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8の扉 デヴァイ

ラピス エローラと私 2

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「エローラ、あのね………」

「いや、変化するものだとは思ってたけど。何コレ、ヨルの好みとかなの??こっち系?まあ、背も高いしガッチリしてるし?でも今までいなかった系統だよね??あのロランの工房の人に近いかもね………」

これは聞いてないな………。


早速千里の周りをぐるぐると回り始めたエローラに、何度か声は、掛けた。

掛けたのだけど。


うん、分かってた。
こうなる、ことは。

とりあえずはエローラの観察が終わって、一旦興奮が収まるまで待った方が、多分早い。

そう開き直った私は、相変わらずの魅力的な店内を彷徨くことに、したのだけど。

どうやらその間に、狐が余計な事を話していたらしいのだ。


じっくりと腰を据えて、壁際の刺繍糸を一つずつ引き出していた私は「トントン」と肩を叩かれて。

やっと、二人の話が終わっている事に気が付いたのだ。

いや、話している事すら気付いてなかったけどね…。


「で?なに?どこまで、行ったの?道理で雰囲気が変わってると思った!」

「え?なにが?」
「何がじゃないわよ!!ちょ、でもあの人は居ても大丈夫なのよね?」

「うん、まあ、内緒にしても結局バレるって言うか………まあ、気にしなくて良いよ。千里の事は。えっ、別人だって事は聞いたんだよね?」

「当たり前よ………まあ、落ち着けば分かるわ。」

うん、さっき迄全く落ち着いてませんでしたからね………エローラさん。


ぐいぐいと袖を引かれ、懐かしの丸いテーブルへ向かう。

白いクロスの上には既にティーセットが用意されていて。
きっとイオスのクッキーらしき、黄色の袋も見える。
多分青のラインが入っているから、そうだろう。

とりあえずはエローラに引き摺られながらも、ウキウキしながらテーブルに着く事にした。


お茶を淹れながらも私の事を、チラチラと見て。

「ふぅん」「成る程」

「確かに」
「うん」

そんな独り言を漏らす、エローラ。

しかし私は自分から墓穴を掘るつもりは、無かった。
とりあえずエローラから、何か訊かれるまで。

大人しく、クッキーをつまむ事に、したのである。


一頻り観察が終わったらしいエローラは、開口一番こう言った。

「とうとう………ヨルの方が。先に、大人になっちゃったのね…。」

「??!?」

この、世界での「大人」の意味とは。

どんな意味、なのだろうか。


えー…………ちょっと。
怖くて、訊きたくないんですけど?

しかし、気配がして振り返ると極彩色が肩を揺らして、いる。

あいつ………。

千里は一体。
エローラに、何を吹き込んだのだろうか。


「ねえ、あの人が言ったことはちょっと大袈裟だからね??そんなに、変わってないよ私達は。」

「ん?そうなの?それなのに?、な訳??」

「そんな??」

って、どんな???

頭の中には沢山の、「?」。

私の顔を見てエローラも、首を捻り始めた。

しかし。
やはり私に対しての評価は、変わりがない様である。

「えっ。でも、進展してないって事はないと思うんだけど…。」

「ん?そもそも??」

エローラは、どこまで知ってるんだっけ?
待てよ?


確か あの金色を 「好きだ」と。

認めたのが   ?

グロッシュラー  だったな ??


「あ。」

それか。
え?待って

じゃあ なに? 「そこ」から 話すの???


「えーーーーーぇーー」
「えー、じゃないわよ。とりあえず、全部。吐いて。」

ヤバい。
これは、逃げられない………。


そうして、私は。
ガッチリとエローラにホールドされたまま、まるで我慢大会でもする様に。

赤面したり、泣きそうになりながらも全てを吐く事に、なったのである。



そこそこ、端折ったつもりだった。
何せ、話せば長いのだ。

でも、流石はエローラである。
私が一番恥ずかしい、「アレコレ」的な部分は、まるで知っているかの様にしっかりとツッコミが入って。

結局、好きだと認めたところから。

この頃の、「チカラのチャージ」の、ところまで。

しっかりと喋らされた私は、疲れ切ってグッタリとして、いた。


「ま、とりあえずお疲れ様。どうぞ。」

「ありがと。」

そう言って何度目かのお代わりを淹れてくれたエローラ。

やっとこさ落ち着いた私は、久しぶりのエローラを視界に映して観察を始めた。

そう、今迄は半分顔を隠しながら必死で話をしていたから。
きっと新作であろう、エローラのワンピースとお揃いのリボンに集中する事にしたのだ。

うん、休憩とも言えるだろう。


ゆっくりとお茶を飲みながら、何かを考えている風だったエローラ。

少し落ち着いて、回復して来た私は立ち上がってスカートの裾がどうなっているのか、観察したり。
色が合わせてある、靴を観察したりとテーブルの周りをウロウロとしていた。

「で、ヨルは。何にそんなに、悩んでるの?」

「えっ?」

さっき迄とは打って変わって、落ち着いた様子で私にそう問い掛けるエローラは、流石お姉さんの空気を醸し出している。

私は。

特に、悩んでいるとは一言も、言っていないし。

今迄話していたのは、所謂「恋バナ」だ。
悩みの要素はあれど、大体が私の恥ずかしい話である。

どこを、どう取って。
「私に悩みがある」と、思ったのだろうか。


チラリと店の隅の極彩色を見るも、首を振って灰色の瞳を見る。
多分、エローラは。

あの狐に聞いた訳では、無いのだろう。

「悩んでる様に、見えた?」

「うん、まあ。悩んでるって、言うか?スッキリしてない、みたいな感じかなぁ。まあ、話を聞くに、分かる気はするけど。」

やはりこの「恋バナ」を、するに当たって。

私の「なかみ」や「色々」については、避けては通れなかった。


知らなかったことを、知ったこと。
分からなかった「想い」を、「理解」したこと。
沢山の色を見たこと、貴石のことや男の人の、こと。

全部を全部、話した訳じゃないけれど。
多分、勘のいいエローラならば大抵は察している筈だ。

やはりレナの事もあって、貴石については話さないという選択肢は無かったし。

私も、話したかったのかも、しれない。

同年代の女の子と、イストリアやソフィアと話すのはやはり違うからだ。


「ぶっちゃけ。………なにに、モヤモヤしてるのか多分自分でも解ってないんだと思う。あのね、「分かった」気は、してたの。実感はあるし、見たし、聞いたし、………でも。「解って」ないんだと思うんだよね…何だろうな、これ。」

フリジアの所では「仕方が無い」と、言われた。

エローラにその話もして、やはり「私のなかみ」と「私」は、違うのだと。
同じ様でいて、やはり別の生を生きて、いるのだと。
それを、納得した筈なのだと。

ポツリ、ポツリと漏らしていた。

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