ」は ここで こんな事をしているんだろうか。


うーん?

「墓地の番人」なら、闇っぽいから??
いや、そんなアホな理由じゃないかな…………。


 あ  でも  

   「私達人間」が  


     「思ってる」から  かも  ?



「死は不吉」
「穢れている」
「不浄のもの」

少なからず、そんなイメージがあるだろう「死」。

ふむ?
成る程。

だから?

 「闇」が 自然と  集まった の かな?

 うーーん?
 それだけ?

 でも、単純な理由で駄目な訳でも無いしな…


くるくると視線を彷徨わせながら、半分ボーッと考えていた。

多分、頭の中でぐるぐるするよりは。

この、美しい景色を見ている方が閃きが降りて来そうだったから。



目の前をくるくると回る魚達、緩りと靡く、大きな桃色。

その、私と桃色の間を黒に近い、紺色の魚が横切った。

 あれ ?


 「人間ひとの 暗い部分だけを 集めた闇」

 「長しか 入れない」


うん?
待てよ?

 確か  「あの時」「ヴィルあの人」も

 そんな  こと 

  言ってなかった?


白い三角屋根の部屋、白い私と重なるディディエライト。

沁み込んできた、「色」は。
未だ強く、私の「なか」に 残っている。


 「絶望」とは 言っていなかったかも 知れないけど

 でも 「あの時」。

 二人が 「分かち合って」 知った「色」は。


 「 何色 」だった?

 「それ」は。


 沢山の いろ が   あったけど


   その 殆ど が。


  
   「闇色」では   なかった か。



「 ああ か。ふぅん。」

何故だか、放り投げる様に出た言葉。


  「知っていたんだ」

  「やっぱり」

  「私達 は」

  「役目」


勿論、まじないが強い所為も、あっただろう。

しかし。

私達は。

「知っていた」んだ。
「持っていた」。

既に、その「」を。


パチパチと嵌るピース、「だから」という納得感。

多分、長がどんな「生」を送ってきたのか、過去は分からないけれど。

「同じ様なもの」なのでは、ないか。
そんな予測はできる。

それにきっと。


 私達 の まじないが 「強い」のは

       「偶然」じゃない


青の家に突然、産まれたとされる「金色を持つ」、彼。

しかし「色」は、何色にせよ。

きっと強さの要因は「それ」じゃ、ないんだ。

多分。

 「持っている 過去もの

 「抱えている 色」 

 「持つ色の 多さ 」 「質」「深み」

きっとそんな、もので。


多分だろう、ディディエライトと長。
色にしても、あの二人の結び付きを見ても、は分かる。

その「似ているもの」は、「色」だけではなくて。


 「持っている もの」「質」が。

似ていたんだろう。




  なった  んだ………



  「繋がり」「交わり」「光」「縁」


「運命」、なんて。
言いたく、ないけど。


「これは  ちょっと………。」


暫く無言で、海の楽園を眺める。

丁度いい、癒し空間だ。

私の。
正真正銘、私が創った、私だけの、癒し空間。

 うん。
 綺麗。

 綺麗よ あなた達  

  とっても 綺麗…………




現実逃避とは、素晴らしいものである。

暫く楽園を、眺めていたら私の前にポンと「闇」が降ってきた。

いや、思い出した、だけだけど。


「えっ、だから?「怖くない」から、私達はここへ入れるってこと?………でも、それはあるな………?」

確かに。
思い返せば、どんなにまじないが強くとも。

デヴァイの人間は、誰もここへは入れない様な気がする。

 いや しかし?
 逆に 言えば  レシフェなんかは
 入れそう だけど  ??


しかしあの、旧い神殿で。
初めは躊躇していた姿が思い出されて、少し可笑しくなる。

まあ、だからある意味。
慣れれば、入れるかもだけど。


しかし現実的に考えて、今ここへ入れるのは私達二人だけなのだろう。

「今」は。
シンが、代わりをやってくれてるのかも、知れないけど。


「しかし、なにしろ………そろそろ、終わりませんかね………。」

かなり、蝶は舞っていて、そしてかなりの数、私に吸収された筈だ。

元々吸い込まれた子達も、私の「なか」へ戻ったのが感覚で分かる。


うん?
あと、どのくらいなのかな………。

そうして。

座って海底の楽園を楽しんでいた私は、「さあどうかな」と、立ち上がり遠くまで見渡してみる。

相変わらず、遠くは見えないけれど。

殆ど回収できたであろう感覚、しかし「なにか」が一つ、残っているのが分かる。


じゃあ、取りに行きましょうかね………。

何故一つ。
残っているのか、気になったのも、ある。

それに、「最後の仕事」だということが解っていた私は。

胸に手を当て、「うん。」と「心臓の奥」を確認して。


とりあえず奥へと、歩き始めたので、ある。

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