透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

繋がる森

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「うん?」
「こっちだ。」
「あ、ありがとう。」

時折声を掛け、道を示してくれる木々にお礼を言いつつ、背後を振り返る。

あの極彩色は、付かず離れず。

内緒のつもりは無いのだろうが、私から離れてついて来る様子である。


まあ、それならそれで………。

煩く小言を言われても困るし?

そう思いつつ、「そろそろかな?」と思っていた頃大きな木が二本、見えて来た。
多分、あのお爺さん達だ。


少し開けた場所に、変わらず鎮座している大木達は私が近づいているのに気が付いていたらしい。

辺りの若木が途切れると「もう帰ったのか」と声を掛けられた。


そう言えば………?

シャットから戻った時も、そんな事を言ってたな??

お爺さん達の時間の流れは、私達とは大分違う。
きっとまた、「すぐ帰ってきた」と思っているに違いない。

「意外と時間は経ってますよ。」

そんな事を言いつつも、あの二本の枝のお礼を言っておいた。
グロッシュラーからデヴァイへは、ラピスここへ戻らずに移動したから。

そう考えると大分会っていない人達の事が「パッ」と思い出されて、涙腺君がヤバそうだ。
すぐに思考を切り替えて、気になっていた事を訊いてみる事にした。


「あの、枝って。知ってたんですか?今は立派に木になって………もしかして、ませんか?」

なんとなくだけど。

多分、お爺さん達が私に枝を託した訳は、「世界を繋げるため」だと思っていた私。

あの運石も、以前は繋がっていた名残だと、ウイントフークが言っていた気がする。
それなら。

大きな木肌を、見上げて思う。


この、話せる木々達、世界が繋がっていたこと、進出して来た白い森。

あの白い森はティレニア、4の扉から進出している筈なのだ。
それならお爺さん達が意図して、グロッシュラー向こうへ枝を分けたならば。

繋がったって、何もおかしくないと私は思うのだ。


そう考えながら見上げる頭上に、星空は見えない。

ただ真っ黒な中にぼんやりと浮かぶ木々の影、少しだけ差し込む微かな月明かりが揺れる葉をキラリと星の様に光らせている。

開けた空間に二本だけ立つ大木達は、その大きな枝を広げ夜から私を守る様にザワリと、一瞬、揺れて。


そして降って来る、声。

それは今まで話していた調子とは、違う。
あの白い森について話してくれた時と同じ、重い音に変化した木々の声だった。


「私達は

「古い 古い記憶」

「繋がっていた世界」

「皆が等しく暮らし豊かであった 時」

「全てのものが共存していた 時」

「互いに 思い合い 奪う事のなかった 時」

「いつから」

「 どこから」

「何故 」

「  どこまで 」

「何れ 世界は 」

「いや しかし 」

「それは 」

「 この子 一人には 」


「  それも また」

「そう 滅びるのならば それも」

「そう  自然の  世界の そう」

「流れ 」

「流れ で ある」



えっ。

途中、チラリと出てきた「あの子」は私のことだろうか。

でも?

「滅びる」のも「流れ」?


それは…………。


しかし。

もまた、

事実なのだろう。

木々が予言の事を知っているとは思えないけど。

でも。

「流れ」で、このまま行けば「滅び」が来る事は。


私だって、分かるんだ。

この自然もの達が、分からぬ事など。

ある筈が、ないのだ。



「私が」世界を救うことなんて、できない。

でも。


じっと大きな木を見上げて、思う。

ポンコツな自分の頭で、導き出した結果は。

「みんな」で、救うことだった。

それも。

きっと、「簡単な方法」で。


まだ、は見つけていないけれど。

きっと、時期が来れば「こたえ」はきちんとやってきて、それも必ず「みんな」ができる、簡単な事に違いないのだ。

そう、時が来れば頭の上からストンと眼鏡が落ちてハッキリと見える様に。

「気が付いていないだけ」で、気が付きさえ、すれば。


「…………うん、きっと。大丈夫だし、大丈夫だよ。それは、から。」

二本の木を交互に見上げ、言う。

「あなた達だって。でしょう?きっと。私達は、できる、知ってるって。だから、頼んだんだ、私に。あの、泉も、枝も。そしてみんな、上手く行った。次は、…………何だろうな?まあ、とりあえず「みんなが」「思えば」。できない事なんて、無いよ。」

うん。

きっと、そう。


そんな、一人仁王立ちでふんぞり返る、私に。

ツッコミを入れたのは、背後にいた狐であった。


「おい、分かったから。早く行かないと、朝になるぞ?」

「えっ?あっ、そうだ。ごめん、じゃあまた来るから!大丈夫だから、よろしく!」


何が「よろしく」なのか、「大丈夫」なのか、分からないけれど。

私が意味不明なのはいつもの事である。


木々達はそのまま私達を森の入り口まで送ってくれて。

時折月明かりが差し込む以外は真っ暗な森を抜けると、開けた土地、遠くに見える白い塀。

懐かしの景色に、浸りたいのは山々だが千里の言う通り私は朝迄に戻らなければならない。


「じゃ、行こうか。てか、何処行く??」
「は?目的が無いのか?」

「んにゃ、そういう訳じゃ、無いんだけど…………。」

そう曖昧な返事をしつつも。

私の目に映るは、一等明るく光っているあの塔の灯り。

あの黒い窓からもクリスマスツリーの飾りの様に光っていた、中央屋敷の塔の灯りだ。

今から教会に行くのは、流石に憚られる時間帯。
それなら。

あの灯りを間近で眺め、青の像なんかを堪能して帰るのも良いかもしれない。


そう思考が纏まると。

「うん」と一つ頷いて、急足で向かう事にしたので、ある。







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