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8の扉 デヴァイ
秘密の 相談事
しおりを挟む今日は魔女の店へ行く予定である。
魔女の店と言っても、フリジアの所じゃなくてグロッシュラーのイストリアの店だ。
実は、あれから。
結構な頻度でぐるぐると「自分の奥」について考え、結果気持ち悪くなり、寝込むという事を繰り返した私はやっと「相談する」という簡単な方法に気が付いたのだ。
その、「自分でも意識していなかった、深い部分」に、ある。
なにか、どす黒い様な。
赤黒い、様な。
決して綺麗な色ではないが、無視できない、人間にとって必ず必要であろう、「血」の様な部分。
「あの夢」を見る様になってから、それが自分がこれまで避けていた「性」に関する部分なのだと、気が付いた。
友達の会話にも入れずに、しのぶとも話した事が無かった、「それ系」の話題。
苦手だけれど恥ずかしい、よく知らない事でもあり、知りたい事でも、ある。
しかし、流石にフリジアやイストリアに相談するにはまだ私の心の中が、散らかり過ぎていて。
「あ、レナがいるじゃん」
そう気が付いたのは、余りにも私が昼寝をしているとツッコミに来た、朝と話していた時であった。
そうして本部長に手配をしてもらい、「どうしたんだ?」というあの疑惑の瞳を潜り抜け、やっとやって来た魔女の店。
気分転換にと、旧い神殿からではなく、あの懐かしの穴からスッポリと落ちてきた私は。
「うーん、高速滑り台みたいで、なんかスッキリしたかも??」
そう、いつもの様に謎の独り言を呟きながらも、ピンクの空を眺め桟橋を歩いていた。
とても美しい、紫から水色へのグラデーションが水面へ染み込んでゆく、そんな絶妙な瞬間だったからだ。
「うーーーん。やはり、色は、偉大。癒されるな、ホント………水と空だから余計、だよね…。」
そう呟いて上を見上げていると、桟橋を歩く足音がコツコツと聴こえて来る。
その足音から「レナだろう」と思い、くるりと振り返った。
「なんて顔、してんのよ。」
開口一番、そう言ったレナは今日も美しい青の巻毛をふわふわと揺らし、私の前で立ち止まった。
「うん、こないだぶり。………え?なんか変な顔、してた??」
自分では、笑顔で迎えたつもりだった。
今日は私がわざわざレナを、呼び出したし。
この間の事も、心配しているかと思って元気にしたつもりだったけど。
「カラ元気なのが、丸分かりよ。で?ここで話した方が、いいんでしょう?」
レナが指しているのは桟橋の、端っこだ。
確かにイストリアがいない方が、話しやすい。
本当は二人だけで話したかった私の本音を、何故知っているのか分からないけど。
レナの顔を見ると、凡そ察しがついているのだろう。
前回別れたのも、その話題の後だったし………?
それでだよね………。
でも。
何から、話そうか?
くるりともう一度、茶の瞳をじっと、見る。
多分、私が見ている、夢の様なものは。
きっと私の世界で言う、「前世」みたいなものだと、思う。
でも。
レナにそう話して、解ってもらえるだろうか?
いや、でも、これを話さないと。
多分、「私にこの話題はまだ早い」と思っている周りの人達と、歯車はズレたままになるだろう。
話すか。
話さないで、解ってもらえるのか。
でも?
そもそも、「解ってもらう」必要?ってあるのかな………??
でもそれすっ飛ばしたら、話が通じない………いやいや、私が「これまで黙ってたけど実は解ってました」的な感じで、いく???
うん…………??
でも隠す様な事でもない気も、するしな???
「ちょっと。あんた、相談する為に呼んだんでしょ。全部、吐きなさいよ。」
もしかして、随分ぐるぐるが長かったのかも、知れない。
きっと私のぐるぐるの中身も、大体解っているだろうレナはピシャリとそう言って桟橋に腰掛けた。
「う、うん。ありがとう?」
「どう話せばいいかとか、要らない気を遣ってるんでしょうけど。とりあえず、順番とかいいから、全部話しなさい。あんたのぐるぐるを纏めるまで待ってたら、日が暮れるわ。」
「はい、ごめんなさい。」
「分かればよろしい。で?そっち系の、話なんでしょ?いいわよ、何でも訊いてくれて。」
「うん、訊くって、言うかなんて言うか………。あのね………。」
そうして私がモジモジしたり、俯いたり、赤面したり、泣きそうになりながらも。
頑張って話した内容を、百面相をしながら聴いてくれたレナ。
途中相槌を顔だけで打っていたレナは、私の話が途切れると頬に手を当てぐりぐりと揉みほぐし始めた。
「ちょっと、想定以上」と、言いながら。
「あのね、一応私のいた世界では「前世」って言って、人の魂?中身が、ずっと同じで、生死を繰り返してるって話なんだけど………?うん?でも何の為に繰り返してるんだろ………。」
「うん、とりあえずその繰り返しの中であんたが体験したのが「その色々」って事ね。なんとなくだけど、解った。」
私がまた新たな疑問にぶち当たった所で、レナが本題に戻す。
すぐに脱線する事が分かっているので、容赦なくぐるぐるから引き戻されるのだ。
「で?それは分かったんだけど、何に悩んでるの?知らなかった事を知ったからじゃ、ないんでしょう?」
「うん、そうなんだけど………でも、結局私も自分が「なにに」悩んでるのか。分かんないから、レナに話したかったのかも。とりあえず、今度祭祀をやる事になってるじゃない?」
「あー、確かにそうね。」
「そうなの。多分。このままじゃ。ちゃんと、祈れる気が、しない。多分無理。」
「珍しいわね、あんたが祭祀に対してそこまで消極的なのが。………ま、それだけこの問題?が、引っかかってるって事なんでしょうけど。」
「そうだね………。」
ぶっちゃけ、何処から手を付けていいのか。
それも、分からない。
「なにに」、モヤモヤしているのか。
「なにが」そんなに気になっているのか。
すっかりピンクに染まった空を見上げ、柔らかい色に癒されているとポツリとレナがこう言った。
「あいつに、癒してもらえば?」
「…………」
「えっ?なに?…………ふぅん?成る程………。」
ピンクの空を見上げたまま、無言だった私の反応に、そう返すレナ。
「成る程」とは。
流石レナ様、「なにか」に気が付いたのだろうか。
「ねえ、結構前の話だけど。気焔が少し変だって、言ってたわよね?まだこっちに居た頃よ。よく外出してるって言ってたじゃない?夜。」
「うーん?………そうだね?」
それが何か、関係あるのだろうか。
「で?今は?別々だって聞いてるけど、どのくらいの頻度であんたの所に来るの?その時は?一緒に寝るの??」
「ちょ、ちょっとレナさん………」
「そこ大事なんだけど。全部吐くって、言ったよね???」
いや、「吐け」とは言ってましたが「吐く」とは、言ってませんよ…………?
しかしレナの追求から逃れられる筈が、ない。
それにここは私達、二人だけだ。
ぐいぐいとお尻で詰め寄られ、桟橋を横に移動していた私は観念する事に、した。
いや、元々相談するつもりで呼んだのだから。
きっと話すのが、解決の糸口になる筈だ。
そう、私が恥ずかしさに耐えられるのか、その一点だけが、問題なのだ。
「ちょっと………待ってね?えっと………?なんだっけ?」
「だから!あんた達が、どこまで行ってるのか、の話でしょ!」
「えっ?そんな話だった??」
「まあいいけど。で?キスはしてるわよね?それで?どうなの??少しは進展したの?」
「レナさん、もう少しお手柔らかに………。」
「だから日が暮れるってば。」
「うん、まあ。いや、進展、という意味で言えば。別に、変わってないよ。」
「は?」
あ、目が、まんまる。
綺麗な茶の瞳をまじまじと見つめ、「睫毛が…」と言い出した私にレナがキレた。
「は、あ??あんだけ出し惜しみしておいて、「何も無い」って事、ある???嘘でしょ?!どーなってるの、あんた達………。」
頭を抱え込み、ブツブツ言い出したレナ。
なんだか申し訳ない気分になって、私は自分が何を相談したかったのか、真剣に考える事にした。
いや、これまで真剣じゃなかった訳ではない。
話していれば、糸口が見つかるかも、と。
なんとなく、自分の悩みが見えてくるかも、と思ったのだ。
うん?
でもな?
多分、これか?
この、「恥ずかしい」的な所を、越えなきゃ。
駄目、なんじゃない??
奥の、奥の、奥に、ある。
「隠していたもの」を、取り出すのだ。
それが、恥ずかしくない訳は、ない。
多分、これを取り出さなければ。
また、私はぐるぐるするだろうし、寝込んだり心配かけたり、するのだろう。
そう思って、レナに相談する事を思い付いた筈だ。
フルフルと揺れている、青い巻毛を見つめながら。
そう、思った。
相談するなら、レナが適任だ。
多分、レナに話せなければ。
誰にも、話せない。
それは、分かる。
「…………うーーーーん。」
私の声に、青い波が揺れるのを止める。
しかし、顔は下を向いたままだ。
私が話し始めるのを、待っているのだろう。
「この手の話題」が、苦手な事を知っているレナは。
待つ事にしてくれたに、違いないのだ。
「あの、ね………。」
考えは、ちっとも纏まっていない。
でも。
だけど。
多分、一個一個、ゆっくりとそれに近い、言葉を探して。
漏らしていけば、きっと解ってくれる。
その確信があった私は、自分の「なか」を「奥」を、探りながら。
ポツリ、ポツリと話し始めたのだった。
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