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8の扉 デヴァイ
成長
しおりを挟むいつもの少し狭い、小部屋の中。
私達三人は、何故か膝を突き合わせて座っていた。
イストリアの隣に座りたがらない、ウイントフークと椅子取りゲームの様にぐるぐるしていたら。
何故だか最終的に「向かい合わせの親子に、娘」の様な構図になっていたのだ。
「フフフ」
結局、「私がどっちに座るか問題」の様になっていた攻防戦は「三者面談ならばお母さんの隣」という私の謎の基準によって決着が付いた。
「さて。」
楽しそうに口を開いたイストリアに対して、眼鏡の奥は微妙である。
ま、そんなの。
私の知ったこっちゃ、無いですけどね………。
「子供達の事が心配で、来たのだろう?あの子達は元気にやっているよ。とりあえず、畑が元に戻っておかしな雰囲気は薄れたとは思う。あの悪い噂も、全く無くなった訳では無いだろうが。なにしろ、星は降ったし、その効果が凄かったからね………。みんな緑の生命力に。驚いて、いるよ。」
「えっ?具体的に、どうなったんですか??」
結局、私はザックリとした結果しか聞いていない。
ある意味「大丈夫」としか、言われていないのだ。
勿論、あの「天罰」と思っている事も気になっていたし。
実際「どう戻った」のか。
それは「戻った」のか、「変化した」のか。
それが聞きたいと、思ったのだ。
そんな私の意図を見透かしているだろう、薄茶の瞳が緩く細まって。
待っていた答えを、齎してくれる。
「うん、多分グロッシュラーの人間は、大概「掴んだ」のじゃ、ないかね?どうだった?」
話を振られたウイントフークは、少し眼鏡を上げチロリと私を見る。
「ガラスは一人ひとつにしたからな。それでも、ほぼ行き渡った、と見ていいだろう。子供達で掴めなかったやつは、貰っていたからな。」
「良かった。」
きっとグラーツやハリコフが良い様にしてくれたのだろう。
大きい子が、小さい子達にガラスをきちんと配る様子が想像出来て、つい笑みが出る。
しかし、イストリアが話し始めたのは私の意図した「自分の光」の、こと。
それがまた、少し問題になりそうな話だ。
「やはりね、子供達のは時折「光る」んだよ。みんな、ポケットに持ち歩いている子が多い。子供だからね。部屋に置いておく、というよりは持っていたいんだろう。畑にいる時、芽が出たり、大きく陽が差したりするとあの子達が喜ぶからね。それに反応して、光るんだ。今のところ、大人で光っているものは見た事が無いから、内緒にする様言っては、いるが。どうだろうな。」
「部屋に置いてこれないのか?」
「一応、言ってはいるが全員が素直に聞く訳じゃない。あの子達に、悪気は無いんだよ。みんなが、少しの希望に、光に。触れていたいのは当たり前だ。」
「希望」「光」
その言葉に、ジンとくる。
確かにあの子達には、何にもなくて。
でも、やっとここまで、やってきたんだ。
その「カケラ」を奪う事は誰にもできないし、させやしない。
でも。
大人も。
光る様に………。
どう、すれば。
いいだろうか。
「うーーーん。」
ぐるぐるし始めた私を見て、珍しく本部長がこんな事を言い出した。
「教えたらどうだ。「どうすれば 光る」のか。」
「まあ、私もそう思うよ。争いになっては本末転倒だからね。まあ、多分なるとしてもデヴァイの人間とだろうけど。」
「えっ。」
「いやいや、そう物騒な事にはならないよ。しかしね、大分子供達に馴染んでいるネイアはきっと大丈夫なんだ。なにかあるとすれば、そっちかな、という位で。そう心配する事はない。その辺りは考えよう。」
「お願いします。」
そもそもみんなの「勇気のカケラ」に、なる筈のものが。
争いの元になるなんて、それこそ本末転倒だ。
どうして、そう、すぐに。
「奪う」という、思考になるのかそれが理解できない。
それが、「当たり前」になる、世界。
やはり、そうすぐには変わらないのだろうけど。
「うーーーーん。」
「ハハッ、そう唸る事はないよ。大丈夫だ。それに畑が艶めいてきて。みんな初めての事に、浮き足立っているよ。もっと、ワクワクできれば良いんだが、なんだ、慣れていないからか反応が面白くてな………。」
クスクスと笑い出したイストリアに、心が軽くなる。
いかん。
私も。
もしかして、すぐに暗い方向に考えてしまうクセが、ついたのかも知れない。
なにしろ姿勢を正して、その「艶めく畑」の話を聞くことにした。
絶対に、楽しい話である事は「艶めく」という言葉から容易に予想できるから。
「なしにろね、「生命力」「瑞々しさ」「成長」、そんなものを間近で見られて、関われる。それ程、人間にとって良いものは、無いよ。君なら解るだろうけど。」
「そうですね。なんだろう、ただ、ある、とか生えてる、とかじゃなくて。ちゃんと空からの恵みを受けて、生き生きと成長して。…そう、「成長」って言うのもポイントですよね。なんだろう、「変化」?に関わること??「変化」が目に見えることの、大切さ?………うん?またこんがらがってきたな………」
「………言いたい事は、解るよ。」
再びクスクスと笑い出した、揺れる水色髪を見つつ視線を流す。
少し柔らかい色を浮かべた本部長と目が合って、ニヤリとしてしまった。
いかん。
揶揄ったならば、また鉄仮面になるに決まっている。
すぐに目は逸らしたけれど、やはり無表情に戻っているウイントフークに、逆に可笑しくなっているとイストリアが帰ってきた。
「土に触れる、というのは大切だ。自分達の口にするもの、体を作るものすら何処から来ているのか曖昧ならば。その生すらも、曖昧になるだろうからね。「実感」というのは、何より大切なものでも、ある。特に、この「宙に浮いている」島ではね。」
「………確かに。」
ふと、ラピスで朝、化粧水を染み込ませている時の事を思い出した。
一日の始まりに、自分をしっかり意識して、大地に真っ直ぐ、立つこと。
「ここにいる」事を、知って、そしてしっかりと繋がること。
多分、それって。
「自分」と「場所」を接続する様な、ことで。
「大地」なのか「地球」なのか、ここだと「島そのもの」なのかも知れない。
それぞれ、その場所で違うのだろうけど。
実際、多分、「場所」とかは問題じゃなくて。
「多分、「繋がる」こと、ですよね………ポイントは…。」
「そうだろうね。「何処に」とか「何に」は、そう大きな事ではない。だって、「全ては繋がっている」、のだろうからね?」
「はい。」
多分、薄茶の瞳に浮かんでいるのは、あの時話した「源」の色で。
何処かも、何かも分からない「源」はしかし、いつでもどこでも、「繋がる」「繋がろう」と思えば。
きっと、繋がれるものなのだ。
難しいことなんて、きっと無い。
だって それは 「みんな」が
きっと 「全員」「全ての存在」が
知る ものの ことだろうから。
「うーーーん、そうするとやはり「気付く」か「気付かない」かの、違い?いや、「見つけられる」かどうか??なのか??」
「まあ、とりあえずそれは。置いておけ。その、箱舟の話だが………」
「ああ、それはしかしね………」
親子の会話が隣で繰り広げられている。
しかし、何故だか私の頭の中は。
「源」という、なんだか暖かさを感じる言葉、その赤から橙の色に包まれて。
ぐるぐる、ぐるりと 円を描いていたので ある。
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