703 / 1,751
8の扉 デヴァイ
星に 願いを
しおりを挟む頭の中を流れるは、あの、音楽。
いつの間にか自然に出ていた鼻歌に、舞い出てきた蝶達が仄暗い部屋を彩り始める。
ヒラリ、ヒラリと舞う蝶は少し発光しているから。
あの幻想的だった礼拝堂の空気を思い出して、もう懐かしく感じる自分をふと、振り返った。
あの、最初に三人で透明のまま。
礼拝堂を探検してから、どのくらい、経っただろうか。
私も変わって。
デヴァイも、少しずつ変わってきた。
あと、どのくらいここへ居られるのか。
次の扉へ、行くのはいつなのか。
長に、シンに。
会う事は、できるのか。
いやいや、その前に私は「星に願いを」、込めて。
祈るんだけどね………??
「ん?じゃあ「無事会えますように」って?祈る?いや、それだとちょっとズレるな??でもとりあえず「自分の願い」だもんね??………あれ?でも私はアレなのか、星を降らせるから…。」
「で?その、「星に願いを」ってのは何なんだい。」
「あっ、はい。」
すっかり、自分の中に入り込んでいた。
まあ、いつもの事だけれど。
どうやらその間、フリジアは私のヴェールを調べていたらしい。
テーブルに置かれたそれを手に取り、蝋燭の灯りでキラリと光らせ光を示す。
空に、星が光る、ように。
私のガラスも、キラリと光るからだ。
「こっちには、流れ星が消える前に願い事………あ。」
言いかけて途中で気付き、口をつぐむ。
そう、ここには「空が無い」んだ。
眉が下がった笑顔を見て、口にしかけた謝罪を引っ込めた。
謝るのは、違う。
でも。
「これからの事」を考えて、「今」も、きちんと考えて。
「繋ぐ」事を思い、明るい未来を考えるんだ。
気を取り直して口を開く。
「あの、流れ星が………。」
そうして私の流れ星提案を披露した後、一人で満足していると。
フリジアから聞こえてきたのは少し、沈んだ声と沈みそうな答えだった。
「「願い事」というのは難しいかも知れないね。」
「?なんでですか??」
その、少し曇った表情を見てピンときた。
まさか?
やっぱり??
なんでも、いいの。
ちっちゃな、願い事で。
「あれが食べたい」とか「これが欲しい」とか、「誰と恋人になりたい」とか。
そんなことで、いいんだけ、ど……………???
しかし、自分の思考がそこまで来てある事に気付く。
アラルも、言っていたんだ。
「贅沢は、できるの。大体の物は手に入るし。でも、大事なことはなにも。決められないの。」
パッと顔を上げ、黄緑の瞳を確認する。
やはり。
フリジアも、そう言いたいのだろう。
私が気が付いた事に気付いたフリジアは、こうも言う。
「その、「願いを口に出す」という所だけど。周りに、「聴こえるんじゃないか」と口に出せない者は、いるだろうね。それに「欲しいもの」が、分からない者も、多い。なにしろ、少し難しいね。もっと簡単なものがあれば、いいんだが………。」
そう言って考え出したフリジア、ショックを受けていた頭は、それを見て。
くるくると働き始めた。
えっ
「欲しいもの」が 分からない
「やりたいこと」は 大概できないこと で?
「行きたいところ」は行けなくて
「なりたいもの」にも、なれない
「望むこと」 自体 が。
「大それたこと」でも あって。
うん?
なんだ?
それなら??
「なに」ならば 「みんな」の。
「声」が、届く?
私の 空の 星まで 。
ぐっと噛んだ唇に、力が籠る。
泣くことが 私の仕事じゃない
この「事実」は。
「悪いこと」でもなく ただ「そう」であるだけ
今できない だけ
それを。
「変える」でも なく
「満たされていない コップ」に
ただ ただ 少しずつ
星屑を注いでいくんだ
頭の中は静かになって、視線だけが魔女部屋の中をフラフラと彷徨う。
時折キラリと光る、紫が映るが流して私の色に、加えておく。
ぐるりと浚った部屋の中、テーブルの近くの作業台の、上に。
捲られ開かれたままの、本が一冊あった。
なんとなく立ち上がりそれを手に取ると、どうやら色見本の様な、本である。
「………これ、って…?」
「それはメルリナイトが占いの時に使っている本だ。昔は。皆、色が多かったと言ったろう?その記録と後は想像の色も、ある。どの色とどの色を、合わせると。何色になる、とかね。」
それって。
あの、「色合わせ」の事だろうか。
ヒヤリとした腕を摩って、ページをめくった。
「でも。デヴァイでの、色って。おんなじ人が、多いって………。」
「まあ、今は。…殆どそうかも知れないね。生まれてから、調べるんだ。後は年頃になる前。しかし、順位が変わるのを恐れてかそれが公にされなくなってもう、何年か。」
「そうなんですね………。」
「それは生まれ月を見る目的もあるけれど、「好きな色」を見るんだ。それでも性格はある程度把握できるからね。二色選んで、それで判断する。」
「なんで二色なんですか?」
初めてこの世界で、これだけカラフルな本を見た私のテンションは上がり始めていた。
なにしろこの中から、二色しか選べないなんて。
私には、無理かも知れない。
「大概、初めは「こうであろう色」を、選ぶからさ。「自分の本当に好きな色」は、選べない。まあ、それが誰もが認める「女性らしい色」とか「美しい色」なら、別だろうけどね。」
「えっ。」
そんなに???
この世界の根深さを痛感しながらも頭の中は「色」で、いっぱいだ。
ここで、色を選んだ事のある人ならば。
きっと、決められるだろうし。
もし、決められなくとも?
紺色のビロードから降る、光る星屑
様々な色 光
輝きの強いもの 弱いもの
優しく光る 星
鮮やかに光る 星
静かに光る 星
まるで見えない、小さな星までも。
「降って、来たならば?思わず、「好きなもの」を掴んじゃいませんかね??」
「それはあるかも、知れないね。」
クスクスと笑いながら肯定してくれるその顔が、少し悪い顔に変化したのは気の所為だろうか。
「なにしろ、今回も噂は早い筈だ。とりあえず「好きな色を掴んだならば いいことがある」とでも。言っておこう、かね。」
「はい!」
どこまでできるのか、分からない。
驚いて見ているだけの人も、いるだろう。
周りを気にして、動けない人も。
様子を窺いながらも、恐る恐る、手を伸ばす人だっている筈だ。
それなら?
誰かに、動いてもらう?
ううん、きっと子供達なら我先にと手を伸ばし星屑を掴む筈だ。
きっとみんな、はしゃいで大変だろう。
パミールやガリア、トリルやアラルもきっと大丈夫。
女性陣は意外とその辺りに触発されて、大丈夫かも知れない。
「結構、男の人の方が問題かも………。」
「それはあるだろうね。しかし、女が噂している事は、男も気になるものさ。それに、そもそも祭祀に参加するのはグロッシュラーの男の方が多いだろう?お前さんの光を受け取る事に慣れた連中ならば、手は伸ばすさ。それ見てきっと、ここの男達も黙っている事はできまいよ。」
オヤツの皿を片付けながら、そう言ってくれるフリジア。
「成る程………それなら、………なんか、大丈夫そうですね?」
若干面倒になってきて、とりあえず「ドーンとやろう」という雰囲気の私に苦笑している。
失敗を心配するのは、性に合わない。
今は、殆ど入っていない、埋まっていない「真ん中」のコップに。
少しでも、星屑が入ればそれで、いいんだ。
「そう、そもそもこれはダメ元作戦よ。とりあえず、やったもん勝ち、祈ったもん勝ち。」
「そうそう、その意気でいいよ。なにしろお前さんはあまりあれこれ考えず、素直に。思った事を、祈ればいい。」
「はい。」
この頃、締めに出てくるハーブティーの香りがして、そろそろお開きな事が分かる。
その、何杯目かのお代わりを用意してくれるフリジアの手の動きをボーっと見つめていた。
なんだか、お腹もいっぱい、胸もいっぱいだけど。
後は、自分の。
「なか」の整理だけだ。
「なに」を 「どう」すればいいのかは
分からないけど。
多分。
もっと。
私が 澄んでいる 必要が ある
なんとなく、それだけは分かって。
とりあえず、有り難くハーブティーを受け取りながら。
それを、考えていたので、ある。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる