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8の扉 デヴァイ
若者達
しおりを挟むあれから、少し。
銀の二人とラガシュの提案で、再び集まる事となった若者達はいつもの書斎で頭を悩ませて、いた。
今日、ここの主人は不在である。
わざとかどうかは知らんが、それを知ると「始めは僕達だけの方が、かえっていいかもしれませんね」と言ったラガシュ。
ウイントフークが不在の午前中から集まる事になった若者達は、やはり幾らか気楽な様子だ。
そのうち帰って来たら合流するだろうが、始めは当事者だけで。
話したかったのかも、知れない。
何と言っても話題の中心は、彼等が利用する貴石の事だ。
あまり女に興味の無いウイントフークがいると、話辛い事でもあるのかと俺はいつもの定位置、本棚の隙間に陣取っていた。
勿論、後で報告はさせてもらうけどな。
そうして始めは挨拶と当たり障りのない近況から始まった、若者達の話。
一度話が途切れ、そこへ漸く本題を持って来たのはブラッドフォードだった。
「結局。どこのどいつだ?こんな世界に、俺たちを放り込んだのは。」
「銀で、すら。この手のひらの上で、転がされているだけとはな………。」
アリススプリングスと一緒に顔を見合わせるブラッドフォード。
ある意味被害者風のその言い分に、水を差したのはハーゼルだ。
「おいおい、君達は。これまで散々、天辺で威張り散らしておいてそれが分かったらそう言うのか?俺達はずっと、全員が、この中にいたんだ。みんな条件は同じ。被害者面はよしてもらおうか。みんながみんな、加害者なんだよ。そこんとこ、忘れないで欲しいね。」
ムッとしながらも黙る、銀の二人。
しかし言われ慣れてないのだろう、アリスがそのまま口を開いた。
「知らなかったんだ。お前だって悪くない訳じゃないなら、その言い方は止めろ。」
「………気付いてないの?問題はそこじゃ、ない。それだってきっと予想内さ。頭に血が上って、カッとして。矛先が明後日の方向に、向くだろうという事、すら。」
ハッとして顔を見合わせる、銀の二人。
そう、確かにハーゼルの言う通り。
アリスはムッとしてハーゼルに言い返した。
もし、これで家の権力を笠に着て黙らせるような事が、あれば。
これ迄と同じ様に、この事実は隠蔽されて行くのだろう。
それは、判る。
きっと二人もその結論に至ったのだろう、そのまま黙りこくってソファーに座った。
何故だかまだ、みんなが。
立ちっぱなしで、話を始めていたからだ。
それを見てラガシュがハーゼルに座る様勧め、自分も同じ様に隣へ収まった。
今日のメンバーは。
気焔抜きの、この間の面子である。
何故誘わなかったのかラガシュには訊いていないが、なんとなくあいつも解るのだろう。
「気焔」が普通じゃない、という事はな。
「それにしても。こう、まんまと嵌められて、さてどうしてやろうかと思うけど。何処に標的を定めるべきなのか、全く分からないね?何か知らないの、銀は。」
そう切り出したのは、ハーゼル。
相変わらず軽い口調だが、こいつなりに話を纏めようとしているのが分かる。
しかしそれに対して気に入らないのか、ブラッドフォードがこう言った。
「お前はどうして…。まずは貴石をなんとかする方が先決じゃないのか?それにきっと、その「標的」は。すぐに見つかるようなものでもない筈だ。」
その、答えを聞いて。
ハーゼルはニヤリと、悪い顔をした。
「え?だって君、悔しく無いの?…あ、いや敢えて君って言わせてもらうけどさ?」
「だって「はい、これで遊びなさい」って言われて、与えられた玩具に、涎垂らして夢中になって。なんにも、外で起きてる事に気付いてないって事でしょう?まんまと、乗ってるんだよ。俺らだって。その、「敷かれたレール」の上に、ね。そりゃ、貴石はなんとかしないといけないと思うけど。多分、そっちじゃない。そこじゃ、ないんだよ。」
シン、とする書斎。
銀の二人は顔を見合わせ、何か通じ合っているのか。
まだ、話していない事があるのか。
ハーゼルはその二人の様子を黙って見つめている。
しかし、その沈黙を横から破ったのはラガシュだ。
「巧妙な罠なんですよ。その個人的過ぎる、事柄を通じて枷を嵌められた僕らは。互いのコンプレックス、見栄、「人の見せたくない部分」を、利用され。まんまと言いなりにさせられてる、って事です。」
「誰も言い出さないからな。そうだと、少しでも気が付いたと、しても。」
「自ら、それを見つめ、気が付かない限りは。互いに目を瞑り続ける、って事か………。」
「そうですね。」
「上手いんだよなぁ。」
一同銘々にそう言い、俯いたその、時。
カチリと扉が開く音が、微かに聞こえた。
しかし若者達は誰も顔を上げていない。
大丈夫なのか、こいつらの危機管理は………。
俺がそんな事を心配しているうちに、再びブラッドフォードが口を開く。
「だったら、どうするんだ。」
「そりゃ、その「相手」に?一発、ぶちかましてやらなきゃ、なあ?俺だってまだ。落とし前は、付けてないんだ。」
その、新しく加わった声に。
皆が一斉に、振り返った。
「お前………?」
「ああ、顔は見た事あったか?そうだ。お久しぶりです?」
そう言って、場に似付かわぬ爽やかな笑顔を貼り付けて。
そこに立っていたのは、レシフェだ。
いきなり現れた新しい客に、ラガシュとブラッドフォード以外は驚くかと思っていたが。
しかし、アリスは知っている様な顔だ。
レシフェは以前、グロッシュラーで館の補佐をしていたと言っていた。
その所為で顔を知っているのだろう。
そうしてレシフェは、驚きの空気の中一人悠然と微笑んだまま。
その爽やかな顔で、こうも言った。
「それで?………お前達の贅沢や暇潰しの為に犠牲になる者の事も考えて欲しいものだな?俺達はゴミ屑でも、奴隷でもない。同じ、生きた「人間」だ。」
いきなりの登場に加えて、この鮮烈な物言い。
部屋の中はシンと静まり返り、ラガシュは気まずい顔、ハーゼルは面白そうな、表情。
銀の二人、だけは。
頭を殴られた様な顔で何を言われているのか、言葉が入って来ていない様だった。
しかし、俺には一言言いたい事があった。
この場で言うべき事じゃないかも、知れないが。
しかし、俺からして見ればこいつらはどっちもどっち、だったからな。
だから、レシフェの耳元へ飛んでこう言ってやったんだ。
「悪いが。俺も、お前に消されたけどな?それに沢山の人間があの黒い穴に落ちた筈だ。こいつらだけが、悪いという訳じゃなかろうよ。」
「………。」
俺の言葉を聞きぐっと押し黙るレシフェ。
可哀想かも知れないが。
それもまた、事実。
若者達はきちんとそこに在る「事実」を、見つめて。
これからを、考える必要があるからな。
あの、「臭い物には蓋をする」爺どもと、違って。
「誰かが悪い」や、「正義と悪」という概念だけでは。
この問題は、解決できないのだろう、きっと。
いつもヨルの事を見ていると、そう思う。
あの子がみんなを惹きつけるのは、「両方」を見ているからなのだ。
誰も、何も、置いていく事ができない、と。
いつも沢山のものを抱えて進む、あの子を。
助けてやりたいと思うのは自然な事なのだろう。
そう思いつつ、ことの成り行きを見守っていた。
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