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8の扉 デヴァイ
楽しむこと 2
しおりを挟むくるくる、くるくると堕ちてゆく自分の深いところ、きっとブラッドフォードは暫く私を放って置いてくれる事は、分かっていた。
それならきちんと。
一度、自分で納得しないと。
そう、考えながら自分の「なか」をふわふわと漂う。
きっと彼が「今、そう言った」には理由がある筈で。
「楽しいこと」の話題の筈なのに、出てきた「貴石問題」。
確かに成り立ちからして「問題」では、あるのだけれど。
「楽しい………楽しむ…………でも確かに、レナも。そんなお客さんは、いるって言ってたしな………??」
それは それ
これは これ
そんな様な事を?
言ってた、よね…………??
くるくると回り、漂う私の周りに見えてくる幾つもの景色。
鮮やかな「いろ」、繊細な「におい」、その独特の香りを放つ魅力的な。
屈強な意志でも持っていなければ、最も簡単に陥落されそうな、その、「なにか」。
「知っている」んだ
それが
とても 魅力的 で
いい香りが して
柔らかく 独特の 温もり
特定の におい
特別な ぬくもり
それに 包まれることの
心地良さ よ
確かに「そこ」には、「なにか」が生まれなくとも。
「信頼」と、「尊重」が、あれば。
その「いろ」を楽しみ、「味わい」、深く沈み込める「におい」で安らぎ、しかしどこか興奮するそれに誘われ「発散」する事は、できる。
それは、知っているんだ。
それを「楽しめる」関係も、あること。
私には、まだ分からなくとも。
「なかみ」は。
「知っている」んだ。
ジワリと沁み込む「なにか」、その時の感覚なのか記憶なのか。
それが「悪いもの」ではなく、「良いもの」であった時、齎される感覚となんとも言えない、「満たされた」感覚。
確かに。
胸が、いっぱいになった事だって、あるんだ。
だから。
ふと頭に浮かぶあの時の蓮の、言葉。
「良い悪いじゃなくて、愛があるか、ないかよ」
確かに。
「二人」の間の事ならば。
その双方がきちんと理解し合っていれば、「良い悪い」じゃないのだ。
自分の中に、ある。
「貴石は無い方がいいもの」
「良くないもの」
という、感覚。
「…………これ、か。」
難しい、感情的に理解しようとするとすぐに邪魔が入って、難しい、問題なのだけど。
多分、全体的に、もっと広い視野で、見れば。
「貴石の成り立ち」や「歴史」と「そのこと」は、別なのだと、ちゃんと解る。
ブラッドは?
その事を、言いたかったの…………?
白い空間を目指して意識を移し、くるりとそちらを向いた。
「…………ん?…………あ、あれ??」
いないんだけど?
キョロキョロと辺りを見渡し独り言を言っていると、足音が聞こえる。
どのくらい、ぐるぐるしていたのだろうか。
きっと本でも探しに行ったに違いないブラッドフォードを見つけるべく、立ち上がると丁度銀ローブが目に入った。
「…………。」
えっ。
無言。
でも、確かに。
あの話題の後、彼の方から声を掛け辛いのかも、知れない。
私がどう思っているのか、探っているのだろう。
青い瞳が観察する様な動きで近づいて、来た。
そして何故だか側に来ても彼は、止まる事なく。
「んっ?えっ??」
そのままギュッと、私を抱き締めたのだ。
えっ。
ちょ
なんで? なんでなんで??
えっ えっ??ナニコレ
どう すれ、ば???
いきなりの展開にパニック状態の私は固まったまま、耳元でベイルートが動いているのだけは、分かる。
ん?
ちょ お兄、 おに?
強くなる腕の力、なんだか匂いを嗅がれている気がして瞬間、我に返った。
いや だ
「バチン」と瞬時に弾かれたブラッドフォード、目の前に転がった彼に驚きはしたものの、苦笑している彼を見てホッと、する。
多分、弾いたのはアキだろう。
ハーゼルの事を思い出してゾワリとしたものの、最初に嫌悪感を覚えなかったこの人の事を何故だろうかと、見つめる。
最初は?
びっくり、したから………?
いや、でもハーゼルの時は初めから嫌だったな………?
慣れ??
うーーん?そんなものなの??
「ククッ」
しかし、目の前で笑い始めた彼に私のぐるぐるは何処かへ飛んで。
とりあえずは文句を言う為に、私もそこへ座ったのである。
しかし、暫く肩を揺らして笑っている彼。
それを見ているだけしかできない私は、丁度良く始まった耳元の解説に耳を傾けていた。
確かにあれだけ笑っていれば、この距離でも気付かないだろう。
ちょっと腹話術みたいで楽しいかも、と思いながらもベイルートとコソコソと話を始めた。
「お前…気を付けろよ?」
「えっ、何がですか?でも流石にいきなりああされるとは…」
「まぁな。でも。あれは、まずい。」
「?あれ??」
「あの時、何考えてたんだ?普通、人間には見えんかも知れんがお前からピンクの色が漏れてたぞ?」
「えっ?!ピンク?良くないですか、それ!」
「馬鹿、何言ってんだ。あれは多分、雄を誘き寄せる類のアレだな…」
「ちょ、雄って………まぁベイルートさん今、虫だけど。」
「なにしろ 」
「いや、悪かった。そんなつもりじゃ、無かったんだが………。いや、すまない。」
まだ少しだけ笑っている彼は、何がそんなに可笑しいのか。
ベイルートの言いかけた事が気にならないでもなかったが、まさか続きを訊く訳にもいかない。
代わりにこの人に、「どんなつもりか」訊く事には、したのだけど。
「えっ。あの!まあ、私達、婚約者………では、ある、な??うん?でも?」
咎めようとしたのだが、特に私達の間ではっきりと決め事をした訳ではない。
なんとなくの、暗黙の了解があるだけなのだ。
それに、彼の婚約者だから得ている利点があるのも、事実。
「うーーーーーーーん。」
「いや、今のは俺が悪かった。今度からは。きちんと、訊いてからにする。」
「えっ。」
「訊いてから抱き締めるんですか」とは、訊けなかった。
だって。
口に出すと、なんだか実現しそうだったからだ。
再び笑い出したブラッドフォードを横目に、ピタピタと頬を冷まし気持ちを落ち着かせる。
赤くなっている訳じゃ、ないけれど。
色んな事が、ぐるぐるして私の中は忙しかったからだ。
「で?どうだった?」
そう問い掛けられて、ふと我に返る。
そう言えばこの人は、私に一人で考える時間をくれたのだ。
その、答えが。
聞きたいのだろう。
きちんと話せるかどうかは、分からないけど。
「とりあえず、どうぞ。」
その場に座り直した私は、自分の前の床を示して話しやすい距離に座る様促す。
始めは立って話していた私達だけど。
ブラッドフォードも腰を落ち着けて話をする気の様だ。
銀のおぼっちゃまに、床は合わないかと、思ったけれど。
あの、橙の迷路でベオグラードと座っていた事を思い出して懐かしくなる。
目の前には、似た青い瞳を持つ、大人の男性だ。
ベオグラードと、幾つ離れているのか、聞きたかったけれど今度にしよう。
そう思って、とりあえず口を開いた。
「なんか…………とりあえず。「楽しむ」事もある、と言うのは分かります、はい。」
いや、これ以上何と言っていいのか、分からない。
まさか、私の夢のことを説明する訳にもいかないし、できる気もしない。
興味深そうに見てくる、この視線も気まずいし。
ポッポと頭から湯気が出てきた気がして、パタパタと扇いでいた。
「ふぅん?まあ、それなら、いい。俺達はみんな、親から婚約者は決められるが大概一度はあそこへ連れて行かれるんだ。その後も通うかどうかは、そいつ次第だがな。」
うっ。
そう言って言葉を切った彼に「お兄さんはどうなんですか」とは、訊けない。
チラリと過ぎる「兄上は女癖が」の、言葉。
しかし目の前のこの人は、初対面からそんな気配はしなかった事を覚えている。
どうしてだろうか。
ベオ様の情報が、間違ってるのかな??
うん?でもあれってエイヴォン情報だっけ………?
そんな私の頭の中を察したのだろう、苦笑しながらこう、説明してくれる。
「いや、俺は。通ってはいるが、それは情報を貰う為だ。別にそういう目的では、ない。」
「…………いや、別に?………私は…いい?ですけど。なんでも。」
別にヤキモチとか、焼く訳じゃないしね??
プリプリと話す私を楽しそうに笑うと、今度は繁々と眺め始めた。
あら………?
これは、話題を逸らした方がいいかもね…………。
多分、どうして私がこんなにすぐに納得したのか、気になるのだろう。
きっとこの世界の女性ならば、この人に文句は言わないだろうけど。
「私」なら、咎めそうな、この話。
きっとこれ以上突っ込まないのが気になっているに違いない。
えっ。
どうしようか。
「あ。」
てか、そもそも。
私達、歴史を調べに来たんだわ………。
自分で気が付いて、可笑しくなって笑う。
すっかり忘れていたけれど。
本題に戻さなければならないだろう。
そうしてやっと、「どうした?」と言うブラッドフォードに歴史の話をして。
私達二人は、本を探し始めたのであった。
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