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8の扉 デヴァイ
本当の
しおりを挟む「ウイントフークさん。「本当の愛」って。どんなのですか??」
「は??????」
珍しく、面白い顔をしている本部長。
いや、本部長たる者「本当の愛」や「真実の愛」なんて。
当然、知ってるものなんじゃ、ないの???
「何言ってるんだ。どうした?」
「いや、なんだか夢見が微妙で………?なんか、モヤモヤするんですけど。でも「愛ってなんなのか」が、分れば。すっきりすると思ったんだよな………なんでだろ??」
自分でも夢の方向性が行方不明になって、首を傾げていた。
この頃、知らない景色や知らない人がよく夢に出てくる様な、気がする。
「なんっか、思い出しそうなんだけどな………。」
彩りの良い野菜が増え始めた朝食のテーブルは、今日も腕を上げたイリスに感想を言わなければならないだろう。
きっとニコニコしながらお茶を運んでくるに違いない。
それ想像して自分もニコニコしながらサラダを突いていると、ポツリと呟きが聞こえてきた。
「大分進んできたな…」
ん?
足元から声がしたので下を見ると、スタスタと奥のテーブルへ向かう極彩色の狐が、いる。
何言ってんだろ??
ウイントフークの向かい側にピョンと座った千里は、そのまま何やら話し始め私の興味はまたお皿に戻った。
なんだか面倒そうな話が始まった気がしたからだ。
「おはよ。「愛」なんて、珍しいこと言ってるじゃない。」
そう言って隣に来たのは朝だ。
「おはよう。朝は、愛って。なんだと、思う?そもそも愛も分かんないのに、「本当の愛」なんて。それって、普通と本当が違うって事??」
「そもそもあんたは何で普通と本当が別れたのよ?」
「うん?確かに??でも、なんだか夢の中がモヤモヤしてて、「愛って本当はなんなんだ」みたいになったんだよ。私も、意味が分かんない。」
小さな溜息を吐いて、シリーが持ってきてくれたお皿に口を付ける朝。
無言で食べ始めたという事は、答えは無いという事なのだろうか。
しかし朝は、暫く無言で食べた後。
唸りつつ、パンを小さく千切って並べ始めた私を咎めながら、こう言った。
「それも、アレと同じよ。人によって、違うんじゃない?でもあんたの「本当の愛」って違う意味で凄そうでなんか怖いわぁ………。」
「えっ?どゆこと?失礼じゃない??」
キャッキャと騒ぐ私達にイリスがお茶を運んできた所で、朝はヒョイと椅子を降り向こうのテーブルへ行ってしまった。
「今日も美味しかったよ。また、腕を上げたんじゃない?」
感想待ちのイリスにそう言うと、嬉しそうにお茶を置いて戻って行く。
うんうん、黄色はやっぱり明るくて可愛いね…。
後ろ姿にそんな感想を抱きながらも、さっきの返事を思い出した。
「「愛」も、「本当のこと」と、同じ………?」
うーーーむ。
この問題は、私にはまだ早いかも知れない。
うん。
とりあえず切羽詰まっている問題でも、無い。
そう一人で納得すると「ごちそうさま!」と食堂を後にした。
「でもさ。「好き」と「愛」の違いが、そもそも分かんないのよ。違うんだよね?誰が決めるの、それ。「はい、ここから愛でーす」とか、なってるの??」
私の独り言に付き合っているのは、緑の瞳が四つ。
「喜ばしいこと」
「愛って、良さそう」
この頃セリフが決まってきた大きい子、小さな子の意見には私も同意だ。
確かに。
「良さそう」な、ものでは、ある。
うん、響きだけ、聞けば。
「ま、でも………そのうち、解る?のか?なぁ………。」
天井の紋様を辿りながら、漏れてくるのは星屑ではなく独り言である。
「えっ、でも。一生分かんなかったら、嫌じゃない???」
「まだやってんの??」
ガバリと起き上がった私の向かい側に、ピョンと飛び乗り丸くなる朝。
今日の魔女部屋も、窓からの光が明るく降り注いで、昼寝には丁度いい塩梅の暖かさでもある。
既に上下している灰色の背中、リボンが無くなった首を眺めながら「代わりのリボンが必要だな?」と考えていると、意外にも返事が、来た。
「まぁさ、愛にも色々あると思うけど。とりあえず、第一歩目は合格だからそのうち分かると思うわよ?」
「え?」
顔を上げずにそう言う朝に、訊き返す。
「第一歩、って?なに?」
面倒そうに欠伸をしながら、パッチリと開いた青い瞳はこう言った。
「だってあんた。「自分」の事は好きでしょう?ちゃんと、認めてる。」
「う、うん?そうだ、ね?」
「だったら大丈夫よ。それが、第一歩。そもそも自分を受け入れてないと「愛」は分からないわ。」
「ふぅん?それなら、いい、のか………?」
既に目を閉じている朝から、もう返事は無い。
そう、なの?か?
なら、いっか??
サワサワと聴こえるハーブ達の会話、落ち着く息遣いの家具達。
しっとりと香るハーブ、馴染んだ魔女部屋の空気に浸っていると、頭の中がすっきりとしてそして「なにか」が入って来たのが、分かる。
私の、頭の中なのか、「真ん中」に、なのか。
いつかのぐるぐるが私の中に戻って来て、渦を巻くキラキラを振り撒いているのだ。
その、光が心地よくてじっと身を委ねていた。
すると。
「私が 私を好きだったから 人を好きになれたこと」
それがパッと思い出されて。
やはり。
私が 「自分」の「真ん中」で、あれば。
自ずと、解るのだと。
そう、分かったんだ。
「ねえねえ」「愛ですって」
「いいわね」「愛はいい 栄養だから」
「そうね」
「間違いない」「愛がなければ」
「そう 全ては枯れるさ」
「ねえ」
窓辺ではハーブ達が、「愛について」お喋りしていて。
えっ。
何アレ。可愛いんですけど…。
邪魔しちゃいけないと思い、ソファーからそっと見つめるだけにしておいた。
きっと私が近寄ったならば、ハーブ達は話し掛けてきて愛の話が中断してしまうだろう。
そうして大きな青空の窓を視界に収めようと、私もゆったりとしたソファーに寝そべり、チラリとフワフワを求めると。
そっと寄り添ってくれるフォーレストを毛布代わりにして、ハーブの香りの中、ウトウトとし始めたのである。
うむ。
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