透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
587 / 1,751
8の扉 デヴァイ

意外な訪問者

しおりを挟む

「うーーーーーーーん。この、この辺りの色ってどうやって出してるんですか?」

「これはね、まじないの一種なんだが………」
「えっ?!まじないなんですか??やだ。」

「何が「やだ」なんだ…。」

すっかりコーネルピンと打ち解けた、私。

絵について色々と聞きたがる私に嫌な顔一つせず、嬉々として教えてくれる彼に質問攻めをしていると向こうから極彩色のツッコミが聞こえてくる。

聞こえてますからね………。

キロリと視線を飛ばしたその時、応接室の扉が鳴った。


「お客様がいらしてますが。」

扉を叩いたのは、ハクロだ。

ウイントフークが出て行って、「なんだろう」と思いつつも私の前には「あの絵」がある。

すぐに話に戻った私達に、焦った様な足音は全く聞こえていなかった。

「なんだ?」

そう言って部屋の奥にいた千里が扉へ向かって歩くのを、目の端に捉えた頃。

勢い良く、「ガチャリ」と扉が開く。

珍しく焦っているウイントフーク、「隠せ」と言われたが何の事か全く解っていない私達に極彩色が白い布を、渡したその時。

「やあ、来たよ。」

「へっ?」

ある意味いつも通りの間抜けな返事をした私、隣で固まるコーネルピンに大きな溜息の極彩色。
溜息と共に、ソファーへ置かれた白い布の行き先に気付いた時は、「時既に遅し」であったのだ。

部屋へ入って来たのは先日青の家で会った、銀ローブの彼で。

これ」を隠そうとしていた事が分かった時には既に、彼の視線はもうその絵に釘付けだったからだ。


あちゃ~………。

でも?

が、私だって。

分かんない、よね??

普通、まじないの色は他の人に知られる事はそう無い筈である。

でもな………この人、祭祀も見てるしね?


とりあえず自ら墓穴を掘らない様に、本部長の動きと極彩色、ついでにコーネルピンをチラリと見ると。
意外な事に、始めに口を開いたのはコーネルピンであった。

「お久しぶりですな。いつ、戻ったのですか?」

確かにそれは、私も気になっていた。

てか、コーネルピンさんも銀の家だけど?
この二人も「同じ家」って、こと??

ブラッドフォードから聞いている、銀の家の数は大きく三つ。
その中で、二つだか三つだか………あるらしいのだが、その辺りはあの玉虫色の管轄なのである。

勿論、聞いたが覚えちゃいない私は、息を潜めながら男達の成り行きを見守っていた。




「でもな………この辺りの色がやっぱり、独特なんだよね………どうやって出してるんだろ…他の絵も、見たいな…?」

コーネルピンの絵は、あのカードの作者だけあって繊細な色使いに、細かい描写。
それに、基本的に優しい色使いのこの絵に、きっと異色であろう「虹色」が加わった事で醸し出される不思議な雰囲気、そこに差された鮮やかな、「青」。

「新しい境地に至りました」と言っていた、彼の黄茶の瞳が思い出されて、ふと振り返った。

案の定、男達の話は何やら続いていたし、私にそれを聞く気は無かった。
始めは成り行きを見守っていたのだが、全く絵の話が出る気配がないので既に「一人鑑賞会」を始めていたのだ。


て、言うか。
この絵こっちの方が、いいに決まってるじゃん………。


「うん?」

黄茶の瞳を求めて振り返ったのだけど。
何故だかタイミングよく、みんながこちらを見ていた。

え あれ?

まさか、ずっと見てたって事、ないよね??

助けを求め本部長をチラリと見るも、何故だか顔が怖い。
要らぬ藪は突くまいと、極彩色に狙いを変えるも、なんだか微妙な顔である。

その、紫色の瞳をくるりと、回すと。

ウイントフークに向き直った千里は「持ってる様だな」と、言った。


え?
なにが?

私、関係無い話??

未だ飲み込めていない私は、本部長の怪しい気配に既に絵の方へ向き直っていた。

「やはり、でしょう?だから、僕にも権利があるんですよ。それに、僕の方が年の頃も丁度、いい。また後でブラッドフォードも交えて話すかも知れませんが。とりあえず今日は、ご挨拶までに。」

「じゃあ、ヨル。また来る。」

えっ。
何そのセリフ?

またあの廊下でのサムいセリフが思い出されて、パッと振り返った。


私が戸惑っているうちに。
爽やかに手を振り、出て行ったその銀ローブの後ろ姿を見つめながら今更ながら、名前を考える。

今、振り向いてはいけない。

私の勘が、そう言っている。


そうして一人、ぐるぐるしていると丁度その答えがコーネルピンの口から齎された。

「何をしに来たんでしょうね?まあ、シュマルカルデンの言い分が本当ならば。彼にも、権利自体はあるのでしょうけど銀同士だと、ヨルは………選択権までは、無いか。」

「そうだろうな。「意見」くらいじゃないか。しかし、何処の誰の差し金だ?いや、グロッシュラーからだから、違うのかも………と言うか、あいつが間抜けなだけなんじゃないか、おい、ヨル!」

「ひぇっ!」

「「ひえ」じゃ、ないだろう。お前、報告は貰ってないが?あいつから、何か「もの」を貰ってるな?」

「もの………?」

彼に貰ったものと、言えば。

あの綺麗なカメオの付いた、コンパクトの事だろう。

「あの綺麗な天使と薔薇の付いたやつですよね…………あれは素晴らしかった、あの細かさは初めて見ましたよ…それにあのモチーフ?こっちにも天使っているんですか………はい、ごめんなさい??」

眼鏡の奥の、瞳がコワイ。

兎に角、不味い事だけは、解る。

しかしそこまで思い出して、やっとトリルに言われていた事を思い出した。

「えっ?ホントに?了承した事に、なるって…………?え?でもお兄さんは???」


大きな、溜息が聞こえ再びチロリと絵を振り返る。
そう、現実逃避だ。

何かしら不味い事になって、それがあのコンパクトの所為で、そしてウイントフークのあの、顔。


なんだろな………?
えっ。まさか?

いやいや、でも、うんん??
私に「選択権」は無いって?
あれれ??

お兄さん?
お兄さんに、頑張ってもらうしかないの?
て言うか、もう金色で、良くない………???


段々面倒になってきて、私もつい溜息を吐いて座り直した。

なんか、私に今更どうにかできる、問題じゃ無さそうだし??


しかし、そんな投げやり気分の私の背後では、まだ男達の話は続いていた。

「何か別の目的があるのかも知れん。」

「そう考えた方が、いいでしょうな。」

「コーネルピンは何か知らないのか?」
「私は帰って来ていたのも知りませんでした。まあ、同じ家でもあまり顔は合わせませんからね。」

「それはお前が引きこもっているからじゃないのか。まあ、それはいいが。ブラッドフォードが上手く対応しているといいがな…きっと今日はうちに確認と念押しを兼ねて訪問している筈だ。「ヨルが認めた」とでも、言うに違いない。」

「あいつが動揺するかどうか、どう思う?」

「すると、思うね。」

「えっ。」

何故だか自信満々にそう言い切った千里に、つい大きな声を出し振り返った。

多分「なんで?」という顔をしていたのだろう、そのまま千里が説明した内容は。

到底、私の理解できる話では、なかったのだけど。

は、結構依るの事を気に入っているからな。本人の気持ちを尊重しようという気は、あるのだろう。だから、今あいつとの噂が出ていても口を噤んでいる。しかし、銀となれば…話は違うかもな?」


何故、話が。

違うのか。

全く、分からないしそもそも「私の事を気に入っている」??
初耳だけど???

何処から仕入れてるの、その情報??


再びのぐるぐる沼に、嵌っている間。

男達の話はどこかに落ち着いた様で、私に最終的に出された指令は、「いつものアレ」だった。


「とりあえず、お前は。好きに、振り撒いていろ。」

「えっ。………そんな事なら、お安い御用、ですけど………。それだけで、いいんですか?」

あっ。
どうせ「それしかできないんだろ」って目、してる!

「はいはーい、分かりましたっ!」

本部長の返事を聞く前に、そう言って立ち上がる。


そうしてコーネルピンに「本当に貰っていいか」を、訊きながら。

再びの「色」談義を始めた私達は、現実逃避を図ったのである。

うむ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...