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8の扉 デヴァイ
意外な訪問者
しおりを挟む「うーーーーーーーん。この、この辺りの色ってどうやって出してるんですか?」
「これはね、まじないの一種なんだが………」
「えっ?!まじないなんですか??やだ。」
「何が「やだ」なんだ…。」
すっかりコーネルピンと打ち解けた、私。
絵について色々と聞きたがる私に嫌な顔一つせず、嬉々として教えてくれる彼に質問攻めをしていると向こうから極彩色のツッコミが聞こえてくる。
聞こえてますからね………。
キロリと視線を飛ばしたその時、応接室の扉が鳴った。
「お客様がいらしてますが。」
扉を叩いたのは、ハクロだ。
ウイントフークが出て行って、「なんだろう」と思いつつも私の前には「あの絵」がある。
すぐに話に戻った私達に、焦った様な足音は全く聞こえていなかった。
「なんだ?」
そう言って部屋の奥にいた千里が扉へ向かって歩くのを、目の端に捉えた頃。
勢い良く、「ガチャリ」と扉が開く。
珍しく焦っているウイントフーク、「隠せ」と言われたが何の事か全く解っていない私達に極彩色が白い布を、渡したその時。
「やあ、来たよ。」
「へっ?」
ある意味いつも通りの間抜けな返事をした私、隣で固まるコーネルピンに大きな溜息の極彩色。
溜息と共に、ソファーへ置かれた白い布の行き先に気付いた時は、「時既に遅し」であったのだ。
部屋へ入って来たのは先日青の家で会った、銀ローブの彼で。
「絵」を隠そうとしていた事が分かった時には既に、彼の視線はもうその絵に釘付けだったからだ。
あちゃ~………。
でも?
これが、私だって。
分かんない、よね??
普通、まじないの色は他の人に知られる事はそう無い筈である。
でもな………この人、祭祀も見てるしね?
とりあえず自ら墓穴を掘らない様に、本部長の動きと極彩色、ついでにコーネルピンをチラリと見ると。
意外な事に、始めに口を開いたのはコーネルピンであった。
「お久しぶりですな。いつ、戻ったのですか?」
確かにそれは、私も気になっていた。
てか、コーネルピンさんも銀の家だけど?
この二人も「同じ家」って、こと??
ブラッドフォードから聞いている、銀の家の数は大きく三つ。
その中で、二つだか三つだか………あるらしいのだが、その辺りはあの玉虫色の管轄なのである。
勿論、聞いたが覚えちゃいない私は、息を潜めながら男達の成り行きを見守っていた。
「でもな………この辺りの色がやっぱり、独特なんだよね………どうやって出してるんだろ…他の絵も、見たいな…?」
コーネルピンの絵は、あのカードの作者だけあって繊細な色使いに、細かい描写。
それに、基本的に優しい色使いのこの絵に、きっと異色であろう「虹色」が加わった事で醸し出される不思議な雰囲気、そこに差された鮮やかな、「青」。
「新しい境地に至りました」と言っていた、彼の黄茶の瞳が思い出されて、ふと振り返った。
案の定、男達の話は何やら続いていたし、私にそれを聞く気は無かった。
始めは成り行きを見守っていたのだが、全く絵の話が出る気配がないので既に「一人鑑賞会」を始めていたのだ。
て、言うか。
この絵の方が、いいに決まってるじゃん………。
「うん?」
黄茶の瞳を求めて振り返ったのだけど。
何故だかタイミングよく、みんながこちらを見ていた。
え あれ?
まさか、ずっと見てたって事、ないよね??
助けを求め本部長をチラリと見るも、何故だか顔が怖い。
要らぬ藪は突くまいと、極彩色に狙いを変えるも、なんだか微妙な顔である。
その、紫色の瞳をくるりと、回すと。
ウイントフークに向き直った千里は「持ってる様だな」と、言った。
え?
なにが?
私、関係無い話??
未だ飲み込めていない私は、本部長の怪しい気配に既に絵の方へ向き直っていた。
「やはり、そうでしょう?だから、僕にも権利があるんですよ。それに、僕の方が年の頃も丁度、いい。また後でブラッドフォードも交えて話すかも知れませんが。とりあえず今日は、ご挨拶までに。」
「じゃあ、ヨル。また来る。」
えっ。
何そのセリフ?
またあの廊下でのサムいセリフが思い出されて、パッと振り返った。
私が戸惑っているうちに。
爽やかに手を振り、出て行ったその銀ローブの後ろ姿を見つめながら今更ながら、名前を考える。
今、振り向いてはいけない。
私の勘が、そう言っている。
そうして一人、ぐるぐるしていると丁度その答えがコーネルピンの口から齎された。
「何をしに来たんでしょうね?まあ、シュマルカルデンの言い分が本当ならば。彼にも、権利自体はあるのでしょうけど銀同士だと、ヨルは………選択権までは、無いか。」
「そうだろうな。「意見」くらいじゃないか。しかし、何処の誰の差し金だ?いや、グロッシュラーからだから、違うのかも………と言うか、あいつが間抜けなだけなんじゃないか、おい、ヨル!」
「ひぇっ!」
「「ひえ」じゃ、ないだろう。お前、報告は貰ってないが?あいつから、何か「もの」を貰ってるな?」
「もの………?」
彼に貰ったものと、言えば。
あの綺麗なカメオの付いた、コンパクトの事だろう。
「あの綺麗な天使と薔薇の付いたやつですよね…………あれは素晴らしかった、あの細かさは初めて見ましたよ…それにあのモチーフ?こっちにも天使っているんですか………はい、ごめんなさい??」
眼鏡の奥の、瞳がコワイ。
兎に角、不味い事だけは、解る。
しかしそこまで思い出して、やっとトリルに言われていた事を思い出した。
「えっ?ホントに?了承した事に、なるって…………?え?でもお兄さんは???」
大きな、溜息が聞こえ再びチロリと絵を振り返る。
そう、現実逃避だ。
何かしら不味い事になって、それがあのコンパクトの所為で、そしてウイントフークのあの、顔。
なんだろな………?
えっ。まさか?
いやいや、でも、うんん??
私に「選択権」は無いって?
あれれ??
お兄さん?
お兄さんに、頑張ってもらうしかないの?
て言うか、もう金色で、良くない………???
段々面倒になってきて、私もつい溜息を吐いて座り直した。
なんか、私に今更どうにかできる、問題じゃ無さそうだし??
しかし、そんな投げやり気分の私の背後では、まだ男達の話は続いていた。
「何か別の目的があるのかも知れん。」
「そう考えた方が、いいでしょうな。」
「コーネルピンは何か知らないのか?」
「私は帰って来ていたのも知りませんでした。まあ、同じ家でもあまり顔は合わせませんからね。」
「それはお前が引きこもっているからじゃないのか。まあ、それはいいが。ブラッドフォードが上手く対応しているといいがな…きっと今日はうちに確認と念押しを兼ねて訪問している筈だ。「ヨルが認めた」とでも、言うに違いない。」
「あいつが動揺するかどうか、どう思う?」
「すると、思うね。」
「えっ。」
何故だか自信満々にそう言い切った千里に、つい大きな声を出し振り返った。
多分「なんで?」という顔をしていたのだろう、そのまま千里が説明した内容は。
到底、私の理解できる話では、なかったのだけど。
「あいつは、結構依るの事を気に入っているからな。本人の気持ちを尊重しようという気は、あるのだろう。だから、今あいつとの噂が出ていても口を噤んでいる。しかし、銀となれば…話は違うかもな?」
何故、話が。
違うのか。
全く、分からないしそもそも「私の事を気に入っている」??
初耳だけど???
何処から仕入れてるの、その情報??
再びのぐるぐる沼に、嵌っている間。
男達の話はどこかに落ち着いた様で、私に最終的に出された指令は、「いつものアレ」だった。
「とりあえず、お前は。好きに、振り撒いていろ。」
「えっ。………そんな事なら、お安い御用、ですけど………。それだけで、いいんですか?」
あっ。
どうせ「それしかできないんだろ」って目、してる!
「はいはーい、分かりましたっ!」
本部長の返事を聞く前に、そう言って立ち上がる。
そうしてコーネルピンに「本当に貰っていいか」を、訊きながら。
再びの「色」談義を始めた私達は、現実逃避を図ったのである。
うむ。
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