透明の「扉」を開けて

美黎

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8の扉 デヴァイ

走れ

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「よし、行こう!」

朝から、走っていた。

私の「なか」で、声がするんだ。


行け 走れ
 膝を叩け  顔を上げろ

 そう そうだ
 
 走れ  振り撒け

光を  溢し続けろ


「なんだなんだ?うぅん?」

忙しいな?

でも。

起きたら気分は爽快だったし。

今日の朝食は嫌に、美味しかった。
イリスがめっちゃ得意気な顔してたしね?

だから。

色とりどりの鳥達が舞う、青のホールを通り抜け

傍らには フワフワの巻毛

 仕方のない顔の 鮮やかな狐

その 二匹を引き連れて


いつもはゆっくりと歩く 黒の廊下を

いきなり  大胆に。


走り出したんだ。

勢い、よく。




「アハハ!たっのし~い♫」

「阿呆か。」

「喜ばしいこと」

フォーレストは走るのが遅いかと思ったけれど、難無く私についてくる。

やはり、動物。
極彩色は身軽にぴょんぴょんと跳ね、たまに調度の上を走り壊さないかとヒヤヒヤしたけれど。

それも、また。

楽しかった。


なんでだろう?

どう して?


「確か向こうグロッシュラーで、祭祀の前だか後だかにも、こうして走ったな??」

少し疲れてきて、でも止まりたくはなくて。

くるくると回りながらスキップをし、独り言を始める。

何故だか突然、走り出したくなる時が、あるのだ。

みんなきっと、あるよね?
うん?
多分、私だけじゃ、ない。

きっと。




「おい、いつまで走るんだ?」

「喜ばしいこと」

回廊を廻り始めて、何周目か。

そこそこ距離がある、この廊下をずっと走っているので流石に私の足もゆっくりになっていた。

でも、「歩く」とまではいかない、ゆっくり走る、時々スキップなのである。

「え?狐のくせに、もう疲れたの?」

「そうじゃ、ない。」

何故だかプリプリしている千里、対してフォーレストは私の溢した星屑の中を歩いているのでご機嫌である。

そう、フォーレストは既に走るのを止めて星屑を辿り歩いていた。
自分だけ、走って私のお守りをしているから怒っているのかもしれない。

「千里もちょっと、運動した方がいいよ。」

そう、意味の分からない理由を付けつつ、しかし私の足も徐々に緩くなってきていた。

辺りの色が変わり、茶色の空間になってきたのが分かったからだ。



「ちょっと疲れたし。入っちゃう?」

「ハイハイ、どうぞ?」

返事ももう、投げやりである。

チラリと背後に目をやるとキラキラを嗅ぎながら歩いてくる、白いフワフワが見えてきた。

足元には、星屑。

それなら、分かるよね?


少しだけ扉を開けておくことにして、するりと中へお邪魔する事に、した。

この頃はすっかり慣れ親しんだ、この、場所に。

ふんわりと揺れる薄暗い空気、馴染む温もりのある造りは今日も温かく私を迎え入れてくれる。


自然と顔を上げ、息を大きく吸い込んで。

口を、開いた。

あの、黒い天窓を、見上げて。




「 本当のこと って

  本当は どこに  あるんだろうか


 みんな 教えてくれない

 はぐらかそうと   内緒に しようと


 それとも   知らないのかも 知れないけど


  始めは 本当かも と

 思っていたことも  途中から

       やっぱりちがう と  気付いたり

 ドキドキしたり  期待して ワクワクしても


 空振りの時も 勿論 ある


 でも   私は  諦めたくないんだ


 本当のこと を   探す こと  



 何故だか分からないけれど  それが


 今の 私の    やりたいこと だから  」



「おまえ」

「ん?」

珍しく、千里が謳の途中で口を挟んできた。

途中、というか一回終わった所だったけど。

「どうしたの?」

「いいや。………でもな?お前、「本当のこと」がどこにあるのか。筈だけどな?」

意味深な紫の眼が、キラリと光る。

「それに。真実はいつだって、紛れているものさ。」

「…………え?」

飲み込めていない私を置いて、スタスタと歩いて行ってしまった千里。

でも。
普段、私に何かを教えてくれる事は殆どない、千里が言ったヒントだ。

多分、重要なことなんだ。

それは、判る。


うん?
それで、なんて言ったっけ??

自分のポンコツ具合を呪いながらも、謳の内容を反芻する事にした。



えーと?

とりあえず「本当のこと」を、探してるって謳ってたよね?

そしたら?
千里が?

「どこにあるのかもう知ってる」みたいな事、言ったよね??


…………それって?

あの  いつもの   あれ

そうだよね???


「えっ。「私の中」って、こと???」


顔を上げ、極彩色を探すもやはり姿はもう見えない。
「自分で考えろ」という事なのだろう。

その上で、放置されているという事は。
多分、「この答え」で合っている、という事なんだ。

きっと。


「…………?でも?ああ、そうか………。」

以前も思った筈だ。

「人によって「本当のこと」は違う」って。

、やっぱり。

「私の」「本当のこと」で、良くて。


「まあ、逆に言えば「それしか無い」とも、言う………。」

チラリと脳裏を金色が掠め、いつかのセリフが思い出される。

人間ひとは。見たいものしか、見ないからな』

「だよね…………。でも、その、上で。」




進むしか、ないんだ。




私は   私を わたしの なかみ を


  信じて   いつも

   どこ       でも



  何度 でも    信じて  進め ば




思考が途切れ途切れになるのが分かり、いつの間にか閉じていた瞼に映るは、眩いばかりの光の渦だ。

に 降りてくる 

 音 なのか   声なのか


  瞼に 映る は


     いろ か   景色 か



  「なにか」が    浮かんで   くる



     私   私 は


 私 の  真ん中  は


    「剥き出しの  私」  は





 「光だ、よね………」


そう、声に出した瞬間、光は捻れ更に渦を巻き

そのまま。


シュルリと 収束して行ったのだ。






暫くボーッと、座っていた。

いつの間にか白いサテンのベンチに腰掛けていた私は、とりあえずそのままに戻る事を意識して、その背凭れの彫刻を眺めて、いた。

それぞれ色に合わせて違った彫りが施されているベンチは、見ていて飽きる事はない。


そうして少し、気持ちが落ち着いてくるとキラリと光が反射したその白いサテンに再び「光」の事を思い出したのだ。


 「私 は 光」


それの、意味する事とは。

何故、それが

で。


 降って、来たのか。


   「本当のこと」を 考えた、時に。



「祈り………と関係あるからかな……?確かに祈ると光が溢れるしね?」

白のサテンから視線を移し、高い所にある蝋燭の灯り、天井近くを舞う白っぽい蝶、光に似た「色」を探しながら、考えていた。



私の中で、うたが祈りになり光に変わり、溢れること。

感動してじっとしていられなくなって、踊ったならば、蝶が舞い出で光も溢れること。

謳えば、想えば、飛ばせば。


 きっとみんな、光に変わって。


そしてまた、戻ってくること。

最後には。

みんなの、元に、私の元に。


「私」が「そのままの私」「剥き出しの私」で、

 なにか

 心を 震わせたならば。


「それ」は 光になって溢れ出す。

そう、だから。


多分、「私も」光で。

それを「カタチ」にするのが、謳や踊り、祈り…………。


 「ああ。だ。」


その瞬間、ストンと堕ちてきた、感覚。


 、祈るんだ。


この、納得感。

なんだ、ろうか、儀式として残す必要が、あった?

今は忘れてしまっている、本来の目的は。

「祈り」「舞う」「みんなで」

それをする、意味とは。


「昔は…。きっとみんな意味を知ってて、やっぱり祭祀それで、力を貰ってたんだ。それに。」

「きっと「忘れない」為だよね………自分が、光だって。そうして「喜び」や「感謝」「感動」「有り難い」、そんな想いで祈ったら………えっ?ものすんごい、光が降ったんじゃ………??」


頬に当てた手をピタピタとし、顔を上げると正面にはあの、複雑な深い眼が、あった。

何もかもを見通す様な、この、眼。

人型の時は、もう少し細い瞳だけど。
この、力強い、太く在る「真ん中」と複雑な色合い、どこにも無いこの色はやはり。

おんなじ、なんだ。

 その、色は。

きっと、幾多の時を見てきたろう、眼は。


「そうだ」という、ただ肯定の色を映し私の背をゆっくりと、押してくれている。


ありがとう。
でも、珍しいね?
協力してくれる気に、なったの?

少し微笑みながら、心の中でそう思った。

でも、この狐は。

きっと、分かっている筈なんだ。

が、解るから。


そのまま、じっと正面の紫を見据えて、返事を待っていたのだ。




「そろそろ、いいだろうかと思ってな。」

「?そろそろ?」

暫くの沈黙の後、口を開いた極彩色はそう言った。

確かに、出会ったばかりの頃は様子見をされていた私達。
あの、金色のこともそうだし、私のことも。

きっと、「それに足るものなのか」観察していたのだろう。

でも、少し考えて心配にもなってきた。

「えっ。それって、千里のお眼鏡に適ったって事は。なんか、めっちゃ荒波に揉まれる、的な?感じに、なるの??」

「さあな?どうだか。」

そこははぐらかして、フラリとベンチの影に消えた尻尾。

フワリと寄り添ってくれる、フォーレストの優しさが慰めに感じるのは気の所為だろうか。


えーーー………。

嫌な、予感??

うーーーん。

でも。


チラリと確かめる、美しい緑の瞳。

クリクリした目を向けている下の子は「大丈夫だよ」と優しく言うから。

「それなら。腹を、括りますか。」

そう言って。

ぐっと背もたれに寄り掛かり、また美しい天井を目に映して。

飛び交う蝶達、少しだけ小鳥が混じり始めているのを感じながら、またはらはらと星屑を溢すのであった。


うむ。
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