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8の扉 デヴァイ
不老不死
しおりを挟む「て、言うか。ウイントフークさん!!不老不死って、本当にあるんですか???」
「知らん。」
「イタッ!」
ちょ、本部長??!?
ズッコケましたけど?????
青の廊下を通り、ホールを抜け。
鳥達に手を振りながらも足速に扉を開け、とりあえず食堂を覗いたが、やはり水色髪は見えない。
そろそろお昼だと思ったのだけど、ウイントフークが時間通りに食事を摂る可能性は低いのだ。
そのまま青の廊下を走り、書斎へ突入して、一言。
そんなズッコケな返事を返された私は、いつものソファーへ倒れ込んだ。
ツッコミ役の、朝が不在だからだ。
「…………て言うか。なんなんですか、あの人達。てか、コンパクトは??意味無かったの???なに?作戦????」
「まあ、口実だろうな。お前を呼び出す為の。そんなの、すぐ分かるだろう。」
「フン!」
みんながみんな、あなたと同じ脳みそしてる訳じゃないんですからね!!
プリプリしながらも白い天井を眺め、大きく息を吐く。
そもそも、ウイントフークに当たっても仕方が無いのだ。
「不老不死」を、してきたのは。
あの人達、なんだし………。
「でも。ウイントフークさん、どこまで予想してたんですか??そもそもコンパクトが口実だって、解ってたなら。別の理由も、分かってたって事ですよね???」
壁際に立ったまま、本を開いていた白衣はチラリと私を振り返ったが、しかし。
目線は再び、本へ戻る。
答える気が無いのか、それとも流石の本部長も予想外なのか。
もしかしたら不老不死の本でも見ているのかと思って、起き上がった私はトコトコと本棚の方へ向かっていた。
あのヘンリエッタも研究していたという、「不老不死」。
もしかしたら、「それ系」の本でもあるのかも知れないから。
「………しかし。そう、来たか。」
私が確認する前に、パタンと閉じられた本はそのまま棚に戻された。
背表紙を見ても、難しい古語で書かれていてやはり読めない。
それなら仕方が無いかと、とりあえず話を聞く為に再びソファーへ戻る事にした。
「そもそも、お前。「不老不死」なんて、あっても欲しいと、思うか?」
「えっ?…………うーーーん。どうだろ。要らない、かも………??」
「だが。お前ならば。もしかしたら、必要なのかも知れんがな?気焔の、事も、ある。」
「…………。確、かに?………でも。」
なんか。
「違う」んだよ、な…………?
私が「不老不死」になって、「金色とずっと一緒」にいる、ということ。
もし、今それを「どうぞ」と、言われたとしても。
ぶっちゃけ、受け取るかと、言うと…………??
なんだ、ろうなこの違和感…………???
しかし、「それ」に関する違和感よりも「本部長が「その話」をする」違和感の方が、強い。
それに気付いて、可笑しくなった私は一人、クスクスと笑っていた。
なんだか。
よく、解らないけれど。
この人なりに、心配してくれているのがきっと嬉しかったのかも知れない。
大分、意外だったのも、あると思うけど。
「君たちに協力する」と言ってくれていた、イストリアの薄茶の瞳を思い出す。
そう言えば。
「あの子も考えていると思うよ」、そう言ってくれたんだ。
あの人よりも少し濃い、水色髪を眺めながら胸に手を当て考えていた。
「不老不死」 「長」 「長命」
「チカラを 溜める」 「その為の 私達」
そう、私のぐるぐるの中にフッと入ってきたのはあの乳白色。
あの時、心配していたディディエライトの、色だ。
私のぐるぐると共に部屋をぐるぐると回り始めた本部長の白衣を横目に、改めて考えるけれど。
多分。
「会えない」って 思ったけど。
「会える」 よね ???
おかしな言い方になるかも、知れないけれど。
私は今、「できない事はない」と感じている。
そう、ここデヴァイで、あの黒の廊下を走ってから。
あの、光が繋がる、光景を見てからは。
何処にだって「できる」「行ける」と、知っていたのだ。
ただ、「それ」を。
やるか やらないか
その、「選択」なのだ。
問題は。
少し前からある、この「万能感」、それはもしかしたらこの旅の初めから。
「私の中」に、在ったのだろう。
疑問を持たずにまじないを使えること。
泉だって、滝だって、創れて、石だって創って。
「創れる」と、「思えば」。
「想像」が「創造」になって、この青く広い、フェアバンクスの区画すら。
創れるのだと、いうこと。
だから。 多分 きっと 「不可能」なんて。
「本当 は 無い」んだ。
「私」が。
そう 「知って」 いれば。
「多分。…………創れない、ものなんて。「人の気持ち」とか、そのくらいなのかも。」
「でもな…………やろうと、思えば?…………いやいや、でもそれ私が嫌だな………。」
「何、言ってる。」
「え?いや、なんでも…………ない、なくない??うん??」
いつの間にか、ぐるぐるを止めたらしいウイントフークが正面のソファーに座っている。
そうして漂う、糞ブレンドの香り。
どうやら本部長は珍しく、お茶を淹れる事に気が付いた様だ。
しかし、久しぶりの細長い手つきを眺めながら、これから始まる話はきっと長いんだろうな、と思っていたのだけど。
「そう、ところで。俺は確かに。お前には「不老不死」すら、創れる力が。あると、思っている。」
「へっ?!」
流石にマヌケな返事が、出た。
しっかりと私の独り言を聞いていたウイントフークは、どうやら、創れる。
思った、らしい。
腕組みをしつつも真剣な顔でこちらを見ている眼鏡の、奥。
えっ。なんか。
ちょっと、怖いんですけど…………??
「俺にも融通しろ」なんて言われたら、どうしようかとまごまごしていると、再び眼鏡の奥が光った。
「まあ、俺自身は。「不老不死」は、要らんがな。」
「えっ?なんでですか???」
もし、そう言われたら断れないな、と思っていた私に降ってきたその言葉。
でも、分かる様な、気もするけれど。
しかし気になって、逆にどうしてなのか質問してしまった。
「………いや、もしお前が言う様に。世界が全て繋がり、研究もし放題、実験し放題ならば?考えなくも、ない、か?」
何やら悩み始めた本部長。
確かに条件が違えば。
また、答えは変わるのだろう。
独り言の様な呟きを聞きながら、自分の中でもぐるぐると考え始める。
「しかし、この世界で。今、「不老不死」と言われてもな。そもそも「期限付き」だから、楽しめるのではないか、生とは。」
「まあ、そう、ですよね………なんであの人達は…。」
ウイントフークの言葉に納得すると共に、じゃあ逆に何故あの人達が。
そう「不老不死」に、拘るのかが、分からなくなってきた。
「俺自身実際、聞いた事がある訳ではないが。「変化」が怖い、連中ならば「死」も。その「変化」の一部なのだろうよ。」
「でもだって。みんな、いつかは。絶対、死ぬじゃないですか。だから、懸命に、生きる。なのに………。」
思わず涙ぐみそうになる自分の頬を、両手で挟む。
何故、涙が出そうなのか。
それも、分からないけれど。
私にお茶を飲む様、カップをズイと押すと自分も揺ら揺らと糞ブレンドを揺らしながら考えている本部長。
この人は、割と私に考え方が、近い。
ある意味、ここの人達は。
みんな、「変化が怖い」なんだろう。
あの仄暗い魔女部屋にて、フリジアに言われた言葉がポッと浮かぶ。
「誰も。「本当のこと」なんて、知りたくないんだ。」
変化が怖いこと、同じことの繰り返しが安心すること。
それだって別に「悪いこと」じゃ、ない。
「いい」も「悪い」も、無いのだけれど。
どうしても、寂しいって。
思ってしまうのは、傲慢なのだろうか。
そう思って、答えを探す為に水色の瞳を見上げた。
「いいんだよ、お前はそれで。」
「いつも、何処でも言われているだろう?お前は。前だけ見て、突っ走っていれば、いいと。それは、俺達の問題なんだ。」
なんだか本部長に、優しい口調で言われると。
逆に泣きたくなるのは、どうしてなのだろうか。
…………なんか、逆に。
調子、出ないんですけど…??
そうして、涙が出ない様、誤魔化す様に首を傾げ糞ブレンドの香りを嗅ぐ。
いつもの安心する香りと、少し温くなったそのお茶を啜りながら。
また、その紅の中にトプンと沈み込んで行ったのだった。
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