透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

ラピス なにかが生まれる所

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いや、どう、しようか。

でもな………
大丈夫だとは、思うんだけど?

あれ、連れて行けば、いいか………??


残りの日数も僅かとなった、朝。

起き抜けにヨークの小瓶が朝日に透けるのを見て、居ても立ってもいられなくなった。

私は。

「なにか」が生まれる所を、見に行かなければならない。

そう、思ったんだ。



色々な場所で見た、「なにかが込もる もの」。

この教会のタイル、中央屋敷やグロッシュラーの旧い、神殿。

デヴァイあそこにだって、いっぱい、ある。


その、物はそれぞれ違っても共通して「込もる なにか」。

きっと「それ」は、作り手のある場所で生まれるものに違いなくて、それならば。

ラピスここなら、ヨークの工房ではないかと思ったのだ。


「うーん、でも広場で会った時は大丈夫そうだったよね?またね、って言ってたし………。」

そう、しかし私がモジモジと気にしているのはロランの件だ。

断った手前、ノコノコと工房へ行くのは気が引ける。

でも。
ロラン自体が、「なにかが込もるものを作り出す 作り手」なのも、間違い無い。


「何、唸ってるんだ。」

「あ、おはよう。あのさ………」

椅子の上で動いた極彩色に目をやり、静かに話す様、口を手を当てる。

隣にはまだ、可愛いティラナの巻き毛がスヤスヤと上下しているからだ。
起こさない様、そっとベットから滑り出し机の前に座る。

そうして、窓からの朝の青を眺めながら。
工房作戦について、切り出したのだ。





「多分、大丈夫だと思うぞ。」

その狐のセリフを信じて、朝食後に家を出た私達。

工房にはハーシェルが連絡をし、午前中に行くと伝えてもらっている。
少し、心配そうな緑の瞳が見えたけど。

「大丈夫らしいです」と私も謎のセリフを残して家を出たのだ。

何か、あれば。

全部この、狐の所為にしてしまおうか………。


そうして白い石畳ばかりを眺めている事に気付き、顔を上げ久しぶりのラピスを堪能する。

そう、私に残された時間はあと二日余り。
またいきなり帰る事になるかも知れないし、油断は大敵なのである。

ま、多分工房なら事件は起きない、筈…。


そうして青い街並みを眺めつつ、今朝の閃きについて頭の中では色んな事が、くるくると回っていたのだけど。

ただ、なんとなく、工房へ行けば。

自分の「見たかったもの」が、見られるとは思うのだ。

ただ、が「なに」なのかが、ハッキリしないだけで。


少しずつ白い壁が増え、ハーブや明るい花達の色が映える、街並み。
色鮮やかな景色を視界いっぱいに映し、私のぐるぐるにも色を、差す。


結局、私は「なにが」見たいんだろうか。

まじない?

チカラ?

美しい、色?

仕事………かなぁ。
あの、小瓶に込もるチカラか、なにか。

私の、みんなの、栄養源になる様な、もの。

うーーーん。


 祭祀  チカラ 魂の 望み

   やりがい  生き方   在り方

 きっかけ   祈り  美しいもの

 生活   楽しみ    趣味

   潤い   スイッチ  心の栄養


頭の中を巡るのは、この頃見つけた彩りの良いデヴァイあの世界に足したいものでも、ある。


そうなのよね………。

多分、デヴァイあそこでも。

私は女の人に参加して欲しいと思ったけど、結局その「発露」が今回は、私からだし。

でも。
将来的には。

みんなが。自分で、「あれがやりたい」とか「こうしたい」「こうしよう」とか。

思えれば、一番。
いいと思うんだよね………。

だからそれが仕事になってる場所、って言うのかな………。
ヨークさんの所にヒントがある気がするんだけど。


掴み切れないモヤモヤ、しかしヒントは確かに工房あそこにあると、私の「なかみ」は言っていて。

多分、「直感」って。

そういうもの、だよね?


それにラピスでは基本的に、世襲制の中。

しかしその中でもあの工房は特別で、自分のまじないを最大限活かして「込もるもの」を生み出す、工房なのだ。


だから、結局。

「自分の いろ」を、活かして生きる、って事でしょう?

だよね、


でも。

を、どうやってデヴァイ向こうの人に解ってもらうか、なんだけど。


しかし。

何度も、何度も繰り返してきた、この問い。

私はもう、答えをのだ。


 「解ってもらいたい」とか。

 「こうしたい」「変えたい」とかじゃ。

ないんだ。

そうじゃ、ない。


「うーーーーーん。なら、やっぱりアレかな………。」

あの、小瓶の中を見て思い付いたことが、ある。

「ヨークさんなら………いや、どうだろうか。とりあえず………ん?着いた?」

「お前、よくぶつからなかったな?」

「うん、ま、まぁね。」

ブツブツと上の空で独り言を言いながらも。
私の足は、どうやらきちんと工房へ向かっていたらしい。

この、靴のお陰かも知れないけど。

キラリと光るサテンとビーズ、やはりこの靴は行き先をのかも、知れない。

それならやはり、この工房にきっとヒントがある筈だ。

私達の、未来へのヒントだ。


「さ、行こう!お邪魔しま~す?」

そうして大きな扉をぐっと開くと。

これまた大きな声を出し、奥へ進んで行ったのである。





「久しぶりだな?今日は見学だけでいいのか?」

ロランとエーガーにサラリと挨拶を済ませ、ヨークの作業場へ陣取った私。

正直、「なにが」気になるのか自分でも、まだはっきりしていないのだ。
でも、多分。

あの作業、見たら分かると思うんだよね………。


キラキラと光るヨークのまじないは、とても美しくて見ているだけでも胸がいっぱいに、なる。

チラリと頭の隅を蝶の事が掠めたが、出てしまったら仕方が無い。
多分、出るだろうけど。

を見て、抑えられるとは思えないのだ。


頷いて、大人しく炉の近くに座る。

その私の様子を確かめると、ヨークは材料を選び仕事に取り掛かった。








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