透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

光を繋ぐ

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勢い、よく。

扉を開けたら、案の定怒られた。

「…………全く、お前は……… 」

ブツブツと言いながらも資料を探すウイントフークを見ながら、私も書斎をウロウロと、する。

いつの間にやら物が増えるこの部屋は、ラピス向こうの家とまじないで繋げているのだろうか。

あっちで見た、赤黒い箱や、不思議な天秤、クズ石の入った大きな箱。
見慣れたそれらを横目で見つつも、私の興味は一等美しい水晶のクラスターにフラフラと吸い寄せられていた。


「あっ、こら。」

「こんなの、あるんですね………どうしたんですか、これ。」

あまり大きくは無いが、美しく透明度が高い、水晶の塊。
手に取った瞬間から「こんにちは」と、話すそれは、きっとそうそう手に入る代物では無い事は私でも、分かる。

チロリと視線を向けても、諦めたのかまだ書類を捲っているウイントフークは「これ」について話す気は無いのだろう。

とりあえずそれなら仕方が無いと、水晶を棚に戻して詳細を聞く事にした。

そう、私は「次にどの空間に行くのか」を、聞きに来たからだ。


「各色から要望は来てるんだが、まあ始めは知った場所の方がいいだろうな………」

何やらブツブツ言っているが、私が行った事のない赤にはもう、行った。
あとはどっこいどっこいだと、思うんだけど………。


しかし本部長の計画に口を挟む気は、無い。

とりあえずは大人しくソファーへ座り、テーブルに出ていた本を手に取った。

その赤い表紙の本は、多分以前私のキラキラを吸い込んだ本だと、思うのだけど。

チラリと本部長を確認して、こっちを見ていない事を確かめた。

フフフ………
こっそり、見ちゃうもんね…

見つかったら取り上げられそうだ。

それが分かるので、少しだけ背を向けてそっとその赤の表紙を、開いた。


  「 祈りは 力 になる 」


「えっ?」

「どうした?」
「いや、何でもない、です。」

サッと閉じた、その表紙裏には。

そうすっきりとした字が、書かれていた。


えっ
なんで だろう??

私 ?

そっと、真ん中ら辺のページを開く。

見た事のない文字、研究らしき絵と図が、描かれている。

うーーーーーん???

あの、キラキラが?
この文字に、なったって、こと??


でも。

多分、なんだろう。

この人が「こう」書くとは、思えないし。

チラリと白衣を振り返りつつ、もう一度表紙を開いた。


やっぱり。

だ?


始めから、本当の初めから、思っているこのこと、私がこのタイミングで本を開いた、こと。

多分、全部。

「…………だから、「祈れ」って。こと、か………。」

そっと呟き、本を置く。

なんとなく、ここへ来たけれど。
きっと合っていたのだろう。

ウイントフークは私が置いた本の上に、一枚の紙を置いて一つの場所を指し示した。

「今日はここがいいだろう。余計な事はしないで、帰って来いよ?」

「………はぁい。」

余計なことって?
なんだ、ろうか。

訊こうと思って、止めておく。
碌な返事は返ってこないに違いない。

うん。
それなら。

 私は 祈って 光を 繋ぐ

それを。
とりあえず、全うすればいいんだ。

が、結果表れるのかは、分からないけど。

多分。
じゃ、ないんだ。


「まず。やってみますか!」

「おい、一人で行くなよ?」
「はいはーい 」

何やらブツブツ言っている本部長を振り返り、手を振って書斎の扉を閉める。


うーーん?
それなら?
いつものメンツで、行きますか?


そうしてルンルンと廊下をスキップしていると、いつの間にやらついて来ていた、羊と狐。

その二匹と、連れ立って。

私達は二つ目の場所、黄の区画へ行く事にしたのである。







 「私 は  小さな~星 ~ ♪ 」


「喜ばしいこと 」
「お前、調子が外れてないか?」

失礼な狐の事は放っておいて、ルンルンと進む黒の廊下。

フォーレストはご機嫌で星屑を拾いながら背後を歩いているし。

極彩色はぶちぶち言いながらも私の前を先導してくれている。


そう、迷ってたって、悩んでたって。

仕方が無いし。
多分、やってみて分かることって。

あると、思うんだ。

私が「祈りには力がある」と、信じているならば。

何はともあれ、「やってみれば」。

いいんだ。


そう そうなんだ よ


 「 ♪      ♫ 」

斯くして再びのキラキラ道中を楽しみながら、今日向かうのは黄の区画だ。

パミールには出る前に話石をしておいたから、きっと迎えてくれるだろう。

何気に、久しぶりじゃない?

久々のお茶会、ならぬ祈りへの道のりに私のテンションはうなぎ上りだった。

そう、うっかりと、何かをやらかしてしまいそうな、くらいには。



キラリと光る、極彩色の毛並みに気を取られているとすぐに黄の区画の扉に着いた。

実は銀と黄の間に私達のフェアバンクスの空間があるので、黄も中々に近い。
黄の区画の扉は、「美」を重視しているだけあってロココにも似た華美な紋様だ。

私ならちょっと「くどい」と思ってしまうような、女性的な花や貝殻の曲線紋様、しかし薄いクリーム色の扉にはピッタリな意匠では、ある。

その扉を観察しつつも、キラリと目に映った光。

足元の、星が瞬く様に見えた銀色の毛を眺めようと屈んでいると、目の前で扉が開いた。

「いらっしゃい…?何してるの?ヨル。」

「あ、いや、大丈夫。」

そう、謎の返事を返した私を訝しむ事なく招き入れたのは、パミールだ。


黄の区画には、まじない人形のドアマンはきちんと配置されているが私が来る時は必ずパミールが待っていてくれる。
前に「心配だから」と、言われたけれど。

ちゃんと訪問するくらいは、多分できると思うんだけど………?


薄い上品な黄色のスーツを着た人形達に会釈をして、奥へ進む。
私的に黄の空間は白に似て、規則正しく建物が並んでいる印象だ。

赤なんかは、意外だったけど。

ガリアの所の茶の区画も、形は違えど街並みという点で言えば赤ほどの変形では、ない。

また行ってみたいけど。

ハーゼルの顔を思い出しながら、茶金のゆるふわ髪を眺めていると初めて入る奥への道へ進む様だ。

「直接、行くけどいいかしら?ヨルはどのくらいかかるか、分からないから…。」

「うん、ありがとう。確かに。それは否定できない。」

振り向きながらそう言うパミールは、流石私の事をよく解っている。

きっとその、「祈りの空間」へ着いたならば。

私がそこに没頭する事は、予想済みなのだろう。

しかし。
黄の区画ここでは、一体どんな空間なのだろうか。


きっと空間の端であろう、壁伝いに歩きながらもパミールに問い掛ける。

そもそも。
他に案内の人はいないのだろうか。

パミールの家は黄の中では確か、順位は高い方だと、思ったけど??
女の子一人で、入っていい場所なの??



「ねえ、こっちは。みんな、知ってる場所なの?パミールは来たことある?一人で行っていいの??」

私の質問に、順に答えてくれるパミール。
しかしその足取りは、徐々にゆっくりになっていた。

「うーーん、何て言って、いいのか。私も実際、行くのは初めてよ。」
「えっ?」

「なにしろお父様から聞いたのが、ついこの間だったから。それに、他の人には教えない様に言われてる。だから案内がいないのよ。どうしてなのかは、聞いてないわ。だって、…………ねえ?」

そう言って、チラリと振り返り私を見つめる。

うん、まあ。

なんとなく。
言いたい事は、分かる。
うん。


とりあえずそっと頷いて、先へ進む事にした私達。

段々と薄暗くなる通路、手入れのされていない地面の塵。

黄の区画は基本的に、美しく保たれているし華美で派手だ。
意外な様子に、しかし納得しながらもとうとう突き当たりに到着した。


そこにあったのは。

赤の区画と同じ様な、岩肌の壁だけだったけれど。

背後を歩いていたフォーレストが、壁に伝い匂いを確かめている。
そうして、ある、一部に触れたのか、触れていないのか。

丁度私達二人の正面、その岩肌に顔を付けていたフォーレストの鼻先が光り始めたのは、その時だった。

「えっ。、」
「大丈夫。」

隣で驚いているパミールの手を握る。

 また、だ

私はあの、赤の洞窟を思い出しながら。

チラリと極彩色に目をやって、成り行きを見守る事に、したのだった。







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