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8の扉 デヴァイ
星に 願いを
しおりを挟む頭の中を流れるは、あの、音楽。
いつの間にか自然に出ていた鼻歌に、舞い出てきた蝶達が仄暗い部屋を彩り始める。
ヒラリ、ヒラリと舞う蝶は少し発光しているから。
あの幻想的だった礼拝堂の空気を思い出して、もう懐かしく感じる自分をふと、振り返った。
あの、最初に三人で透明のまま。
礼拝堂を探検してから、どのくらい、経っただろうか。
私も変わって。
デヴァイも、少しずつ変わってきた。
あと、どのくらいここへ居られるのか。
次の扉へ、行くのはいつなのか。
長に、シンに。
会う事は、できるのか。
いやいや、その前に私は「星に願いを」、込めて。
祈るんだけどね………??
「ん?じゃあ「無事会えますように」って?祈る?いや、それだとちょっとズレるな??でもとりあえず「自分の願い」だもんね??………あれ?でも私はアレなのか、星を降らせるから…。」
「で?その、「星に願いを」ってのは何なんだい。」
「あっ、はい。」
すっかり、自分の中に入り込んでいた。
まあ、いつもの事だけれど。
どうやらその間、フリジアは私のヴェールを調べていたらしい。
テーブルに置かれたそれを手に取り、蝋燭の灯りでキラリと光らせ光を示す。
空に、星が光る、ように。
私のガラスも、キラリと光るからだ。
「こっちには、流れ星が消える前に願い事………あ。」
言いかけて途中で気付き、口をつぐむ。
そう、ここには「空が無い」んだ。
眉が下がった笑顔を見て、口にしかけた謝罪を引っ込めた。
謝るのは、違う。
でも。
「これからの事」を考えて、「今」も、きちんと考えて。
「繋ぐ」事を思い、明るい未来を考えるんだ。
気を取り直して口を開く。
「あの、流れ星が………。」
そうして私の流れ星提案を披露した後、一人で満足していると。
フリジアから聞こえてきたのは少し、沈んだ声と沈みそうな答えだった。
「「願い事」というのは難しいかも知れないね。」
「?なんでですか??」
その、少し曇った表情を見てピンときた。
まさか?
やっぱり??
なんでも、いいの。
ちっちゃな、願い事で。
「あれが食べたい」とか「これが欲しい」とか、「誰と恋人になりたい」とか。
そんなことで、いいんだけ、ど……………???
しかし、自分の思考がそこまで来てある事に気付く。
アラルも、言っていたんだ。
「贅沢は、できるの。大体の物は手に入るし。でも、大事なことはなにも。決められないの。」
パッと顔を上げ、黄緑の瞳を確認する。
やはり。
フリジアも、そう言いたいのだろう。
私が気が付いた事に気付いたフリジアは、こうも言う。
「その、「願いを口に出す」という所だけど。周りに、「聴こえるんじゃないか」と口に出せない者は、いるだろうね。それに「欲しいもの」が、分からない者も、多い。なにしろ、少し難しいね。もっと簡単なものがあれば、いいんだが………。」
そう言って考え出したフリジア、ショックを受けていた頭は、それを見て。
くるくると働き始めた。
えっ
「欲しいもの」が 分からない
「やりたいこと」は 大概できないこと で?
「行きたいところ」は行けなくて
「なりたいもの」にも、なれない
「望むこと」 自体 が。
「大それたこと」でも あって。
うん?
なんだ?
それなら??
「なに」ならば 「みんな」の。
「声」が、届く?
私の 空の 星まで 。
ぐっと噛んだ唇に、力が籠る。
泣くことが 私の仕事じゃない
この「事実」は。
「悪いこと」でもなく ただ「そう」であるだけ
今できない だけ
それを。
「変える」でも なく
「満たされていない コップ」に
ただ ただ 少しずつ
星屑を注いでいくんだ
頭の中は静かになって、視線だけが魔女部屋の中をフラフラと彷徨う。
時折キラリと光る、紫が映るが流して私の色に、加えておく。
ぐるりと浚った部屋の中、テーブルの近くの作業台の、上に。
捲られ開かれたままの、本が一冊あった。
なんとなく立ち上がりそれを手に取ると、どうやら色見本の様な、本である。
「………これ、って…?」
「それはメルリナイトが占いの時に使っている本だ。昔は。皆、色が多かったと言ったろう?その記録と後は想像の色も、ある。どの色とどの色を、合わせると。何色になる、とかね。」
それって。
あの、「色合わせ」の事だろうか。
ヒヤリとした腕を摩って、ページをめくった。
「でも。デヴァイでの、色って。おんなじ人が、多いって………。」
「まあ、今は。…殆どそうかも知れないね。生まれてから、調べるんだ。後は年頃になる前。しかし、順位が変わるのを恐れてかそれが公にされなくなってもう、何年か。」
「そうなんですね………。」
「それは生まれ月を見る目的もあるけれど、「好きな色」を見るんだ。それでも性格はある程度把握できるからね。二色選んで、それで判断する。」
「なんで二色なんですか?」
初めてこの世界で、これだけカラフルな本を見た私のテンションは上がり始めていた。
なにしろこの中から、二色しか選べないなんて。
私には、無理かも知れない。
「大概、初めは「こうであろう色」を、選ぶからさ。「自分の本当に好きな色」は、選べない。まあ、それが誰もが認める「女性らしい色」とか「美しい色」なら、別だろうけどね。」
「えっ。」
そんなに???
この世界の根深さを痛感しながらも頭の中は「色」で、いっぱいだ。
ここで、色を選んだ事のある人ならば。
きっと、決められるだろうし。
もし、決められなくとも?
紺色のビロードから降る、光る星屑
様々な色 光
輝きの強いもの 弱いもの
優しく光る 星
鮮やかに光る 星
静かに光る 星
まるで見えない、小さな星までも。
「降って、来たならば?思わず、「好きなもの」を掴んじゃいませんかね??」
「それはあるかも、知れないね。」
クスクスと笑いながら肯定してくれるその顔が、少し悪い顔に変化したのは気の所為だろうか。
「なにしろ、今回も噂は早い筈だ。とりあえず「好きな色を掴んだならば いいことがある」とでも。言っておこう、かね。」
「はい!」
どこまでできるのか、分からない。
驚いて見ているだけの人も、いるだろう。
周りを気にして、動けない人も。
様子を窺いながらも、恐る恐る、手を伸ばす人だっている筈だ。
それなら?
誰かに、動いてもらう?
ううん、きっと子供達なら我先にと手を伸ばし星屑を掴む筈だ。
きっとみんな、はしゃいで大変だろう。
パミールやガリア、トリルやアラルもきっと大丈夫。
女性陣は意外とその辺りに触発されて、大丈夫かも知れない。
「結構、男の人の方が問題かも………。」
「それはあるだろうね。しかし、女が噂している事は、男も気になるものさ。それに、そもそも祭祀に参加するのはグロッシュラーの男の方が多いだろう?お前さんの光を受け取る事に慣れた連中ならば、手は伸ばすさ。それ見てきっと、ここの男達も黙っている事はできまいよ。」
オヤツの皿を片付けながら、そう言ってくれるフリジア。
「成る程………それなら、………なんか、大丈夫そうですね?」
若干面倒になってきて、とりあえず「ドーンとやろう」という雰囲気の私に苦笑している。
失敗を心配するのは、性に合わない。
今は、殆ど入っていない、埋まっていない「真ん中」のコップに。
少しでも、星屑が入ればそれで、いいんだ。
「そう、そもそもこれはダメ元作戦よ。とりあえず、やったもん勝ち、祈ったもん勝ち。」
「そうそう、その意気でいいよ。なにしろお前さんはあまりあれこれ考えず、素直に。思った事を、祈ればいい。」
「はい。」
この頃、締めに出てくるハーブティーの香りがして、そろそろお開きな事が分かる。
その、何杯目かのお代わりを用意してくれるフリジアの手の動きをボーっと見つめていた。
なんだか、お腹もいっぱい、胸もいっぱいだけど。
後は、自分の。
「なか」の整理だけだ。
「なに」を 「どう」すればいいのかは
分からないけど。
多分。
もっと。
私が 澄んでいる 必要が ある
なんとなく、それだけは分かって。
とりあえず、有り難くハーブティーを受け取りながら。
それを、考えていたので、ある。
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