透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

少しの変化

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「お嬢と前に話した時、あの位だったろう?だからほぼ、完成はしてるんだ。見た目には分からないがな。」

「そう、ですよね…………。」

以前、シュレジエンに「二年程度は短縮された」と、言われてから。

どの位経ったか、はっきりとは覚えていないけれど。


「うーーーーーーむ。」

「なにしろとりあえず、見ながら唸っててもどうにもならんだろう。こっちへ来い。」

「はぁい?」

ぐるりと箱舟を周って、後方へ向かうシュレジエン。
何処へ行くのだろうか。

久しぶりに、幻の魚でも見せてくれるのかな??


大きな船の横を通り、久しぶりに後ろ側へ行く。

右手に見えてきたのはいつかの小屋、そこから視線を滑らせるとすぐに橙の光が目に飛び込んできた。
少し雲が、薄くなったのか。

天窓から差し込む光が、太い光の川となって橙の水槽に降り注いでいたからだ。

「わ、あ………綺麗。」

「フフン、凄いぞ?」

「え?何がですか?」

キラリ、キラリと光に反射する水面、差し込む光線は変わらず水をかき混ぜている様に橙の中を揺れている。

時折「キラリ」と光る鱗が見えて、じっと目を凝らしながら近づいて行く。
多分、シュレジエンが「凄い」と言ったのは。

きっと、幻の魚のことじゃないかと思ったからだ。


「ん?」

なん、か…………?

増え て?る??

「ハッ」と思いついた内容に、思わずパッと振り返る。

「そうだ。」

腕組みのまま、ニヤリと笑ったシュレジエン。
その、いつもの悪そうな笑みに嬉しくなって水槽まで駆けて行った。


「ぇえ~、何これ、めっちゃ可愛いんですけど………???」

その、煌めく小さな橙の川には。

そう、小さな幻の魚達が加わっていたのだ。

ん?

「産まれたのか」「増やしたのか」浮かんだ疑問に振り向き、背の高い顔を見上げた。

その、私の疑問顔に「増えてたんだ」と言うシュレジエン。

「えっ、それじゃあ産まれたってことですよね…?」

「まあ、多分そうなんだろうな。しかしいつの間にか、ちっこいのが増えていたんだ。子供達なんて、大騒ぎさ!」

「あっ、そうだ!!」

その言葉に、自分の一番の目的が浮かんでくるりと船を振り返る。

なんか、おかしいと思ったけれど。

今日は、「声」が。
聴こえないんだ。

いつもなら入ってすぐの私を見つけ、騒ぎ出す子供達の姿が見えないのだ。
どうしたんだろうか。


キョロキョロと辺りを見回す、私の目的が分かったのだろう。
「ポン」と肩を叩かれ、薄灰青の瞳がチラリと上を指した。

「授業中だ。」

「あっ!」

思わず口を抑えたが、ここで私を叱る人はいない。
自分に染み付いた「お嬢様のフリ」にクスクスと笑いながらも、紺色のモジャモジャ髪について上に上がる事にした。

きっとウイントフークもそこにいるに違いない。


それなら、イストリアさんもいるって事だよね…?
うーん、一石二鳥………。

そんな事を考えつつも、久しぶりの船内へ足を踏み入れた。



意外としっかりとした造りの船内を、観察しながら甲板へ向かう。

「確かに、これは………。」

「そう、ほぼ完成している。だが、「形だけ」だがな。」

「??」

言葉の意味が分からなくて、目でそのまま尋ねてみる。
私の疑問が分かっているシュレジエンは、立ち止まると上を見上げてこう答えた。

「外観は、「まだ」にしてあるがほぼ完成しているこの船。しかし、結局俺達が溜めているまじないが「飛ぶそれ」に足りるのかは。分からないし、確かめようがないからな。」

「成る程………。」

並んで上を見上げながら、くるりと回る。


確かに。

既に二階部分にいる私達の頭上は、大きな床板である。
そう、まじないを溜めている、例のアレだ。

確かに以前よりは込もる力が増えている事が分かるそれは、しかし「飛ぶ」のかと言われれば。

この、巨大な船の形の、塊が飛ぶ姿は。

想像も、つかない。


でも、もし、私がこれを飛ばせと、言われたら?


「うーーーーん、とりあえず外に、出して?………空を開いて、パァッと光が差したら………飛ぶんじゃ、ない??」

なんとなくだけど。

多分、「宇宙そら」からチカラを貰って、飛ぶのだと思えた。

でもきっと。

なんだろうけど。


「だって、それ以外。あり得ない。」

「探しに来てみれば。何を物騒な事、言っている。」

「あっ、どこ行ってたんですか。」

まだ上を見上げているシュレジエンの背後から見えて来たのは、何故か白衣に戻っているウイントフークだ。

銀ローブは、普段から「鬱陶しい」と言っているので置いてきたのだろう。
ある意味いつもの光景に安心した私は、脳内妄想を垂れ流し始めた。

その、水色髪の背後から。
また少し薄い水色の髪が、見えたからだ。


「いや、これ実際問題。どうやって、飛ばすのかと思ったんですけど。多分、外に出してチカラを受ければ飛ぶと思うんですよね………そもそも人間ひとのまじないで、飛ぶんじゃないと思うんだけどな………??」

クスクスと笑う声、それと共に外に子供達の声が響き出したのが、分かる。

その騒めきに安心すると、楽しそうな薄茶の瞳に視線を合わせた。

この場にいる、三人が。
みんな、私を見ていたからだ。


「まあ、それこそ本当に「そう」なんだろう。箱舟これが、いつから、どう飛ばすのかを意図して造り始めたのか、今となっては定かでは、ないが。この辺りも歴史は残っていなかったのだろう?」

「ああ。アリスも知らんと言っていた。」

「確かにお嬢の祭祀を見ていると。「そう」なんだろうとは、思うな。」

シュレジエンの、締めの言葉に。

再び一点に集まる、みんなの視線。

勿論、その先は「私」だけど。


その、「祭祀」と「箱舟」「飛ばす」という、「問題」なのか、なんなのか。

「その こたえ」も。

きっと、「私」へ辿り着いたに、違いない。

この人達の、中では。


………長老達あの人達は、どう、だろうな………???


「おーーい!シュレジエン、ちょっと来てくれ!」

その、静かな空気を打ち破ったのはナザレの声だ。

「じゃ、後は頼んだぞ。」

「ああ。」
「任せて。」

「ポン」と私の頭に手を置き、去っていったモジャモジャを見つめて、いた。

なんだか三人の間では。
暗黙の了解の、様だったからだ。


いや、あり得る。
有りよりの、有り。

この二人ならばきっと。

予想内の、展開なのだろう。


「さ、じゃあどこで話しましょうか?」

くるりと回り、努めて明るく言ったつもりだった。

だって、私の中では。

「この船が飛ぶ」こと、自体は。

 なんら 悪いことでも ない のだから。


そんな私の様子を見て、小さく息を吐きクスクスと笑い出したイストリア。

そうしてポンポンと肩を叩かれている白衣は、渋い顔である。

その「親子の様子」を微笑ましく見つめていると、お小言大魔王の口が開いた。


「行くぞ。」

だから、何処に??

そう、思わなくもなかったが。

うん、勿論お小言を回避したい私は大人しく白衣の背後について行ったのである。

うむ。










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