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8の扉 デヴァイ
ラピス それぞれのチカラ
しおりを挟む色とりどりのガラス、畝る紅の炎。
勢い良く燃える炉の紅を背景に、沢山のガラスが舞い上がり組み上げられていく。
その、様子に。
ただただ、見惚れていた。
以前、ヨークの作業を見学した時は打ち付ける様な形での溶接的な作業だった。
しかし、今日は作るものが、違うのか。
まじないの種類が違うのか。
キラキラと炉の前を舞い、炎の中を出たり入ったりする小さなガラス、それを特殊な道具で掴み、繋げていくヨーク。
その恐ろしくも美しい光景に、私はただ、口を抑えて息を飲むしか、無かった。
もう、蝶が出てるか出てないかなんて。
気にしている、余裕も無い。
兎に角美しい色、煌めく赤や青、鮮やかな緑や光の様な黄色。
沢山の色が組み上げられ、所によっては混じり合い、変化もするその様子は、例え様も無い程眩しくて。
途中、千里に「大丈夫か?」と訊かれるまで、どうやら私は息も止めていたらしい。
咳き込みながら、大きな肩を叩いた。
「ね!凄くない???!ヤバいよね?!!!!て言うかもう、なんか。無理。」
「何言ってる。ほら、とりあえず出来たみたいだぞ。」
「えっ。」
しまった!
完成の瞬間を見逃してしまった!!
打ちひしがれている私の元に、完成品を持ってやって来たヨーク。
彼が目の前の作業台に乗せた「それ」は、宝箱の様な、箱であった。
「………?」
丁度いい大きさの、アクセサリー入れの様なものである。
目の前に置かれたそれを見て、ヨークを見る。
開けて?
いいんですよね??
「どうぞ」という風に置かれたそれは、きっと私に見せる為に置かれたのだと、思った。
「持って行け。」
「え」
「いいんですか!」と、言う前に背を向け、作業へ戻るヨーク。
勢い良く開いた私の口は、開けたまま。
とりあえずは目の前にある、箱を手に取った。
多分。
照れ臭くて、仕事に戻ったに違いない。
………だってこれ………。
めっちゃ、可愛いもん………。
凡そ「それ」は、普段のヨークからは想像できない様な可愛らしい色合いの何とも上品な物入れで、ある。
地色は沢山の薄色が緩りと混じり合った、桃色。
そこに嵌め込まれた小さなガラスは落ち着いた緑、青、濃紅、橙、黄。
鮮やかな青と緑、金の枠組み、その中にある抽象的な紋様。
何かの印を描く様に埋め込まれたそれは、全体を引き締め、これ自体が「込もるもの」だと主張している。
なんとも言えないバランスと品の良さに、何処かのお姫様のものではないか、と。
思ってしまうのは、仕方が無いだろう。
これは。
私に、似合うだろうか。
いや。
絶対に、欲しいけれど。
「うん?小物入れだよね………。」
蓋の様な部分、継ぎ目の確認をしながらそっと、美しい青に手を掛け開いてみた。
「う、ひょっ?!」
一瞬、隙間から出てきた「なにか」に驚いて放り出しそうになる。
「おい。」
何故だか冷静に、私の手を掴んだ極彩色。
紫の瞳に頷いて、もう一度箱を持ち直した。
え………。
なにが?
出て?
来た………???
多分、「それ」は。
私の星屑に似た、キラキラした「なにか」で。
「うん………??」
もう一度、そっと隙間を開ける。
しかし。
今度は何も出てこない箱を、そうっと開いてみた。
「うーーん?綺麗。ヤバい。凄い、んだけど??さっきのは??なに???」
それはやはり、アクセサリー入れの様な小さな蓋付きの、箱で。
パッキリとした切り替え部分と、混ざり合うグラデーションが絶妙な配置で組み合わさっている、とても美しい箱である。
しかし、中身は勿論空っぽで、星屑は入っていないし。
それらしきものも、何も無い。
「んんん?」
「多分、残り香の様なものだろう。」
「え?残り香?」
「そうだ。さっきの作業中に、出てただろう?あの光の粒みたいな物じゃないか?」
「………なる、ほど………。」
確かに。
炎に気を取られて、キラキラをしっかりとは見ていなかったかも、知れない。
しかし、作業中なにか小さな光るものが小箱になる前の「これ」に、纏わり付いていたのは分かる。
「うん?なんだろうか。まじない?チカラ??」
振り返って、再び作業中のヨークを観察する。
今度は見逃さない様に、じっくりと、だ。
作業場正面、真ん中に備え付けられた炉は勢い良く燃える炎と火の粉を見せ付け、美しいガラスを待っている。
そこに入れられる、細い道具、先端に付いているガラスはこれから加工されるものだろう。
その、動きをずっと目で追う。
「んん?」
細長い鋏の様な特殊な道具はきっとヨークのオリジナルだろう。
その先端に挟まれている、ガラスの周りに。
キラキラと舞う、小さなものがある。
始めは火の粉かと、思っていたけれど。
………多分、あれ。
小さい、ガラスじゃ、ない??
キラキラと煌めく「それ」は、どう見ても何色か色があって、それも今作られている何かに使われている材料に、近い。
破片が飛んでいるのかとも、思った。
が、しかし。
掴んでいる色が赤だとしても、その周りを飛んでいるのは黄色や青、時折赤。
まちまちなのだ。
………うーーーーん?
「あれ」は。
なに ???
チラリと右側の工房を、見る。
ヨークとロランの作業場に仕切りは無く、エーガーの場所だけはあの通路の奥だ。
だから振り向けば、ロランの作業場も見えるのだけど。
少し離れた場所で、座って何かをしている後ろ姿が見える。
真剣に手を動かしているのだろう、短髪の灰色髪がチラチラと炎の明かりで揺れている。
多分、色付けをしているのではなかろうか。
ロランの工房にも窯が、ある。
しかし今は閉じられたその扉から、時折漏れる炎の光が灰色を照らしているのみ。
きっと開けられるのは、焼きあがってからなのだろう。
まじないで作る、陶器がどんな手順なのかは分からないけど。
チラリともう一度ヨークから出る光を目に映し、視線をロランに戻した。
………やっぱり……なんか、「出てる」、よね?
チラリと紫の瞳を確認する。
しかしそれは何をも映さず、ただ「見たままだろう」という様な、色。
私に好きに取れ、という事なのだろう。
うーーーん?
それなら?
やっぱり?
「それぞれの 色」が。
「出てる」、ってことだよね………??
目を凝らしているうちに、ロランに近づいていたらしい。
遠目で見ている時は小さなキラキラにしか見えなかった「それ」は、どうやらやはり私の星屑に近いものだろう。
しかし。
「それ」は今、ロランが持っている花器に吸い込まれるものと、漏れてホロホロと溢れる、ものと。
なんとも勿体無い、光景となっていた。
「あっ。いや、勿体無い…。」
「う、わっ!危ない 」
慌てて溢れるキラキラを、キャッチしようとした私とそれに驚くロラン。
いきなりの慌ただしい空気に「大丈夫か?」とヨークがやって来てしまった。
「ごめんなさい!いや、大丈夫…です?私は。」
そう言ってロランが持っていた花器の無事を確認すると、慌てて体裁を整える。
だが、ヨークには何かがバレていた様だ。
「何が気になってるんだ?普段なら、邪魔などせんだろう。」
確かに。
いつもなら、口を開けて見惚れているだけなんですけど…。
ヨークの濃い、灰色の瞳に私を咎める色は、無い。
チラリとロランも確認したけど。
うん、微笑まれてパッと目を逸らしてしまった。
いかん。
とりあえずはもう一度、青い瞳を確認して微笑んでおいた。
「なんでもないですよ」という、風に。
しかし。
以前、見学に来た時やあの像を彫っている時には気が付かなかったけど。
この二人から、キラキラが漏れていること。
物凄く、美しくて感動したのは、確かだ。
…………でも?
ここまで、見えなかった、よね…………???
「変わったのは お前だろう 」
ん?
頭に直接、声が聴こえパッとそちらを見た。
あの、紫の瞳だ。
………え。
何それ。
頭に直接、なに?喋ったの??
新しいな………。
しかし。
基本的に石達と、私は繋がっていると思って、いいのだろう。
気を取り直して、二人を見た。
それならば。
この、キラキラ………。
何かに、使えるな………??
私の頭の中には、「まじない」「祭祀」「スイッチ」「見えるもの」「石ではない、なにか」そんなものが、ぐるぐるしていて。
それを自分の中で組み上げるべく、ヨークとロランの顔を、交互に見る。
腕組みをして唸り、自分達を眺め始めた私を興味深い顔で見ている、二人。
私が「おかしな子」なのは、ある意味いつも通りなのだ。
二人は、そのままそうして。
私の「こたえ」が出るのを、じっと待ってくれていたのだった。
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