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8の扉 デヴァイ
再出発
しおりを挟む「うわっ、ヨル、それは?寝不足かい?」
「いや………ちょっと夜中に思い付いちゃって…。」
エヘヘ、と私が笑っている、理由。
それは、頭の上から被っているこのヴェールの所為である。
あの後、ベッドに入ってから。
ティラナの温もりで温まりつつも、頭の中はまだ、落ち着かずにいた。
もしかしたら、あの金色でピッカピカになっている、所為かも知れないし。
まだ、自分の中での「覚悟」に。
納得が、いってなかったのかも知れない。
斯くしてぐるぐると廻る頭の中、やはり寝付けないと起き出した私は再び机の前に座り窓からの景色を眺めて、いた。
もうすぐきっと白んでくるだろう空は、しかし未だぬらりと陣取る漆黒が幅を利かせている。
しかし。
やはり、屋根からの景色とは違う色、あの金色の所為で鮮やかに見えたのかと目を擦りフルフルと頭を振る。
うん。
やっぱり。
きっと、窓ガラスの所為だろう、うん。
自分が「なにに」ぐるぐるしているのか分からないまま、窓の外を眺めていた。
「覚悟」は、決めたつもりだけど。
あの金色は「変化を受け入れる覚悟」だと、言った。
確かにそれは、そうだ。
私の「覚悟」は、「見守る」「在る」「祈る」「手を出さない」そんな、覚悟で。
それは「なかみを受け入れる」ことで、成り立つ覚悟でも、ある。
それに、「受け入れるからできる」覚悟でも、あるのだ。
「確かにあれを、見てなければ。まあ、そうはならないだろうね………。」
前に進む 覚悟
受け入れる 覚悟
各々の道を 見守る覚悟
私は、私の道を、一皮剥けて、進んで。
其々はまた、各々の道を、進む。
みんながみんな、自分の道を、自由に、進む。
「うーーーん。それで、いい、よね?何が?何が…………引っ掛かる…んだろ??」
また余計に一人でジタバタしそうな、こと?
手を出しそうな、ことかな??
「うーーーーーーーん????」
目の端で、何かが動いた気がしてくるりと振り返った。
あ。
戻ってる。
極彩色がいつの間にか椅子の上で、寝たフリをしている。
きっと、私の独り言は聴いているのだろうけど。
口を出す気は、無いということか。
ふむ。
向き直って、少し白んだ気がする、外を眺めていても。
なんら、浮かんで来そうにない、私の頭。
えっ。
何これ。寝れないんだけど………???
もう一度、チラリと明るい毛並みを振り返った。
そう、何故だかあの極彩色は暗い部屋の中でもある程度の輝きを保ち、背中を上下させているのだ。
ねえ。
聴いてるんでしょう?
私の、独り言。
聞いてるならさぁ なんか ねえ
アドバイス とか?
ない の? ねぇねぇ
「五月蝿いな。全く………」
ムクリと顔を上げた紫の瞳に、キロリと睨まれる。
フン、でもその姿だと別に怖くないもんね………。
「全く………結局は。お前が、丸ごと全部。「お前を認めろ」って事だ。」
「うん?…………認め、る?え?認めてない、かな??」
大きな溜息を吐く、狐。
あの姿でここまで大きな溜息を吐くのは中々大変なのではなかろうか。
そんな呑気なことを考えていると、呆れた様にこう言われてしまった。
「お前がお前を認めていないから。そうしていつまでもぐるぐるしてるんだろうよ。自分で自分に、納得できて、いないんだ。だからだろうよ。」
「でもな?何でも、良いんだよ。迷ってるお前も、「覚悟ができてるか不安」な、お前も。どれもこれも、「丸ごと依る」だろう?無理するな、どうせすぐ。」
ん?
「またジタバタし始めるんだから。」
「うっ。」
「解ったら余計な事を考えてないで、寝ろ。明日帰るんだぞ?」
「…………はぁい。」
そう、明日はもう出発予定なのだ。
チラリとベッドへ飛ばした視線、フワフワの茶髪がはみ出しているのを見て胸が、ギュッとする。
でも。
そうか、そうなんだ。
こんな風に、すぐに泣きそうになる自分も。
結局ぐるぐるする自分も、覚悟が決まっているのかいないのか、悩む自分も。
すぐにウキウキするけど、ぐるぐる沈んだりする自分も、どれも、これも。
まるっと、受け入れる、こと。
「完璧なお前なんて、誰も欲してない。いつも、言っているだろう?」
そう、小さな声で後押しをしてくる声。
寝たフリを決め込んでいるくせに、しっかり相槌だけは打つつもりらしい。
あの時。
意味深な顔で私に言った「お前の真ん中から、ズレるな」という言葉。
そう、「私の真ん中」、いつでも「私が私であること」。
そして新しく見付けた、「ただ、在り 祈ること」。
「それ」を そのまま認め 受け入れる
そういう、ことなんだ。
「正しくある」とか。
「これがいい」とか「駄目」とかじゃ、なくて。
「私は私を、どんな「私」であっても 受け入れる」
「認める」
「許す」
簡単な様でいて、難しい、すぐに彼方此方へズレそうになること。
そう 私を 剥いて 剥いて
全部 全てを 脱ぎ去ったなら。
まっさらな 真っ白な 光 に なるって。
思ったんじゃ、ないか。
あれは。
何処だった?
誰と? 話したんだ?
でも。 覚えてる。
「真っ暗な中でも 光る 見える 小さな光」だって。
そう、思ったんだ。
それで、いいんだって。
大きく息を吐いて、全身に力が入っていたのだと気付く。
結局、何度も、同じところを回る私だけれど。
それで、いいんだ。
それも、認めて、受け入れて。
進むから、きっと成長するんだ。
そうしてきっと、「覚悟」もできて。
前に進んで、行けるんだ。
一皮剥けたい、成長したい、でも中々できない、ぐるぐる回る私、あれもこれも、全部、全部。
成長したいと、思いたい。
思うのもアリだし、そういう私でも、ありたい。
でも、「そのまんまの私」でも、いい。
ややこしいけど。
どれもこれも、「こうでなきゃ」とか「正しい」とかじゃ、なくて。
決めつけないで、「ありのまま」で、進む、私で。
間違ったら、戻ればいい。
柔軟で、あれば、いいんだ。
そう、それなら。
「それでいい」って、認める証?
見ると、「ありのままの私で在る 覚悟を決めた」と、自分で確認、できる様な。
「なにか」が、欲しいな………?
部屋の中をぐるりと見渡し、チェストの引き出しにアタリを付け開けていく。
殆ど物は入っていないが、私が借りていた服や裁縫の残り端切れ、その他はハーシェルの服。
なにか無いかとパタパタと開けた最後の段に、見覚えのある薄布が、あった。
「…………これ、って………。」
大き目のスカーフ位の、薄生地。
この繊細さと、光沢、馴染みのいい肌触り。
もしかしなくても、これって…………?
チラリと極彩色を見るも、開いた薄目はすぐに閉じた。
でも。
あの、色は。
多分、「肯定」の、色だ。
「………ふぅむ。」
多分これは、あの人形神のヴェールの生地だと思う。
この、肌触り。
私の手によく馴染むそれは、シャットで作った沢山の服に似た感覚があり「これだ」と私の肌が、言っているのが分かる。
これで。
私の。
何を、創ろうか。
目に 見える
覚悟
あると 勇気が 出る ような
纏うと シャンと する よう な?
「………ヴェール、かな…。多分、不自然じゃ、ない筈。」
他に何かないかと、浚った視線の中に飛び込んで来たのはヨークのガラスだ。
撒いた殆どは置いてきたのだが、少しポケットに入っていた分。
キラキラの、カケラ。
私の、「なかみ」の様な、様々な「色」の。
美しい、破片だ。
「ふぅむ。それならば………?」
あの、色も。この、色も。
美しい色 鈍い色
曇りのある色
鮮やかな色
どれもそれぞれに美しく、私の「なかみ」を彩る、全部だ。
可愛いらしい色ばかりじゃ、納得いかないし。
味も無いし、深みも無い。
暗い色ばかりじゃ。
素敵だけど、光が無いじゃん。
キラキラしたい日、クールにいきたい日。
可愛くしたい日、悪ぶりたい日だって、ある。
「うん。なら…………これを、こう………して??」
見える面によって違う雰囲気になる様、ガラスを並べ、円を、描く様に。
ぐるりと並べてゆく。
そうして。
みんな、全部の色を、繋いで。
こんな、風に。
全てが それぞれの いろ で。
キラキラと 輝ければ。
「うん、それ、即ち。最高で、ある…………よし、これで?あれ?針と糸、どこだ…………。」
そうして夜中なのにも関わらず、作業を始めてしまった私は。
そう、出発前夜に徹夜で作業をする事になったのであった。
「大丈夫かい?あまり………無理、しない様に。」
「お姉ちゃん………。」
いかん。
ティラナがウルウルしていると、私も危険である。
しかし。
私には、丁度目線が隠れるこのヴェールがあるし。
「大丈夫。意外とすぐ、来れるから。またヒョイって遊びに来るよ。」
そう、案外楽に行き来できそうな森の様子に、楽観的な私。
問題は、まあ向こうに帰ってから時間があるのかどうか、だけどね………。
今回、決意も新たに、スッキリと祈れそうでは、ある。
ラピスへの訪問の目的は、果たされたと思っていいだろう。
しかし。
ひょっこりと顔を出した私の「覚悟」、フワリと現れたセフィラの、こと。
「次の扉」
それは。
忘れ様にも、忘れられそうもない、出来事で。
「うん、またおいで。いつでもいいから。」
「次はまた新しいパン焼くね!」
「ありがとう。楽しみにしてる。」
ティラナにギュッとハグをして、ハーシェルがその上から私達を抱き締める。
…………ぁぁ。
うん、駄目、帰らないと。
うん。
緩みそうな涙腺君を、ぐっと引き締め笑顔を作る。
私だって、少しは。
成長したんだから。
ちゃんと、笑顔でまた「行ってきます」くらいは、言えるんだ。
「ヨル………。見えてるよ。」
「お姉ちゃん、はい。」
何故だか用意のいいティラナにハンカチを渡された。
「私が縫ったの」と、いう成長が見える、セリフ付きで。
「じゃあ。また。」
極彩色がそう挨拶をして、私の背中を押す。
一応、森まで歩いて行くのだ。
街中を泣きながら歩くのは、少し気まずい。
「行ってきます。」
「ああ。」
「すぐ来てね!」
ティラナのその言葉にぐっと堪え、笑顔は出せたが返事はできなかった。
「ほら。」
ぐっと引かれる腕、さっさと私を引っ張る大きな背中が気分を紛らわせてくれる。
そうして、できるだけ振り返らない様に。
白い石畳を、下って行ったのだった。
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