透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

怖れと勇気

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「朝。私、朝のこと愛してるからね。」

「えっ。なに、やめてよ明日辺り死ぬの??」

「ちょ、不吉だなぁ!なんで??」

クスクスと笑うシリー、朝の食堂で繰り広げられるのは、私の告白の筈?だったのに。

何故だか漫才になっているのは、どうしてなのだろうか。


プリプリしながらサラダを食べる私の横で、朝は美味しそうなご飯を食べている。

所謂猫まんまに似た、そのご飯はここに来てからシリーが用意してくれる様になった朝専用のご飯だ。
これまでは私の食べているものの中で猫が食べれるものを食べていたが、スピリット達の助言があったのか。
動物が好んで食べそうなご飯に改良されているのである。

しかし材料は一緒なので、美味しそうな香りがするそれをじっと見ていると「あげないわよ」と言われてしまった。

「いや、流石に。朝からご飯は取らないから。うん。」

そんな事をヤイヤイ言いながら朝食を終え、さて、今日はどうしようかとお茶を飲みながら考える。


結局この間の夜のお出掛けは、まだ誰にもバレていない。
いや、あの狐は知っているのだけど。

…………もしかしたら、あの金色も…?
解っている、可能性は高い。
まあそれは、置いておくとして………。

しかし、誰にも咎められる事なくベッドへ戻り、朝までぐっすり眠っていた私を起こしたのはいつものフォーレストだった。
斯くしてまんまと日常へ戻った私は、すっきりした様なしていない様な。
絶妙な気分だったので、ここ数日は悶々としながらも大人しくこの空間で過ごしていたのだ。


しかしそれは、大人しくしていると、言っても。
それは頭の中がずっとぐるぐるしているからではないかと自分でも、思う。

イストリアの所に行って、図書館にも行って。

夜の青の道は、美しかったし。
ソフィアに沢山、話も聞いて貰った。

そうして。

なんとなく解決した、「あの話」と。

けれども相変わらず「愛」は行方不明で。

祭祀もあるし、光は降らせるけど。


「うーーーーーーーん。」

もう少し、スッキリ、したいのだ。
欲を、言えば。


「ま、とりあえず。あそこかな………。」

そうしてとりあえずの計画を立てるべく、いつもの場所へ向かう事にした。


 


何も無い青の廊下を通り、目指すはいつもの魔女部屋である。

ここは私の空間の中でも少し特殊な雰囲気で、「半分だけ」の様な感覚があるのだ。

何も無い廊下、調度品達がお喋りする事もなく、ここには窓も無い。

借りてきた様な静かな空気、でも半分馴染んだこの感覚は嫌いじゃない。
いつもの様にゆっくりと静かな空気を楽しみながらあの部屋へ向かうこの時間も、好きなのである。


そうしていつもの扉が現れ、これまたいつもの様にカチリとノブを回すと、既に部屋の中にはフワフワの姿があった。


「ここにいたの?………うん?」

多分、お昼寝中だ………。
いや、まだ午前中、朝?

お昼寝にはちょっと早いけどね………。


大きな窓からの光が届く隅、いつもの定位置でゆっくりと背中を動かしているフォーレストはどうやらお休み中である。

「あら。」

そう一言、背後から聞こえた声に朝がついて来ている事に気が付いた。

「うん?朝もここでお昼寝?」

「ううん、何か悩んでるのかなぁと思って。朝からあんな事言うから、気になっちゃったじゃない。」

そう言って尻尾をピコピコ揺らしながら、窓際のハーブ達に挨拶をしている。


あんな言い方、してるけど。

もしかしたら心配してくれてるのかなぁと、ちょっと安心してバーガンディーへ沈み込んだ。

私も自分の中で「なにが」気になっているのか。
それを、考えてみる必要があるだろう。


「愛。愛、かぁ…………やっぱり、愛の事、かなぁ………?」

長机のスフィアに映る、虹を見ながらそうポツリと洩らす。

考えなきゃいけない、いや考えた方がいい事は沢山あるんだろうけど。

が、解決したならば全てが解決するとも、思えるからだ。

いやいや、手っ取り早く解決しようとか、そういう訳じゃないんだけど………。


謎の脳内言い訳をぐるぐるとしながらも、頭の中は。
やはり蓮が言っていたあの言葉に戻る。


 「自分を愛してない」

 「愛は行方不明」

 「スタートにすら 立っていない」


この、そもそも論。

どうしたらいいのか。
どう、しようもないんだけど。

「変える」事は、できないのだけど。


光を、愛を。
降らせる事は決めた。

みんなも手伝ってくれるって。

でもな?

なにか?取っ掛かり??

なんか…………もう、ひとつ、今一つ。


あると、いいんだけど…………??


そう、種蒔きみたいな。
根回し、みたいな。

肥料?そんな感じ?


「こう、愛ってものをもっと解りやすく………受け入れやすい………どーんと、こう、開いて、怖がらずに…受け入れる?用意??ん?でも愛って。別に、怖くないよね??」

でも。

なんとなく「ガード」の様なものがあるのは、分かる。

「なんだろう、これ………?でも、愛するとか愛されるとか、素敵な事なんじゃないの??あれれ………???」


そんなぐるぐるに早速ハマり始めた、私の元に返事が降って来る。

「知らない、から。怖いんじゃない?」

「えっ。愛って、怖いの??」

そう返した私の言葉に。

何故だか朝は、小さな溜息を吐いてソファーへスルリと飛び乗り、座る。

そうして、私の事をじっと見ながらゆっくりと話し始めた。

「今は「愛」というものが置き換えられていたり、誤解されている事が多い世の中よ。そもそも「本当の愛」を知ろうとしている人がいるのかどうかも怪しいし。ないのよ。まやかしに。避けてるの、本能的に。だって、「本当のこと」って、優しくないから。」


「だって、。自分が「ひとり」だという事、何の支えも持たずに歩き続けなきゃいけない事、未来に何の保証もない事。本来ならば楽しくある筈の人生の冒険が「不安」という荷物を持たせられて楽しくなくなっちゃってるのよ。………。全てが決められているから「生きにくい」と、あんたは思うんだろうけど、じゃない人の方が多いのよ。世の中はね。結局、一人で歩くのが怖いから。、楽なのよ。」

「…………。」

「解らないかもしれないわね、依るには。確かに、あんたは「世界」に愛されてる。それは、あんたが自分を愛していて、「世界」をも愛しているからよ。それは、簡単な様でとても難しいし教えられてできる様な事じゃ、ない。でも。」

「人は誰しも。一生懸命、生きていれば。と思うけどね。所謂あんたがよく言う「そういう風にできている」ってやつよ。でもその「一生懸命」が難しいって言うかがむしゃらにやればいいってもんじゃないって言うか………」


最後にはブツブツ言い始めた朝の、言葉を。

酷く納得しながらも私の頭の中はぐるぐると渦巻いて、いた。



「存在」に愛されている、と言ったイストリア。

「世界」に愛されていると言う、朝。

その、意味は曖昧だが感覚として「わかる」、その空気。


言葉にはできない。

できないんだけど。


なにか。

ある。


   私の 真っ白な 「真ん中」に。


 確かに 「なにか」、確固たるものが

 あるのは。


  はっきりと 「わかる」のだ。



だから。

今、ここにこうしているし、きっとこれまでだって。

、やってきたんだ。



不思議な、感覚、しかし認識した事でじわじわと沁み込む「なにか」に自分の「なかみ」がゆっくりと塗り替えられていくのが分かる。

あの金色が侵って来るのとは、少し違った感覚。
だが、もっと静かで安堵するこの感覚は自然の中に居るのに、近い気がする。


そう感じると共に、やはり。

感じれば、感じる程。

この感覚をどうすればみんなで分かち合えるのかと。
思って、しまうのだ。

でも。
朝は「教えられてわかる様なものじゃない」と、言う。


その私の頭の中が分かるのだろう、様子を窺っていた朝はこうも、言う。


「あのね。結局やっぱり、結局は「自分」なのよ。「愛」が足りないし「勇気」も足りない。それじゃ、前なんて向けないしそもそも。自分の事をしっかりと見つめられないのよ。その点、依るは昔から自分の事でぐるぐる、ぐるぐる悩んでた。あの、何もならない様なぐるぐるのループはきちんと役に立ってるのよ。」

「えっ。」

それだけでも、なんか嬉しいな?

そう言ってもらえるから、余計かも知れない。
しかし小さな喜びは束の間、問題は変わらず複雑な沼である。

「だって「本当のこと」を知るって、これまで自分がやってきた事、根底から。覆されるのよ。足元を崩すの。そんなのとんでもない事よ?これまでずっと、信じてきた、信じさせられてきた事を、。疑うんだから。でもしっかりと目を開けて本当のことを見ないと、自分は愛せないし愛なんて分からない。「自分」からずれちゃってたら、いつまで経っても見えないんだもの。」

「大変なことよ。だから「本当のこと」なんて、見たくない奴の方が多い。そうして無意識にでも目の前の現実から目を、逸らして。見ない様にして生きていく、目を閉じて他者ひとの所為にしている奴を、これまでずっとずーっと見てきたけど。」

キラリと光る、青い瞳。

そう、朝はずっと長く生きて。

沢山の人の生を、見てきたんだ。

その朝が、寂しそうにポツリと、言う。


「目を開ける、「勇気」が。無いのよ。」

「勇気…………。」

「そう。でもね、それも。その人の所為でも、ないのよ。そう、させられてきたと言うか、そう教えられてきたと、言うか?そういう風に、社会が。世界が。徐々に、徐々に変わったんでしょうね………。」

確か、以前。

フリジアにも言われた気がする。


「本当の事なんて 誰も知りたくないんだ」

そう、言ってた。
確かに。


「昔から、人間ひとの側では暮らしてきたけど。あんた達は、自由になってきてるのか。不自由になってきてるのか。どっちなのか、分かんないわね…………。」

そう言い残して、くるりと丸くなってしまった。

きっと、考える時間をくれるつもりなのだろうけど。


えっ。

これ?

分かる?
うんん??


そうして相談をするつもりだった、私は。

ポンポンと提示される複雑に絡み合う事実に、再び翻弄される事になったのである。


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