透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

夜の

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「ヨル、なだけに。夜は好きなのかい?」

「フフッ、イストリアさんそれオヤジギャグですよ………。」

おかしな顔をしているイストリアを見ながら、クスクスと笑う。

再びの中二階に収まった私達は、お茶を淹れ直してくれるイストリアの洒落を聞きながら話が始まるのを待っていた。



しかしイストリアがそんな洒落を言っているのは、私の所為でも、ある。

店に戻って開口一番「祭祀をやるなら夜祈りましょう!」と言ったのは、私だからだ。

すぐに変な顔をしたウイントフークに対して、イストリアはいつもの様に「面白そうだ」という顔をしていて。
レナは、知らんぷりを決め込んでいる。

ゆっくりとフォレストグリーンのカップを持つレナを見て、「フォーレストは居眠りしているかな」なんて思っていた。
本部長の追求が、来るまでは。


「で?お前はまた、どうしてそう突拍子も無い事を言い出したんだ??」

心底呆れた目をしながらこちらを見ている、ウイントフーク。
ちょっと失礼じゃないだろうかと思いつつも、説明する必要があるのは分かる。

納得してくれるかどうかは、分からないけど。

「あの、星があったんですよ!ここには。多分、前は…あったか、無かったかな…??………とりあえず。やはり、変化してるって事じゃないですか??だから、………ウフフ。」

「なんだ。恐ろしいな。」

失礼しちゃう。
みんな私を「恐ろしいもの」扱いして。


しかし、そんな事でめげる私では、ない。

その、呆れた顔の目の前で重大発表かの如く、言ってやったのだ。

私の「夜の星空をみんなで見よう」という、壮大な、計画を。


「いや、太陽はみんなそこそこ堪能しましたよね??もっと出るに越した事はないですけど、とりあえず。とりあえずですよ…………フフフ。夜!雲が晴れると、どんだけの美しい夜空かは、分かんないですけど。でも、この天空の島で、夜空で、星が一面に…………ああ、駄目だ。綺麗過ぎるとパンクするかも知れない……………。」

私が一人、自分の想像に酔って蝶をヒラリと、出すと。

盛大な溜息と同時に、ケタケタと豪快に笑う声が聞こえて来た。

「確かに。夜空は、私もでは見た事がない。美しかろうね?」

「当然ですよ!他に明かりの無い、どんだけ真っ暗なのか、濃紺の美しいビロードなのかは分かりませんけど兎に角美しい事に間違いは  」

「五月蝿い。とりあえず、待て。」

私達二人の間に手を出した、ウイントフーク。

イストリアはラピスに居た事があるので、夜空の美しさを知っているのだろう。
何にしても、この人が私の提案を否定する事は殆ど、無い。

レナは相変わらず知らぬふりを決め込んでいるが、多分「面白そうだ」と思っているのが眉の動きで判る。
チラチラと私とイストリアを往復するその茶の瞳はキラリと光っているし。

その隣にいるウイントフークも、反対はしていない。

駄目ならハッキリと、すぐにそう言うであろうこの人がこの様子なのはきっと「どうすれば」可能なのかを考えているのだろう。

「フフフ………」

キロリと睨まれたが、仕方が無い。

こんな楽しそうな話が実現しそうならば。

笑いの一つや二つ、漏れるというものである。


「とりあえず、お前らちょっと店へ行ってろ。」

そう言って「シッシ」と私達を追い払った本部長は、本格的にイストリアと話を詰める様だ。


よっしゃ!

コッソリとガッツポーズをして、「行こ!」とレナを誘う。

そうして階段を降りると、再び店の隅でコソコソと内緒話は始まったのである。




きっともう外は暗くなるからだろう、「店へ」と言ったウイントフークは時折こちらをチェックしながら何やら難しい話を相談中の様である。

ここの外はまじない空間で、入れる人も限られている。
そう危険は無い筈だが、何かあるといけないと思うのは分かる。
心配をかける気は無いので、そのまま入り口近くのハーブティーコーナーでプチ女子会は始まった。


「で、畑のことはあっちに任せるとしてさ。その他、なの??店は?ベオ様は??」

「え?ベオグラード?なんで?」

ちょ。
ベオ様??
どうなってるの???

進展、ゼロな訳?????

私の顔が可笑しかったのか、クスクスと笑いながらレナが言う。

「ベオグラードは相変わらずだけど、シェランとリュディアはいい感じよ?あれ、そっちはどうなの??あの二人って結婚できるのかな?」

確かに。

レナの提案に頷きながらも、「ベオ様まさかランペトゥーザとずっと研究してるんじゃないでしょうね」と首を捻った。
こればっかりは、本人に頑張ってもらわないと仕方が無い話。

一旦、その話題を自分の頭の中で除けると、レナの言うシェランとリュディアの話に頭の中を切り替えた。

そう言えば?
シェランって、どこの家から売られたんだろうか。


チラリと中二階を確認するも、今ここでその話題を出す訳にはいかない。
シェラン自身の口調からは、あまり気にしていない様子が見て取れたけど。

これは、私が勝手に広めていい話ではない。
ウイントフークに訊く程度は、許してくれると有り難いけれど。

………でもあの人、石の話とか聞いてたら勘付いてそうだな…?


くるりと大きな茶の瞳に向き直ると、とりあえず探ってみる事を請け負っておいた。

「えっ。大丈夫なの?なんだかあんたに任せると心配だわ…。」

「だって訊いたのレナじゃん。大~丈夫だって!それで??お店はどうなの?もう始めた?姉さん達は??」

私がポンポンと繰り出した質問に渋い顔をしながらも、小さな溜息を吐いたレナ。

出発前は「任せて」とは、言っていたけど。

やはり、一人だと大変なのだろうか。
もう一人の協力してくれそうな姉さんは…どうなんだろうな??


私がレナの様子を見ながらも首を捻っている様子を、今度はレナが観察している。
どうやら「話すべきか話さぬべきか」、考えあぐねている様子である。

とりあえず幾つも質問をしてしまったので、大人しく待っていた。
レナはきっと私が落ち着いて聞ける様に、話す内容を吟味しているのだろう。

あまり芳しく無い表情から、それが判る。

「あのね………」

そうしてゆっくりと話し始めたその内容は、ある程度は予想内の話だったけれど。
徐々に話が進むにつれ、何故だか、自分の奥が。
深い所で沸々とする様な、これまでには無い感覚を感じ始めていたのだ。


「畑が出来て、人が増えたのは聞いたでしょう?それでね………だから、客も増えたのよ。それで結果として、稼げる様になっちゃったの。」

「これまではできなかった様な事、買えなかった様な物が買えたり。貰ったりしてね?贅沢、まではいかないかもだけどを知ってしまってから。変わった姉さんも、結構いたの。これまでは私達の方に…あ、私とラエティアね、こっち寄りだった姉さん達もエレファンティネの方についたりして。でも、文句は言えない。だって、気持ちも分かるものね…これまでの事を考えたら、仕方無い。それは。」

「うん……………。」

「幸い、客が増えただけで酷い扱いをされる事もないからある意味今迄通りと言えば、そうなのかも知れない。それに………」

「?なに?大丈夫、言って?」

口を開いたまま、言葉を止めたレナに続きを促す。
大丈夫、と目で頷いて私の様子を探るレナを安心させたつもり、だったけれど。

「………あのね、うん。は、必要だって。言う、姉さん達が増えて。これが無くなると、逆に問題が増えるって言うのよ。」

「?」

レナの言っている意味が分からなくて、「やっぱり」という顔をされる。

少し下を向いて考えていたレナは、チラリと中二階を見上げるとコソコソと耳打ちでこう、言った。

「男の人は。しないと、ストレスが溜まって大変なんですって。」

「は、あ???」
「シッ!!(声が大きいわよ!!)」

折角耳打ちしたのに、というレナの小言も上の空で。

自分の奥、何か深い所にあるモヤモヤが「グワリ」と渦を巻いたのが、分かった。


は?

意味が  わかんない  けど???



 ストレス??
そんなん私達だって、溜まるわ???!


え?   なに??

  その  「必要悪」みたいな


 え   意味が




「ちょ、ヨル!!」


少し遠くに聞こえる、レナの声。

私は

自分が自分の「なか」に溺れているのが、分かっていた。


でも。

だって。


なに が。


 わからないんだ

 何が  

 こうも  渦巻く  のか


なに が

      
          こうも。



   未だ           こう して。




  
    私

           わたしたち

                    を。






 縛り付けるのか

 絡め取るのか

 決めつけるのか

 

         私たち は。




   「もの」  でも

   「奴隷」  でも


  「嗜好品」でも   「おもちゃ」でも




   なんでも     ない んだ





 「人間ひとだよ? ひと  な の」




 「分かった。落ち着け。」

「大丈夫だ」
  「今は」   「もう 」


 「大丈夫だ。  ここに  いる。」




ただ 私を包むのが 金色の光だという事だけ が


 解って。




そのまま 自分の なか に。



そっと。

自分を、閉じたんだ。









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