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8の扉 デヴァイ
初めの一歩
しおりを挟む何故だか、「愛」を考えていたのに。
「怖れ」と「勇気」の、話になってしまった。
「えっ。てか、難しく、なってない??いや、でも愛も難しいけどさ………。」
でも。
朝の言っていた事に、一つだけ異議が、ある。
「あんたは「世界」に愛されてる」
それは、そうだと嬉しいし、私もそう感じる事は、あるけれど。
でも。
それって。
「みんな そう」だと、
思うんだけど???
「………でも。気付いてないって、事だよね………?」
確かに。
「自分を愛して」いなければ。
「世界」から、「存在」から愛されているなんて気が付かないだろう。
そもそも自分を愛していないと。
愛は、解らないと。
蓮が、言ってたし…………。
「うーーーーーーーーーーん。」
チラリと青い瞳が、開いたのが分かったけれど。
再びすぐに閉じたのを確認すると、唸らずに腕組みをする。
でも。
待って?
「勇気」が、あれば。
自分の事を、しっかりと見つめ、愛して、いける………??のか…………???
「うん??」
「何に、また唸ってるのよ。」
「えっ。だって。勇気があれば、とりあえず取っ掛かりにはなるかなぁと思って?なんかさ、そもそも。その「自分を愛してない」ってやつ、なんか壁がある気がするんだよね………壁って言うか、なんて言うか………。」
昼寝を諦めたらしい朝は、欠伸をしながら座り直した。
どうやら私の唸りが五月蝿くて、仕方無く付き合ってくれるのだろう。
「で?そもそも何に悩んでるんだっけ?「愛」だったかしら??」
「そうだね………まあ、「愛」があれば?一発で、解決しない?」
「あんた、…………」
呆れた様な、視線が痛い。
猫にここまでの表情ができるとは、逆に驚きである。
そんな私の表情を見透かしながら、チロリと視線を奥のフワフワに飛ばした朝。
フォーレストが何か知っているのだろうか。
しかし件の羊はまだ夢の中の様である。
「とりあえず。「愛」なんてものが解るのは、大分先よ。まずは初めの一歩から始めないといけないでしょうね。でも、それが。あの光だったでしょう?あながち間違いじゃないわよ、あんたのやってる事は。」
「えっ。」
嬉しい。
ソフィアに言われた様な事を、再び話す朝。
私の表情の変わり様に、おかしな視線を向けながらも続きを口にする。
「結局、あの子達にだって。「希望」とか、「未来」を、見て欲しくて光を降らせたでしょう?」
「うん………。」
「でもまあ。大人と、子供じゃまたちょっと違うと思うけどね。」
「えっ?どう違うの?」
くるりと青い瞳を回した朝は、なんだか難しい事を言い始めた。
「子供たちは「知らない」けれど、大人は「閉じてる」だけだから。」
???
「閉じてる?って、何が?」
さっぱり、意味が分からない。
しかしソファーの上をくるくると歩き始めた朝は、どう、伝えたものか。
考えあぐねて、いるのだろう。
私の顔を見たり、部屋を見渡してみたり。
あちこちヒントでも探す様に視線を彷徨わせると、ゆっくりと口を開いた。
「これもね。あんたには、解りづらい話かも知れないけど。」
「うん?とりあえず、お願いします。」
「結局ね、さっき「愛は怖いのか」って、言ってたけど。愛する為には、自分を開いてないと、曝け出していないと無理なのよ。愛が怖いんじゃなくて、無防備になるのが、怖いのかな。」
「基本的に、みんな。「閉じて」生きてるのよ。傷つかない様に。自分で、自分を守ってるの。ある意味、普通の事なんだけどね。あんたがそれだから………」
最後の方はブツブツ言い始めた朝は、さっきと同じ様な事を言っている気がするけれど。
結局。
どういうこと、なの………??
「私は、守ってないってこと??」
その私の質問に、少し考えこう答える。
「うーーん、守ってない、とは言わないんだけどなんて言うか………アホみたいに頭から突っ込んで行く、って言うか………。」
「えっ。人聞きの悪い。」
「でも。そう言われて、心当たり、あるんじゃないの?」
確かに。
いつも。
そう、なのかも知れない。
そうして失敗したり、傷付いたり、傷付けたり。
でも、そうやって、みんな。
大人に、なるんじゃないの???
「あ。」
そう言えば。
ソフィアさんが言ってた事と、似てる、って言うか……?
おんなじ、なの、か??な?
「失敗は、した方がいいし、しないまま大きくなると………?」
「まあ、それもあるでしょうね。「失敗」も、そうなんだけど。私が思うのは、「他人にどれだけ入って行くか」だと、思うけどね。」
「?他人に、入る??入る、の??」
「うーーん、なんて言えばいいのか。上手く言えないけど、あんたの場合。他の人なら誤魔化して煙に巻くんだけど、どこまでも追いかけて来て追い詰められるから吐かされる、みたいな………?」
「えっ。私、追い剥ぎみたいじゃん。」
なんか、笑ってますけど??
しかし、自分でも心当たりは、ある。
幼い頃から。
学校でも。
きっとそれの所為で。
私の近くにいる人は、限られてきたのだろう。
始めは仲良しだと思っていた友達も、徐々に遠巻きになって結局しのぶだけ、なんて事も珍しくなかった。
「合う」「合わない」も、あるんだろうけど。
「えっ、これも、原因か…………?」
「これも、って言うか、それしか無いわよ。まあ、他にもあるかもだけど。」
「えっ止めてよ。」
「でも。誤魔化しが効かないあんたの事を、疎ましく思う子はいるでしょうね。」
「………でも。」
「うん、言いたい事は解るけど。向こうだって、別に嘘を吐きたい訳じゃないし、悪い事をしたい訳でも無いのよ。でもね。…………曖昧が好き?なのかな?私もよく分からないけど。適当に付き合いたいんじゃ、ない?とりあえず「合わせる」みたいな。それって依るには、できないでしょう?」
「……………確かに。」
そう、言われれば。
納得だ。
確かに私に「適当」ができるとは。
思えないから。
「あんた達の世界………いや、ここもかも知れないけど。「暗黙の了解」の、極みなのよね。みんな表面上のやりとりで、踏み入らない、って言うのが。でもそのくせ他人の事にはあれこれ、影で言ってたりするけどね。どうなんだか………。」
「確かに………?なんか、「暗黙の了解」ってのは、なんか良く解るわ………。」
「そうね。それに、あんたはいつも、剥き出しだから。だから、あれとも合うんでしょうけど。」
「えっ?」
あ、あれ?
でも。
朝の顔を見ると、言わずともそれがあれな、ことは分かる。
狼狽える私をいつもの呆れた眼で見ながらも、話を続ける朝。
「まぁね。色々と被っていたならば、あれとは相容れないでしょうよ。なんて言うの、それそのものじゃ、ないと。分かり合えないし、そもそもあんた達は成り立ちも違うしね………。」
「………。」
そう、私が望む、あの人は。
「成り立ち」と言うか。
そもそも、人間では、ないのだ。
沈んだ空気に、仕方の無さそうな溜息を吐く朝。
慰める様に降ってきた言葉は。
長く生きてきた朝に言われるからこそ、私にとって価値のある言葉だった。
「あのね。それそのものの、本質であれば。それは、繋がり得る事だと、思うわ、私はね。まあ、なにがどうなるのかは知らないけど。でも、結局はそういうことなのよ。全ては「ありのまま」「存在」のままで、あれば。それで、いい。それだけだと、思うけど。」
「…………なんか。朝に、そう言ってもらえると…うん。頑張る。」
「何をどう頑張るのか知らないけど、程々にしなさいね………あの石の苦労が偲ばれるわね………」
なんだかブツクサいいながら、またくるりと丸くなった朝。
でも。
私の一番の理解者、ずっと一緒に育ってきた朝に言われるからこそ信じられる、その言葉。
「結局は…………なに、えっと?丸裸で?突っ込めば、いいってことかな………?」
チラリと青い眼が開いたが、異議があるのだろうか。
いや、違うよ?
勿論、突っ込むのは祭祀やみんなにであって、あの金色に、じゃないからね???
え?
ウソ、無理無理………ちょ。
ん?待って?
私、次会う時絶対変な顔してる自信あるわ………。
えっ。
これどうしよ…………???
いかん。
私は「愛」と「勇気」について考える筈だったのにっ。
しかし、麗かな魔女部屋の空気、すぐそこに見える灰色の毛並みは既に、規則正しく上下して、いるし。
遠くに見える白いフワフワも。
まだ、熟睡中の様である。
それなら?
とりあえず…………冷やしてから……?
そうして私は、いつもの様に。
ピタピタと頬を冷ましながら、青空の窓を眺め、その青を取り込んで。
姦しく喋り始めたハーブ達の話を聞きながら、つらつらと頭の中を整理し始めたのであった。
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