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8の扉 デヴァイ
見えたのは
しおりを挟む「しっかし…………解決したと思ったら次から次へと、どんどん難題が降ってくるな…………。」
私が、ブツクサ言いながら歩いているのは。
青の縞が鮮やかな、うちの青い廊下である。
あの後、青のホールであのまま、タップリと金色を注ぎ込まれた私は、辺りに満ちてゆくスピリット達を感じながらも、そのキラキラに抗えずグッタリとしていた。
そもそも。
あの、「源」から帰って来てから。
そう、減ってはいない、私の「なかみ」。
しかし姫様が現れて「あんなこと」を言ったもんだから。
動揺した分、減った隙間にあの青をも含んだ、とびきりのチカラが。
更に重ねて、チャージされたものだから。
「うん、楽園の様になっていたね…………。」
色とりどりの鳥達、私の蝶、小動物も増え始めた青のホールはずっと浸っていたい気分だったけど。
やはり絶妙なタイミングで鳴った、私のお腹に苦笑した金色に食堂へ連れて行かれた。
そうして。
今、心身共に満ちた状態で、青の廊下をデチデチと歩いているのである。
「なんか、私太ったかも…………。」
身体が重い訳ではないが、パンパンな、気はする。
とりあえずはウエッジウッドブルーの扉を開け、ベッドへ一直線だ。
「あれ?これが、いけないのか???」
寝転んだ後、そう思ったがもう起き上がる気はない。
そのままボーっと、星図を眺めつつ私の頭はさっきの「問題」へスライドしていた。
そう、あの。
なんか。
「解放」する、やつである。
え?
なにを??
「解き放つ」の???
「不老不死」、取りに行って?
セフィラを探すんじゃ、ないの??
え?
そう、言えば…………。
「探し物」と、言えば。
すっかりあの話題で忘れ去っていたけれど、私が探しているものは、多い。
まだ姫様も、見つけていないし。
次の扉の、石もある筈だ。
「えっ。」
多くない??
海底?海なんでしょ??
そんなん、見つかるの????????
「 あーーーー 」
溜息なのか、呟きなのか、はたまた単なる「音」なのか。
とりあえずは「なか」に出てきた靄を口から発し、そのままボーっと上を見て、いた。
「チカッ」
「えっ?!…………ちょっと、待って。多い。今、無理。」
嘘でしょ…………。
そう、光ったのは。
あの時、事件?が起きた「時の鉱山」へのお招きである。
いやいや、早いよ。
多い。
ちょっと、ほら、休憩、しようよ…………。
しかし。
ゴロリ、ゴロリと転がってみても。
消える事のない、その点滅。
星なのか、なんなのか。
兎に角、目につく様にチカチカと光る、それに根負けしたのは私であった。
「分かりましたよ………行けば、いいんでしょ。うん。」
別に、嫌な訳じゃ、ない。
だがしかし。
頭と、「なかみ」が。
パンパン、なだけなのである。
「まあ、「満ちて」いるのだけは、確かだしね………。」
そう呟いて、諦めムクリと起き上がった。
「行くのかい?」
「あ、そうなの。ありがとう。」
きっと隅で寝ていたろう、フォーレストが付き合ってくれるらしい。
あの時と同じ面子に、チラリと不安が過ぎらない訳じゃ、なかったけれど。
そう、もう私に「働く頭」は無かったのである。
「うーーん、でもやっぱり「私が 変わるために 行く」ってのは、いいね。なんか、わかる。」
「開け ごま」と、言ってから。
暫く薄暗い散歩を楽しんでいた私の頭と「なかみ」は、大分落ち着いてきていた。
消化される様に自分に馴染んだ、その「源」から受けたチカラと、青金の星屑。
それをホロホロと振り撒きながら、ご機嫌なフォーレストを見てゆっくりと進んでいる所為かも、知れないけど。
今日も変わらず、この「時の洞窟」は薄暗く少し冷たい。
しかし、何かに包まれている様な岩肌の近さと少し湿った空気、時折吹いてくる小さな風。
それを頬に感じると、私の住んでいた世界の事を思い出す。
「ふーん、梅雨時の庭ってこんな感じだよね…こっちは雨が殆ど降らないからなぁ………。」
季節があること、その時々の風の匂い、雨の湿った、しかし少し閉じられた様な世界の感覚。
晴れの日はどこまでも飛んで行けそうな青が広がり、変化する雲を見ているだけでも楽しいし。
雪は、降らないけれど。
朝起きてピンと張る空気が頬に染みる、あの冬の感覚も好きだ。
冬が終わると庭は色とりどりのおばあちゃんが好きだった花で埋め尽くされるし。
知っているもの
見てきたもの
自分の なか に あるもの
沢山の 色 匂い 感触 自然の音
「ああ、なんかクロモジが飲みたくなってきたな………。」
瑞々しく蘇る、景色を鮮やかに思い浮かべていたら、少々涎が出てきてしまった。
いかん。
「クロモジとは?」
「うーん、木なんだけど。おばあちゃんがお茶にしてくれるんだよ。ちょっと甘くて、美味しいの。しかも、ピンクだし。」
「ほう。嗅いでみたいものだ。」
「そうだね…………。」
私が。
もし、家に帰る時が来たらこの子達はどうなるのだろうか。
チラリと過ぎる、危険な想像、自分の思考に蓋をして「今じゃない」と前を見る。
つらつらと話しながら歩いて来たが。
誰に会うこともないし。
ずっと静かな道が続いていたので、少し心配になってきた。
「えっ、これなんもない、とかあり得るのかな??」
隣の羊は無言である。
怪しい…………。
しかし、何か明るくなってきた気もして、とりあえずは一本道をそのまま進む。
いつもは、何度か分かれ道があるのに今日はそれも、無い。
いよいよもって、怪しいと思いながらも。
何故だか「呼ばれている」事だけは、知っていたのでそのまま進む事にした。
光が、段々とはっきりとしてきたからだ。
て、言うかさ………
多分、あれ 外 だよ ね ???
見えてきた光は徐々に大きくなり、段々とハッキリしてきた丸い出口。
出口、なのか、なんなのか。
とりあえずこの洞窟の終わりがそこにあるのは、分かる。
大人が一人、楽に通れそうな丸い縁、その向こうから風が運んでくるのは懐かしい匂いだ。
あ これ 知ってる
「匂い」が記憶を呼び覚ますとは。
こういうことを、言うのだろうか。
少しだけ見え始めた緑、しかしその全貌が目に映る前に私はそこが何処なのかは、解っていた。
吹き抜ける 風
寝転がり 寛ぐ 自分
心地の良い 白
時折 流れてくる 銀糸の 旋律
流れる 水の匂い
風が 囁く 微かな声と
瑞々しい 空気
息を 吸うと
全てを含んでいる ものが
身体に 入ってくる その心地良さ
確かめる様に、大きく息を吸って自分の「なか」にそれを満たす。
ああ やっぱり。
そう なんだ
でも? どうして?
段々とゆっくりになっていた足、しかしその岩肌の終わりに着いた私達は無言でその景色を眺めていた。
「 多分 ここが 始まり 」
私の「なかみ」は、そう感じている。
あの、光の様な、石の様な 神殿で。
「なに」とも無く、寝転んでいた「私」が。
「始まり」の 私 だと。
そう、言っているのだ。
しかしそれは、酷く納得できる。
今のところ、私の「なか」にそれより前だと思われる「私」は無いからだ。
でも。
「それは私達が言う「時系列」に並べると、そうだと言うだけであって、実際には「どれ」が最初なのかは分かんないよね………でも、「なかみ」が言ってるなら、そう、なのか………。」
あとは。
もし、可能性があるとしたら「もっと別の私」を私がまだ見ていない可能性だろう。
「ふむ。まだ、あるのかなぁ…………まあ、ある、か。」
なんとなくだけど。
「ある」、気はする。
だから、多分。
「ある」んだろう。
何処かに。
また夢に見るのかも知れない。
それか、何処か、何かの拍子に、思い出すのか。
「え」
ヤバい。
閃いて、しまった。
「嘘でしょ…………いやいや、しかし。でも。いやいや…………。」
しかし。
経験上、知っているけれど。
これは。
「予感」というか「直感」というか。
しかし自分の中では「確信」でも、あるもの。
「えーーーーーー。そういう、展開?」
その、自分の想像から降りて来たものに少しの抵抗を覚え、しかし抗うのも違うとしっかりと受け止める。
そう、だって。
「怖い」と「嫌だ」と、私の「経験」は言うけれど、それは。
抗いようのない 「私自身」 だからだ。
上から「ポン」と降りて来たのは「解き放つのは わたし」という、「こたえ」で。
「それ」は。
再び、私が「色んな色」の私を受け止めることを意味する。
一瞬、怯んだ私を咎める者は誰もいないけれど。
癒しを求めて、つい緑の瞳を確認した。
「 心配ない」
「…………うん。ありがと。」
全てを含む瞳で、上の子がそう言って。
頷いて、フワフワを撫でた。
…………えーーーーー。
でも。
ここに来た、理由って。
「これ」 ?
まあ、そうだよね…………。
誰が、何がどうして、こうして導かれこうなるのか、それは分からないけど。
「私は 私が変わる為に 行く」
この言葉がポンと出てくる。
「えっ、あっ?そうか。」
だから。 変わる んだ。
「うん、なら、仕方が無い、のか…………いや、嫌じゃないのよ、嫌な訳ない、だって「それ」も私なんだから…………でも、できれば軽めのやつでお願いしたい………。」
再び懐かしい匂いの、風が吹く。
目の前にある、変わらぬ景色、どこまでも青い青と、緑の生命力。
「いのち」の、深み。
ただ目に映るのは、青い空と緑の山々、起伏の中に時折ある水と風に靡く葉に、揺れる光だ。
この、単純な様でいて、複雑に厚い、繊細で濃厚な「生命」「生きる」「自然」という現象。
そう、始まりはきっと「現実」ではなく「現象」の様な、ことで。
「生きる」とは、こうも複雑ではなかった筈なのだ。
私達は。
何が。
どう、して。
どこに なに を 繋いでいるのだろうか
この旅の始めに思った「何故」という問いの答えを、私はまだ見付けられていない。
「私の 本当のこと」
そう、それを見付ける為には。
きっと、必要な事なんだろう。
「うん、私は。綺麗な色だけ、欲しい訳じゃ、ないし。全ての、私を。回収すれば。…………見つかる、かなぁ…………。」
なにしろ兎に角。
何故か、「海底墓地」で「解放」するものはどうやら「私自身」だった様である。
「なんでだろ…………でも、考えて分かるアレじゃないのは、わかる。」
「さあ、そろそろ戻ろう」
「あ、うん。そうだね…………。」
フワフワを撫でていた手を止め、再びの景色を目に焼き付ける。
もう、きっと何処にいても思い出せる、この色は。
やはりきっと、私によく馴染んだ、色なのだろう。
「よし、じゃあ、また。」
そうして、その懐かしい香りに手を振ると。
くるりと向き直って、再び薄暗い岩肌へ戻ったのである。
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