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8の扉 デヴァイ
返答
しおりを挟む冷えた身体に、妙に熱く感じられる自分の腕。
ぐっと掴んだままだった、腕を緩め代わりにフワフワに手を置き少し、目を閉じた。
目を、閉じた方が。
感覚は拡げやすいし、思考の整理もしやすい。
そう、思ったからだ。
とりあえず冷静になる様、周囲の状況を把握してみる。
肖像画達の発している「色」は、変化していないか。
どうやら変わりなく、今はきっと私の返答を待っているのだろう。
気配は動くことなく静かに、こちらを見守る様子である。
それに反して周りのローブ達は、意外と姦しかった。
いや、誰も「声に出して」は、いないのだけど。
思考が「色」となって漏れ出しているこの部屋の中は、沢山のある意味「鮮やかな色」達がフワフワと舞い上がって、私の様子を忙しく窺っていたからだ。
見覚えのある「鮮やかさ」。
あれは。
人の「欲望」の色だ。
自分の「なかみ」にもある、「鮮やかな色」その中には勿論あの時自分が潤った様な気もした、「満たされた気がする」色も含まれている。
それに加えて、まだ知らないが「同種」だと思える色取り取りの「欲望」が鮮やかに渦巻く、この部屋。
ある意味私は、少し楽しくなってきていた。
この人達は。
本当に「不老不死」が、あると思っているという事なのだ。
これだけ、鮮やかな色が、出るという事は。
正直、私も本当にあるなら見てみたい。
その、「不老不死」の、なにかとやらを。
さてさて。
他は?どう?
周囲から感じるのは、濃さは違えど「期待」と「欲望」の鮮やかな、色だ。
対して隣は少し、明るめの赤。
多分、これは「興味」なんだと思う。
今のこの人からは、あの時感じた「濁り」は感じられないしある意味「不老不死」と言われて興味がない人はいないと思うのだ。
「それ」をどう、何するのかは分からないし、知らないけれど。
「見てみたい」と思うのは、普通の事だと思う。
それに多分………。
この人、「持ってる色」が、割と強めだと思うんだよね…………。
なにしろとりあえず、アリススプリングスから嫌な気配はしない。
さっきの「間」といい、彼は一応「向こう側」ではない、と思っていていいのだろう。
「こっち側」なのかは。
分からないけれど。
まあ、でも。
私もある意味「どちらでもない者」なんだけどね…………。
初めにフリジアに言われた言葉を思い出して、一人頷いていた。
目を瞑り一人で、頷く私はきっと怪しいに違いない。
しかし、正面から発せられる色が気になって、その思考は何処かへ飛び私の意識はブラッドのお父さんへ移った。
なんだかさっきと。
「色」が、違う気がするからだ。
…………うーーーん?
これって。何の色、だろうか…………。
今、彼から発せられている「色」は先程までのオーラと違って「青い」。
いや、「青系」と、言えばいいか。
一色ではない、「青」が取り巻く彼の周りに渦巻くは多分「後悔」の念だと思う。
なんとなくだけど。
そう、思った。
だから多分、「後悔」なんだろう。
でも。なんでだ、ろうか………??
よく、分からない。
でも。
きっと、色々あるのだろう。
この世界の事だ。
あの時私の顔を一目見て、部屋へ下がった彼の事を思い出す。
「この顔」に覚えがあって、きっと何か「後悔」する様な事が。
あったに、違いないのだ。
「後悔」が、なんなのかは。
………ここでは訊けないし、なんだか。
聞かない方が、いい気も、する。
とりあえず、その「青」の隣の白ローブが落ち着いた銀灰だったから。
ダーダネルスを思い出した私は、大分落ち着いて頭が働く様になってきた。
もしかしたら、同じ白だから。
きっと、近い親戚なのかも知れない。
なにしろ久しぶりに感覚を全開にして辺りを探っていた私は、この頃やはり自分に「色」が足りていなかった事にも気付く事となった。
あまり、意識してはいなかったけど。
自分の世界に居た頃は、当たり前にやっていた「気配を読む」様なこと。
それは「人間」からだったり、「自然」からであったり。
「芸術作品」であったりと、その時々で様々だ。
それが「なに」であっても、「込もるもの」や「満ちているもの」、「エネルギーを持つもの」からならば。
「受け取るなにか」がある事が、今ならよく、分かる。
ラピスで沢山の色から元気を貰っていたこと、シャットでは色は少なかったけど。
キラキラの魚やあの印象的な橙に魅せられ、楽しかったこと。
グロッシュラーではほぼ灰色だったが、大地に「自分を溶け込ませ 廻らせる」経験から「なかみ」が感じられる様になったしそこにはやはり、色もあった。
デヴァイでも。
あの、白い祈りの場を感じて、繋ぐことによって見える様になってきた、新しい景色。
「感覚を 啓く」こと。
その大切さを、ここに来て改めて、思うのだ。
チカラ とは まじない とは
本来 人間 の 持つ
能力 とは。
本部長に訊かれた「自分と他人との違い」、それはまじないやチカラの特殊さでは、なく。
「本来の特性」を、生かせているか、いないかの違いじゃ、ないだろうか。
そんな事をぐるぐると考えていたが、まだ私は沢山の色の渦中である。
特性については、また。
考える必要が、あるだろうな…??
さて。
それで?
気を取り直して、アリススプリングスの「お願い」へ自分を戻す。
疑問は、沢山あるんだけど??
とりあえず、答えてくれるのかも、分からない。
先ずは私の中で。
「疑問」を整理して、一番訊きたいことを、決めた方がいいだろう。
しかし、その時フワリと侵食してくるのはあの、指輪の色だ。
そう、乳白色が虹色に煌めく、ディディエライトの、色。
その乳白色が煌めいて、私の「なか」で叫んでいるのが分かる。
「何故」 「どうして」 「目の前なのに」
「まだ」 「もう 」
「 保たない 」
えっ?
「保たない」?
何が?長が、ってこと??
…………でも。
それは、不思議なことじゃ、ない。
だって、きっと「不死」だと言われているあの人は「長寿」な筈なんだ。
多分、その「不老不死」が本当にあって、手に入れているので、なければ。
えっ?
まさか??
顔を上げずに辺りの気配を窺う。
多分。
もしかして??
この人達って、長がグレースクアッドで「不老不死」を手に入れたから、「不死」だと。
思ってるって、こと???
シンとする部屋の中。
しかし相変わらず「鮮やかな色」達は、こぞって私の様子を窺っているのが、分かって。
…………あり得る。
本当は、どうなのか分からないけど。
この人達が、そう思ってるってことは、事実なんだ………。
て?いう事は?
自分達も「不老不死」を手に入れて?
だから?
長が居なくても?
大丈夫??なの??
まじない、溜めてるんじゃないの???
…………でもな。
結局、「長くは保たない」から私と交換すると、思われていたならば。
もしかしたら、「長を解放する」のは嘘かも、知れないし。
それか解放して、「私を軸に」据えるのかも知れない。
なにしろ「本当の意図」は、今は解らないと思っていた方がいいだろう。
しかし、私に拒否権が無いのも、事実。
多分。
「お願い」とは、言っているけれど。
実質「命令」の筈だし、そもそも内容的に私が断る理由はない。
まあ、問題は本当に「不老不死」があって、「それ」を持って来れるのか、ってとこだよね…………。
しかし、返事はせねばならぬだろう。
この場での、最善の返答は、なんだ?
実際「どう」、するのかは。
帰ってから、本部長に相談するのが吉だ。
私一人でぐるぐるしていい、問題じゃない。
うーーーん。
とりあえず。
どう、しようか…………。
無意識に顔を上げ、正面の二人を見ていた。
銀のローブから漏れる色は、相変わらずの「青」。
しかし、その瞳からはしっかりとした意志が感じられて。
なんだか、胸にぐっと来る。
彼は何を。
私に、伝えたいのだろうか。
その隣の白ローブは、変わらずしっかりとした強い銀灰、その「実存」のある様子はあの時と変わりなく見える。
やはり。
「次へ進め」と、いう事なのだろう。
ふむ。
ならば?
とりあえず、「今」の私の返答は、こうだ。
「「不老不死」が、どんなものかは分かりませんけど。」
「もし私が「それ」を持ち帰る事ができたなら、みんなの。自由を、約束して下さい。外に出たいならば、外を。商売に参加したいのならば、それを。「望み」を「希望」を、口にした人の言葉を、聞いてくれること。何も言わない人は、分からないけれど。声を上げた人の意見は、聞いて下さい。それなら、行ってきます。………ていうか、普通、入れないんですよね………??」
勿論、私自身、「入れる」とは思っているが。
この人達の認識って、どうなっているんだろうか。
「ヨル」「血縁」「長の 曾孫」
これって、もう周知の事実になってちゃってる、ワケ??
チラリと隣の明灰色の瞳を確認したけれど、この人には今更だろう。
しかし、その「色」で。
この場にいる、全員は「そう」思っている事が知れる。
…………なら……、まぁ、いいか?
結局、バレてしまっているなら仕方が無いしある意味アラルに危険が及ばないからいいのかも、知れないしね??
そんな呑気な事を考えている私とは裏腹に、隣のアリススプリングスは数人の長老と目配せをして何やら合図をしていて。
その場の色が落ち着いてきたのと、再びくるりと私に向き直った金茶の髪でこの場の終わりを知る。
多分、一応この人達の中で「合意」が得られたのだろう。
なにしろ。
みんなに、少しでも自由が提供できるのならば、いい。
ま、本当に「不老不死」があるのかは本部長に聞いてみよう。
うん。
「さあ、ではそういう事で。」
「ええ。」「はい。」
「では。」「かしこまりました。」
ん?
私の要求に対しての、返事は無い。
しかし「そういう事」を都合良く受け取った私は、一応隣の瞳を確認して一つ頷いた。
多分、この色ならば。
大丈夫、なんだろう。
後は帰ってから、本部長をとっちめないとね…………。
そんな事をつらつらと考えながら、促されるまま席を立ち、まじないのメイドに見送られ屋敷を出た。
「ふーーーぅ。じゃあ、帰ろっか。」
「ええ」
「大丈夫?」
「うん。多分?」
まあ、危害を加えられた、訳じゃないし??
心配してくれる下の子の瞳に癒されながら、銀の区画を抜ける。
そうして、黒の廊下に出てからは。
勿論、小走りで青い廊下を目掛け、走っていたのである。
うむ。
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