透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

魔女の店で

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「ごめん、大体この辺りの話は。私には、聴こえるんだ。」

「えっ。」


レナが必要な物を調達して、店を出た後。

お茶の支度をしてくれているイストリアが、始めにそう、断りを入れた。


そう、そのまさかの、まさか?
聴こえてた??

え??筒抜け??

ちょ、穴があったら是非、入りたいんですけど……………???


一人、無言で悶絶している私を見ながら、クスクスと笑うその声に。

他意は、含まれていないのは解る。

でも。

「それとこれとは、違う………恥ずかしくない訳は、ない………。」

「ごめんごめん、途中行こうかとも、思ったのだけどね?やはり、二人の方が良いだろうと思って。君とはこうして、話せる訳だし。」

「いや、いいんです、いいんです。ちょっと私のメンタルだけが………。」
「ん?」

「いや、何でもないです…………。」

そのまま、モジモジモジモジ、していたけれど鼻には良い香りが届いている。

「カチリ」と私の前に銀彩のカップを置くと、向かい側に腰掛けるイストリア。

正面からその薄茶の瞳で見つめられると、落ち着かないかと思ったが逆に落ち着いてきた自分が、いた。

イストリアにはいつも、相談していたからかも、知れない。
貴石のことも。
私が「自分のなかみ」で、ぐるぐるしていた時もいつも話を聞いてくれたのは、この人なのだ。


そう思うと、話せる気がしてきてとりあえず頭の中を纏める為にカップを持った。

薄水色に、銀彩の美しいカップとソーサー。
イストリアの所には幾つカップがあるのだろうと思いつつも、顔を近づけ香りを愉しむ。

「………はぁ。」

「疲れた、かい?」

「ええ、そう、ですかね………なんだか頭の中なのか、胸の中なのか。忙しい事は間違いないです。」

私の答えを聞いて、またクスクスと笑うイストリアは最後に私が抱いていた疑問を、テーブルの上に「ポン」と、乗せた。

あの、難しい。
なんとも言えない、幾つもの事柄が絡み合う様な、あれだ。


「あの時君が。話していた、内容だけど。」

「えっ。はい。」

私の準備ができるまでなのか、薄茶の瞳を細めこちらを見ているイストリア。

どの、事だろうか。
でも、多分。

私が一番、ぐるぐるしている内容と言えば「あれとそれが違うもの」かも知れない、という事だろう。

そう思って、自分の中でも未だこんがらがっている「そのこと」を思い浮かべて、みる。

しかし、上手く言い表せない私の頭の中を覗いた様に、イストリアは話し始めた。


「そのね。「私達が埋めようとしているなにか」と、「その行為」は、確かに違うんだ。ちょっと解り辛いのだけど、そもそも。私達は、何で満たされると思う?」

「何、で?満たされる、か…………。」

「そうだ。そもそも、が解らないと多分もっと複雑になってしまうんだ、この問題は。ずっとずっと、私達が間違えてきた道の。何処からが、どうして間違ってしまったのか。は、私達がどうすれば満たされるのかが、きちんと解っていない所にも、原因はあると思うんだ。」

「…………ふむ。確かに?」

考えて、みれば。

あの子達子供達だって。


「どうすれば」上を向けるのか
希望が持てるのか
未来を描けるのか
好きなものや事が分かるのか
気持ちを言葉にできるのか

そんな簡単な事から始めないと、いけなかった。

それは。

あの子達が、「知らなかったから」に違いないのだ。


「あの子達の事と、似てますよね………どうしたら、満たされるのか。結局、「それ」をするのも満たされたいからだよね…あ、でも男の人は違うのかな??うん?」

「ハハッ、その辺りはまあ、あれだ。動物的な本能はあるだろうが。別に、「その行為」だけじゃなく吐き出すなら、方法はあるよ。」

「………。」
「具体的には聞かなくていいね?」
「はい………。」

私の渋い顔にケタケタと笑っているこの人は、揶揄い過ぎじゃ、ないだろうか。
うーん。

「なにしろ「その行為」を、したいと思うという事は少なからず「温もり」を、求めているのだと思うよ。人が持つ、暖かみ。一人では得る事ができない、「なにか」だ。」

「うーん、それですよ。でも、触れ合って温もりがあれば、それで満たされるかと、言えば?」

「まあ、そういう場合も、あるだろうね?君らなんか、じゃないのかい?」

「ぇっ。」

や。
変な声、出た。


しかしイストリアの瞳はただ、優しいだけで揶揄う様子は無く、本当にそう思っている事が分かる。

既に手のひらで両頬を抑えている私は、そのまま自分の中をぐるぐると探してみたけれど。

「私達、が………くっついてると、「満たされる」かと、言うと??…………まあ、確かに。満たされますね…………。」

何コレ。
なんの、辱め…………?????


クスクスと笑うイストリア、私は顔が上げられなくてそのまま白いテーブルクロスの刺繍を眺め始めた。

いつもの、繊細な草花が美しく刺繍された、この店にぴったりの白いクロスだ。

チェーンステッチや相模刺繍の様なコロコロした大小の玉、実の様なモチーフを眺めているうちに徐々に治まってきた、顔と頭の、中。

チラリと水色の髪を盗み見ると、既に茶葉を取り替えようとしていたイストリアと目が、合った。


「落ち着いたかい?でもね。だと、思うんだよ、私は。」

「???」

「いやね?君らが、だろう?目の前でのを見ていると、本当に理想的だと思うよ。だって、本来ならば「それ」は。力の交換や、力を与える「こと」だったと思うんだよ。若しくは、もっと力を増幅させる、役割だね。うん?大丈夫か?」

話の途中で既に、顔が熱くなっていた私は再び両頬を挟んだままソワソワしながら話を聞いていた。
なんなら、立ち上がってウロウロしたいくらいだ。

いつもの、ウイントフークさんみたいに。


無言でピタピタしている私を見つつも、新しい茶葉をサクサクと入れお湯を注ぐ。

相変わらずの手際のいい動きを眺めながら、さっきの言葉を反芻していた。


 金色が、私にチカラを注ぐこと

 私が金色に色を加えたこと

 私のキラキラを彼に与えることができること

 沢山注がれると、ピッカピカになって溢れ出すこと

 
「ぐっ…………。ふぅ?」

おかしな声を出しながら、思い返してみれば。

確かに。

私達は、「チカラを与え合うこと」が、できて。

「チカラを増幅させる」のは、多分私の「色」が入る事によって彼が変化し、また新しい彼になる、あれのことかと、思う。


「…………確かに。、かも。」

「まあ、そうだね。」

再び柔かに微笑む薄茶の瞳をチラチラと覗きつつ、パッと手を外した。

丁度私の前に、熱いお代わりが置かれたからだ。


「なにしろ、それで。君達の間で交わされているは。何だろうね?君は何だと思う?」

「えっ、イストリアさんは知ってるんですか??」

意味深な笑みを浮かべたその瞳からは、答えは読み取れないけれど。
「知っている」という顔は、分かるのだ。

「まあ、そうじゃないかな?と言うのは、あるよ。でも、君の意見が聞きたいな?どうだい、どう、思うかね?」

「ちょっと、待って下さいね…………?」


えっ。

うん?

私達の「チカラ」の、正体??

まじない?
いや、違うな。

エネルギー………に、近いよね?
でもそれって「チカラ」だし?
そう言えば分かるかなぁ?

イストリアさんだし、分かってくれるとは思うけど??

でも、そもそも。

その、「チカラ」が、なんなのかって言う。

話なんだよね?


チラリと、薄茶の瞳を確認する。

ただ、ただ優しく私を見ているその瞳を見ると、安心すると共にもっと奥まで考えてみようと、思えた。

多分、その。

「チカラ」の正体が、あるのかも知れない。



万物の。

全ての。

みんなの。

「チカラ」に、なるのは「なに」なのか。


きっと、が解れば。

多分、必ず。


 これからの「私」に、役立つ筈なんだ。

それは、解る。



ふっと、目の前に差し込んだ光に上を向いた。


天井から下がるドライハーブは、相変わらずこの空間の雰囲気を暖かみのある魔女の店に創り上げて、いるし。

一筋の光に躍る小さな埃たちも、キラキラと美しい。
テーブルの真ん中には、白い小花。
何のハーブだろうか。


その、一筋の光に舞う小さなキラキラをじっと眺めていると、フッと「こたえ」が降って、きた。

いきなり。

突然、だ。


「えっ。「愛」かも。」

自分で言って、瞬間、ポッと顔が熱くなるのが解る。

でも。

降ってきたんだ、突然。




が、「本当のこと」だと、「わかる」のだ。


紛れもなく。

自分、の。


    「本当のこと」 だと。




ポットの口から出る湯気、ふと動いたイストリアがティーコゼーをポットに被せた。

「私も。思うよ。きっとね。」

それだけ言って、静かにお茶を飲むイストリア。

私も、ただ。

なんとなく、今のこの空気を壊したくなくて、そのまま黙ってお茶の香りを楽しんでいた。
少し草の香りが立つ、広い空間を描く様なリラックスする、香りだから。


とりあえず私達は、暗黙の了解でその時間を。
ゆったりと、愉しむことにしたのである。






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