透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

いざ。

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ハンカチは、いつもの場所。
ティッシュは、無い。

臙脂の袋はいつもの中身、私のポケットに入っているし。
新入りの水色袋も、一緒だ。
心細くなったら開けようと思っている。

シンプルな水色のワンピースに、何故だか気になってローブを出してみた。

ハーシェルの灰色と、迷ったけれど、そうあの「金ローブ」である。


「うーーん。オッケー、チカラを通したからなんか………ピカピカに、見えなくも、ないな………?」

「素敵よ。また、それが見られるなんてね。光栄だわ。」

「えっ?見たことあるの??」

「そりゃ、あるわよ。鏡づてだけど。あの頃は、「これから」って感じだったしね………。」

もし、青の鏡に目があったならばきっと「遠い目」をしていただろう、その話。

これから「本番」に取り組む私は詳細を聞く気にはなれなかったが、きっと「それ」はここが良かった頃の話なのだろう。

そんな気がして、少し上を向いた。

きっと、ここだって。
「これから」を、思える時が、あったのだと。
それが知れて、嬉しかったからだ。


「ありがと!また、聞かせて?とりあえず、行って来るね。」

「はいはい、気を付けてね。」
「うん。」

何処に行くのか、言ってはいないが感付いているのだろうか。
そんな鏡の返事に手を振ると、緑の扉を出る。

待ち合わせは、青のホールだ。

とは言っても、同行者はいない。

金色と、極彩色、二人をホールで腕輪に戻して。
ウイントフークとフォーレストに送ってもらうのだ。

「多分、屋敷までは送れるだろう。」

本部長が、そう言っていたからだ。


「さて。」

くるりとウエッジウッドブルーの部屋を見回し、「何かないか」確認して部屋を出る。

「何も」、忘れ物も、心残りも、無いのだけれど。

私は。
この光景を留めて、「ここ」へ戻って来る。

そんな、宣言の様な儀式の様な。
そんな感じである。

そうして「行ってらっしゃい」という、調度品達の声を聴きながらも青のホールへ向かった。



「ふぅん?」

意味深なセリフで、私をじっと確認した千里はそれ以上何も言わずに「フッ」と消えた。

「え」

思わず焦ったが、すぐに気が付いて腕輪を見る。

「う、わぁ………。」

そう、それは。

実は、初めて見る千里の石の姿なのだ。


えっ なんだろう この石

深い

しかし。

「何でも知っていそう」な、あの「千里眼」、極彩色の毛並みと、どっしりとした人型の千里。

そのどれもがしっくりくる、複雑な色合いの石は納得の姿でも、ある。

一つだけ内包物でいっぱいのその石は、腕輪に収まり居心地は良さそうだ。
でも、やっぱり。
みんなの様子からしても、千里が一番永く、在って。

なんとなくだけど、纏め役なのは分かる気がする。

「久しぶりですな」
「ああ、また暫くよろしくな。」

宙とそんな会話をしている腕輪から目を離し、金色の瞳を確認した。

久しぶりの「全身私の服」姿の金色は、なんだか神々しく見える。

色の、所為かなんなのか。

少し目を細めた私の頭をポンとすると、彼もそのまま腕輪に収まった。


「…………なんか…。」

「どれ?」
「あっ、引っ張らないで下さいよ。」

相変わらずのウイントフークに腕を取られ、文句を言ったが勿論聞いちゃいない。

しかし、私も全員が腕輪に揃っているのを見るのは初めてなのだ。

「狡い。」

そうしてヤイヤイ言いながらも、「綺麗」と腕輪を確認していた、のだけど。


…………え
いや でも  「今」じゃない

ふと、降ってきた疑問、この腕輪に嵌る石の数はあと、一つである。

そう、次の扉「グレースクアッド」にその石がある、予定である。

しかし。

私の記憶が、確かならば。


いやいやいや、いくら私の記憶力がアレだからって………。

いや、でも、だよね???

扉、って。

10、ある、よね…………???


石の数は九つ。
扉は十。
その、最後の扉は。

なんの 扉 ?


「いや。これは後の問題よ。」

「どうした?行くぞ?」

「はーい。行きましょ、行きましょ。」

ある意味その「疑惑」の所為で、とっとと青のホールを出れた私。
少しは寂しくなるかと、思ったけれど。

そう、「疑惑」でも「問題」でも無い、その「事実」に、少しだけ蓋をしておく事にしたのである。

うん。
今、それ正解。


そうして私達は、順調に銀の扉を潜ったので、ある。






「じゃあな。」

「はい。行ってきます。」  

チラチラと振り返る、緑の瞳が可愛い。
フワフワの残る温もりを確認すべく、手を握りながら心配させない様、微笑んでおく。

案の定、あっさりとそう言った本部長とフォーレストを見送って、くるりと振り返った。

「こっちだ。」

「はい。」

顔を合わせてから、何故だかじっと私を見ていたアリススプリングス、嫌な感じはしないけれど。

ん?
金ローブこれの所為かも??

歩く度にキラリと光る、その生地を眺めながらも門を潜りマホガニー色の屋敷へ入って行く。

そうして。

姦しい調度品達の声を聴きながら、屋敷の奥へずっと、入って行った。


うーーん?
これは。

まじない、だよね…………。


初めて来た時から「生き物」の様に感じていたこの屋敷は、やはりまじないなのだろう。

どこまでも奥へ歩いて行く、金茶の髪をチラチラ見ながらも私の目は忙しく動いていた。
勿論、周りの芸術品を見る為である。

そう、凡そこの空間の「城」であろう、この屋敷には。
「美術品」だろうと思える、ありとあらゆる物が所狭しと置いてあるからだ。


「やっと」「お帰りなさいませ」
「ああ」「やはり」 「美しい」
「戻った」 「これでまた 」

なんだか怪しげな言葉が囁かれる中、概ね調度品達は私を歓迎している様である。

もし、早目に帰って来れたらじっくり見せて貰おうか、なんて。
そんな呑気な事を考え始めた私に「ここだ」という声が聞こえてきた。


あ、そうか。

アリススプリングスが示しているのは、濃紺の扉。
しかしこれは。

先日、中から見た、あの扉で間違い無いだろう。

私の「なかみ」も、そう言っている。

と、いう事は。


「カチリ」と扉を開けたアリススプリングスは私に先に入る様、手で示した。

「失礼します。」

頷いて、暗い部屋の中へ足を踏み入れる。

すると、よく見えないがあの奥の椅子にシンが座っているのが、分かった。


背後で閉じる扉、アリススプリングスが隣に立ったのが分かる。
「ここから どう、行くんだろう?」そんな事を考えていると、隣の彼が口を開いた。

「彼女です。ご存知だと、思いますが。では、よろしくお願いします。」

「了承した。」

短い会話、そのまま部屋を出て行くアリススプリングス。

いつも「謁見」というものでは、こうなのだろうか。

そう思いつつも後ろ姿を見送り、くるりと振り返った。


「えっ?何?大丈夫、だよね??」

いつの間にかすぐ側で、私を観察していたシンに驚く。

しげしげと私を見ている彼は、「そうか」と、だけ言いそのまま真っ直ぐ、私を見た。

「では。」

「…うん。?」


青のホールで私を見た紫の瞳と似た、色。
懐かしい「なにか」を確かめる様に見る、その視線が気にならなかった訳じゃ、ない。

しかし、私の目の前に現れたのは重いビロードのカーテンの奥の本棚、その隙間から漏れる、光。

きっと隠し扉の様になっている、それは。

長の処あそこへ繋がる、入り口なのだろう。


そこを通れば 姿は見れるのか
その奥に グレースクアッドはあるのか
海底と 繋がってるの?
結局 息 できるかな

シンは。
私が「何をしに行くのか」知ってるのかな


訊きたいことは、沢山あったけど。

眩い光、現れた光の入り口の美しさに圧倒されて、私は終始無言だった。

何故だかここは、「暗い」と勝手に思っていたし。
だから、意外だったのかも知れない。

でも。

あの、夢なのか、なんなのか。

あの中では酷く幻想的だった、この空間。

青白い木立ち、金色の水流、その中に沈む光の筋が流れる、石。

それを思い出しながら黒い彼の背後をついて行く。

しかし、その光景が現れる事は、無く。
そのままずっと、光の道が続いていた。





 うん?

 あれ?


 い や ???


暫く、光の道を歩いていた筈だ。

筈だった、のだけど。


「えっ?」

「準備は、できたか?」

「あ」


真っ白な空間、辺りに気を取られていた私が視線を戻すと、彼は白かった。

そう、シンラに。
戻って、いたのだ。


「えっ?うん?…………でも、まあ、そうなのか………。」

どうやって、次の扉へ移動するのか。

何故「長以外」は、入れないのか。


なんとなく、自分の中で辻褄が合った所で顔を上げる。

 「「美しいな」」

「うん、そう、だね?え?でも今は駄目だよ?行って、帰って、きて…………うん?え?」

姫様を、見付けたら?

石が、全部、集まったら ??


どう、なるんだろう か 



正面の、赤い瞳は金を煌かせ今日も綺麗だ。

一瞬、過ぎった不安、しかしその美しさは私の「想い」を真っ直ぐに肯定していて。

「私の 思うように」

そう、思っているのが伝わってくる。


 いいんだ 好きに して

 思う 様に  行って 帰ってくれば  いい



行って、どうなるのかも、分からない。

行ったら、なんなら「終わり」なのかも知れない。

でも。

「うん。」


「私が」終わらせたくないし、まだ私にはやる事がある。

「思う様に」すれば、いいんだ。
今ここで、ごちゃごちゃ考えてたって、しょうがないんだ。

そう、思ってはっきりと頷くと。

フワリと、それぞれの美しい色に包まれた二人が出てきた。


「行くぞ?」

「うん。」

チラリとシンラに視線を投げ、そう言った極彩色に対して、金色は無言である。

「行って来るね。また。」

「ああ。」

そうして少し、じっと赤金の瞳を見つめていると手を引かれ少しよろめいた。


無言のまま、私を支え小さく白い彼に向かって頷く金色。

彼等の間が、今どうなっているのか私に知る由は無いのだけれど。
きっとまた、変化するのだろう。

私が、この扉を潜れば変化する様に。


…………うん?
潜るだけ、じゃないんだけどね…。


フワリと忍び寄る想像に首を振りつつ、白い部屋をぐるりと見渡す。

鮮やかな人が、待っているのは9の扉の、前だ。

ぐっと力の入った、手を握り返して金の瞳を確認した。


「美しいな。」

「行くか。」

「うん。」


そう、多分。

次の世界も。

どんな、世界もだったけど。

きっと、「美しい」んだ。


カタチは、どうあれ。


そう、信じて、開ければ。


「ニヤリ」といつもの表情を浮かべた千里が、扉に手を掛けている。

「いや、ちょっと待って。」

なんだか悪戯なこの人に開けられるのは、いただけない。

そうして一歩進んだ私は豪華なドアノッカーに、手を掛けると。

一瞬だけ、振り返って白の中の、赤、金色、極彩色を目に映して。


グッと、その重い扉を開いたのだ。




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