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8の扉 デヴァイ
光を繋ぐ 黄の区画
しおりを挟む私に、なにか。
できるの、だろうか。
私に、なにが。
できるの、だろうか。
立ち塞がった極彩色を見ながら、そう、思っていた。
目の前に立ち塞がる背の高い背中、フォーレストはその横に控えている。
ギュッと握られた手は、そのまま。
パミールは無言で私の隣に立ったままだ。
きっと私といると「予想外のこと」が起こるであろう事は、想定済みの様だ。
人型になった千里に叫び声を上げる事なく、握った手に力が少し、込もっただけ。
そんなパミールを凄いと思いながらも、チラリと灰色の瞳を確認すると小さく頷いておいた。
少しだけ不安の色が混じったそれは、私に答えを求めてはいなかったから。
そのまま、向き直ってきっと開くであろう入り口を、目を凝らして見ていたのだ。
意外とすんなり、形を現したそれは、赤の区画とそう変わらない四角の、光の筋である。
壁なのか、岩なのか。
その隙間から漏れる光を見つめていると、振り向いた紫の瞳がチラリとパミールを、見た。
うん?
ああ、そうか………。
「パミール、ちょっと目を瞑ってた方が。いいかも、知れない。」
「うん?あー、そうね。」
すんなりと目を瞑るパミール、それを見て極彩色は壁に手を当てた。
うっ。
しかし。
その、隙間から漏れる光にやはり、私もすぐに目を瞑る事になったのである。
手を引かれる感覚、きっと開いたであろう空間に、大きな手が私を引き入れているのが分かる。
え。
これ、目、開けて大丈夫かな………。
目を閉じて歩いているのも、怖いけど。
それに、今はまだパミールの手を引いたままだ。
私は大丈夫でも、パミールがぶつからないかそこまでこの狐が想定しているとは思えない。
恐る恐る、薄目を開けた私は思ったよりも眩しくない空間にすぐに声を上げた。
「えっ。おんなじ、じゃん。」
「まあ、そうなんだろうな。」
その極彩色の言葉で、この空間がやはり各区画にある「祈りの場」だという事が知れる。
きっと。
同じ様に、それぞれの色にこうして存在しているに違いない。
その、白い土壁のような空間はやはり、赤の区画とほぼ、同じ造りである。
壁の凹みから、祭壇の様な台、白い丸天井。
黄の区画の方が、上だからなのか。
少しだけ、広いこの場所に早速パミールに声を掛け探検する事にした。
まあ、見るものはそう無いのだけれど。
「…へぇ、こう、なってるのね………。」
呟きながらもぐるりと空間を周る、金茶の髪。
黄色のローブが映えるこの白い空間、しかしもう一人は極彩色だし、羊は白い。
…………なんだか賑やか??
そんな事を思いつつ、私も「違い」が無いか探検する事にした。
とりあえずは、全体を把握したい。
そう思って、まず真ん中に立った。
私が できる こと
知れる こと
この 場所で? この 祈りの?
空間で なに を なに が
う ー ん
確か ひかり が ?
白く、丸い、天井を見上げて。
赤の区画を思い出したが、それはすぐに頭から消した。
ここの、感覚を。
大切に、したいと思ったからだ。
「おんなじ」だと、思ったけれど。
違うかも、しれないし何しろ先入観は捨てた方が、いい。
そう思って、暫くじっと、立っていた。
真っ白な空間、あの時と違うのは若干の広さと赤が黄のローブに変化している所。
柔らかな雰囲気のパミールの気配、傍らにはフワフワが寄り添っているのが、分かる。
パミールの家には何度かお邪魔しているので、フォーレストは慣れているのだ。
その気配を感じながらもその場に、座った。
その、白い空間の丁度真ん中、右手には黄色と白のフワフワ、左手には極彩色が佇む気配。
正面の凹んだ祭壇を見ながらも、とりあえずは目を閉じた。
なんだか。
そうした方が、いいと思ったからだ。
この 空間を 感じ取る
私が できること
感じる こと 読み取る こと?
それとも? 吸い取り 飲み込み 溢す こと?
スルスルと自分の感覚を空間に拡げると、マッタリとした白い気配が自分の中に、満ちる。
そのまま、目を閉じて。
その空間の、「なかみ」を調べてみる事に、した。
ふんわりとした光の様な、その白い空間は流石に祈りの場だからなのか清浄な空気が満ちてとても心地良い。
なんなら、すぐに眠れそうなくらいだ。
その、白い光の中を自分の綿毛を転がす様に気配を広げ床、祭壇、壁へと繋げてゆく。
コロコロと転がる綿毛は空間の白を包む様に拡がり、パミールとフォーレストであろう気配も包み込んでぐるりと反対側へ、周った。
ん?
多分、極彩色であろう、大きな人型を包み込んだ時。
口元が、なにか動いた気がした。
なんか 言った?
その気配に注意を向けると。
「自分の 真ん中」
そう、言っているのだと思う。
聴こえないけれど。
多分、そうなんだろう。
うーーん?
あ、あの時?そう言ってたね?
青のホールでそう言われた事を思い出して、「自分の真ん中」を意識してみる。
「この空間」を、探ろうと思ったけど?
「私の真ん中」の方が?
いい、ってこと??
よく、分からなかったけれど。
千里の言う事だ。
きっとなにか、あるんだろう。
それともここで。
意識するから、なにかあるのだろうか。
ま、とりあえずやってみますか………。
コロコロと転がしていた自分の光、綿毛を回収して「なか」へ吸収する。
これも全部、イメージだ。
でも。
ちゃんと、私の頭の中では「見えて」いる。
この前、「あれ」が来てから自分の「なかみ」を使うのが、上手くなった気がするのだ。
自分を綺麗に、したり。
こうして、周りを探索したり?
中々、慣れてみると楽しい。
とりあえずは自分の中に納めた綿毛を真ん中へ集め、そのままじっと意識を集中、してみることにした。
う ん?
おお?
光が? きたきた えっ
赤の空間で在った様に、所々に光の残滓の様なものが浮かび上がって、きた。
しかし赤よりずっとぼんやりしている「それ」は、揺ら揺らと揺れ風でも吹いたならばすぐに吹き消えてしまいそうだ。
ここは、風は無いだろうけど。
場所によって、違うのだろうか。
あっ 待って
ふと、掻き消えそうになった幾つかの光を追って、「自分」を動かした、その瞬間。
「えっ。」
瞬時に浮き上がる自分、上に引っ張られるのは分かったけれど。
目を瞑る暇もなくあれよあれよと言う間に、私は。
気が付くと、真っ暗な何も無い空間から、不思議な地図を見下ろしていたのだった。
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