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8の扉 デヴァイ

前振り

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シンプルな木のテーブル、丸みを帯びた椅子、白いクロス。

そう豪華ではない食堂は、私の好みでシンプルに創った所を、シリーが好みで味付けしている。
今日は白いクロスだけれど。

その日によって、紺色の帯が敷かれていたり美味しそうなグリーンだったり。
料理に合わせて変えているのだと、大分経ってから気付いた。

シリーは、センスもいいと思う。


チラリと隣で夕食を食べる、姉の様な存在を目に映す。

今日は落ち着いた山吹色のワンピース、生成りのエプロンは食事の際は椅子の後ろに掛けている。
茶系の髪色と瞳に合う組み合わせと、その周りには私の蝶。
今日の蝶達は、黄色系だ。

時折緑が混ざるシリーの周りには、自然の色が舞っている事が多い気がする。

私の所から舞い出て自由にしている蝶達は、出たり戻ったりを繰り返して。
どうやらヴェールを捲る様に、色を変えるのだ。

徐々に変化してゆく、私と、蝶達、そしてここも………?


ふと、暗い色の蝶を思い出して顔を上げた。

そう言えば?

「あれ?」

いつの間にか向かい側に用意されている皿を見て、支度をしているマシロに視線を投げる。

「今日は何か、お話があると言ってましたよ?」

「えっ。」

夕食は、大概別々な事が多い私とウイントフーク。

寂しくはないが、夕食はシリーと食べる事にしているので向かいに置かれた皿に、驚いたのだけど。

それにしても??
「話がある」??

しかも、ここ??

いつも朝食で一緒になる時、ウイントフーク達は隣のテーブルだ。
大概千里と何か話をしていたり、時々ラガシュも来たり。

私と同じテーブルに着く事は、殆ど無い。

「嫌な、予感………?」

「なに、言ってる。ヨークの話だ。」

「ああ、え?うん?ヨークさん?」

独り言に返事が来て、振り返ると丁度噂の主が入って来た所だった。
隣でシリーが食器を片付け始め、場を整えているのが分かる。

「そうそう、ガラスね、ガラス………。」

ブツブツ言いながらも皿を重ね、重たい話じゃなかった事に安堵した。

丁度、吸い込まれた蝶達のことを、考えていたから。


ウイントフークがきちんとした物を食べている所を、「久しぶりだな」と思いながら眺める。

この人、いっつも乾いたパンとか千切ってたしな………。
しかも火箱で炙ってなかったっけ………?


懐かしのガラクタ屋敷の事を思い出していると、徐ろに。
その、ヨークのガラスの話が始まった。

「正確な人数はまだ未定だが、かなりの数、撒く事にはなるだろう。ヨークに大体の要望は伝えておいたが、ヨークのガラスに。お前のまじない。それに、俺のまじいないも重ねる。」

「………。」

「多分、大丈夫だとは思うが。降らせて、一定の時間で消える様にするつもりだ。何か他にあったか?単純な物じゃないと難しいかも知れないからな?」

「うーーん?そう、ですね………。」

食べているウイントフークを眺めながら、キラキラしたガラスを想像する。


 ヨークのガラス
         私の まじない

  ウイントフークの まじない


   消える    情熱     光

       反応     残る



「残る………残り香………。うーーん。」

「残せば。問題になる、可能性がある。お前は手元にあるといい、と思っているだろうが。難しいだろうな。」

「………そうですよね。」

でも。

ただ、光って消える、よりも。

何か、「思い出」じゃないけど、それを見ると思い出せてキラキラする、みたいなものが欲しいんだけどな?

しかし、ウイントフークが言う事も解る。

石は、争いの種だ。
それが、ガラスになったとしても。

奪い合いが起こるだろう事は予測できるし、争いの種を撒くつもりは無い。


「うーーーーーーーん。」

「しかしな。お前の、ヴェール。あれは効いたな。」

「ん?」

唸っている私の前で、悪い顔をしている本部長。

そう言えば。
結局、何の為にあのヴェールをして行ったのか、まだ教えてもらっていないのだ。

向かいの白衣はチラリと飛ばした私の視線を受け、やっとその返事を話し始めた。


「あれは「前振り」だ。あのガラスは、透明度が高すぎて凡そ石には見えない。まあ、この世界では、だがな。」

私の腕輪に視線を飛ばし、そのまま話を続ける本部長。

「そうして、「あれはガラス」という認識を予め撒いておく。お前の石であのレベルのものは、………この間の畑が少し危ないな?その位か。だからまず、祭祀で万が一手元に残ったと、しても。「ガラスだ」という事は、解る筈だ。」

「はい。」

ん?
それなら?

問題、無くない??

私の顔を見て、その返事が来る。

「お前の意図も、解っているつもりだ。だが、俺のまじないを区別して掛けるのは悪手だ。だから、予め。」

を、避けておいて好きに撒けばいい。だが、数は少なくしろ?それに、フリジアに…」
「えっ、やった!!ウソ!それなら 」

「阿呆。」
「イタっ」

突然、背後から現れた極彩色にどつかれた。

「お前………いや、まあいい。とりあえずフリジアに話を通して。「おまじない」として何か、話を仕込んでおけ。それならまあ…大丈夫だろう。」

呆れ顔の本部長、頭を抑えたまま、その続きをニヤニヤと聞いていたからか。

「危険物を見る目」に、なっているのは気の所為じゃないだろう。

しかし、その視線をスルリと躱して、隣に座った狐を捕獲する事にした。
乙女の頭をグーでどつくのは、いただけない。

反撃されない様考えたのか、いつの間にやら狐に変化している千里。

そうして、その毛並みを捕らえぐりぐりと撫でながら、本部長の提案をぐるぐると考え始めたのだ。






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