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8の扉 デヴァイ
風
しおりを挟む馬鹿みたいに強く吹く風が
怖い と感じたのは
いつからなのか
昔は。
いや 子供の頃 は
強く吹く風が楽しくて
空をも 飛べる様な気が して
背中に大きく 風を受け
背を押されて走り
いつもより早く走れる その 感覚に
心を躍らせ 自然の 「なにか」の
「大きな チカラ」を
感じていたのでは なかったか
「世界」は 自分の 一部 だと
「自分」は 世界の 一部 だと
「私」 は 自然の 一部 で ある と
いつの間に 忘れていたのだろうか
大人になる とは
大きくなる とは
こうも 感覚を鈍らせて しまうものなのだろうか
「ふぅん?素敵ですね。」
「素敵、とはどういう事だ。お前、これはなんとかできると思うか?作物がどんどん駄目になっているらしい。急に、だ。今朝相談が来た。」
そう言って本部長が、急遽私を連れて来たのは。
勿論、畑のあるあの灰色の大地、グロッシュラーである。
「とりあえず見てみるしかない」という謎の誘い文句で、朝からやってきた石の館。
いつ来てもあまり人気の無いこの館は、あまり使用人は居ないのだろうか。
そんな事を考えつつ、外に出て畑の方へ向かっていたところ。
話に聞いていた、一陣の「強い風」が吹いたのである。
「そもそも、ここに風は無い筈だ。どうしてまた………」
ブツブツとそう呟いている本部長から聞いている内容は、こうだ。
「少しなら有難いが強い風が吹き過ぎて困っている」
「なんとかできるか」
本部長自身も、見ていないその事態を把握していないからなのだろう。
漠然とした情報と、「吹かない風が急に強く吹く」という「変化」のこと。
なんだ、ろうな?
でも?
悪くは、なくない?
だって、風が無いよりは。
あった方が、いいに決まってる。
きっと種もよく飛ぶだろうし。
それに。
「空」が見えて、「おひさま」が出て、「世界が廻る」なら。
「風」だって、吹くのが当然だからだ。
「風には風の。言い分が、あるよ、きっと。」
「何、言ってる。そろそろかな。」
そう、実は私が畑に行くのは初めてなのである。
ずっと行きたいと言っていた畑、それに「問題」とされているのは「風」。
私にとっては。
「風」は「問題」には、なりようが、ない。
だってそれは。
「自然」だからだ。
「空気」「空」「水」「緑」そんな「自然」という「くくり」のもの、それ以外に。
「あって当然」「あるべき もの」という、「状態」の自然。
だから。
恐れることは、無いし。
多分、きっと。
何か、原因がある筈なんだ。
急に、そうなった、理由が。
「なんだろうな…………。」
その「原因」を考えつつも、背の高い銀ローブの背後をトコトコと歩く。
あまり前を見ていなくとも、この色にピッタリとついて行けば躓く事も無いだろう。
そうして下を向いて歩いていたのだが、躓かなくともその背にぶつかってしまった。
いきなりウイントフークが止まったからだ。
「イタッ!ん?どうしたんですか?」
ピョコリとその背中から顔を出すと、目の前には荒れた、畑。
その意外な広さに驚きながらも、その惨状に思わず手を口に当てた。
「………思ったよりも、酷いな。」
そのままスタスタと畑の間を縫って歩いて行く後ろ姿を。
そのまま黙って、見ていた。
これは。
これ、って。
「風」じゃ、なくない??
薙ぎ倒された草や野菜、ハーブや、花。
その、どれもが。
薙ぎ倒されただけではなく、ボロボロに枯れて、いる。
無惨にも色を失ったその生き物達は、もうただ枯れただけではなく。
朽ちて、しまっている様な。
そんな「色」を、しているのだ。
えっ。
だって?
「風」が、原因ならば。
こうは、ならないでしょう。
うん?
「知らない」から?
いや、でもな………。
ここでぐるぐるしていても、仕方が無い。
「とりあえず、イストリアさんだ!」
そう、自分に勢いを付け言って。
膝を叩いて、走り出した。
あの、背の高い水色髪に向かって。
「確かにとりあえず話を聞かねば、いかんだろうな。」
ウロウロと畑を調べ時折蹲み込んでいたウイントフークは、私の提案に頷くとすぐに向かってくれる様だ。
荒れた土を見ながら、道へ戻る。
やはり、おかしい。
土も?
なんだろう、これは。
灰色の石畳へ戻り、くるりと振り返る。
もう一度しっかりとその光景を目に焼き付け記憶すると、「行くぞ」と声が聞こえてきた。
畑は造船所と旧い神殿の間に、ある。
「はぁい」と振り向くと、足元を確認して先を急ぐ。
銀色の靴にも。
少しおかしな土が、付いていたからだ。
トントンと足を踏み鳴らす様にすると、水色髪を走って追い掛けて行った。
「でも、あれ。絶対、風じゃないですよね?」
「おや。やはり君も、そう思うかい?」
ハーブ香る、イストリアの店。
いつもの中二階でお茶の支度をしながら、イストリアが振り返る。
「どういう事だ?」
「いやね、あまり作物を育てた事の無い君には分からないかも知れないが………」
「俺だって実験に使うハーブ位は育てた事がある。」
親子のやりとりは側から見ている分にはとても微笑ましい。
私が笑っているのがバレて、早々にウイントフークは立ち上がり階段を下る。
何か見ているフリをしているけれど、きっとあそこで私達の話を聞くつもりなのだろう。
イストリアと目で頷き合って、クスクスと笑いながらも口を開いた。
「いや、だって。普通じゃないですよ。アレは。どうやったら、あんな風になるのか寧ろ不思議なんですけど………誰が…いや、何が?なのか??」
「流石にいい所を突いてるね。多分、あれは。普通の、変化じゃあない。さて、何をどう、させたいのかな………。」
イストリアの言った意味が分からなくて、首を捻る。
すると彼にしては早足で駆け上ってきたウイントフークは、椅子に滑り込むとこう訊いた。
「やはりそうか?しかし、こうなった事で起こり得る事態、対策と言えば。」
「やはり?」
「そう、か?」
えっ。
なに。
嫌な、予感。
二人ともが、おんなじ様な目をして私を、見ている。
いや、親子だから。
色の濃さこそ違うが、そっくりな瞳で私を見ているのだ。
「えっ?………枯れた、畑、と?私??」
何か、関係ありますかね………?
そのままの疑問を顔に貼り付け、二人を交互に見る。
その、二人はお互い顔を見合わせ答え合わせをしている様だ。
て言うか、結構通じ合ってるじゃん………ウイントフークさんったら………。
いつの間にか、ニヤニヤしていたらしい。
嫌な顔をしたウイントフークは、そのまま口を開いてこう言った。
「まあ、「祭祀」だろうな。近々相談せねばとは、思っていた。」
「えっ?まだ冬じゃないですよね??」
デヴァイにいると、季節感が全く無いがきっと今はまだ夏から秋の、間くらいの筈。
さっき外を歩いていた時も、寒くは無かった。
「いや、ここまでの異変が起きるとすれば。「力が足りない」という事になって、これ迄は変更されることが無かった祭祀の予定が変わる可能性だって、あるという事だ。みんな。祭祀での可能性は、感じたろうからね。」
「一番、効率良く。力を得るには、って事だな。」
「………でも。祭祀って、それが目的じゃないと思うんですけど………。」
正直。
そんな不純な動機で、祈っていいものかと。
私は、思ってしまうのだけど。
「そこまで切羽詰まってるって事だ。お前だって。「揺れ」は、感じたろう?」
「………ああ。」
確かに。
「時間は ない」と。
そう思わなかった、訳じゃない。
「でもな…………。」
納得できずにブツブツ言う私を放って、二人は何やら相談を始めていた。
この時期にやる利点やリスクなど、根回し含め私の管轄外の話である。
すぐに興味が店に移り、そっと席を立った。
きっと二人の話は、暫くかかるだろうから。
その間に、久しぶりの魔女の店を堪能するのも悪くない。
そうしてふんわりとこの空間を覆う、ドライハーブを見上げつつゆっくりと階段を降りているとベルが鳴った。
きっと店の入り口のベルだ。
「はぁい」と返事をして、店主のつもりで扉を開けに行く。
いや、ベルが鳴ったという事は、扉は開けられているのだけど。
その事実に気が付いたのは、フワフワの青い巻毛が目に入ってからだった。
「!!」
「あっ。」
そう、入って来たのはレナだったからだ。
いきなり飛びついて、びっくりされてしまったのは言うまでも、ない。
そうして「止めてよ」とレナの匂いを堪能する抱擁を引き剥がされるまで。
たっぷりと、久しぶりのフワフワ髪を味わったのである。
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