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8の扉 デヴァイ
二人のこと
しおりを挟む「仕方が無い事よ、それは。」
暫く私の話を無言で聞いていたソフィアは、小さな溜息を吐くとこう言った。
「どうしたって、割り切れない思いは、ある。あなたが「わかる」様に、なったならば余計にね。」
静かな青の夜。
時折少しだけ挟まれる質問、じっくりと沢山のことを吐いた私は、少し疲れて頭上に瞬く星達を眺めていた。
そう、私達は既に青の少女像の台座に腰掛けていて。
正面にあった青い瞳が横に来ることで話しやすくなった事もあり、過去のことから夢のことまで、沢山の「出来事」を洗いざらい、話したのである。
そんな私の様子を見ながら、彼女は再び、ゆっくりと口を開いた。
「でも。」
そう、言葉を切ってじっと私のことを見つめている。
しげしげと見る、青く透明な瞳に晒されて少しだけ心が軽くなるのは、気の所為じゃないだろう。
そのままじっと私の事を観察していたソフィアは、小さく頷くとニッコリと微笑んだ。
「でも。相手が、「あの彼」なら。大丈夫、じゃないかしら?」
「えっ。」
あ、あの、彼?!???
動揺を隠せない私の事をクスクスと笑いながら見ているソフィア。
「あの彼」とは。
あの金色の事で、間違いないだろうか。
…………いや、ブラッドフォードだと思われても困るけどね…??
狼狽えソワソワと動き出した私を、手で制しながらそのままの優しい瞳で、こう言う彼女。
それはイストリアに言われた事に似た、私達の間の「あれ」の事だった。
「あなた達、少し………変わった、わよね?多分、グロッシュラーへ行く前はこうじゃなかったと、思うのだけど………。」
か、変わっ、た??
どう、変わりましたかね??
再びまごまごしている私に、そのまま続けるソフィア。
「多分、二人の力が混じり合ってるのだと、思うのだけど。………でもだから、きっと。「わかった」のね。それで、また「合わさる」事で癒されもするんだわ………素敵ね。」
「えっ。」
さっきから殆ど何も話せていないが、私の中はわちゃわちゃとぐるぐるで、どう話していいのか分からないのだ。
とりあえず深呼吸をして、胸に手を、当てた。
あっ。
ほんのり、感じてしまった金色の、あれ。
そう、いつだって、心の奥に。
美しく輝く、あの小さな焔を仕舞ってるんだ。
頭上には濃紺のビロード、月明かりの青の道は、恐ろしい程美しい景色を私達二人の前に創り出している。
しかし。
でも。
いつだって一等、美しく輝く、この焔が、あれば。
胸に当てた拳をぎゅっと握り、ソフィアの言葉を取り出す。
そう、ゆっくりと自分の中を順に確認して、私達の「変わった」部分を取り出してゆくのだ。
「あの金色を 好きだ と認めたこと」
「私達二人が 変わったこと」
「お互いの 存在 」
「チカラを 与え合うこと」
「思い出したこと」
「あのキラキラが 愛なこと」
「満たされて 溢れること」
もっともっと、沢山のことが私達の間には、あるし、あったんだ。
その、全てが。
確かに「変わったこと」で、グロッシュラーに行ってからの、ことで。
そしてヒラリと降りて来る、想い。
「えっ?」
私達が チカラを交わしたから
「わかった」って、こと?
でも。
そう なの
か も。
????????
確かに。
私があの時、そもそもあの人のことを「好きでもいいんだ」と、思えなければ。
思わなければ。
こうは、なっていないだろう。
それは、わかる。
「……………えっ、と。」
だから?
「好きだ」と、認めて?
チカラを、かわ………交わして、うん
「ゴホン」
なんとなく咳払いを、する。
で?
「チカラが混じって」?
「わかる」様に、なったって、こと?
ぐるぐる、ぐるぐると回る思考はその先を進むことができずに、いて。
しかしそれは「本当のこと」なのだと、私の真ん中は言っている。
「理由」は 分からないけど。
多分、私達が「チカラを交わした」ことが
何かのきっかけになって、事態が動き出したことは。
確かなんだ。
「えっ。どうしてなんだ、ろう…………?」
無意識に顔を上げ、傍らの青い瞳に問い掛ける。
何故だか彼女が。
「こたえ」を持っていると、思ったからだ。
「「彼」は。あなたの、「対」なんでしょうね。あれは人では無いのかも、知れないけれど。」
「この、世界にあるものは万物、どちらかを持つ法則が、あるわ。どちらも持つのが本当の姿だけれども。「形として」現すと、あなたが女性だからそうなるんでしょうね。」
「…………ん?えっ??」
ちょ、万物どちらか?
法則??
なんかシンみたいな事、言うな??
ソフィアさんも。
私がぐるぐるしているうちに、再び話は始まる。
流れについていける様、止まらない様に記憶のメモリだけは、なんとか動いてくれるようにじっと青い瞳を見つめて、いた。
なんとなくでも、覚えていれば。
後でイストリアにでも、訊けるからだ。
「「あれ」はきっと、あなたを癒す為に、包む為に、在るもの。あなたは本当はもっとずっと、大きくて。人間の手には、余るのかも知れないわね?」
ニッコリと笑いながら、なんだか怖いことを言われている気が、する。
「沢山の、世界を渡り歩いて。光を撒き、繋ぎ、通して全てを救う、もの。それって、「何」だと。思うかしら?」
「え。」
漠然とした質問、しかしとんでもなく大きくて難しいことを訊かれている様な気は、する。
しかし。
「繋ぐ」こと、「光」、「渡り歩く」、それは。
わたしたちに、共通している
「しるし」なんだ。
何故だか知っている、謳っている自分、それが光を「繋ぐ」こと、そして「世界」も繋ぐこと。
いつだって、私は謳うだけで、良くて。
笑顔を振り撒くだけで、良くて、「それ」をいいと言ってくれる人がいて、最後まで。
「それ」をやり続け、みんなを「なにか」で包んで、また新しい何処かで。
会えることを願って、祈り、再び還ること。
鮮やかな「いろ」を見て、「震え」、時には天と地、両方を味わうことも。
どれも、これも、みんな。
「やっていること」は その鮮烈な光を撒き散らし
心のままに 震え 謳い
消えても
消えても
また 舞い戻って。
「己の いろ を 撒き散らすこと」
「光を 振り撒くこと」
「愛 を 溢し 降り注ぐ こと」
頭の中が、真っ白に、なる。
それは 光の様でもあって。
ただ、私の頭の中に「なんにもない」のかも、知れない。
けれど。
頭の中に、「なんにもなく」たって。
私 の 真ん中 は。
真っ白な ひかり だから。
「……………………え、愛、光………私は、何にもないけど真っ白では、ある。真っ白な、光では。あるんだよ。………うん??」
チラリと見上げる、青の瞳。
頭の中がほぼ真っ白な私は、ソフィアがした質問が「なに」を意図しているのか、分からなくなっていて。
とりあえず頭の中に浮かんだ、言葉というかイメージみたいなものを、口に出してみただけなんだけど………。
この上なく柔らかく、優しく微笑んだソフィアはまるで藍が人型になった様な印象すら、与える佇まいである。
あ、うん?
この人………?
「石に近い」的なことを、金色が言ってた………??
ポンコツな記憶を手繰り寄せながら、ただじっと。
その、透き通る様な、美しい瞳を見ていた。
「そうね。多分、全部。正解、よ。」
「えっ?うん?質問、何でしたっけ??」
「まあ、とりあえず。あなた達が、仲が良ければ。世界は、平和になるという事よ。だから、結局。関係が進めば、少しずつ解けてゆくと思うわ。」
「か、関係、です、か???」
ちょちょ、ちょ???
めっちゃ爽やかに微笑んで、凄い事言ってませんか?ソフィアさん???
そうしてソフィアは、再びアブアブし始めた私に少しだけ仕方の無い目を向けながら。
ゆっくりと、何かを考え始めたのだった。
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