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8の扉 デヴァイ
智慧の書
しおりを挟む「最近どうですか?」
「楽しいです!あまりお客さんは来ませんけど。でも、来てくれる人はみんなデヴァイの空気が良くなったって。言ってますよ?」
「え?ホント?それならいいなぁ…おまじないの効果が出て来たかな?」
「そうだね?魔法の袋もそれなりに、行き渡っただろう。女達の噂は早いからね。」
「それならいいですね…光も、繋いで魔法も。うーーん、私も占い手伝いたかったな…。」
落ち着いたハーブが香る、ある日の魔女部屋。
いつも通りに薄暗い部屋、揺れる蝋燭の灯りの中。
今日は近況報告として、お茶会が開かれている。
あれから占いをメルリナイトに任せきりの私は、今日こうして話を聞くついでにここの女性達の事を知ろうと、軽い事情聴取をしていた。
今度の祭祀で。
沢山の人に、参加して欲しいとは思っているけど。
そもそも「希望者がいるかは分からない」と言われているのだ。
しかしきっと、占いが好きな人は何故だか参加してくれそうな気がしていた。
祭祀の内容は、知られていないと思うけれど。
しかし流石に「夜行われる」事は、通達されている筈だ。
それならきっと「不思議なもの」や「こと」が好きならば。
きっと、参加したいと思うに違いない。
いや、そう思いたい。うん。
そんな訳で、ついでに勧誘もしてもらおうとメルリナイトの話を聞きつつ切り出すタイミングを待っていた。
「でも、畑がああなったじゃないですか。だから、もっと新しいハーブが増えるかと思ってたんですけど。少し、時間がかかりそうですね?」
「ああ、それはあるね………。新しいまじないが試せるかと思ったんだが。」
「えっ。それはいいですね…是非畑には元気になって貰わないと。」
「この間、発掘した本ですか?」
「そう、あれだ。あれもそれなりにいい本だが…欲を言えば「あの本」が見たいものだ。」
「あの本って何ですか?師匠が見たい本なんて、凄そうですね?」
メルリナイトのその言葉に、のんびりお茶を飲んでいた私の耳もピクリと動く。
「しかし本当に。「智慧の書」なんてあるのかね?ヨルは聞いた事があるかい?」
「ん?「智慧の書」?」
なんですかその、面白そうな本は………。
どうやら二人は埋もれていた古い本を部屋の奥から発掘したらしく、その話から発展した、この話題。
その「智慧の書」も気になるけれど、確かにこの部屋には。
まだまだ奥に、楽しそうな本が沢山ありそうだけどね………?
チラリと暗い、部屋の隅に目をやりぐっと視線を集中させる。
本 秘密の 書物
ん?まさか?
「隠蔽された 歴史」
パッと思い浮かんだ言葉、しかしフリジアが続けたのは。
あの白い図書館の話だった。
「禁書室に、あると。昔から、言われていたんだ。でも勿論私達は閲覧不可。しかしお前さんならば、どうだろうね?今度、訊いてみるといい。」
「………うーーん。どう、だろうな…て言うか、内容は何が書いてあるんですか?」
勿論、探してみたい。
ブラッドフォードの顔を思い浮かべつつ、一人で忍び込もうかとも、思う。
しかしこの間、歴史書は。
目ぼしい物は、無かった筈だ。
その質問に、少し考え込む様子のフリジア。
その表情は何故だか芳しくない。
しかし、何かを思い付いたのかニヤリと笑って口を開いた。
「お前さんも、占いは好きだろう?そのね、所謂統計の話だが。」
「はい。」
「結局ね?私達の運命は。生まれた、日や月によって決まっているのではないか、という説もあるんだよ。それは知っているかい?」
「ええ、まあ………運命論的なやつですかね…?」
具体的には、思い出せないけど。
確かに、そういった類の占いもあったと思う。
どこまで、どう、詳細が決まっているのかは分からないけど。
確かに、「運命」なるものがあるならば。
「知りたい」とは、思うだろう。
…………えーでも、私はいいかなぁ………。
まぁ、最高のストーリーなら、いいけどね?
ぐるぐると考える私の顔を、じっと見て。
再びキラリと光る、茶緑の瞳。
「その、全ての「事柄」が記されているという書なんだ。まあ、本当にあるのか、噂なのか、はたまた伝承か。私達の過去、未来、全てについて記されているとされる「智慧の書」。あるものならば、是非見てみたいものだね。」
「えーーー………。」
それって。
あの、宇宙にあるなんか…記録庫みたいなやつ。
そんなの、聞いたことあるな?
なんだっけ………??
「ま、もし。お前さんが行く事があって見付けられたなら。少し、教えておくれよ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、そう言ったフリジア。
その話し方を見て、フリジア自身も半信半疑なのが分かる。
確かに。
私の世界で「それが実在します」って、言われたら私もそう思うだろうけど?
でも?
ここ、まじないが実際、あるからな………。
ふーーむ?
しかし、その存在を疑っていない人は、ここにもいた。
「あったら絶対、見たいですけど!でも持ち出し禁止ですよね………。もし、それがあれば。占いがもっと正確になるし…あれ?」
「………うん、確かに?」
メルリナイトと、顔を見合わせる。
そう、そもそも。
「全て」が、書かれているならば。
「占い、じゃなくて。予言に、なりますね?」
「いや、予言………まあ、そうだろうね。」
フリジアが言い淀んだ意味が、なんとなく分かる。
だって。
「予言」ならば。
100%、「当たる」とは限らないけれど。
その「智慧の書」に、「決まった事が書かれている」ならば。
「………まあ、あるかどうかは、分からないし?とりあえず、探しておきますね?」
そう言って、この話題を終わらせる事にした。
なんだか少し、その先を話すのは。
やはり、憚られたからだ。
この、黒い空間、自由も殆ど無い、デヴァイでの。
「運命」が、決められたものだなんて。
「道筋」が、決まっていて、変えられないなんて。
想像でも、思いたくない。
でも、そもそも。
「全ての」って言ってたから、ラピスや他の世界の事なんかも書いてあるのかな………。
うーーん。白の家が多いな、流石に………でも予言は青の少女の予言もあるし、この世界の人は割と簡単に信じそうだからやっぱり危ないんじゃ………でも禁書室ならあの子が、知ってるよね………??
あ、ガリアも来てるじゃん………。
目だけは、メルリナイトが広げた名簿を見ていた。
しかし頭の中は「智慧の書」の事と「占い」の事が、ごちゃ混ぜにぐるぐると回っていて。
ただでさえ名前など覚えられない私が、お客さんの把握など、できる筈もなかったのである。
そうして、興味を持ちそうな人には声を掛けてもらうことを約束して。
その日は、気もそぞろに魔女部屋を後にしたのだ。
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