透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

鉢合わせ

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 「私達  ひとり ひとりが

    繋いできた  光

  エネルギー   空気   見えない なにか」


「お互い、「干渉」は、できなくとも、しなくとも。繋がり、繋いで、続いてきて。こうして、全体が軽く、なって………?みんなが、浮き上がりやすく?上を?見易く??………気付きやすく、なったのかなぁ…………。」


厚みのある絨毯の感触、静かな音のしない回廊。

青い灯りが返事の様に揺らぐのを見て、なんとなく「そう」だと感じる呟きの、なかみ。

ブツブツと呟きながら歩く黒の廊下、今日も私は。

唸ってはいないが、心軽く呟きながら歩いていた。


今日のお供はフォーレスト、のみだ。
あの狐は何処かへ姿を消していて、青の通路で振り返っても姿を見せなかった。

それなら、それで。
きっと解って、いるのだろう。

そう思って、突然ブラリ散歩に出たのだ。


あれから、やや監視付きではあるものの何故だか少し緩くなった本部長の縛り。

「自ら生贄」疑惑は、なんとかなったのだろうか。
うーむ。

しかし、その辺りのややこしい話は私の担当では無い。
本部長が「いい」と言ったら出掛けてもいいし、私は極力自由に。

するのがいいと、結局そういう結末になったのだ。
自分でも。


「…………うーん。しかし、欲を言えば外へ出たい。」

ブツブツと呟きながらも「やっぱり空か?」と言いつつ、銀の扉の前を通り過ぎる。

ぐるり一周した黒の回廊は、銀の扉を過ぎればまた私達の区画へ入る、青い道がある。
それを行く先に見つつ、「戻ろうか、もう一周しようか」と立ち止まった所でその青の道から出て来る人が目に入った。


ん?
誰かな、あれ…………?

その背の高さから、見たところウイントフークかと思いきや、なんだか歩き方が違う気がする。
本部長は、あんなに胸を張って歩く事はない。
どちらかと言えば「考え事をしながら」歩く様な、微妙なあの姿勢を思い出しつつ立ち止まったまま、その銀ローブを見ていた。

どう、考えても。
その人は、私の前を通るからだ。


ん?
でも銀ローブだよね??
それであの背の高さ???

益々誰???

私の知り合いであそこまでの背の高さの人は、いないと思う。
多分、千里が銀ローブ羽織ったら、あの位だとは思うんだけど…?

「あっ。」

いけない。

パッと口に手を当てた時には、もう遅かった。

「あの長い名前」を思い出そうとしている私を見つけたその人は、早足でこちらへ向かってきたからだ。

「やあ。」

「あの………はい、こんにちは。」

何と言っていいのか、全く分からなくてとりあえずはニコリと微笑んでおく。

名前は思い出せないが姿形は流石に分かる。
この人は、あのコンパクトの人だし、あの時コーネルピンの絵も、見た筈だ。

「また」とか、なんとかあの時は言っていた気がするけれど、もしかして青の区画うちに?

来てた、って事だよね???


チラリと彼が来た道を確認して見るも、あるのはやはり青の区画への通路。
今し方、紛れもなく彼はあそこから出て来たのだ。

それを確認すると、気を取り直して顔を上げる。
見上げた美しい水色髪に、あの時「外で見たい」と思った事を思い出した。

あれは………いいよね、うん。
あの深緑の館との色の組み合わせも良かったんだけど、やっぱり外であの池とこの水色のアレを…いや、空が見える様になったならばもしかしてもっと綺麗なんだろうな………??


「ヨル?」
「えっ、はい、すみません。」

反射的に謝り「?」と自分でもおかしな事に気付いた所で。

いきなり、難題が降ってきた。

そう、すっかり忘れ去っていた「コンパクト問題あれ」がここに来て再び浮上したのだ。


「「コンパクトこの事」に、ついて。一応僕も家に説明しなきゃならない。、「了承の証」だからな。これから戻るから、君も一緒に説明して欲しい。許可は取ってある。」

そう言って、チラリと視線を飛ばす青の通路。

ウイントフークに、許可を取ってきたという事なのだろう。


えっ でも?
アリ? 大丈夫、なの??

ウイントフークさん??
千里?!

くるくると頭の中は急に忙しくなるが、返事をしてくれる人は勿論誰もいない。
勝手に行ってもいいのか、しかしここで断れる気もしないのだ。

そう、だってこの件は。
私がいつも通り、「うっかり」したやつだから。


そして口調こそ、そこそこ優しいが彼から発せられているのはあの時とそう変わらぬ、やや威圧的な空気。

私にあるのはあの時「受け取ってしまった」、という負い目とそれを放置していた事実。
「知らなかった」とは、言えど。

もしかしたら彼の家では「そういうこと」に、なっていたのかも知れないのだ。

ん?
でもこの雰囲気は「なっていた」、って事だよね??


今すぐの解決策が思い浮かばない私の頭はぐるぐるを停止し、確認するは緑の瞳と目耳あれだ。
上手くすれば、きっと飛んでいる筈。

きっと意図が分かるであろう、緑の瞳は四つとも「明るさ」を含んで私の背を押しているし。

くるりと辺りを確認すると、目耳も幾つか飛んでいる。

それなら?

いい、よね??

ちょっと行って、帰ってくればいいもんね??

て、言うか?
この人の家って、アリススプリングスの家じゃ、なかった…?

それなら大丈夫だよね。
うん、多分。


そうして。

私をじっと待つ、濃灰の瞳を見上げると一つ頷く。

くるりと振り返り歩き出した彼の直ぐそこに、銀の扉は、ある。

 大丈夫、すぐ、そこだし。


静かに開いた大きな扉、今日もキッチリとしたまじない人形が迎えてくれる、その空気に。
今日の胸は、複雑なリズムを刻んでいる。

少しの「罪悪感」としかし、流れてくるのは落ち着く「紙の匂い」。
ドキドキとちょっとのワクワク、「不謹慎では」という、一応私の中を調整する「外側の私」。

その、ちょっとしたスリルを楽しみながら、フードを脱いだ空色に向かって進んで行った。

そう、既に余所見を始めていた私は、少し置いて行かれそうになっていたからだ。


そうして、これから行く先で起こる事など半分も予測できていなかった、私の頭は。

そう、いつも通り能天気だったので、ある。
うむ。








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