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8の扉 デヴァイ
魂の繋がり
しおりを挟む「魂」が、繋がっていて。
それを、「知っている」ことで、何が起きるのか。
静かな中二階のドライハーブの、下。
複雑なイストリアの瞳を見つめながら、座り直して考えてみる。
どこから考えれば良いのか、頭の中をぐるりと浚ってみると、行き着いた場所は、あの4の扉。
白い森だ。
あの時、出会った白い女の子。
あの子は結果的に言えば、私の曾祖母、ディディエライトだった。
「………うん?もし最初から、その事を知ってたら…?でも、まだなんにも分かんないな………??」
ん?
でも、待てよ?
「私」が知っているからと言って、それが「全部が私」だとは、限らないよね??
だって、曾祖母も祖母も私?だと、おかしくない???
ディディエライトとは、あそこで「合わさった」から、分かるのであって………?
いやいや、でもセフィラはそもそも………うん?
あれれ………。
こんがらがってきたな………。
でも。
「繋がり」を、知っていることから、考えてみると。
「なかみ」をとりあえず脇に置いて、知っている「事実」だけを。
どれもこれもを、「事実」として「繋げて」考えて、みると?
「なんでそう、なのか。分かる、のかな………でも、何にも解ってないよりは、解決は早い気がします、ね??」
でも、多分。
私の「なかみ」の、中でも混乱は、あった。
やりたいこと、やられたこと、その時は解らなくて、何度も何度も、繰り返してきたこと。
解るまで、飽きるまで。
そうして。
「繋がる」こと、「憶えている」こと、「繋げよう」と、気付いた、こと。
その、それぞれの想いが一つになって繋がって、やっと。
「わかった」んだ。
自分の「真ん中」で。
「だから。それぞれの事実だけでも、駄目で。それぞれの「なかみ」がきちんとそれを経験して、解って、その上で「繋げる」こと。そうすれば………なんか………意味が、解る、と言うか?」
言葉に出しながらチラリと薄茶の瞳を、見た。
興味深そうに細まる瞳、頷くその姿を見て話を進める。
「でも。もし、その繋がりを知る事によって何が、変わるのかと言えば。………より自分の生きる意味を知ることができるのは勿論だけど………あの、やっぱり私達くらいの年代だと「自分の生まれた意味」とか、考えるじゃないですか…え?私だけ?いやいや、きっといますよ。ま、それはいいとして………」
「あと、死ぬ事があまり怖くなくなるかも知れませんね………だって、失敗?とりあえずやってみて、ダメでも。やり直せる、って事じゃないですか。」
「でも命を粗末にするのは駄目ですけどね、結局、「生き切らないと」。意味が、ないんだ。繰り返しちゃうんだ、また。おんなじ、事を。」
そのポツリ、ポツリと考えながら話す、私の言葉を聞いて。
一つ、頷いてニヤリと笑う、イストリア。
その顔を見て、ウイントフークそっくりだと、思った。
あの、悪い顔だ。
そうして。
「それか」と、言ったのだ。
至極満足そうな顔をして、ゆっくりと椅子を揺らしているイストリア。
暫くそうして揺ら揺らしたまま、なにやら考え事をしていたが、いきなりパチンと指を鳴らした。
「成る程ね………。そういう事か。」
「えっ。どういう事、ですか??」
「ふむふむ、成る程。それを、そうして利用する事によって私達が………ふむ。成る程ね。」
「えっ。」
全然、分からない。
分からないが、イストリアは説明する気は無いらしい。
「いや、この話はまた別の機会に。それで、だけど。」
「え、えっ?」
教えてくれないの???
イストリアが「何に」気が付いたのか、全く分からないけれど話は再び「魂」へ戻る。
しかし、私の頭の中がこれ以上混乱すると困るのも、また事実。
とりあえずここは大人しく、続きを聞く事にした。
「で?どこまで話したかな?」
「えっと、「魂」と「体」が別で魂は本当は繋がってるけどそれは教えられてなくて?それで「心」も、あって??心と体は繋がってるから、声が大きいって………。ん?でも魂と体も、繋がってますよね??」
私の、その質問に。
少し考えて、こう言ったイストリア。
確かにこの問題は、中々に複雑だ。
きっと私でなくとも、こんがらがるのは必須と思いたい。
「そうだね。こう、考えると良いかもしれない。」
そう言って一枚の紙を持ってきて、図解してくれる。
確かにこれなら、分かり易そうだ。
「まず………こうして、体の中に心が、くっ付いてるだろう?それ全体を覆っているのが、魂だ。ま、この辺りは解釈の違いがあるかも知らんが、いいだろう。」
「はい。」
「そして、基本的にはこの「心」と「体」、この頭の部分が繋がって考えたりしている。で、やりたい事を、やると。その時々で違うかと思うんだが、まあ、そうして生活しているのだけどそれとは別に「魂のやりたいこと」が、ある。」
「でね?思うんだが。それを、憶えているならば「生」はもっと、楽になると思うんだ。「それ」に向かって経験して、同じ失敗を繰り返さなければ良いのだろう?それなら、いい。」
「確かに………?でも、なんで忘れちゃうんでしょう………??」
「それは、私も思うよ。私だって、「わかってない」からね。君は大分思い出しているから、私よりも「わかる」だろう。まあ、生まれた時は憶い出していないとしても。少しずつ、憶い出して、「それ」に向かっていけたなら。きっと、魂の望みは格段に早く、叶えられる筈なんだ。でも、そうはなって、いない。」
その、言葉が途切れるとシンとする、店の中。
怖くは、ないけれど。
なんとなく緊迫する空気の中、イストリアは再びゆっくりとお代わりを皿に乗せてくれた。
お茶ではなく、お菓子のお代わりである。
私のお腹の具合を心配してくれたに、違いない。
そう、私達はまだ、お昼にありついていないから。
少しだけドキドキしている心臓を静める様に、手を伸ばしてクッキーを取った。
お茶の葉が入った、私の好きなやつだ。
「ま、それを教えない方が得をする奴がいるという事だろうな。まだ、分からないが。」
「そう、なんですかね………。でも、得をする?それってどういう、事だろう………?」
「うん、真相はまだ、分からないがね。とりあえず、私達がそうして「魂の望み」を知らずにくるくると廻る、その中で。探し求めているもの、「魂の望み」を叶えるその為に、必要な私達の力の元となるものが「愛」だと、仮定しよう。」
「あっ。話が戻りましたね?」
「そう、大分逸れたけど本題はここからだ。」
「えっ。あ、はい。」
いつもイストリアの話は、もうふた山くらい超えたか、と思う所から本題が始まるのだ。
すっかり忘れていた私は、思わず再びクッキーに手を伸ばした。
「でもね?もしかすれば、私は「魂の望み」自体が「愛」ではないかとも、思うよ。だって、「愛」が、あったなら。大抵の事は、解決するからね。」
「えっ。」
「なにをそう、驚く事があるかね?君は、知っているだろう?この世に、「愛」が「足りない」所為で。誰がどのくらい、辛い思いをして、しなくても良い我慢を、して。どこがどう、歪んでいるのか。外から来た、君ならば。余計に、解ることかと、思うが。」
そのイストリアの言葉に。
自分が気付かなかった事に、愕然と、した。
確かに。
あの子達に、見て欲しかった景色、希望、将来の夢。
毎日の温かい生活、十分な食事、外で遊ぶ事だって。
グロッシュラーだけじゃ、ない。
ラピスだって。
みんなに、愛が、充分にあったなら。
いや、「愛がない」と言うのは乱暴だろう。
みんながみんな、其々に頑張ってる。
それは、わかるんだ。
でも。
そうじゃ、なくて。
多分、そもそもの、問題、なんだ。
狭い世間、廻る噂、見えない締め付けの中生活する人々。
「誰か」の想いを背負って、生きる、生活。
「なにか」の色に染まって、染められて生きざるを得ない、人生、とは。
「実感」として解る、経験してきたからこそ知る空っぽの「なかみ」「器」「コップ」、何でも良いけれど「満たされていないもの」のこと。
私達は、確かに肉体なんだ。
それには、「魂」も入っているけれど。
その「器」を満たす、為には。
「愛」が、必要なんだ。
思い浮かぶのは前庭の池、並ぶ人々、遠くに見える、子供達。
私があの時 わからなかった
降らせたかった 見せたかった
「この世のものとは思えない程 美しい光」
その 正体とは。
「愛、だったんだ……………。」
暫く。
呆然と、していた。
あの時は解らなかった事が、ぴったりと嵌ったこと、それが私達の「チカラ」の正体と同じ「愛」だった、こと。
やはり、それは。
みんなの、エネルギーの元に、なること。
祈りには「チカラ」があると、ずっと思っていた自分の中に合点が入って、色んな事がパチパチと嵌まってゆく。
自分の中の、パズルのピースが。
空いていた穴に、ぴったりと嵌まってゆくのだ。
教会や神社に行くのが好きだった自分、古来捧げられてきた「祈り」になにかの「チカラ」があると、ずっと思っていたこと。
人々の「想い」や「祈り」「真摯な想い」には、絶対に何かの「パワー」があると、信じていたこと、信じたかった、こと。
それが。
愛?
愛って…………え、でも。
そうか。
別に?
男女の間にだけあるのが、愛って訳じゃ、ないもんね?
親子の愛も、あるし??
友情………は、違うか??
でも、な?
降り注がせたいんだよ、私は。
確かに そう 「愛」を。
そう、思えば。
「友情は違う気もするけど、でも友達にだって、なんなら知らない人にまで。全部、全部に、降り注がなければ。………意味、なくない?」
あの人にもこの人にも、嫌いな人にも苦手な人にも。
だってみんなみんな、今の、「自分の位置」で。
頑張って、もがいて、精一杯「生きて」いる事には、間違いがなくて。
生きる気力が無くなって、蹲っていると、しても。
「その時」「その人の」「その生」の、それは途中で。
それは、状態が違えど、みんなみんな、「おなじ」ことで。
「……………………えっ。待って。ぜんぶ。それって?「全部、愛」って、事じゃないですか??」
くるりと、向き直った私を待っていたのはとんでもなく暖かい、薄茶の瞳だった。
「成る程ね、………成る程。」
そう、ゆっくりと頷きながらも満足そうに呟くイストリアを見つめたまま、私の頭はまだ「愛」で、ぐるぐるして、いた。
そう、突然降ってきたその壮大な「愛」というものに。
飲み込まれながらも、心地よく、自分の中を漂って、いたのだ。
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