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8の扉 デヴァイ
本部長の考察
しおりを挟む「銀はこれまで、亡骸を処理する事で。威厳を保ってきた筈だ。まあ、初めも力は強かったのだろうが、今はあまり関係無いからな。それでもこれだけの権限を持つのは、死後の処理とそれをずっと担ってきたという歴史だろうよ。」
「成る程。確かにそれはあるかもだな………。」
「それに加え、礼拝の事だ。詳しくはもう少し調べてみないと解らんが、俺の見立てだと多分礼拝の力はその扉に行っているのだろう。」
「何故ですか?墓地へ行っても意味が無いでしょう。」
「なんだか恐ろしいな、墓場へ吸い込まれると考えると。」
「それなんだ。しかし、ヨルの話によれば。あいつの蝶が居るのは長の所ではないと言う。多分、それがそうならば。やはり、「その奥」へ吸い込まれたのだろうよ、力と一緒に。あれの蝶は確かに力に似ているからな。」
なんだか物騒な事を言い出したウイントフークに、ついヨルがいないか辺りを確認してしまった。
銀の二人が帰った後、俺達三人はいつもの様に書斎で会議中である。
ぐるぐると回っていたウイントフークの独り言にレシフェが相槌を打っているうちに、向かいに座ったウイントフーク。
そうしてそのまま、この話になった訳である。
まじないが蝶と同じか、似ているならば。
この男の研究材料になる事は、間違いない。
きっとまだ試していないだろう事を思いつつも、再び始まった話に耳を傾けた。
「でも、そもそも繋がってない、ってどういう意味ですか?確かに扉と、扉は。前は繋がってたんだろうけどな………?」
俺にもサッパリ、意味は分からない。
テーブルの上でぐるぐる回っていると、ウイントフークがこんな事を言い出した。
「あの青のホールに。鉱山の扉があるだろう?ベイルートはヨルと行った事があったか?どうだ??」
確かに。
ここの扉と、もう一つ少し小さな扉が「鉱山の扉」だとは。
ヨルが、言っていた気がする。
しかし、俺は一緒に入った事は無いのだ。
何せ、あの子が来るまであの扉は開かなかったからな。
「いいや。何故だかあそこへ一緒に行くのは、フォーレストが多いな?」
「ああ、そうかもしれん。まあ、それはいいがあそこは時間が歪むんだ。」
「「え??」」
「いやしかし。………ヨルだけって事もあり得るのか………」
「ちょっとウイントフークさん!「時間が歪む」??それって危険…」
そのレシフェの言葉に微動だに、せず。
そのまま顎に手を当てていたウイントフークが帰ってきたのは、レシフェがお茶を淹れ直している時だった。
「いやまあ、しかし。それに関しては今、検証する術は無いな。とりあえずは保留だ。」
「へ?その、時間が歪むやつですか?」
「まあそうだな。それよりも。多分、本題を詰めていけば、自ずと答えには近づく筈だ。なにしろその力の行先とデヴァイを思い通りにしている奴は、同じものだろうからな。」
「「えっ。」」
意味が分からない。
まあ、ウイントフークの言う事は大概意味不明な事が多いものだが。
奴はとりあえず俺達の顔を見ながら、腕組みをして考えている。
きっと、どう話したものか考えているのか。
いや、それともどう無茶振りをするのか考えている、の方が正しいのかも知れない。
とりあえず俺達二人は、本部長の作戦が示されるまで待つしかないのだ。
チラリとレシフェの方を見ると、きっと考えている事は同じなのだろう。
ここぞとばかりに、近況を尋ねられた。
「あの、ブラッドフォード?どうなんです?結局あいつら婚約式的なものってやったんですか?」
「いいや?披露目の茶会とやらはやったけどな?結局、なんだかんだ気焔と仲が良いからな。今の所は黙認って感じだ。」
「へえ?意外と心が広いんですね。ふぅん?それにしてはあのアリススプリングス?あれはヨルはブラッドフォードのもの、みたいな感じだったな……。まあ、あいつらにとってはその方がいいからなんだろうが。」
「結局、アリスに関しては利益優先だからな。俺としてはヨルが幸せになってくれれば、それが一番………」
「なんか久しぶりに平和な事言いますね…。幸せって言っても気焔も充分、普通じゃないからな。ま、俺らは見守るしかできないんでしょうけど。」
「そうだな…で?お前は諦めたのか??ヨルの事は??」
「………はあ?…………まあ、諦めた、と言えば嘘になる………のか。もう、自分でもよく分かりません。でもアレよりインパクトのある女なんて、もういないだろうな………。」
「色んな意味で、それは、分かる。」
「でしょう??!俺は不幸なんですよ。まあ、別に女なんていなくてもいいんですけどね………」
「寂しさが漏れてるぞ?」
「五月蝿いな、お前達は。」
俺達の話が大分脱線しきった所でやっと、ウイントフークが帰ってきた。
「しかし、俺が気に入らないのは。それが、何であるにせよ「恐怖」を使って人心を操っている、という所なんだ。」
いきなり現れたその「恐怖」という言葉に、戸惑い顔を見合わせる。
帰ってきたと思ったら、本部長の話がまた訳の分からない事になっていたからな。
俺たち二人の顔を見て、「仕方が無いな」という風に溜息を吐いたウイントフーク。
いや、これだけ話を飛ばしておいて。
「解れ」と言う方が、無理がないだろうか。
そう思いレシフェの方を見ると、やはり同じ事を考えている様だ。
そんな俺達の向かい側で、ウイントフークは足を組み直した。
「今は。力で縛られている訳では、ない。ある程度のルールはあるが、そこまで大きく破る様な奴もいないし、ある意味平和だ。この世界は。何によって、保たれていると思う?」
その、抽象的な質問に。
俺達は再び顔を、見合わせる。
とりあえずは質問に答えようと、さっきウイントフークが言っていた事を思い出す。
確か?
「恐怖」が、どうとか、言っていたよな?
何か「恐ろしいもの」でも用意して、それを使って脅しているとか??
サッパリ、分からない。
チラリと隣を見ると、顎に手を当て考え込んでいたレシフェがハッとして顔を上げた。
「もしか、して?」
食い入る様な瞳でウイントフークを見つめている。
しかし「また男に見つめられてるな」なんて呑気な事を考えていた俺に対して、レシフェが言った言葉の意味は。
中々に重たいものであったのだ。
「その、貴石の事も、そうだ。商売の事だってそうだろうし、何よりも。そこから「外れる」こと。それができない。………今はベオグラードやリュディアが向こうにいるからな…あまり気付かないかも知れないが………いや、そもそも時代が変わってきたって事か………?」
始め俺は、レシフェが何を言っているのか、サッパリ分からなかった。
しかし向かいのウイントフークは小さく頷いて、相槌を打っている。
多分、二人の考えは同じなのだろう。
そうして俺がその話を黙って聞いていると、徐々に内容が分かってきた。
確かに。
それは、「恐怖」の話だったのだ。
「俺は半分グロッシュラーで育ったようなものだ。でも、ラピスでもそうはっきりと明文化されたルールがあった訳じゃ、無いよな………?」
「それが嫌らしい所だな。「暗黙の了解」で、しかし破ると社会的な制裁が、ある。ヨルが始めの頃、教会で相談やら何やらごちゃごちゃやっていたが、結局教会への相談の半分以上はそんな内容の筈だ。」
「そうですよね………。俺自身あまりそういった場所に身を置いてなかったが。ラピスなんかでは、「噂」がそうだって事か………。」
「デヴァイでも、暗黙の了解で女に自由は無いし、力のバランスが崩れても家のバランスは崩れない。まあ、沢山の理由はあるが元を正せば「同じ」なんだ。」
「…………確かに。できるのに、やらない理由、って事ですよね。別に何処が一位になってもいい筈なんだ。でも、均衡は保たれて、いる。」
「ああ。どこかに上手く根回しをしている奴がいる筈だ。それも上手い具合に、例え協力関係でなくともそうなっている可能性も、ある。」
そこまで聞くと、俺にもピンときた。
「もしかして。この前、お前達が言っていた「お互いがお互いを縛る」、って言うやつか??」
俺がそう言うと、「今気付いたのか」という風な視線が、二つ。
チラリとこちらを見ただけで、二人はまた会話へ戻る。
「それと、「恐怖」が。どう関係あります?まあ確かに、道を逸れる事の後ろめたさはあるんでしょうけど。」
そのレシフェの言葉に対して、ウイントフークはぐるりと俺達二人を眺めると。
「お前達には分かり難いだろうな。」
そう言って、暫く黙り込んでいた。
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