透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

それから

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「あら、少し深みが増したんじゃない?」

「う、ん………。」

どう、かな?


朝靄の森の湯気の中、青い鏡の前。

夜寝る前に少し、寂しくなったのもあり結局お別れの時泣いたのも、あり。
朝になって少し目に腫れぼったさを感じた私は、朝風呂を堪能した後、こうして鏡の前で。
じっくりと、瞳の確認をしていた。


あの、金色に敵わなかったこの「色」。

私が感じたのと同じ様に、「クラクラさせてやろう作戦」を仕掛けたのだが失敗?し、見事にピッカピカにされて終わった。

終わった、んだけど…………???

「なん、か………増え、でも?落ち着いては、きたかな。確かに………。」

初めはかなり、明るい虹色が散りばめられた金青の瞳だった筈。

しかし、今は少しそれが落ち着いていつもの金青ベースに。
チラチラと差し色として虹色が舞い、それも角度によって見える色が変わるという何とも不思議な雰囲気である。

「万華鏡………的、な?うん…??」

「美しいという事はいい事よ。それより、いいの?支度しなくて?」

「あ。」

そうだった。

特に今日、何をしろとも言われていないけど。

帰ってきたばかりなので、ゆっくりしていいとは言われている。
いやしかし。

「覚悟」をしてヴェールを着け帰ってきた私は、本部長におかしな目で見られても、いた。


「なんだ、それは?」

「ふふん、可愛いでしょう。」

流石に森の中、見通しが悪いと、ヴェールをリボンの様に髪に着けて帰って来た。

それだけなんだ、けど。
なんで?

すぐ、奪われるワケ???


帰宅を告げようと書斎へ出向いた私の頭から、すぐにそれを引っ剥がした本部長。

そうして目をギラギラとさせながら「また」と言い、さっさと部屋を追い出されたのだ。
きっと色々、調べるのだろうけど。

解体は、しないで下さいよ…ウイントフークさん………。

つらつらと昨夜の事を思い返しながら、櫛を通す。

とりあえず朝食時に訊けば、返してくれるだろう。
そうアタリをつけて、髪を整えた。

「どう?」
「大丈夫よ、今日も素敵。」

「ありがとう。」

朝から毎日、褒めてくれる鏡があるなんて最高じゃないだろうか。

まじないで作ったら売れるんじゃ………。

そんな邪な事を考えながら、とりあえず緑の扉を閉めた。






「ちょっとこの後、部屋へ来い。」

そんな嫌な予感のするセリフを吐いて、食堂を出て行った本部長。


「サッと食べただけなんですけど…。」

心配そうなシリー、しかしあのウイントフークが研究となると食事を取らない事も知っている私は「大丈夫だよ」と呑気にお茶を啜っていた。

なんなら本当は食べないで済ませるつもりだったのだろうけど。
私に「来い」と言うついでに、少し食べただけなのだろう。


えぇぇ………。
大丈夫かな、ヴェール。
徹夜で作ったんだけど??
ヨークさんのガラス、取られたらここには無いんですけど………。

もし、欲しいとか、解体したいとか。
言われたらどうしようか。

「お茶のお代わりは?どうしますか?」

「あ、ううんありがとう。とりあえず心配だから行ってくるよ。」

「はい。…  」

なんとなくシリーが「気を付けて下さいね」と言いそうな気がして顔を見合わせた。
きっと本人も「それはおかしいかな?」と、言い淀んだのが解って。

とりあえずキャラキャラと笑いながら、食堂を後にした。



腰壁の青縞を見ながら、リズム良く書斎へ向かって歩く。

廊下の調度品達がサワサワと何か話しているのが気になったけれど。
ヴェールが心配だった私は足早に青の廊下を進んでいた。
いや、走るギリギリだ。

見つかると意外と煩いからね………。

この頃私を立派な淑女にすべく、色々とお小言を言うのはマシロだ。
たまに背後でハクロがニッコリしているので、きっとあの黒豹の差金じゃないかとは思っているけれど。

マシロは基本的に私が何をやってもニコニコしていて、楽しそうなのだ。
きっと「その方がご主人の為」とか何とか言われ、ハクロに言いくるめられたに違いない。


できるだけ早足で書斎の前に辿り着くと、とりあえずノックをして扉を開けた。
勿論、返事が来る前に、だ。

「失礼します、ウイントフークさん、  ん?」

勢いよく扉を開け部屋へ飛び込んだが、やはり姿は見えない。

本の山の間に立ち、気配を探ると奥が怪しい。

ふむ、あの小部屋だな…?

とりあえず、左の本棚の脇を抜け気配のする小部屋へ向かった。




あれって、だよね?

なんでだろう。
でも、比べてるっていうことは?

そういうこと??


案の定、何か実験の様な事をしているウイントフークに声を掛けても意味が、無かった。

デヴァイここで、この奥の小部屋へ入るのは初めてだ。

あのガラクタ屋敷より少し広い研究室、同じ様に真ん中にある、長机の隙間で。
何やらあの秤の様なものを使い、何かを調べているウイントフーク。

そう、勿論ここも沢山の物が積まれていて隙間で作業しているのである。

少しだけ声を掛け、集中が途切れない事を確認する。

やっぱりね………。

辺りを見回しながら辛うじて見えた椅子の端に腰掛けた。

この、沢山興味深い物がある部屋を探検するのはとても面白そうだけれど。
なにしろ触ったら崩れそうだし、あの人の部屋は危険な物も多い。

それに、今彼が掴んで秤に乗せているのは。

私の、あのヴェールだ。

何をしているのかは分からないが、手元が狂うと叱られそうだしなんならガラスが外れるかも知れない。

そう、何故だかウイントフークは器用にガラスを摘んでその秤に乗せ、一つ一つを測っている様なのだ。
ヴェールから引っ張られる様に小さな秤の皿に乗せられるガラス、反対側には多分石であろう物体が乗っている。

多分、そう。
でも、一体何を調べているのだろうか。


とりあえずぐるりと視線でこの部屋の探検を済ませた私は、その白衣の手元に集中を移した。

多分、あれは。

私の、石?
と、ガラス?

いや、屑石かな??
を、比べてるの………?
それに、色によっても違うって事だろうか………。


器用にヴェールを持ちながら、一つ一つのガラスを秤に乗せ、それと屑石、私の石などを比べているウイントフーク。

これが見ているとなかなか、面白いのだ。

ふぅん?
あー、確かにあの色は重そうだもんね………。
ん?でもあれは?
え?そっち?

はぁ。
成る程………えっ、それはガラスのが重いの??

えー、じゃあ濃いから重い訳じゃないのかな………。



てか、ウイントフークさん、まだ…………???


暫く実験それを、観察していたのだけど。

その法則がイマイチ分からなくて、案の定、飽きてきてしまった。

始めは、その傾きにある一定の法則を見出そうと頑張って観察していたのだが、私の予想を何度も覆すその動きに観念して、一旦部屋へ戻ろうかと立ち上がった。
しかし、それと同時にやっと声が掛かる。

「ちょっと、向こうの部屋の机の上に乗っているお前の石を持って来い。」

「ん?」

「癒し石がある筈だ。」

「…………はぁい。」

いや、気付いてるなら何か言って下さいよウイントフークさん…。


ブツクサ言いながらも石を取って、小部屋へ戻るとそれを渡す。

すぐにその石を秤に乗せたウイントフークは「ほう」と言って、私の顔を、見た。

うっ?
嫌な、予感………?

ずっと放置でも、困るけど。


眼鏡の奥の瞳にやや、怯えながらもとりあえず同じ場所に座る。
この部屋には他に、椅子は無いからだ。
まあ、「座れる椅子」が、無いだけだけど。


「ああ、あと。あの話だが。」

「えっ?」

何の話、ですか??

勿論私の「?」顔など見ずに、話を進めるウイントフーク。
いつもの事だけれど、とりあえず頭がついていける事を願いつつ耳を傾ける。

その間も手を止めずに彼が話し始めた内容は、秤とは全く関係の無い、しかし重要な話であった。


「歴史の話だが。正直、もう記録は見つからないだろう。しかし、はそう問題無い。」

え?
どこが??

案の定、よく分からない話が始まってしまった。
とりあえず目の前に並ぶ屑石を弄びつつ、続きを聞く。

「実際問題、「何故それが隠されたか」と考えれば。自ずと、書いてあった事は分かるからな。大方知られたくない内容で、今と「似た様な事実」が書かれているのだろう。だからある意味、今の現状を正しく把握するのが一番、いいんだ。…………なんだ?」

成る、程………。

多分、おかしな顔をしていたのだろう。

やっと私の顔を見て、しかし文句を言ったウイントフークはこう続ける。

「だから歴史についてはあまりお前はあれこれ考えなくて、いい。お前が、動いた方が。多分、状況は把握し易くなる筈なんだ。計画通りに行っているならば、余計にな。」

「は…あ、成る程?………まあ、やることが変わらないなら、うん、まあ、………うん?はい。」

何と言っていいのか、分からないけど。

でも本部長の言いたい事は、解った。

確かに。
隠される理由は、だからなのだろう。


「歴史は繰り返す」

「同じ道を なぞっている」


何が、どこまで、どうなのか。

それは、分からないけど。


「うーーん、流石ですね。とりあえず分かりました。」

それに、私にそこまでの余裕があるとも思えない。

歴史について気にしない事を決めれば、少しは頭の中もスッキリするだろうか。


うーーーむ?

「で、こっちだが。」

「ああ、はい。うん?」

いつの間にやらすっかり片付けられた石達は整然と並び、机の上の狭いスペースで区分けされている。

どうやら、種類別に並んでいるらしいけど…?


そうしてやっと、ウイントフークが手元の秤を指差して。

私のヴェールについての、解説が始まったのだ。





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