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8の扉 デヴァイ
揺り籠の愛
しおりを挟む「ねえ?でも、さぁ………?」
コポコポと心地良い音が響く、この、ガラスの様な透明な空間。
遠く、近くに見える私の髪にも似た薄水色、雨の祭祀からは土の色や黄色も含み、時折紅色なんかも奥の方に見える。
なにしろ色数が増えて幻想的な空間から、少しまじないの景色にも似てきたこの、揺り籠の中で。
私は相変わらず、唸っていた。
店を出た後、イストリアとハーブ畑にやって来た私は、やはり疲れていた様だ。
遠くに見える、あの石柱が目に入ってしまってからは。
「あれ………あれに入らなきゃ………」とブツブツと呟く私を、仕方の無い目で見たイストリア。
何故だかみんな、危険の無いこの場所に入る事を推奨はしないらしく、渋々許可を貰いやってきた久しぶりの揺り籠の中。
「ああ……………」
謎の呟き、言葉にもならない声を出し、転がったりふわふわと浮かんでみたり。
そう、ここは浮こうと思えば、浮く事だってできる。
でも「漂う」の方が、正しいかも知れないけれど。
なにしろ頭が思ったよりも疲れていたらしい。
まあ、苦手な話題だったのも、あるし。
正直、難しい話もあった。
いや、難しいというか………?
ややこしい…………のか…………??
「これって………でも、石、なのかな………。」
透けるガラスの様な壁を、ペタペタ触りながら移動して行く。
横にスライドしながら感触を確かめ、通り抜け遊んだ、その感覚から。
やはり、石ではないかと思う。
確か、ガラス質の石もある筈だ。
「何だっけな………名前………?」
名前を覚えるのが苦手な私の、頭の中にはやはりその名は存在しなそうである。
なにしろペタペタと、温い中にある冷たい感触を楽しみながらその中に通るチカラを感じて、いた。
そう、この揺り籠の中には。
私が祈った、あのチカラがまだ薄く残っているからだ。
「でも大分薄くなっちゃったもんね………また、祈るからね………。」
そう声に出しつつ撫でていると、ふと、不思議に思った。
ん?
これ、石、だとすれば?
まあ、石じゃなくてもチカラは通るんだろうけど………でも多分、上のあの石窟と。
同じ様なもの、だよね?
そうするとやっぱり、石………。
石、って、さあ。
思った、筈だ。
何処かで。
「石」は「チカラ」「エネルギー」の、塊だろうと。
何処でだっけ?
でも。
別に場所は重要じゃ、ない。
石が………
エネルギー チカラ に
なると して?
確かに。
私の石では色んなものが、創れるし?
この腕輪の、石達も??
「えっ。愛、かも??」
「はあい、呼んだ?」
「いや、藍じゃなくて………いや、藍が、愛な?ワケで………???」
いやいや、ダジャレを言っている場合では、ない。
「ねえ?待って。ひょっとしなくても………。」
応えてくれるだろうか。
私の、この問いに。
「あなた達、「愛」で、出来てない?うん?地球、の?宇宙なのか??なにしろ、まあ、とてつもない年月をかけて創り上げられた時点で大分愛だとは、思うんだけど……………???」
そう、それが「愛」でなければ。
一体、何が「愛」だと、言うのだろうか。
時間が大事な訳じゃない、かけた年月だけ、愛が込もるとか、そういう訳じゃ、ないんだけど。
「でも。これは、愛だよ………じゃなきゃ、こんな美しい、もの。できるわけが、ない。」
キッパリと断言して、腕を上げみんなを見える位置へ掲げる。
この、美しい輝き。
それぞれの色、透明感、ピッタリと嵌る金の腕輪、色のバランス。
いいや、この石達ではなくとも。
みんなみんな、石は美しくて。
私と同じ様に長い、長い年月をかけ育ってきた、石達。
私の肉体は、変わるけれど。
この子達は変わらず、ずっと、少しずつ少しずつ成長するんだ。
そう、思えば。
「えっ。奇跡……………。」
「まあ、私達からすれば。人間の方が、奇跡ですけれどね。」
「えっ?なんで??」
そう言ったのは、宙だ。
「だって、あなた方は。どんなに苦しくても辛い事が、あっても。どうしたって叶えたい想いを持ち続け、また生まれてくる。何度消えてもその生命の炎を再び灯し、やってくるのだからやはり勇気が無くてはできない事。私達はずっと長い間「在る」事はできますが、そうではないですからな。」
「だからこそ。気焔は、変わっていってるのでしょう?珍しいわよね。」
金色の事に言及したのは、ビクスだ。
確かに。
私達の事を「美しい」と、言ってくれて。
自らも変化し始めた金色は、この子達にとっては珍しいのだろう。
て、言うか………?
今迄、そんな石、あったの…………??
無い、よね………?
分かんないけど。
「兎に角、あなた達が愛なのは解った。素晴らしい事よね、それは。うん。」
一人で纏めた私に、藍がこう言う。
「ええ、確かにそうとも言うけれど。それを言うなら、人間だって、愛よ。」
「えっ?」
「まあ、生きとし生けるもの、みんなそうとも、言うけれど。だって、生命を繋ぎ、育む事なんて。奇跡と、愛以外に何があるの?知っているでしょう、それは。」
キラリと光る、水色の優しい光。
藍が言うのはきっと、私の「なか」に刻まれている幾つもの。
「経験」「知っていること」「見たこと」「わかったこと」を言っているのだろう。
確かに。
それは、解る。
別々の二つが合わさり一つになって、新しい生命が産み出されること。
それは、簡単でも当たり前でもないこと。
ずっとずっと、繋いできた奇跡の繋がりの、中で。
いつの間にか………?
「愛」は、何処へ行ってしまったのだろうか。
いつの間に、こんなにも見え難く、遠くへ。
解っている様で、解らないことに。
なってしまったの、だろうか。
当たり前のように結婚して子供を産み育てること。
そうすれば子供が出来て、生まれると思われていること。
そして同じ様に、またその子も育てて。
ただ、それを繰り返すこと。
「奇跡」は、「愛」は、何処へ行った?
いいや、「奇跡」は忘れてしまったと、しても。
最後に「愛」は、残ってなきゃ、駄目じゃない??
「いや、生まれること自体奇跡だから奇跡も大事だよね…………でもそもそも「愛」、どこ行った??デヴァイなんて勿論駄目だし、ラピス?微妙かも??私の世界…………愛…………愛って。うん??もう、愛って、なに。」
わかった、筈だけど。
解ったと、思っていたけれど。
「えっ。これ、解ってなかった、やつ???」
私が透明の壁の前で一人、ワタワタしているとフワリと、空気なのか、水なのか。
空間が動いた、気がする。
しかし辺りを見渡してみても、何も、見えない。
同じ様な景色の中を彷徨う私、ふわふわと漂う中、薄れていた疑問に返事をしたのは蓮だった。
「イストリアは随分と優しい解釈をしていたけど。「愛」なんて、言ってみれば、ひとつよ。」
その、言葉の意味が分からなくて腕を上げる。
少し不満気な声を出す「愛の石」は、何か言いたい事がある様だ。
「随分と優しい、って。どういう事?」
「だって、「お互いが愛と思えばそれでいい」なんて言ってるから。愛がずれてきちゃってるのよ。」
「ずれてる??」
「そうよ。」
どうやらこのピンクはご立腹らしい。
「まあ確かに。別の方向から「あれは愛じゃない」「これは愛だ」って言うのは無粋よ?それは分かるんだけど。結局今は、愛は行方不明よ。嘆かわしい。」
嘆いているこの石が、可愛らしくてなんだか面白いと思ってしまうのは、仕方が無いだろう。
笑わない様に気をつけながら、続きを促す。
「そもそもみんな。まあ、依るは気が付いていると思うけど「自分を愛してない」からね。もう、スタートを切ってないのよ。だから他人なんて、愛せるわけが、ない。余りにも自分を蔑ろにしている人間が多過ぎて、この頃力が回らないのは解るでしょう?」
「えっ?…………そっち????」
世界の?
綻びが?
「愛が 足りないから」、ってこと??
「決まってる。だって結局、全部、みんな、最後には。「愛」なんだもの。仕方無いわ。」
「だからこそ、厄介。」
「それはありますな。」
「まあそう教わっちゃってるしね………。」
「それにしても酷いわ。あんまりよ。」
みんながごちゃごちゃ言い出したのは、半分聞いているつもりだったけど。
私は再び嵌ったパズルのピースが、大き過ぎて。
とりあえずの情報を整理すべく、この心地良い揺り籠の中へ解け込んでいったのである。
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