透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

流れに 乗る

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    「私の 流れに乗る」


「うーーーん。これって。だから、結局?この、複雑な問題も色々な色の事柄も。流れに乗って進めば、見えてくるって事だよね………?」


湯煙の中、ポツリと呟く。

あれから「流れ」「流れ」と呟きつつも、流れで夕食を食べ、そのまま部屋へ戻り、夜の緑が美しいお風呂へ。

そう、ボーッとしつつも流れで一日の終わりへ辿り着いた私は相変わらず唸って、いた。


「ハッ!もしかして??…………あの禁書室の扉が言ってた「白いローブ」って、あのお爺さんのことじゃない???」

「…………そう、だよね…………多分。成る程………。」

緩りと柔らかなお湯を掬いながら、見上げる緑の屋根。
今日も私を見守っている枝達は、無言だけれど同意をしてくれているのは、なんとなく分かる。

「…………なーんか。とりあえず。…………うーん。」

薄明かりの中に浮かぶ、美しい深緑と時折揺れる葉の動き、そこへ絡まって遊ぶマスカットグリーンの湯気。

相性が良い色の揺らぎを見つめながら、大きく息を吐く。

この、心地良く気持ちも良い空間で、ただただリラックスしていると。

なんだか、問題なんて何も無さそうな、気持ちになって、くる、けれど…………???


濃紺の額縁に納まるラピスの夜景を目に映し、ただ星の煌めきだけを感じていた。

多分、今私の頭の中は、空っぽで。

夜の森の奥から聴こえる、微かな葉音と静かな気配。

夜の、森が息づく気配だ。

その「音でも無い音」が感じれる程沈黙していると、とてつもなく心地良くて。

なにしろとりあえず。
その沈黙を思う存分、味わうべく、ただ湯の中に溶け込んで、いた。



「ピャッ!………っあー、びっくりした、もう…………。」

頭上の葉から落ちたしずくが丁度おでこに当たり、ウトウトしかけた身体が飛び上がった。

「………あっ、ぶな~、ん?起こしてくれたの?」

普段、水滴が落ちてくる事は無い。

きっとそのまま眠りそうだった私を気遣ったのだろう、「ありがとう」と言いつつ身体を起こす。

「えっ、と…?何してた?ん?考え事、してたんだっけな………。」


 「大いなる 流れ」

「ああ、「流れ」ね、流れ。でもさ、うーーん?「流れ」って言うか、これ。前も、思った?な??」

ポワポワと思い浮かぶは、あの島の図書室、「リン」と鳴る秘密の空間。

あの時は。
何の、話をしてたんだっけ?

確か?
私は、「私の地図」が。

「ある」と、思ったんだっけ…………??


ややうろ覚えの記憶を手繰り寄せながら、あの時の色がぐるりと私を包み、深い茶の本棚に囲まれた気分になる。

あの、時も。

私は「私の地図」を、はっきりと認識した筈だ。

これまで何かに導かれる様に、辿ってきた道、それは確かに。

一直線ではないけれど、そのどの道も「必要だから」通って来たのが、あそこまで来て、解って。

「見えた」、気がしたんだ。

「自分の地図」「自分の道」が。

そしてそれは「大いなる 流れ」若しくは「チカラ」が、働いていたと言えるのかもしれない。


「結局、おんなじ、って。事だよね………「地図」も「道」も、「流れ」も。言い方が違うだけで。でも、だから「合ってる」って事で、いいんだよね………??」

「まあ、「合ってる」も「間違ってる」も、ないんでしょうけどね。」

ん?

「あ、朝。…………だよね。」

すっかり独り言のつもりだったけれど、ある意味いつもの光景に話はそのまま続いて行く。
まだ「見張り」が解けていないのかと思ったが、話し相手がいる方がこのぐるぐるも捗るかもしれない。

そう思いとりあえず一つ頷くと、大きく頭の中を占めている疑問をつらつらと漏らし始めた。


「て、言うかさ。「流れ」に乗るでも、「私の地図」を辿るでも良いんだけどさ?………結局、次の扉へは、行く訳で。」

「それで…………。その、あのさ………。」

「やっぱり、ねぇ………うん。」

「ピシャリ」と再び、滴が落ちる。
もしかしたら、木の葉も。

私の口調が、もどかしかったのかも、知れない。

「なによ。」

そのものズバリ、朝に問い掛けられて。

ある程度、私の頭の中を読めるであろう朝の声は口調はキツイが優しくは、ある。
その声にジワリとしながら、自分の中の一抹の不安を。

ポツリと洩らしていく。

「…………やっぱり。あのさ、あそこに。」

「行かなきゃ、いけない………いや、行きたいんだけど。なんだろ、決心がつかない、と言うか?でもな………。」

「あんたが「行きたい」って言えば。銀の家あいつらは、反対しないでしょ。」


「解ってるでしょうに」という、口調の朝は立ち上がりバスタブの周りを回り始める。

「まあ、前に言ってた「勇気」ってやつ、じゃない?」

「………勇気?」

「そう。子供達やここの人達に「勇気」が必要な様に、依るにも必要だって事よ。次へ進む為の、「勇気」がね。私はある意味、正解だと思うけどね。長の処あそこへ行ってから、次の扉向こうへ行った方が。いいと、思う。」

「…………。」

そう、具体的には何も、言っていないけれど。

やはり朝には、バレていた様だ。

私が躊躇している、その内容。


  「次の扉へ行く前に 本命に会う」

  その、事に。


「あんた達の「なか」が、何がどう、なってるのか私は分からないけど。悪い様には、ならないでしょう?は、解るわよね?」

「…………うん。」

「多分、行けば。「なにか」が、見えるわよ。なにしろこのまま行く訳にもいかないんでしょ?それなら一つでも、「ハッピーエンド」で勇気を貰っていけば。いいんじゃ、ない??」

「…………ハッピーエンド、になるかなぁ…。」

つい、不安がポロリと口から洩れる。

白い石肌をツルツルと撫でながら、灰色の軌跡を追う。
期待する「答え」を貰うために、その青の瞳を見た。


「大丈夫よ。それにあんた、「ハッピーエンドそれ以外」の再会、する気あるの?」

「…………確かに、無いわ。」

「なら、そんな心配しないでいつもみたいに。能天気に、スキップして行けばいいのよ。」

「うっ。かしこまりました。」


届いた答えに安心して出た、大きな溜息。

再びくるりと丸くなった灰色のフワフワは、バスマットの上だ。
そろそろ上がろうかと思っていたが、それを見て少し肩を温めようと思い留まり、再び湯に埋もれる。


そう、私には。

デヴァイここでの大仕事「長に会う」という一大事が、待っているのだ。

この頃の色々で、すっかり何処かへ隠れていたこの「本題」。
しかし「次の扉」という具体的なカタチが見えて来た所で、どうしても外せないこの本題が浮き上がって来た。


それに。
あの時、黒の廊下を走って感じた、あの光………。

結局、あの人は。

どんな、カタチで?
生き、て…………?


「………駄目だ、いかん。」

ブルブルと頭を振り、ゆっくりと立ち上がる。

この議題の所為か、長湯の所為か。
頭が働かなくなってきた感覚と、確実に湯あたりする事が予測される、自分のこと。

とりあえず、朝に誰か呼ばれる前に。
上がった方がいいのは、確か………。


「ちょっと、失礼。」

「なに、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。多分。」

「潰さないでよ??」

そうして。

フラフラとマットへ足を付け、小言を言われながらも。

「その件は、また明日」と自分に言い聞かせ、ノタノタと着替えを始めたのであった。



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