透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

作戦本部

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何故だか今日は珍しい顔触れの、書斎。

丁度ヨルが出掛ける時間に合わせてやって来た男達は、全部で五人。

いつものラガシュに気焔。
それに、意外にもアリススプリングス、ブラッドフォード。
もっと意外な所で、ハーゼルだ。

俺は頭数に含めないとしても、その場を仕切るウイントフークを入れて総勢六人の書斎は、やや男臭くなっていると感じるのは俺だけか。


聞き役として参加している今日は、発言はしない予定だ。
コッソリと本棚の隙間に収まり、皆の表情が一番見易い場所に陣取る。

そうして皆を集めたウイントフークが、いきなり話し始めた内容、とは。
意外にも、今ヨルが頭を悩ませている事だった。


「お前達、貴石は。何故、作られたと思う?」

元々は白の身分であったろうウイントフークは、銀の二人に臆する事なく年下の彼等にそう問い掛けている。
いや、こいつに「遠慮」という文字が無いだけなのかも知れん。

微妙な面子にお互い探り合うような雰囲気だった男達は、いきなりの変化球にかなり面食らった様だった。


気焔以外は書斎のソファーに向かい合わせに座っている。

一番気不味そうなのはハーゼルで、向こうグロッシュラーに居た時から「御用達」だと聞いていたのでその所為だろう。
銀の二人の方をチラチラと見ながら、馴染みのラガシュへ助けを求める視線を送っている。
あの二人はネイアだったから、知らぬ仲では無いのだろう。

しかし案の定、視線を感じてはいるのだろうが青ローブは知らぬふりを決め込むつもりの様だ。

ラガシュ自身は利用した事がないのだろう。
余裕の表情で、澄まして座っている。

その、向かいの銀二人は。
微妙な表情をしているけどな?


「別に、個人が思っているかを聞きたい訳ではない。「何故あるのか」、お前達がどう考えているのか、聞きたいだけだ。心配するな、ハーゼル。」

「お、俺ですか??」

やや飛び上がったハーゼルは、苦笑いをして頭を掻いた。
しかし、一番に発言する気は無いのだろう。
そのまま再び皆の顔をぐるりと見て、大人しくソファーへ収まった。

そんなハーゼルを見ながらいつもの様に部屋を彷徨くウイントフーク。
誰も口を開かない面子を見て、奴はこんな事を言い始めた。


「そもそも。俺達が「神の一族」と言い始めたのが、間違いだ。人間は本来、愚かな生き物だからな。」

危なく口を開きそうだったが、踏み止まった。
若者達は皆、意外そうな表情。
ウイントフークは「外から来た」という印象があるからかも知れない。

ようやっと飲み込めたのか、始めに口を開いたのはブラッドフォードだった。

「「愚か」とは。どういう意味ですか?」

「まあ、僕からしてみれば。充分、愚かだと思いますけどね?」

茶々を入れたのはラガシュだ。
俺はこいつが言う理由は解っているが、銀の二人はムッとしている。
ラガシュの飄々とした話し方も、気に入らないのだろう。

しかしウイントフークは銀の事など意に介さぬ様子で、ラガシュにこう問いかけた。

「この間。俺が言った事を、覚えているか?」

少しの間、考えていたラガシュ。
俺も考えてみたが多分、あの事ではないだろうか。

「僕たちが。「最後の家畜」とか、いうやつですか。」

ボソリと答えたラガシュの返答は、俺と同じ。

その返事を聞いて満足そうな顔をしたヤツは、ぐるりと若者達を見渡し言葉を待っている様だ。

そうして各々が「ウイントフークが返事を待っている」事に気が付いた男達は、お互い顔を見合わせては、いる。
が、なんと答えていいものか考えあぐねているのだろう。

確かに、衝撃的な内容だからな。

「神の一族」と、言われているのに。

「最後の家畜」と、言われたのだから。



「理由を教えて下さい。」

意外にも、最初に口を開いたのはアリススプリングスだった。

流石と言うか、上手く感情を隠しては、いるが。
小さな苛立ちの波が、伝わって来る。

緊迫している場面なのだが、俺は若者達が熱くなっているのを見て少し楽しくなり始めていた。
どうしたって、落ち着いてしまっているデヴァイここの若者達が。

少しでもこうして感情を露わに、物を言ったりすることがいい事だと思えたからだ。

なにしろ。

全てを押し込められているこの環境下で、じっと大人しく過ごしていたならば。
要らぬストレスも溜まろうと言うものだからな。


きっと思う事は同じなのだろう、再び揶揄う様な声を出したウイントフークは更に追い討ちをかける。

。解らない、のか?」

「一度も?、無い、と?」


緊迫する、部屋の中。

ラガシュは真剣に考え始めているのが分かり、銀の二人は悔しそうな顔。
ハーゼルだけは。

何故だか、ニヤニヤしながらみんなの様子を見ていた。


その様子を見ていたウイントフークに目で合図され、頭を掻くハーゼル。
暫く向かいの銀の様子を見ると、小さな溜息を吐いて話し始めた。

「まあ、俺達赤は。日和見と言われているが、それが良い方向に働く事も、ある。よく、見えるからな。」

「そうだろうな。俺もに居たら気が付かなかったかも知れん。」

「そうでしょうね?あなたがここに居たら白か、まあ今は銀ですけど。………結局俺らは。この中で、牽制し合って、下らない事をやり続けて。何の為かは知らないが、このままそれを繰り返していく。だ。」

「下らない?」

「だって、でしょう?ここから、俺達は出られない。ちょっと行っても、グロッシュラーだけ。それでこの中ではジジイどもが「どれが上だの下だの」言ってるだけ。別に面白くも、何ともないじゃないか。ああ、言ってる意味が、分かりましたよ。だから、貴石は俺らに与えられた「暇つぶし」なんだ。」

「まあ、そうだろうな。」

身も蓋も無いな…………。

ラガシュは複雑な表情をしているが、銀の二人なんかポカーンだぞ?


そんな二人に構わず、容赦の無いウイントフークはたたみかける様にこう、宣った。

「お前ら、本当におめでたいな?、空が無いと思う?ある筈の、あって当たり前であった太陽が、無い。どうしてお前達はここから「出られない」といて、外が「穢れている」と、言い聞かされた?」

「それが今や、どうだ。グロッシュラー向こうは豊かになりつつあり、それに気が付き始めた者も勿論いるだろう。しかしな?向こうへ行こうとしてる者は、多分いない。まだ、縛られているんだ。「穢れている」と、いうその幻想にな。子守唄の様に言い聞かされ育ったお前達にとってはそれは「呪い」だろうよ。可哀想に。」

「………可哀想、とは………。」

ポツリと言った、アリススプリングスの声が。
小さく部屋に、響く。

「充てがわれた「オモチャ」は。お前達を縛る道具でも、ある。殆ど年頃になると連れて行かれる「同じ重りを持たされる」場所、お互いに共犯者であるという認識。どんな立場の弱い者にも残されている、「こいつにだけは強く出れる」という、環境。下のものによって作られる優越感と献上される贅沢品、「穢れている」という差別意識のくせに、その優越感を守る為に。まじないの強い子供を産ませる為、時に利用する「穢れている筈の女」。自分で言ってて、反吐が出るな。」

一旦言葉を止めて。

苦い顔をした、ウイントフーク。

「まあ、色々あるが。とりあえず、俺を含めたお前らも、漏れなく全員が。この、「仕組み」の中にいる事に間違いはないんだ。さて、どうするかな………。」

そう、言うだけ言って自分の世界にいつも通り入ってしまったウイントフーク。
この場を何とかしてからにして欲しいものだが。

きっと同じ事を思っているであろう、ラガシュが気を遣って口を開く。

「いや、僕も。驚きましたよ。そう言われてはいましたが、意味が解ってなかったですからね。」

「それにしても流石だな………俺だってそこ迄は考えてなかった。」

「まあ、あの人普通の人じゃないですからね…ホント、どうしようか、な?」

ハーゼルと軽口を叩きながらも考えているラガシュ。

対照的に向かいの二人は、未だ固まったままである。

どうするんだ、アレ。
俺は今日喋る気は無いぞ??


そう思っていると、ノックの音がする。

「はい?」

何故だかラガシュが返事をして、扉を開ける。

開いた扉の外に、立っていたのは。

物凄く、意外な人物であった。
多分、ラガシュにとっては。


「えっ?!あれ?なん、で?………いや、どうぞ?」

「なんだ、私が来ると不味いことでもあるのかい。」

そう言ってズンズンと書斎へ入って来たのは。

厳しい表情をした、メディナだったのである。


いや、これどうするんだ?

そう思って俺は本の間に、隠れる事にしたけどな?



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