透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

生きている 世界

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その、事件は短い帰り道の間に、起こった。


結局、「返事らしき返事」というものを貰えぬまま、あの温室を出された私達。

何処にいたのかフォーレストが入り口で待っていて、一人だった事に「ごめん」と言葉が口を突いて出た。
そう、何処にいても目立つこの子の事をすっかり忘れていたからだ。

そうして再び庭と魅力的な店先を抜け、まじない人形が開けてくれた大きな扉を出ると。

やっとこ、大きな溜息が出てきたのであった。


「…………でも、さ。結局。何の話、だった訳?あれって。」

ぶちぶちと極彩色に愚痴りながら、歩く。

フェアバンクスの区画までは、すぐだ。
それが分かっている私は、ノコノコとダラダラの間の子程度のスピードで。
フォーレストを撫でながら、歩いていた。

「いや。まあ。………いいんじゃ、ないか?」

「えっ。何その「良くなさそうな」返事。」

そう、私がツッコミを入れた、その時。


 「えっ!」
 「あら 」

ドン、と急に来た衝撃、グラリと一瞬大きく揺れた廊下はその後ブルブルと小刻みに震え始めた。

「えっ、ちょ、地震??!」
「落ち着け。大丈夫だ。」

えっ、どこが?

ブルブルと、大きくなったり小さくなったり、変化する震えと共に鳴る、廊下の調度品達。

カタカタと額縁は揺れているし、大きな棚も震えているのが分かる。

「えっ、大丈夫って…これ、いつおさまるの?大丈夫………??」

手近な鏡に近寄り抑えてみるけれど、廊下自体が震えているのでどうにもならない。
ただ、カタカタ言う音が治るだけだ。

「落ち着け。と、同じだ。」

あの時?

パッと思い浮かんだは白い空間、大きな窓と落ちてくる、沢山の本。


 ああ、


切り替わる頭の中
   
      瞬時に思い出すのは。


 「世界この子も 生きている」という

                  思い


一瞬、風が舞う。


   裂ける地面 
            流れる赤い土

  滑る緑の絨毯      
          消えていく  家々


 黒くなる空  沢山の 飲み込まれてゆく

       穏やかで 細やかな   日常

    
その、恐ろしくも瑞々しく流動する大地の、鮮やかな色が目の前に映って。


   ああ  そう か

     デヴァイこの子

   世界 も。   


     おんなじ 生きて るんだ


再び強くなる揺れの中、頭を打たれた様にただ、その思いだけが自分の中をぐるぐると回る。


  「生きている もの」

     「瑞々しい もの」 「なまもの」


そう 多分   欲しかったもの

        見たかったもの

        触れたかった もの  は。


     これ なんだ。


この頃、足りなかった「生命力」そのものの様な、力に触れて。

思い浮かんだのは   ただ 一つ  


 「よし!行こう!」

 「喜ばしいこと 」


走り出した私にいつものセリフのフォーレストが続き、無言の極彩色が狐になって私を追い越した。

チラリと振り返る紫から、咎めの色は見つからない。

 それなら。

 思いっきり、走っていい、って 事だよね?


そう、勝手に解釈した私は勢いよく口を、開けて。

謳いながら、この黒い廊下を、走り始めたんだ。




 誰が 何の為に創ったのか 今は解らない

 このデヴァイ世界

 空も無い 外も無い  全てから遮断された 様な

 世界生命から  遮断された 様な。


 でも。

 この子だって もしかしたら 

     いや もしかしなくても


    精一杯


    頑張って 「生きて」るんだ



どうして 「恐い」なんて。

思ったんだ ろうか


 きっと デヴァイこの子の 震えだって。

 あの グロッシュラーあの子の 風と

      おなじ  なのに。


 え?  でも?  じゃあ?


   やっぱり  震えて 泣いて いるのは


     世界ぜんぶ       なの ?




感じる世界の鼓動 震え 

伝わる 「全部が」「生きている」感覚


その 中で 思い出されるのは あの 夢

 金色の川が流れるような 聖なる場所

   青い木立の   水の空間

   そこに ある  「源」の様な

   透明な  チカラ


ある  やっぱり、あるんだ

「もっと生きてる」場所も

今は辿り着けなくなった 場所かも 知れないけど

でも。

まだ。

      あの人が  いる



、気付いた瞬間、「なにか」が繋がった気がして世界に一筋の光が、走る。


 なんだ、ろうか。

 でも。

     この、 光   色

  
私の中の「だれか」が応えて。

また光が繋がり区画を繋ぐのが、分かる。


 なんでだろう  どう して?

 でも。  きっと 「そう」だ


振り返るフォーレストの瞳が懐かしく見えて、確信する自分の「なかみ」。

きっと、ディディエライトが。
長と、繋がったんだ。

どう、やったのか、どうしてなのかは。

解らない、けど。



兎に角 声を響かせながら、走る黒の廊下。

ただひたすらに響かせ走るうちに、自分の「なか」に沁み込んでくる、沢山の「想い」。

 
 どこの 想い  なのか

   なんの  想い  なの か


様々な「色」を含むは、決して美しい色ばかりじゃ、なくて。

どす黒い色も多く、この世界が負っているものの重さを嫌でも感じるけれど。

止まるわけには、いかない。
少なくとも、は。

 それだけは、から。 


そのまま、大きな口を開け声を、ありったけ、響かせて。

 全力で、駆け抜けていたんだ。





何周目だ、ろうか。

全開で走っている私は、自分の感覚が殆どこの空間と同化しているのは分かっていて、疲れは殆ど感じなく逆に身体は軽い。

「開いた」まま、「剥き出し」のまま走るのは、とても気持ち良くて。

直接触れる沢山の色、全ての「もの」が持つ想いがスッと「なか」に沁み込んで、負荷無く自分の中へ取り込まれてゆく。


そうしてまた、何周目か。

徐々に取り込む「色」が減り、この空間が殆ど自分と馴染んだ事が感じられると、段々と落ちるスピード。

そうして視界が凹凸を帯び、少しだけ空間に重みが加わり現実化してきたのが、分かる。
自分の手足も重く、感じられて。

しかし行く先に見える馴染んだ色の光に、目標を定めあそこまでは走ろうと思えた。


行手の金色が現実な事を知り、光の筋がとうとう具現化したのかと、思った頃。

段々と大きくなる光、が金色の彼だと気がつく頃にはもう、どうやら震えは止まっていた様だ。

丁度通りがかった白い扉が開き始めるのが見えると同時に、私を抱え飛んだ、金色。


「揺れる間は誰も動かぬ様、通達されているのだ」

半分夢の中、その言葉を聞いて。
震えが治ったことを知り、安堵しいつもの温もりに身体を預ける。

どうやら、私の中の「みんな」が「眠れ」と言っていたから。

そのまま安心の腕の中で、目を、閉じたのだ。







  

  

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