透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

グロッシュラーの様子

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「なんだか難しそうな話をしてるわね?」

中二階を見上げながら、そう言うレナ。

「うん。だから私もこっちで色々見ようと思って。で?どうなの、レナは?店は?もう始めたの??」

矢継ぎ早にそう質問する私に、チラリと上を見上げる茶の瞳。

「ちょっと。外へ、行こうか。」

「うん?そうだね。」

確かに私達がここであれこれ騒いでいては、叱られる可能性がある。
いや、多分五月蝿いのは私だけだけど。

そうしてレナと連れ立って、ドライハーブのアーチを潜り「カラン」と鳴るベルを通って外へ出た。




「で、さあ。こっちの、話なんだけど。」

「うん?」

空を見上げながら、返事をする。

「空」とは言ってもここはまじない空間で、今日はいつものピンクと紫のグラデーションの空だ。

久しぶりの美しい色合いを眺めながらレナの話の続きを待っていると、それは変化の話から始まった。


「畑はね、結構順調に行ってたのよ。でも、今回なって。子供達は落ち込んでるわ。あんたは船の様子は知ってるのよね?」

うん?
それは、あの船がもうすぐ完成間近だという事だろうか。

「うん。」

なんとなくの私の返事に、続いたレナの話を聞くとやはりそれで合っている様だ。

「あの子達もやっぱり、その後仕事がどうなるのか不安だったらしいの。何か新しい事はやりたいけど。制限だらけのこの世界で、やれる事は殆ど無い。でも、光が降りて、畑をイストリアが作ってくれて。ホッとしてたの、みんな。」

少し笑顔が出るレナを見て、ホッとしたのも束の間。
やはり畑がああなった所為でトラブルが起きたらしい。

「でも順調なうちは、良かった。結局子供達の方が成長が良くても、あんたの石で何とかしたり調整できてたから…。でも。」

「うん?………まさか、なに?」

急に曇る茶の瞳に、良くない予想が頭の中を過ぎる。

「やっぱり、良く思ってなかったんでしょうね。この風を起こしたのが、ロウワの所為だって。誰かが、言い出したのよ。」

そう言って、もう一度チラリとイストリアの店を見たレナ。

そこまで聞いて、レナが私を外へ連れ出した理由が分かった。
多分、イストリアやウイントフークならば。

私に「この話」は、しないだろう事が分かるからだ。
私も、レナも。
それは、今迄の事から充分に解っていたのだ。


桟橋の真ん中、少し店からは離れた場所。
その、ピンクと紫の空間に真っ直ぐ通る茶色の道の真ん中辺りに佇む私達二人は、ただ黙って見つめ合っていた。

向かいにある茶の瞳にはレナの心の中が映し出されている。
心配の色、でも、なんとかしたい、色。

そのレナの色を読み取って、そのまま見つめながら考える。
私の、できること。


今?
すぐは、無理………かな、どうだ、ろうか。

正面の瞳がフッと緩んで、スッと視線が外れる。
少しだけ下を向いたフワフワの青い髪は、サラリと流れて表情を隠した。

「無理は、しないで?」

「うん、まぁ、うん。?」

けど。だから、迷ったのよ。でも。あんたなら、知りたいでしょう?」

「…………ありがと。正解。」

その、レナの気持ちが嬉しくて緩んだ涙腺を締めるべく上を見上げた。


「…………はあ。」

ん?

「あれ?レナ、ここって星あったっけ??」
「え?どれ?」

「あれ、見て。」
「ああ、ホントだ?………星、ってあの光ってるやつよね?」

その言葉に、思わずぐるりと隣を、見た。

「ちょ、何怖いんだけど。」

「えっ。まさかの、まさか?!嘘でしょ??………え、でも空が見えない、なら?あり得る、か…………。えぇ~…………。」

そう、レナは。

星空を、見た事が無いのだ。

その事実に驚きつつも、このグロッシュラーの雲、シャットでは星が見えなかっただろう事、ラピスで夜、外へ出た時の事を思い出す。


うん?
でも祭りの時は??
あー、でも意識してなかったからなぁ…………「空見て」とか、言わないと分かんないかぁ………。

「…………マジか。うーーん?星空?それも、いいな…………?」

「ちょっと、大丈夫?私怒られるの嫌よ??」
「えっ、何それ。また私がなんかやらかして、レナが教えた事怒られちゃうやつ??」

「まあ、そうとも言うかも知れないけど………。」


二人で美しい色を見上げながら、星を探す。

何やら隣でブツブツ呟きが聞こえるが、聞こえないフリをして星を探す事にしよう。
うん。


さっきまでは一つだった、明るい星が。

もう少し、小さな星が一つ、また一つと。
増え始め、夜になってきたのかと辺りを見渡す。

ウイントフークとデヴァイ向こうを出て来たのは、確かに午後だったけれど。
もう、そんな時間なのだろうか。

それともここが、まじないの空だからか。


私達二人の目の前で「ほら」という様に、美しく瞬く星は増えていく。

まるで「大丈夫」「光は 増えてる」と。

応援してくれているかの、様に。


を、見て。

ジワリ、ジワリと湧き上がってくる、「なにか」。


「言葉にできない」もの が。

自分の「なか」に湧き上がり、溜まり、沸沸としてハラハラと溢れ出すのが、分かる。


  ああ  


    美しい な

 応援されて るんだな

   大丈夫     変わって いる

   変化

       増えて


  光が            星 が


   少し     

          少しずつ


   
ジワリ、ジワリと沁み込んでくる「なにか」、溢れ出す星屑と空の、色。

星が出てきたからなのか。

湖面からほんのりと上ってくる深い青、浸食される紫、追い上げられるピンク。
その美しいグラデーションを、眺めているで。


やはり。

あの 「なんにも要らない」空間に、なるのだ。

ここも。


「綺麗ね。」

ポツリと呟くレナに、返事はせずに頷いておく。


星が、見たいな。

星を、見ようか。


みんなで?

 できる?

    いいや。   


          やるんだ。




「大丈夫、できる。思い立ったが、吉日。」

「え。何それ。怖いんだけど。」

「フフッ、子供達、夜更かししたら怒られちゃうかな?でもな………一度は見せたいよね…………。」
「ちょ、何の話よ?まず相談してからにしなさいよ??」

「まぁね。どう、しようかなぁ。ねぇ、夜は月は見えるの??」

「は?月??月って、夜の太陽みたいなやつよね?昼間だって、まだそんなに雲は晴れない。夜はもっと雲よ。」

「えっ。まだ?」

少し前に旧い神殿に来た時は。

畑が大分、いい感じだと聞いていたからもっと太陽が出るのかと思っていた。
しかしまだまだ、少ない様だ。

「えーーー。じゃあ…………どうしょうかな…………。まさか?アレ?アレかな??」

「え。とりあえず、戻ろう。もう、私の手に負えないかも。」
「まあまあ、レナさん。聞いて下さいよ。」

「嫌よ。」

そうして、二人でキャイキャイ言っていると遠くでベルの音が聞こえる。

同時に振り向いた私達は。
勿論、顔を見合わせお互いを前に押しやっていた。

出て来たのはなんだかニヤニヤしている本部長だったからだ。

「ちょっと、何かやらかすのはあんたなんだから…」
「いやレナが言い出したんでしょ、」


「何をやっている。戯れあってないでとりあえず、来い。」

そんな私達を冷めた目で見ると、そう言って戻って行ったウイントフーク。

「ねぇ、この風の所為でここへ来たんでしょう?」
「そうだよ。」

「ふぅん?なら、あまり怒られないかも。」

「どういうこと??」


そうして再び、キャイキャイ言いながらも。

とりあえずは、既に扉へ消えて行った銀ローブの背中を追ったのである。

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