透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

青の家

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会いに行って、みようか。

朝目が覚めて、ふと思った。


山百合これに触れれば、すぐに来てくれる。

それは、解っていたのだけれど。

なんとなく、訪ねてみたくなったのだ。
私から金色が目的で、あちらへ向かうのは初めてだし。

なんだかも、いい気がしてコーディネートを頭の中に思い浮かべると。

クローゼットへ向かい、緑の扉へ入って行った。




フンフンと鼻歌交じりに支度をし、青のホールを通って黒の廊下へ出る。

今日も勿論、両脇にはいつものフワフワ達を携えてお出掛けである。

「珍しいな?こっちから出向くなんて?」

「いいじゃない?たまには。」

いつもの揶揄い口調の極彩色は放っておいて、もう一方のフワフワを楽しんでいた。


青の区画迄は、一番距離がある。

その分、この豪奢な廊下を楽しむ時間も増えるので、向かう時間自体も楽しみなのだ。

案の定、途中から星屑を溢し始めた私に「喜ばしいこと」といつものセリフのフォーレスト。
途中、私が調度品を近くで眺め始めたり、フォーレストが星屑を集め始めたり、と。
中々進まない私達に、痺れを切らした狐が、いた。

「こら。いい加減にしろ。あまり立ち止まっていない方がいい。」

「え?どうして?」

「沢山溢していい」と言われている私は、その言葉を意外に感じたがあまりお守り役に心配させるのも悪い。

切り替えて、真っ直ぐに向かう事にした。

それに、流石に突然銀が訪問するのは不味いと、連絡だけはしてあるのだ。
あまり遅くなって心配させてもいけない。

迎えに来てもらったならば、私の計画は台無しだから。

そう、ただ、単純に。

「私が金色に会いにゆく」という目的の為だけに、この道中は行われているのだ。

きっと千里は「ちょっと飛べばいい」くらいに思っているに違いない。
あまり面倒をかけて飛ばれると、元も子もない。


そうして大人しく歩いて行くと、青の区画はすぐだった。

もう近くまで来ていたから、余計にもどかしかったのかもね?




「やあやあ、珍しいですね?どうぞ。」

何故だか入り口で待っていてくれたのは、いつものラガシュだ。

寧ろ青のドアマンか、と言うくらいいつも開けてくれる気がするがそう言えば青では扉にまじない人形は、いない。
今更その事実に気が付きながらも、とりあえず案内される奥の屋敷について行った。


「おや?珍しいな。ちょっと待っていて下さい?誰かに何か頼まれたのかな………。」

案内されたいつもの応接室に、金色はいなかった。

ラガシュは探しに行ってくれる様で、そう言ってまた出て行ってしまった。

連絡している以上、驚かせる事はできないけれど。
「バーン」と登場して、ドヤ顔くらいはしたかったのに………。

そう思いつつも、仕方が無いのでとりあえずソファーに腰掛ける。
極彩色は既に部屋のチェックを終え端っこに座っていたし、フォーレストはいつもの様に私の側へとついて来て反対側に収まった。


フワフワに挟まれて少し落ち着いてしまった私は、段々と眠くなってきていた。


「…………いかん。」


丁度、呟いた瞬間「カチリ」と音がして扉が開く。
そうして音も無く、金色が入ってきた。


えっ。

 あ  れ ?


なんだか輪郭がくっきり見える、その姿に。
声は発せず、ただ、見つめていた。


なんだ、ろう?

  え   

無言でスッと私の向かい側に座った、彼。

いつもの様に、ただじっと見られているだけなのだけど。

詰襟のジャケット、その上質な光沢と品の良い濃紺が映える、その金髪と焔の、瞳。

場所の所為?
服?

いいや?


いつもと、違う。

「なにが」違うのかと言われれば、分からないけど。


静かにこちらを見ている焔の瞳を、確かめる様に見つめる。

その、いつもの落ち着いた「色」の、中に。
激しい獅子を飼っている様な、これまで見た事のない生々しい「色」の焔、その、更に奥がある事が分かって。

これまでに感じた事のない、彼の違った一面が垣間見えた様な、そんな気がして。

吸い込まれる様にその深い焔に魅せられた私は、目が、離せなかった。


えっ。

なん だ  ろう


 この   こ の

  感覚


ブワリと全身が粟立つのが、分かる。

竦み上がる身体、しかし嫌な感覚では、ない。

でも少し、怖い。

「知らない」感覚だからだ。


  いや   知って  る?


 どこか   ど こだ?



「どう、した?」

その、形の良い唇からいつもの心配声が、聴こえて。

ハッと、瞬時に「自分」に戻ったのが分かった。
いや、ずっと。

「自分」では、あったのだけど。


 多分………  えっ

    誰?    


      誰だ、ろう か



この頃混在する私の中、時折見る現実の様な、夢。

その中の「どれか」が、関係しているのは、分かる気がするんだけど………?


「どれ」が「誰」で「なに」かは。


分からない。

パッと顔を上げ、正面の金色の焔を確認する。

いつもの、金色だ。
ただ、幾分かは。

鮮やかな気が、するけれど。


「久しぶりだから、かな………?」

「そう、か?」

確かに。

ここ最近、私をチェックしに来たのは多分一昨日辺りだ。
そう、空いてる訳じゃないけれど。

向かいの金髪を確かめる様、視界に入れてその慣れ親しんだ「色」をまた自分の中に、取り込む。
やはり、落ち着く色だ。

が、あれば。

大概の事は、できる気がするんだけどな………。



「でも、最終的には。また、一緒に寝たい、よねぇ?」

自分の中のぐるぐるが着地して、その結末を素直に述べてみる。
そう言って、首を傾げ同意を求めたのだけど。

渋い顔をした金色は、私の両脇に視線を滑らせ溜息を吐いただけだった。


釣られて両脇の二人の顔を見たが、相変わらずの狐は悪い顔をしているし、フォーレストはきっとお昼寝中である。

流石フワフワ、睫毛も立派だわ………。

その伏せられた睫毛をじっと観察していると、ノックの音がする。

「さ、ところでヨルは何をしに来たのですか?」

そう言って、微妙な空気を打ち破って入って来たのはラガシュだった。


「え。いや?ちょっと、今日は私が会いに来ようと思って………それだけです、はい。」

なんだか少し申し訳なくなって、しっかりと座り直した。
だがラガシュは気にする様子も無く、最近の祈りの様子などを聞いてくれる。


うん………?
なんか微妙な三者面談みたいだけど、これラガシュを追い払ったらマズイよね…………。

もう少し、さっきの感覚を確かめたかったけれど。

嬉々として、話を聞いてくれるラガシュにそんな事は言えないのである。

そうして私達がこの頃の廊下の様子などを話していると、再びのノックの音がして返事をする前に扉が開いた。


「おや、来客中ですか。失礼、…いやしかし。ヨルは確か、面識がありますよね?」

確かこの人はメディナの息子…名前………何だっけな??

わざとらしい話し方のその人は、チラリとラガシュと金色に視線を移すと、背後を振り返った。
どうやら彼も、誰かを案内する所らしい。

この部屋は既に私達が使っている。
出て行くのかと思ったが「面識がある」という彼の言葉と振り返った様子に、誰がいるのかとその扉の外を見ていた。


「イオデル、別の部屋にして下さいよ。」

「ああ、そんな名前だったな」と、そんな事を思いつつ、ラガシュの少し怒った様な灰色の瞳を確認する。
その顔色まで変わったのを見て、すぐに振り返った。

きっとそのイオデルに連れられた人を見て、顔色が変わったからだ。


「あっ。」

「やあ、ヨル。久しぶりだな?」


誰だっけな、この人………なんか、長い、名前………。

再び名前で悩み始めた私を他所に、男達は勝手に話を進めていた。


「いや、少し同席しても構わないだろう?」

「いやいや、構いますよ。僕達は僕達の話をしていますから。」
「しかし、どう、しますか?」

断ろうとするラガシュ、何故だか同席したいらしいイオデル、そして選択はきっと一番身分が高いであろうその銀ローブの男に委ねられた。

そう、身分も高いが背も、高い。
そう思ったんだ、あの階段で…。

なんだったっけな………長いんだよね、確か………。


私が明後日の方向でぐるぐるしている間に、攻防戦は終わったらしい。

気が付くと扉が閉じる音、ホッとした顔のラガシュを見るとイオデルは諦めたのだろう。

しかし、あの人は確か私にコンパクトをくれた人に違いない。
祭祀でも、手を伸ばしてきて触れられなかった筈だ。

「なんで………青の家に?いるんだろ??」

ブツブツと呟いて、顔を上げると少し呆れた顔の灰色の、瞳。

えっ。
なんで?

「そんなの、あなたの所為に。決まってるじゃないですか。でも、どうして今日って分かったんだろう?連絡をくれたのは、今朝ですよね?」

「そうです。朝、思い付きましたから。」

「おかしいな………。」

そうしてラガシュは暫くブツブツと呟いた、後。

徐ろに立ち上がり「じゃ、僕は行きますね。ちょっと気になるな…」なんて、気になるセリフを吐いて出て行った。


残された、私達は。

すっかり眠り込んでいる両脇のフワフワ、しかし極彩色の動きを見ていると、きっと起きているに違いない。
寝たフリをしながら、様子を見ているのだろう。

ま、それは放っておいて、と………。


私は気になっていた事を確かめるべく、やはり考え事をしている様な金色を隅々まで眺めながら。

「どこが違うのか」を気の済むまで、チェックしていたのである。
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