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8の扉 デヴァイ

今の私の 色

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シャラリと流れる、彩りのいい、小石達。

美しく緩やかなカーブを描くカット、そこに映る色達がまた万華鏡にも見える、匂い水の、小瓶。


「あら、それは。いいわね。」

「で、しょう………こんな風に。なりたい、よね…。」
「あら、ピッタリよ?」

「そう?………フフ、ありがとう。」

私に嬉しい言葉をくれるのは、青の鏡だ。

朝の支度をしながら、今日はこのエローラに貰った匂い水を。
纏おうかと、思ったのだ。


今日の予定は白の祈りの場へ行くことである。

あの後、朝とも話して。

「私の純度」を、高める為には。

やはり、祈ること、謳うこと、自由に溢すことなど。
これまで通りを、ブレなく、やるという事で一致した私達。

ずっと私を見ていてくれた、朝が言うんだから。
きっと、間違いない。

それに。

「私って、結局、何色なんだろうか。きっとまた変わってるよね………。」


青の鏡に手を振り緑の扉を出て、青縞の腰壁を見ながら独り言を言う。

「あらあら」
「色々よ」「そうね」
「沢山」
「結局は 」

返事をしているのか、色々な事を調度品達が口々に言っているけれど。

「結局は」?
なんなんだ??うん?

答えが出ぬまま、青のホールへ辿り着き待っていたいつもの二人と合流する。

「ふぅん?………行くぞ。」

なんだか意味深な狐の一言、しかしさっさと先を歩く極彩色に話す気は無いらしい。

「行こう」

「ああ、うん。今日もよろしく。」

「こちらこそ。喜ばしいこと 」

そうして優しい緑の瞳に頷くと、フワフワに手を置いていつもの通路を潜って行った。





「 私 は 小さな  星

   今は   何色 かは  わからない けど

  きっと  沢山の いろ が

 それぞれ  煌めき あえば


  小さな 星の  光も


     ひとつに   な る   」


「喜ばしいこと 」

「………。」

謳いながら歩く私の事を振り返りながらも、無言の極彩色。

フォーレストはいつもの様に、星屑を拾いながらご機嫌で背後を歩いている。

ピョンピョンと走りながら先導していた狐は、くるりと振り返ると「ポン」と人型になり、こう言った。

「決まらないのが。いい所だとは、思うけどな。」

「え?」

ハテナ顔の私にそっぽを向き、白の扉の前に立った千里。

そうして訪問者が分かる様に開いた、白の扉、その奥で私達を待っていたのはダーダネルスだった。


「ウイントフークさんから聞いてたの?」

「そうですね、基本的にこちらでの対応は私がする事にはなっています。あまり………。」

途中で言葉を切って、私を見た薄茶の瞳。
少し眉が下がり微笑んだ顔を見て、「確かに」とは、思う。

今日はきっと、あまり知られていない「祈りの場」へ、行くのだし。
きっと、私がまた何かやらかしても大丈夫な様に見知った人が付いてくれるという事なのだろう。


真っ直ぐに白く伸びる大きな道を進み、礼拝堂も通り過ぎた。
奥に見えるは何やら豪華そうな建物である。

しかし、その豪華な建物を迂回する様にぐるりと右へ回る様子で、やはり秘密の場所は壁の奥にあるのだろうと考えていた。
どの色の区画でも。
壁際を伝い、その奥に入り口があったからだ。

「ユークレースは今日………」
「着きましたよ。」

ニッコリと微笑んで私の言葉を遮った、ダーダネルス。
珍しい彼の様子に、あまり仲良くないのかな?と考えていると、目の前を鮮やかな髪が遮った。

「少し離れていましょうか。」
「ん?………うん。」

千里が壁に手を当て始めたのを見て、私を少し後ろに引く、彼。
ここまで、真っ直ぐに迷わずやって来たけれど。

ダーダネルスは、ここへ来た事があるのだろうか。


そんな事を考えているうちに、私を庇う手に力が入った。

背後で光が差すのが分かり、振り返ると既にそこには。
同じ様に、眩い光の入り口が出現して、いたのだ。


「ほら。」
「う、うん。ダーダネルスは?大丈夫?」

「お前もそのまま来い。」

眩し過ぎるその光、私は既に千里の手を掴んで目を瞑っている。

私の肩に置かれた手から、返事は無いが離れない所を見ると多分大丈夫だろう。

そのまま進んで…………?

口に出してはいないけど。

きっと私の意図を汲んだ極彩色は、そのままいつもの様に。

私達二人を、奥へといざなったのである。



「もう、いいぞ。」

ん?

いつの間にか肩に手の感覚は無く、代わりに私に寄り添うのはフワフワの白い巻毛である。

辺りを、見回すと。

そこはいつもの同じ様に、白く丸い、優しい空間だった。

既に奥ではダーダネルスが辺りを調べていて、その様子を見るにやはり彼も初めてなのだろう。
それならば。

チラリと紫の瞳を見ると「どうぞ」という色である。
その色に頷いて、私もちょいと探検する事にした。


しかし、他の区画とそう変わらぬここも、あまり広くはない。

少しだけ奥に長い白の空間、奥にはあの凹んだ祭壇の様なものが、あるだけで。
後は供物台の様な台のみの、シンプルな場所だ。

「ふぅん?やっぱり人数の関係かな………それとも偉い方が広いのか…?」

黄の区画よりも、少し広い気がする。
しかし、どちらが人数が多いのかは分からないし全員が一度に入る訳でもないのだから、やはり人数ではなく家格の問題なのかも知れない。

そんな事をつらつらと考えながらも、他に変わった所は無いかぐるりと空間を見回した。

ん?

既に辺りを調べ終わったのだろう。
壁際には姿勢良く立ってこちらを見ている白ローブ、反対側には極彩色。

フォーレストは私の隣で、「どう?」という緑の瞳を向けている。

ん?
これは。

また、座っていいやつ…………??


黄の区画で、いきなり跳んでしまったのは記憶に新しい。
あの後、パミールは「ヨルだし」と大事には至らなかったけど。

…………まあ、ダーダネルスも大丈夫か。

しかし、またホイホイ移動しても困る気もする。

チラリと確認した紫の瞳は「好きにしろ」と言いた気だ。

うーーん?
でも?
とりあえず………?

座りますか………


徐ろに座った私に、少し白ローブが動いたけれど。

きっとそのまま床に座ったのを気にしてくれているのだろう。
ダーダネルスらしい………。

口の端が上がるのが分かって、怪しくないかと心配になる。
なにしろ、この白い空間の、真ん中で。

ニヤニヤしながら、目を閉じ座っているのだから。


ま、今更だけどね………。

とりあえず、何も考えずに、座った。

どの場所でも。
先入観無しで、「この場」を感じたかったからだ。


さぁて。

 ここ は。

 なに が  


静かな白い空間、目を、閉じていても。

何故だか、辺りが白いのが判るし。
あの二人が、私の事を見ていないのが、分かる。

多分、気を遣ってくれているのだと思うけど。

ああ、若干一名、そんな事考えて無さそうだけどね………。


で。

 さて さて

 どう  かな


  ん? 出る のかな  見え る?

 
 ああ そういえ ば

    いろ が?


そう そうね   私の 色も

考えるんだ った な  ?


チラリとよぎる、「自分の色」のこと。


「純度」のことを、考えた、時に。

「今の私は 何色なんだろうか」

そう、思ったんだ。

でもな…………?


フワリ、フワリとしている頭の中、しかし辺りには「色」が浮かんできている。

ん?

 私は  何色…………

色々ある な?

  綺麗な 青  橙    揺れる 茶

ん?あれ??

自分の頭の中に、「私の色」が浮かんできたのかと思ったけれど。

どうやらは。

揺ら揺ら、フワリとそれぞれが動き始めてこの空間を彷徨っている様である。

とりあえず、じっと様子を見ていた。


暫くして、色は増えるのを止め、右端に見える見覚えのある色が微かに動く。
これまでずっと、動かずにいたその、色は銀灰の美しい光だ。

何処かで見たことの、ある。

あの、銀灰は…………?

「あ。」

あれ、ダーダネルスだ!

ん?

気になってチラリと反対側を、見る。

予想通り、鮮やかな色が動いているのが見え「成る程」と合点が入った。


えー、私の色を考えるつもりだったけど。

これも、中々………。
美しい、な…………?


目を瞑る私の頭の中に、展開しているのか、何なのか。

目の前でフワリと揺れる光達、そのそれぞれ美しい色は一つとして同じものは無く。

強さの違いこそ、あるけれど。

一つ一つが、美しく煌めく、眩い光である。


やっぱり………。

これって、「個人の色」ってことだよね?
個性、でしょ?

どうやらこっちの世界では、「まじないの強さ」という判断基準で「個性」とかじゃ、ないみたいだけど。


でも。

私の世界だって、みんながみんな、「違う色」の筈なのに。
似た様なファッション、メイク、流行りの遊び。

この世界とは違って「染められる」と言うよりは「染まりたい」、沢山の人。

みんながみんな、違って、いいのに。

が、当たり前の、ことなのに。


「なんで………合わせたがるんだ、ろうか…まあこっちだと。「合っちゃう」のかも、知れないけど。」

違う色になりたい人は、ある一定数はいるだろう。
でも。
やはり、少数派なのだ。

どの、世界でも。

「合わせる」って。

 なんだ、ろうか。

「和を尊ぶ」それは、大切だけど。


 それと 「合わせる」とは、違うよね?


「うーーーん。」

フワフワと揺れる色、一際鮮やかに極彩色が光った気がして、我に返る。

あ。

「私の色」、考えてない。

一旦思考を元に戻して、目の前の色に集中する。

だって、それらは。

私の中にも、ある色だからだ。


そうして一旦、大きく息を吐くと。

再び自分の中に、入り込んで行ったのだ。








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