透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

愛の かたち

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「長くなってしまったけれど、大丈夫かい?」


熱いお茶を淹れ直してくれるイストリア、お腹はいっぱいだがその香りに逆らう選択肢は私には、無い。

頷きながらも鼻をヒクヒクさせている私を見て、クスクスと笑うと新しくグリーンのカップを出しながら紅茶を注いでくれた。
明るい黄緑に、紅が映えてとても美味しそうだ。


両手で持ったカップ、立ち昇る湯気と香りを愉しみながら巡らせる思い、愛のこと、その「慈悲」という壮大な、愛。


でも。
そんな。

「慈悲」?

そんな、壮大なもの、私の「なか」に、あるの??

「わかって」る??

まだこれしか、生きてない、解っていない、私に。

そん な ?


ふと、過る私の裏側の声の様な、なにか。

フワフワと上れそうな夢の中を現実へ引き戻す様な、それは。


…………一体。
でも。

よくあること、でも、あるな…………?



「自分はそんな 大層なものではない」

「自惚れていないか」

「気が大きくなっているんじゃ?」

「側から見ればみっともないかもよ」

「調子に 乗るな」


誰からの声だろうか

何処からの 声 だ    ろうか?



 いいや?

    私   私の。


  なか の   奥の?


   確かに  これ も  自分の。


  声では ないか。




パッと場面は変わり、白い部屋の、中。

正面にはあの瞳、真っ赤な燃える赤に金色が入った、それは。


 なにを 言っていた?

 言われたのでは なかったか


 「誰も見ていない」

 「何もいない」

 「自分しか いない 」

 「殻をかぶるな」


 「謙遜は辞めろ     自らを虐げるな」


 「恐るな     怖がるな」




                 「全てを脱ぎ捨てろ」





 そう したならば。


 そこに  在る  もの とは。





   そう  「真っ白な ひかり」の



       私    だ。




 「えっ?」


   光  わたし   全部


        
         愛    真っ白な 自分



  ん???


 おな じ?


     おんなじ  なの?? ?






一瞬だけ跳んだ、あの、白い部屋。

でも。

「あの人」が言いたかったことは。

「わかった」。


そう、あれもそれも、どれもこれもみんな、自分だけど。



殻を。


 脱ぎ捨てるんだ。





沢山の事が頭の中に降ってきて、いっぱいになっているのは、分かる。

でも。

ぐるぐると回る自分の頭の中、それは立て込んでいる様でしかし、自分の全体を包んでいる様でも、あって。

忙しいには違いないが、何故だか心地良くも、あった。


そんな私の頭の中を慮ってか、暫くただ、ゆっくりとお茶を飲んでいた私達。

しかし、イストリアの一言で。

私は、現実へと急に引き戻されたのだ。


「ところでね?その「愛」と「性」の話だけれど。」

「…………えっ。はっ?そうか。まだ、全然途中だった!」

まだ山が来る事に対してやや怯える私を笑いながらも、大丈夫だと諭す。

そして、もう一呼吸、おいて。

私の顔を確認すると、ゆっくりと話は始まったのだ。



「愛と、性。これはまあ、難しくはないが「今は」複雑に絡み合っている面倒な問題だね。」

はい。
既に私の頭の中が複雑です、先生。


脳内独り言を言いつつも、頷いて続きを促す。
イストリアは極力解りやすい様に話してくれる筈なので、私は暫く黙っていた方がいいだろう。

そんな私の顔を見つつも、話を進めるイストリアに質問をされる。
いつだか私が、ぐるぐると考えて、いた。

この、生命の。

基本的な、根本的な、質問だ。

「君は、この世界が。と、言うか私達人間や動物が。男と女に、別れていると思う?」

そう言ってニッコリと笑ったまま、口を閉じた。

その正面にある薄茶の瞳を真っ直ぐに見つめながら、頭の中に思い浮かんだ事をつらつらと述べる。
多分、纏めようとしても。

無理な事は、分かるから。


「別れてる、って事は。多分ですけど、「その方がいいから」だと、思うんですけどね?だって基本的には。「そうなるようにできている」というか、辻褄が合うというか。私的には、「二つが一つ」に、なる方がチカラが増すのかなぁって。思ったことが、あり、ます………?」

物凄く楽しそうな表情、ちょっと怖いと思ってしまうのは失礼だろうか。
いやいや、でも今は無理難題が提示される場面じゃない筈だ。

「私も。思うよ。だってそもそも、一つの方が良ければ、分裂できる様に創れば。いいだけ、だからね。他の動物だってそうだ。大概が番いになっている。………ああ、うん昔はいたんだよ。記録には、残っている。」

「そうなんですね………確かに、ラピスにはまだ居るしな………。」

「だからね?まあ、雄と雌に別れている訳だろうけども。でも、思うんだ、私は。人間わたしたちに。繁殖期が無くて、衝動があって、理性も、あって。しかし、「心」も備わっている、理由。………うん?難しいかな?」

「………。ちょっと、待って下さいね??」


えっと??
繁殖期………ってのは、アレよね発情期みたいな事よね??
あの近所の猫が鳴くやつ。

で?
衝動………ぁわわわ…………。
うん、あの、アレね、あれ。

理性、は分かる。

で?「心」?


……………まあ。

そう、か。

ずっと、ずっと。

蔑ろに、されてきた。


 「嫌」「気持ち悪い」「触れないで」

「楽しい」 「心地良い」「気持ちいい」

    「解け合って  しまいそう」


沢山の、「気持ち」「心」「感情」という、名の。

どうしたって、切り離せない、もの。


持っていると。

辛くもあるが  喜びも感じられる

「それ」。


その 時折 齎される  一瞬の「甘さ」に

  どんなに 辛く  酷い  生の 中でも


  その   一筋 の  


  その   一瞬 の   「甘さ」が


            あれ ば。





「「心」が、あるから。厄介、でもあるし。でも、失くしてしまったならばきっと。私達は人では有り得ないんでしょうね…………。」


「涙を止めて」と。

藍に、お願いした時の事が思い出される。

「心」が あるから。

辛いこと、悲しいこと、泣き続けること。

しんどいんだ。どうしたって。


でも。

「駄目」「依るじゃなくなる」と言って、止めてくれた、藍のことを思う。

確かに。

泣かない私なんて、「私」じゃ、ないだろう。

きっとただの。
人形、だ。



顔を上げて薄茶の瞳を確認すると、小さく頷いてイストリアは言う。

「そう、「心」は、中々に厄介だが。しかしがあるから楽しいし、「生きる」事も。できるのだと、知っているね?」

「…………はい。」

「だからきっと、私達が男女に別れているのにも意味があるし、きっと「合わさる事で起こるなにか」が、あると思うんだよ。けれども、が。今は、違う目的になってしまっていたり、「利用」されているんだろうね。」

「利用?」

「そう。だって、あれは。いい、餌だ。短絡的に溺れ、何も考えない事ができる、恰好の餌だよ。難しい所だよね、きっと「それ」が「合わさる事の力」の筈なのに、ただ、快楽に溺れて。なっているんだ。悲しい事に、ね。」

「見えない………。」

「君なら。解る、かな?きっとね、ディディエライトと長なんかは。だったと、思うけれどね。「合わさる事によって力が生まれる」、それを利用したくて。きっとあの二人は引き合わされたのだろう。しかし、「」か、どうかは神のみぞ知る世界だと思うけれど。」

優しく笑いながらも深い話をするこの人に、ついて行けているのか、分からないけれど。

あの、二人が。

「合わさる事によってチカラが生まれる」のは、解る気がする。

「でも…………「」、って??そうなるかは、分からないって。だってあの二人はそう「する」為に………あわわ。」

クスクスと笑う声が、空間を明るくする。

少し考えて、イストリアはこう教えてくれた。

確かに。
は。

私が、あの夢の中でぐるぐると体験した、あの感覚だったから。

「そうだね?確かに、「合わさった」では。起こり得ない、ものなんだ。は。しかし君は「解け合い一つになる」感覚を、見たのではないか?だよ、なんだ。ただ、「する」だけでは。なんにも、起こりやしない。それを、解っていないんだな………残念な事に………。」

私がアブアブしている様子を笑いながらも、腕を組み椅子を揺らし始める。

しかし。

思うの、だけど………?


「それ、って。教えちゃ、駄目なんですか?なんか、その「こうしたらいい」みたいな………。」

モニョモニョと話す私をニッコリと微笑みながら、「それだよ」と、言うイストリア。

「どれ」なのだ、ろうか。

私の心臓が保つ話に、して欲しいけど。


「今だって。君もモジモジしているけれど、「これ」を他の人の前で話せと言われたら、話せるかね?」

「いやいや、無理に決まってますよ………。」

「だろう?私達は。ずっとずっと、教育されてきたんだ。「いやらしいこと」「恥ずかしいこと」「女性はその様な話をしてはならない」「貞淑に」「はしたない真似をしてはならない」そんな風に、ね。」

確かにそれは。

私も、何度も繰り返す中で思った筈だ。

「でも、どうして………。」

そんな疑問をぶつける私に、困った様な薄茶の瞳。

そうして口から出てきたのは、やはり根本は。
「同じ」なのだと言う、話だった。


「結局、それも。どれも、これも、みんな。「誰か」や「なにか」に、とって都合がいいから、「そうなっている」のだろうよ。本来の道から逸れ、茨の道を歩む事となった私達に。残された道は。を、解決する道は。逃れる事が、できるのか、この流れを。止める事が、できる、のか…………。ふぅむ。」


そう言って、黙り込んでしまった。


静かな店内、なんならお腹も膨れて。

いつもであれば、眠くなりそうな雰囲気満点、なのだけれど。

今日ばかりは、私もその問題に頭を悩ませる事になっていた。


そうして、ごちゃごちゃだけれど幾分かはすっきりとしてきた、頭の中を。

もう一度整理すべく、同じ様に腕組みをして考え始めたのだ。





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